Interview | コムアイ


少しずつマシな世界

 水曜日のカンパネラの一員としてのみならず近年はオオルタイチやOLAibiとのコラボレーションも好評を博している音楽活動や、ファッション・フィールドでの活動に加え、これまでのキャリアを包括して環境問題にも積極的に取り組む表現者として注目を浴びるコムアイが、「CORNER PRINTING」との協業でアップサイクルド・ウェアのプロジェクトをスタート。生産過程で発生するTシャツやフーディの“B品”を用いて自らタイダイを施し、昨春、東京・三鷹のセルフ・プリンティング・スタジオ「CORNER PRINTING MITAKA」にてCORNER PRINTINGインクジェット・プリント・ディヴィジョン「LTD Ink」のスタッフを動員したシルクスクリーンでのプリント作業を敢行。オリジナルのデザインを落とし込んだ全てワンオフのアイテムを制作しました。本稿では、この行動に至った経緯や動機、背景について、コムアイさんに語っていただきました。

※ 本稿は2020年3月に取材した内容です。


 なお、本プロジェクトで制作した『KOM_I + CORNER PRINTING | Collab Upcycled Wear』は、「AVE | CORNER PRINTING」にて随時販売。週に数点、曜日 / 時間等のタイミングはランダムで発売致しますので、「AVE | CORNER PRINTING」HQおよび各SNSを欠かさず観測してください。


取材・文・撮影 | 久保田千史 | 2020年3月

協力 | CORNER PRINTING MITAKA, LTD Ink


――このプロジェクトはどういう意図でスタートしたんですか?

 「そもそもは、わたし、“グッズを作る”っていうことにずっと罪悪感があるんですよ。有限な資源を使って、新しく世の中に物を生み出すっていう行為に疑問がある。CDとかも抵抗があって」

――それはけっこう以前からおっしゃってますよね。
 「はい。それなのにずっと作っている。生産するのって楽しいから、それ自体を否定することはできない。ただその疑問があるので、“これが売れそうだから”っていう他人に任せた理由で物を作ることはしたくないですね。地球環境にとってマイナスの中にあっても、せめて作る意味を自分で納得できる行為を心がけていたい。あまり効率は良くなくても。実はこれまでにも、自分でシルクを刷ってグッズを出したことがあったんですよ。歌を始めてからのすごく初期、DESIGN FESTAに出店していた頃なんですけど。お客さんにボディを持ってきてもらって、その場で刷ったり。でも、わたし独りでやっていたから、手作業は好きなんですけど、時間と労力をかけ過ぎなんじゃないかって考え始めて。そればかりやってたので。今回のプロジェクトは、2019年末くらいから考え始めました。2019年の12月から1ヶ月くらいインドに行っている間に思いついて」

Photo ©久保田千史

――インドですか。どう繋がってくるのでしょう。
 「例えば、チェンナイにあるTara Books(タラブックス)っていう出版社、知ってます?」

――はい。
 「そこを有名にしたのが、職人たちが1頁1頁シルクを刷って、手縫いで製本をして絵本を作る、っていう部門なんです。CORNER PRINTING MITAKAにも1冊置いてあってびっくりしました。インドでは、そういう手作業で作られたものにたくさん触れることができたんです。サリーブラウスやシャツを仕立てるにしても、近所のテイラーに持っていくと、カウンターの奥にミシンがあって、そこで反物から仕立ててくれる。寸法が間違ってたらその場で縫い直してくれます。クリーニング屋に預けた服は石の上で手洗いされて、綺麗に畳まれて新聞紙に包まれて戻ってきました。これって時給換算すると……っていう考えがあまりない気がする。日本の商店や手工業も昔はそうだったかもしれないですね。でも、わたしが生きてきた世界には、効率化されて機械で作られた物が溢れているって感じて。そうじゃないものって、例えばおばあちゃんが昔、わたしにくれた手編みのセーター。何時間かかっても、何日かかっても、それがお金になるわけじゃない。ただ作って、ただ孫にあげただけ。そういう感じのものがインドにはたくさんあるんですよ。それを見て、自分の手で何か作る感覚を取り戻したくなったんです。南インドは、貧しいと感じたことはなくて、むしろなんて豊かで美しいんだろうって思うことのほうが多くて。だからこのプロジェクトでは、1個1個を手で作るっていう楽しみに加えて、新しく物を作るフラストレーションを、捨てられる物を使うことで解消できないかな?って考えたんです。それで、プリント屋さんだったらTシャツや布のゴミがたくさん出るかも?って思って、CORNER PRINTINGで働いているタイちゃん(那倉太一 | ENDON)に電話したんですよ。きっと、小さい傷があったり、刷り間違いがあったりとか、捨てなくて済むくらいのものがあるじゃないですか。それをもし集められたら、何着でもいいから、もらえると嬉しいんだけど可能かな?みたいな感じの相談」

Photo ©久保田千史

――今回は具体的に、どんなB品を使ったんですか?
 「少し型がズレていたり、ほつれがあったり、染みがついているやつ。検品で弾かれていくので、全てが生産に使えるわけではないんですよ。あとは小さな印刷ミス、試し刷りとか。でも全然着られるんです。タイちゃんが働いているインクジェットの部署では1日10枚出たら多いほうみたいなんですけど、CORNER PRINTINGは部署がたくさんあるから、本当はもっと多いのかも」

――そうですね。けっこうありそうですね。
 「うん。相談してから集めてもらって、2週間で5、60枚。集めるのは自動ではできないから、けっこう手間がかかりますよね。タイちゃんが仕事中に“これは……イケるか……?”みたいなジャッジを重ねてくれたと思う(笑)。それだけでも面倒なのに、刷るのもインクジェット部署のみんなが手伝ってくれることになって。最初はそんなこと思いもしなかった」

――みんな楽しそうにやってましたよね(笑)。
 「わたしも超楽しかったです。けっこう大変なことさせちゃったけど(笑)。人と作業するのっていいな。それぞれの常識とかセンスが違って面白いし、順番にサボりながら進められるし。みんなで作業して、乾杯して(笑)。いいよね。最高に気持ち良かったです」

Photo ©久保田千史

――こういうことをする場合、楽しいかどうかっていうのも重要だと思います。刷る前にタイダイをやったのは、やっぱり染みとかが目立たないようにするため?
 「まさにそういう理由です。少し前に、借りた服に飲み物をこぼしたことがあって。白いパーカに赤ワインこぼしちゃって(笑)。洗ってみたけど茶色い染みになって、それ以上は白くならなかったんですよ。それで、友人のタイダイのワークショップに参加して、グリーンと茶色に染めて、結局自分で着ました。他にも、首周りに黄ばみがあって、大事でなかなか捨てられないTシャツがあったんですけど、染めて去年たくさん着ました。タイダイって絞り染めのことですけど、絞らなくてもいいんですよ。ただ好きな色に染めてくのでも。染料を自分で配合するのは初めてだったから、自分が求める色にできるやりかたが最後の1時間くらいでようやくわかってきた感じでした」

――タイダイを施すと、1点1点全く違うものになるじゃないですか。そこもコンセプトの一部だったのでしょうか。
 「うん。B品はそもそもダメージもサイズもばらばらだから、その個性が前提になりますね。そのぶん、インクの色や版の場所を毎度考えるので、同じものを100枚刷るのに比べると、立ち止まりつつって感じになります。やっぱり、“効率を追い求めない”っていうのが今回やりたかったことなのかもしれない」

Photo ©久保田千史

――デザインも、それが反映されたもの?
 「そうです。インドで歌の先生がよく言ってた言葉があって。カルナータカ州のカンナダ語っていう言語では“ಸಾವಕಾಶ”と書いて、アルファベットだと“saavakaasha”って書くのかな。聞こえた感じは”サウカシュ”です。人が焦っているとき、例えば車の運転がワイルドすぎるとき、カレーを早食いしようとしてるとき、むせたり慌てたりしている人をスロウダウン、カームダウンさせる、おまじないのような言葉です。それをコピー機で伸ばしてメインの版に使っています。世の中にもっとスロウダウンしてほしいっていう気持ちを込めてですかね。東京だと、なんでもかんでもどんどん速くなるだけなので。インドはめっちゃ遅いから、それが当たり前の気持ちで帰ってきたら、なんでこんなに速さで心を痛ませるんだろう?って思って。そういう漠然とした“ゆっくり”もあるんだけど、もうひとつ、インドにいる間に列車移動がすごく好きになったのも大きいです。列車移動って、遅いかもしれないけど、1人あたりのCO2排出量が一番少ないんですよ。今まで飛行機に乗ってあちこちライヴしに行ってきて、年間にすごい数乗ってるし、飛行機好きなんです。でも、これからは、速さと価格だけじゃなくて、どれくらいCO2を排出するのか?っていうのも、移動手段を選ぶのに、頭に入れようかなって。なんか急に思って。まあインドは寝台列車の移動が楽しくてしょうがないから乗ってたんですけど(笑)」

――でもインドって、速度を追い求めるための技術に関する職種がめちゃくちゃ強いじゃないですか。僕の家の周りにも、近所の精密機器メーカーに務めるインドの人がたくさん住んでいるんですよ。
 「エンジニアとか?」

Photo ©久保田千史
コンベア乾燥機でインクの乾きを待つコムアイさん。

――そうそう。その落差をすごく不思議に感じていて。カースト制度と関係があるのかな?って思ったり。
 「たしかに。大気汚染とかも、場所によって差がすごく激しいですね。日本より自然が豊かなところもあるし、死ぬほど空気が汚いところもある。インドには天国も地獄もあるよね、と冗談言ったりします。わたしがいつも滞在しているのは南インドで、とてものんびりしています。テクノロジーに強い街は、バンガロールや、ムンバイなど、中央あたりのインドですかね。インド人て、独自の効率化の概念を持っているような気がするんですよね。高速道路とかみんな運転めちゃくちゃなのに私には理解できない秩序がある感じなんですよ。お弁当配達システムなんか有名ですけど。インドは、アーリア系の人が北から入ってきて、南にはドラヴィダ系の人がすでにいて、北と南では文化圏が違うと言われています。南インドは優雅なインドが残っている感じがするって勝手に思っていて、世界経済のピラミッドに組み込まれたという印象が薄いんです。色彩がとにかく美しい。サリーの組み合わせはずっと見ていたくなるし、今回の色選びでも思い出していました。あとインドの女性って、毛量多いんですよ。わたしが今、一番やりたいのはそれ。髪を梳かない。日本に帰ってきたら、みんな髪の毛スカスカだなあ……って思ったんですよね。1970年代、80年代くらいまで梳いてなかったと思うから、アイドルたちの髪型見ると。90年代からかな。スカスカのツインテールとか、前髪とか、かわいいと思ってたけど、今は“A”みたいなシルエットの、どっしりした長い黒髪が憧れです。下が一番重い感じ。昔の聖子ちゃんとか、中森明菜さんとか、重めですよね」

Photo ©久保田千史
インクの調合にもチャレンジ。

――うん、ヘヴィっすね。
 「インドの人はたぶん、髪が重くても切らないんですよね。長さを切ってる人はいるけど、梳いたりしない。おばあちゃんになって、だんだん白髪で量が減ってゆくのを綺麗に三つ編みするのがかっこいい、みたいな感じ。それがすごくいいな、って思ったんですよ」

――髪の毛も、ファストじゃない感じと繋がっているのかな。
 「どうなんだろう。そのリッチさを美しいと感じるっていう価値観なんじゃないかな。貧相じゃないっていう感じ。そう勝手にそう解釈してるんだけど」

――それはおもしろいなあ。なんかいいですね。そういう視点も含めて、このプロジェクトの根幹をかなりざっくりまとめると、“地球環境との関係”ということになると思います。コムアイさんはかねてからそういった意図の発言や行動が多いですけど、環境のことを考え始めたのは、いつ頃、どういうきっかけで?
 「高校生のときは、そういうことばかり考えてました。ピースボートから派生して、グリーンピースのシンポジウムを聞きに行ったり、脱原発のデモに行ったり、水やプラスチックについて調べたり、そういう青春でした。印象的な出来事は、原発に反対するデモで、おばあちゃんたちが配る小さいビラに、びっしりと筆ペンで主張が書いてあって。ある程度、同意できる内容だったと思うんですけど、ぱっと見て読む気にはなれなかったんです。それを配るのが怖くなって。だんだんデモから足が遠のいちゃいました」

Photo ©久保田千史

――そういうタイミングがあったんですね……。
 「うん……。そのときに、なんか、自分に力がないことがすごく悔しかったんですよ。デザインの知識があったらな、とか。発信の方法とか」

――それは、初めてお話伺ったときのインタビューでもおっしゃってましたよね。
 「そうそう。それが表へ出ることへ動機になって。それで表に出てみたものの、そういうことができるパワーを得るまでにはすごく遠かったし、むしろ自分が全然違う方向に流れてゆく感じがして。真面目に堅く考え過ぎていたのを、音楽が解放してくれたったいうのはあるかもしれないですけど。音楽や踊りに託すっていう。その祈りが無駄ではないと思ってるし、人が喜びを爆発させる瞬間は、まさに生きる力が育まれているって状態だと思うから、やっていることは同じなんですけどね。でも今は、ふたつの支流の合流のさせかたを考え始めてる時期なんですよ」

――根本的に考えていることは変わらなくても、やりかた、扱いかたは変化して然るべきだと思います。
 「そうですね。でも、しばらく勉強していなかったから、今は何もわからなくて、最近またいろいろ調べ始めています」

――例えば、コムアイさんが素敵な服を着てメディアに露出しているのと、今回のプロジェクトの間には、ある種の落差があるように思えます。コムアイさん自身、服、ファッションはお好きですよね?
 「うん。メディアで着てる服は高いものもあるけど、1回着られると満足しちゃうところもあるから買わないですね。それって消費を促していて罪深いかもしれないですけど(笑)。いろんな服を着るのは好きです。でもここ半年くらいで私服も減らしてて。服はみなさんが想像するより持ってないです。ミニマリストでもないし、片付いてもいないんですけど(笑)。最近は、服を借りられるシステムとかもありますよね。インスタでセレクトショップかな?って思ったアカウントが、リースだった。それはロンドンだったんだけど、日本にもそういうのあるんですか?」

Photo ©久保田千史
“ಸಾವಕಾಶ”モチーフ以外のデザインも、作業当日にコムアイさんがハンドペイントで創作したもの。

――いろいろありますね。
 「そうなんだ。アリだと思う。何回か着たら満足しちゃう服もあるじゃないですか。特に最近は誰でも日常の写真を撮ったらシェアするから、毎回スタイリング変えたりで、さらに服の消費が促されてそう」

――消費と所有という点でいうと、僕はけっこうその権化みたいな感じなんですよね(笑)。CD、ヴァイナル大好きで、集めちゃう。
 「わたしは集めているものないですね。レコードとか、重いし、場所取るし(笑)。触っていて美しいとか、聴いてるときに気持ちいいとかはあるけど、家にレコードが増えていくと思うとちょっと……でも本はめっちゃあるなあ……」

――本も良いですね。僕も好きです。
 「うん。でもなるべく人にあげるようにしてますね。読んだやつは。読んでない本がたまっちゃうんだよね……。あっ!これは今が読むときだったんだ!っていう3年越しの本があったりする」

――あるある。だから積読は良いんですよね。
 「ほかの本で引用されていて、この本持っていた気がする!やっぱり!みたいな。買っておくことで読むきっかけができるっていうのはありますね」

Photo ©久保田千史

――なんというか、僕は、シェアリングによって、実体も、内容も、ひとつひとつをライトに扱ってしまう気がしちゃうんですよ。人によるとは思いますけど。古い考えかたなのかな(笑)。
 「うんうん。そうですね。レンタルのCDとか、傷だらけになってますもんね。所有すると自分の分身みたいな感じになるのかも」

――だから、消費 / 所有をする / しない、ひいては生産する / しないのバランスって、難しいな、って思ってるんですよね……。
 「う~ん、そうですね……。服は古着、レコードも中古レコードとか、売ることによって誰かに回る文化がありますよね」

――そうですね、絶対に捨てたりはしないです。
 「そういうのはなんか、ホッとしますね。生産している時点で、今回のプロジェクトだって環境にとって良いことかどうかっていうのは、かなりビミョーなところじゃないですか。染料や水を使って新しい物を生み出してるのが燃やして灰にするより良かったのか」

――デザインのデータもPCで作ってますしね。
 「作った物の輸送とかもあるし。国内だからそんなに距離がないとはいえ。染めるとき洗うのに水もすごく使うし、染料も完全に植物由来のものではない」

Photo ©久保田千史

――突き詰め過ぎると、けっこう何もできなくなっちゃう。
 「そう。だからといって、えーい!もういいや……ってなるのもなんか、違うと思うんですよ。だから、1mmでもマシな気がするほうをやる」

――コムアイさんは……、良い人なんですね(笑)。
 「どうだろう(笑)。サステイナブルって、もはや無理じゃないかと思ってるんですよ。無理か可能かで言ったら、限りなく無理に近いと思う。だから、例えば世界が50年後に終わるか、100年後に終わるか、150年後に終わるかっていうのを、遅らせることに意味があるかどうか考えることがキーになる気がしていて」

――そうですね。今、世界は“延命”という視点でしか見られなくなってきています。とはいえ、100年前にも同じような視点で話し合った人々はいたでしょうね。延命は普遍的なアイディアというか。
 「ね。超いたと思う。ゲーテとか、始まろうとしている次の時代に抗おうとしてるように感じるし、ハズラトイナーヤトハーンというインドの音楽家の本を読んだときも思いましたね。ちょっとでもマシに、ちょっとでも遅らせるっていうことに意味があるって、まず自分で思って、そこからいろんなことをやりたい。ディストピアを開き直るのとも違うんです。少しずつマシにっていう。結局、自分の選択を尊重するしかないんですよね」

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