Interview | ニイマリコ


根拠なく自信なんて持てない

 8月より始動したニイマリコ率いるバンド、ルー・ガルーが、Bandcampでの3ヶ月連続リリースを経て、いよいよ11月23日(木・祝)に東京・渋谷 WWWにて初のワンマン・ライヴを開催します。弾き語りのソロ活動もコンスタントに行いながら、バンドで大きなステージに挑むニイマリコの“闇雲に動く”ヴァイタリティはどこからくるのか……。パーソナルな部分にも触れつつ、たっぷり語っていただきました。

 またBandcampでリリースされていた3曲の音源は、各プラットフォームにて11月20日(月)よりダウンロード & サブスクリプション配信開始が決定。ワンマン前にぜひ聴いてください。


取材・文 | 嶋田真由美 (TRASH-UP!! RECORDS) | 2023年11月
撮影 | 星野佑奈


――ルー・ガルー結成に至るまでに、Ghostleg結成、HOMMヨの活動休止、ソロ活動開始と、音楽活動の形態には様々な変化があったと思いますが、一方で作詞や執筆、舞台への出演など、違ったかたちで表に出る機会も徐々に増えていきましたよね。ニイさんのプロフィールに記載されていたように闇雲に動いてきた結果として、様々な人との出会いがあったのでしょうか。

 「Ghostlegでは完全に歌手として唄うというかたちで参加しています。このユニットは2017年からやっていますが、私がずっとやってきてあたりまえだった、バンドでスタジオに入って一緒に0や1から作り上げるものとは違う方法の音楽制作で、当初はただただ新鮮でした。オンラインのみでワニウエイブさんとリファレンスやトラックのやりとりをしながら作る……たしかにソロ・アルバム作りやルー・ガルーのやりかたと繋がっている感じですね。当時は何か新しい音楽体験をしてHOMMヨに還元していくぞ~、という意識でやっていましたが。ソロになったと同時にコロナ禍、というタイミングだったので、どうやって音楽をやればいいのかと悩んでいたとき、まずPCに手が伸びたのは必然だった気もします。今年は舞台(劇団☆A·P·B-Tokyo 寺山修司没後40年記念認定事業『田園に死す』 | 6月1日-4日 東京・豊島区立舞台芸術交流センター あうるすぽっと)で唄うという初体験もしましたが、非常に刺激になりましたね。ルー・ガルーとして渋谷 WWWという大舞台に立つんだからビビッてちゃダメだ、と挑戦できたことかもしれない。ちょうど同じくらいのキャパでしたし。ワンマンがなかったら普通に断ってたと思うな(笑)。これも故郷の広島で仲良くなったミカカさんというアーティストが誘ってくれた弾き語りのイベントに出ていて、たまたまその舞台に前回出演していたミカカさんを観に来た劇団のかたがスカウトしてくださり……、という流れで。こういう偶然を必然に変えていけた、とか言ったらかっこよすぎるか(笑)。でも、やっぱりその前には人がいるんですよね。その偶然を持ってきてくれた方々が魅力的だったから、その人のことをもっと深く知りたいとか、仲良くなりたいとか、そういう純粋?あ、不純なのかな(笑)な気持ちで接していたら、想像もしなかった機会ができたり、やれることが膨らんだり。一人ひとりエピソードを紹介したいくらいおもしろい方々ばかりで……と、話すと長くなります!本当にみなさんに感謝です。おかげさまで楽しく闇雲に動けていると思います」

ニイマリコ | Photo ©星野佑奈

――活動形態の変化に伴い、ご自身のことで変化したことは何かありますか?
 「小さい頃に大好きだった絵本で『やっぱりおおかみ』(作・絵 佐々木マキ | 1977, 福音館書店) というのがあるんです。子供のおおかみが主人公で、仲間が欲しい、輪に入りたい、と1匹で街を徘徊するんですけど、見付からなくて……というストーリー。このおおかみは影みたいに描かれていて、顔もないし、ふきだしで“け”しか言わない。頭ではいろいろ考えているんですけどね(笑)。それに顔が付いたり話せるようになったりして自我が表出してめでたしとかでもなく、おおかみであるという自分を受け入れ、ぶらぶらは続く、っていう内容で。私はけっこうわかりやすくチームとかホームに憧れがあるんです。チームの一員、一部になりたいっていう欲はずっとある。でも同時に、所属しきれないというか、何か違和感があって遠くで眺めているだけ、っていう感覚は消えることもない。それが後ろめたいという。そういう、元の自分に戻ろうとしているパターンの変化かもしれないですね。『やっぱりおおかみ』が前に出てきちゃった。『月刊てりとりぃ』というフリーペーパーで連載しているのも、自分はノンバイナリーだと公表した上での、子供時代の視点から暮らしの中で持っていた違和感、影響を受けた文化についてのエッセイです。名だたる方々のコアな趣味物原稿が多い中で書いているのですが、どう見られるのか、何の影響があるかとかは考えず、淡々と自分のことを出していこうと思うようになりました。“け”くらいのものだという感じで」

ニイマリコ | Photo ©星野佑奈

――昨年から、ニイさんに多大な影響を与えた人物に関わる作品のリリースが相次ぎました。そのうちの1人であるBobby Gillespieの『ボビー・ギレスピー自伝 Tenement Kid』(イースト・プレス)の刊行も大きな出来事だったと思います。PRIMAL SCREAMの来日公演もありましたし、レビューの執筆からトーク・イベントへの出演にも至った経緯や、何か印象に残る出来事があれば教えてください。
 「奇跡が起こった、と思ったんですよ。私とBobby先生がソロ・アルバムを作っている期間が丸カブりだったんです。コロナ禍でツアーに出られないからでしょうけど……。でも!しかも子供時代を振り返る自伝を執筆中というのも『月刊てりとりぃ』で私が連載しているものとテーマが似てるじゃん?! と感激して。ソロ・アルバムのリリースを発表した日にこのサイン入り原書がロンドンから届いて、なんかちょっとこれはキテる、って思っちゃったんです。日本語版が出るならなんでもするぞ!って、出版社とか関係ゼロですけどね、なんかないかと、友人の野中モモさんに「翻訳やってくださいよおお~」と泣きついたり(笑)。OASISのGallagher兄弟やRADIOHEADのThom Yorkeクラスなら日本語版は絶対出るけど、PRIMAL SCREAMのヴォーカルは微妙な線だなー!と思っていて(笑)。でも無事にイースト・プレスから出版されたので爆速で熟読し、Twitterで感想を書きまくっていました。完全にアピールです、Bobby先生に関しては“仕事”として何かやりたい!って異常に燃えていて、そうしたらエッセイを書かせていただく機会を得たんです。プロの音楽ライターとかじゃないですから、Bobbyに、PRIMAL SCREAMに出会って人生変わったぜ!という、ごく個人の話からバーッと視界が開けるようなものにしたいと考え、一生懸命書きました。やっぱパンクのストーリーって万国共通だから、先生に思い入れがない人にも届くかも!って……まあ出来上がったものは怪文書だったんですけど(笑)。そしたら今度は出版社さんのほうからお声掛けいただいて、翻訳された萩原麻理さん、粉川しのさんと販促のトークショウに登壇をすることに……。めっちゃ『rockin'on』の記事読んでたっつの……と頭がぐらぐらしました(笑)。何度も言いますが、Gallagher兄弟レベルだったらこんなことにならないですよ、競争率すごいでしょうから。Bobby先生という規模感が良かったんだと思う、という理性は働きつつ、能動的に、かつ自分を出して行動したら実現できた、というのはひとつ大きな自信になりました。ここぞとエゴサしていたら、“この写真の人がBobbyに似てる”って、記事を読んだ知らないかたが呟いてたのを発見したときは、めっちゃニヤニヤしてしまった(笑)。来日公演もその出版社のかたたちと観に行けて。ずっと大好きです、本当にいつまでも尊敬しています、と手を合わせました……」

ニイマリコ | Photo ©星野佑奈

――続いて今年の3月にはDavid Bowieのドキュメンタリー映画『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』(ブレット・モーゲン監督)の公開もありましたね。この作品を通してDavid Bowieと改めて対峙することにより何か感じましたか?
 「これも『てりとりぃ』編集長のおはからいで、初めて“映画の試写会”っていうのに行けて……。素晴らしいBowie関連本を何冊も書いてる大久達朗さんも『てりとりぃ』にはいっらしゃるんです。Bowie知識が世界レベル、本当のオタクの中のオタク、本物なので私なんかが語るのはおこがましいと思いつつ、でもせっかく試写会に行けたんだから活かしたいと思って、やっぱりAVEさんにお願いして、映画の感想エッセイを書きました。これも配給のかたから喜んでいただけて嬉しかったです、Bowie関係でも仕事ができた!って嬉しかった。DVDが出たときも『週刊てりとりぃ』という、『月刊てりとりぃ』の軽めネット・ヴァージョンですね、そちらで販促用の文章(自分にとっての答え探し『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』発売によせて)も書かせていただいて。 映画を観て一番感じたのは、“人生は一度きりだ”ということ。Bowieの、自分の人生の使いかたに改めて感動しました。ついBowieの特別性に目がいって、イケメンのロックスターだとか異星人だ、普通の人じゃないからすごい人生を送れた、つまんない自分とは関係ない偉人、ってボケーっと眺めてしまいがちかもしれませんが、人生が一度だというのは誰しもが一緒、いつ死ぬか、何が起こるかわからないのも一緒なんだから、自分の人生はやっぱり主体的に生きよう、と非常に前向きな気持ちになりました。すごく怖いけど、渋谷 WWWワンマンをやってやる!その先もばんばん挑戦するぞ!という、根本的なポジティヴさを授けられた気がします。Bowieの記事に関しては、わざわざアツい感想をDMとかメールでいただくことがあります。Bowieはそういうタイプのアーティストなんでしょうね、人を行動させるというか。パンクの源流でもあるわけですし。Bowieに励まされて生きていくって感じです、本当に」

――フリーペーパー『SHOW-OFF』でのインタビューに出てきたニイさんにとっての“音楽四天王”(喜担当 Michael Jackson / 怒担当 Kurt Cobain / 哀担当 Bobby Gillespie / 楽担当 David Bowie)のうちの2人についてのお話が続きました。四天王やその他、他者や外から与えられるインスピレーションや影響……それはいわゆる“オカルト・パワー”というものなのでしょうか?
 「さっきポジティヴに、とか宣いましたが、私は基本的にものすごくペシミスティックな性格だし、ずっと諦念に支配されています。いつも朗らかだね、明るいね、と言われますけど、他人様に暗いところを見せて絵になるほどかっこよくないからっていうだけっす。そういう人間でも立ち上がらねばならないときはあり、そのとき一体何を呼び寄せ、己の内に湧きあがらせるのか?ということで、この“オカルト・パワー”です(笑)。さっきのBobby自伝にもよく書いてあります、“オカルト・パワー”について(笑)。気になるかたはぜひ。わかりやすく言うと“あやかり”とか“なんらかの啓示”みたいなものです。極個人的な範囲、自分にしかわからないものでないとダメで、他人と共有するのも御法度、一歩間違えると陰謀論ですから(笑)。これとあれが結びついた、それとなにが繋がった、思考のマッドな科学実験みたいな感じです。このゾーンに入るとブワーッ!!! ってなるんです。それでBobbyやBowieの書き物の仕事ができたんですから、すごいですよ、オカルト・パワーは!そういうものを常に探しています。興味があるものやインスパイアされるものってずっと変わらないです。本、漫画、映画、音楽、歴史、死、人の会話とか。その中にオカルト・パワーの種があるんですよね。“根拠のない自信”みたいなものかもしれないですが、私は根拠なく自信なんて持てないんで。“自信”とは正直、関わりたくないすね。ちなみに“音楽四天王”は、すごくつらいときにいつもこの中の誰かが来てくれるんですよ、何かに姿を変えて。突然リリースがあったり、人からモチーフのものをプレゼントしてもらえたり、街でTシャツをめっちゃ見かけるとか。渋谷 WWWの日も、たぶん誰かが来てくれると思います。誰かなあ……ヤバいですよね?私はけっこうこんな感じでいつも精神的な難局を乗り越えています(笑)」

ニイマリコ | Photo ©星野佑奈

――WWWワンマンがすぐそこまで近づいてきました。ルー・ガルーの仕上がり具合はいかがですか?
 「去年の10月末、初めて4人でスタジオに入って、そこから毎月2回練習に入って、8月はレコーディングして、その合間に5月から月イチで計5回のライヴ、というペースでした。メンバーはみんな忙しいので、場合によっては欠員もあり得るかな?と恐々でしたが見事に全出席でしたし、ファンになってくれたお客さんもいるし、良い感じに歩めていると思います。まだまだやることはたくさんありますが、やっぱり合奏っておもしろくて楽しいものです。いつも感動しています。ギリギリまでクオリティをクソ真面目に上げようとしているので、そういうときならではの、良い意味でのスリリングなライヴが観られるんじゃないでしょうか。“あんときのルー・ガルーのダブダブに行ってたんだぜ”って思い出せるような、お客さまの印象に刻まれる夜になればいいな、と思います」

――ルー・ガルーの音楽は、どんなふうに広がっていけばいいと考えていますか。
 「ソロになったときに、新しく知ってくださる人や、私の作る音楽を好きになってくれる人なんているのかな?と相当に不安でした。とても大切なHOMMヨの……なんていうか、キャリアを食いつぶしていくことしかできないかもしれない、それだけはイヤだ~~~ッ!!! ってがんばって、気付いたらもう3年も経ちました。その間に、一回り下くらいの世代のかたたちが聴いて下さったり、好きになって下さったりしたんです。あと、音楽に詳しいかた、DJなどやられているかたにも良い反応をいただけています。HOMMヨからずっと応援してくださってるかたから見放されてしまった……みたいなこともないかな、と感じており、心強いです。やっぱり品位、というものは持ち続けたいと思いますね。今回MVに出て下さった間宮まにさんも、ヤなことそっとミュートというアイドル・グループを6年、それこそクソ真面目にやられていたんです。歌詞提供とかインタビューとか、裏方から関わってはいましたが、素のときは朴訥としているけれどちょっと変わっていておもしろい女の子たちが、ステージに立った途端に豹変して異世界の戦闘機みたいになる彼女たちのステージを観るのが大好きでした。ヤナミューさんの現体制が去年終了して、まにさんだけが芸能活動を続けるということで、単純に興味で、どうしていますか?と今年に入って声をかけたんです。いろいろ話している中で、彼女が悩んでいるのも、やっぱり続けて活動する上での品位の保ちかただな、と共感するところがあって。ぜひルー・ガルーのMVに出演していただきたく思いました。企画段階からとても緊張しましたよ、ヘタなことをしたら彼女が必死に守っているものを傷つけてしまうんですから。ルー・ガルーのメンバーにもそういう気持ちを持っています。すでに持っているものを損なってほしくない、というか。うまく言えないですが。品位を保つって大変です、ある種ずっとシリアスでいないといけないので疲れますよ。しかもこんなバカバカしくも荒んだ社会情勢や、複雑化していく音楽界の状況の中、どこまで届くかわかりません。でも私は聴いてくださる人を舐めたくないので。絶対に伝わるものがある……とオカルト・パワーが囁いているんです(笑)!生きることのいじらしさや切なさ、悲しさを知っている人に聴いてもらいたいです。どんなふうに広まれば、は……こっちの進化のスピード感と、その広まる歩調が合ってくれたらいいな、とは思いますね。これ、答えになってんのかな?! とにかく良いものを粛々と、引き続きがんばります!」

ニイマリコ Official Site | https://infoinfonii.wixsite.com/niimariko
ニイマリコ Bandcamp | https://niiim.bandcamp.com/

ルー・ガルー One Man Show "Les Loups entre eux"ルー・ガルー One Man Show
Les Loups entre eux

2023年11月23日(木・祝)
東京 渋谷 WWW

開場 18:00 / 開演 19:00
一般 前売 4,000円 / 当日 4,500円(税込 / 別途ドリンク代)
U-20 2,000円(税込 / 別途ドリンク代)

※ 来場者特典: ZINE
TIGET

1週間前キャンペーン
※ 本公演はU-20 ¥2,000です。
※ U-25は紙チケットの半券をルー・ガルーの次回以降のライブにお持ちいただくと、その場で¥2,000、ニイマリコがキャッシュバックします。紙チケットは予約をすれば当日受け取れます。

出演
ルー・ガルー
Guest Dancer: 間宮まに

ルー・ガルー 'xxx'■ 2023年11月20日(月)発売
ルー・ガルー
『xxx』

https://loupx-garoux.lnk.to/xxx

[収録曲]
01. アーリーサマー
02. 心臓抜き
03. PARALLEL

作詞・作曲: ニイマリコ
録音: 新間雄介 (Studio REIMEI)
ミキシング: Romantic
マスタリング: 水野壮志 (Studio MASS)
撮影: 倉林和泉