Review | alpha_rats / coeur_net『Celestial Reactors』 | AVE

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07/05/2019
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文 | 玉野勇希
撮影 | 久保田千史

CORNER PRINTINGが運営する東京・中野のギャラリー「CORNER PRINTING KG」にて開催中の「Celestial Reactors」展は来場者に未知のランドスケープを体験させる。もちろんその体験とは比喩ではなく、目で見、手で触れる貴方自身の経験としてだ。

　ガラス製の扉を開けた先にあるタペストリー型の作品に描かれた昆虫を模したクリーチャーや脳内物質の模写のようなグラフィックは、まるで1990年代のゲームやSF映画特有の大仰でチープな、ある種の牧歌性を持ったものに映り、前途の現実との剥離を催させるだろう。

　しかし、それらは彼 / 彼女の世界ではありふれた、美しくも空虚な世界を切り取った写真作品であったことに貴方はその先のVR作品を通して知ることとなる。写真に収められた光景は過ぎ去った過去であるのが常であるわけだが、この作品に収められた光景は貴方が今後遭遇することになる体験に先駆する。それはつまり作品が位置する我々の現実世界と、ゴーグルの先の仮想世界との境界を曖昧にする一種のパララックス・ヴューを与えることになるだろう。

　ゴーグルを装着して与えられたオルタネイティヴの肉体は、まず暗闇に無数に浮かぶ小島のひとつに頼りなくその重心を預けることになる。小島の上では暗号が空中を走り、蟻（？）が浮遊したモニターに映し出される。別の小島では空中を漂う十字型の発行物体と人型。先の作品で対面済みの、蜘蛛を模したクリーチャーが実態をもってその巨体を揺らす小島もある。蜘蛛はインターネットのメタであることに論を待たず、作品中で通奏低音となるサイファーパンクの本来的なアナーキックな暗号性を誇示している。貴方は、既に自らが高解像度のディストピアにその身を置いていることを実感を持って知ることとなる。

　逃げるように向かった別の地平では、わざとらしい黄色をした月とも太陽ともつかない光体が、ベビーピンクに隆起した小山と現実離れした透明度の湖、アウトした地面を照らしている。パステルカラーの流刑の星は荒涼としているが不思議な温度を持っていて、異空間で緊張した神経を弛緩させてくれることだろう。

　ネタバレを避けるのであれば、この先を記述すべきでないことは承知している。しかし無粋を承知で記すならば、そこにあったのは実体化された空虚である。質量を与えられた空虚はあまりにも巨大に眼前にそびえたち、無力なヴィジターの帰巣本能を刺激する。

　白壁のギャラリーに意識を戻されたあとは、展示された絵画や頒布されたジンの景色に、まるで旅先の景色のような懐かしさを覚えることになる。思い出を持ち帰りたくなるのは必然であり、併せて本展のために制作されたシャツやキーホルダー、シルクスクリーン・ステッカーなどのマーチャンダイズも、プリント・カンパニーを母体とするKGギャラリーでの開催においては蛇足に留まらない意味を持っている。

　暗号は解読を欲望するが、解読された暗号は単なる文字であり、意味そのものに身を落とす。作中でデザインされた光景は、解読され得ない暗号として、その意味を内部に隠蔽した“意味を有した無意味”それ自体である。本展はalpha_rats / coeur_netの脳内で培養拡張されたそれらを、VR機器を通じて我々の世界へと解放するオルタネイティヴ・リベラリズムの表明である。彼らの提唱する暗号論は、左右の軸足を詳らかにするよう常に要請されている我々にとって、WorldWideWebに包囲されたヴァンパイア城からの脱出のための文字通りの暗号として機能するのかもしれない。

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