Review | UNCIVILIZED GIRLS MEMORY『HEAVEN』 | 無題 (あるいは天国を垣間見ることについて)

文 | 樋口恭介

　ノイズ、ドローン、パンクロック。
　それからブラックメタル、ヒップホップ、ヴェイパーウェイヴ。
　それにインダストリアルや、あるいはハイパーポップ？

　だから何。

　そんなものはどうでもいい。
　そこで鳴っている音は音でしかなく、ジャンルやカテゴリーはどうでもいい。
　それは生きていることに伴って必然的に鳴らざるを得ない音、鳴らされざるを得ない音に便宜的に与えられた名だ。

　嘔吐。
　嗚咽。
　呼吸。

　みじめな音を引き連れながら、身体の中で大量の液体と気体が駆け巡っている。
　ノイズとは、要するにそういうことだ。

　それはむろん表現だが、表現などではありはしない。
　ノイズは魂をなぞって放たれるが、魂の形はしていない。

　ノイズとは、世界に向かって投げ出された剥き出しの感情が、世界とぶつかり、きしみ、ひしゃげ、ねじまげられ、破裂する一連の現象のすべてだ。

「Ode to the angels embryo」で叫ばれる叫びを聞くがよい。
　そこで鳴っているのは打撃音以外の何ものでもない。

　声による殴打。
　世界と心中するための玉砕の音。
　UNCIVILIZED GIRLS MEMORY。
　HEAVEN。

　思い出の中で一瞬だけ垣間見える天国。

　これは批評などではありはしない。
　書かれる側から死んでいく名もなき単なる文の羅列以外のなにものでもない。

　だから何。

　天国に住むためには死ななければならない。
　けれども生きながらにして見ることならできる。
　ほんのわずかな、つかのまのひとときであれば。

　そうしてすべての音が鳴り止んだとき。
　バラバラになった世界と肉体を後にして、お前は今日を生き延びるだろう。
　明日を生きるだろう。
　そしてまた音を鳴らすだろう。

　天国からはほど遠い場所で。
　とうに失われてしまった思い出だけを頼りに。

■ 2023年10月18日（水）発売
UNCIVILIZED GIRLS MEMORY
『HEAVEN』
CD OOO-50 2,000円 + 税
https://ultravybe.lnk.to/UCGM-HEAVEN

［収録曲］
01. Incubator
02. Ode to the angels embryo
03. エス
04. Raven
05. R0G0B255
06. Etude for heaven
07. Reserved death
08. Cadenza
09. Heaven
10. ex.Heaven