Interview | MISSISSIPPI


人工物に愛着を覚える

 京都を拠点に活動する画家 / コミック作家のMISSISSIPPIが、初の画集『NIGHT ON EARTH』を今年4月中旬に刊行。2000年に初個展を開いたMISSISSIPPIは、これまで20年以上に亘りペインターとしての活動を続ける一方、コミックの書き手としてジンの制作やブック・フェアへの参加など、国内外で活動している。

 私が初めてMISSISSIPPIの作品を知ったのは、2010年に京都・左京区で開催された「左京ワンダーランド」のファイナル・イベントのフライヤーのイラストだった。京都に暮らしていると、定期的に足を運びたくなる居心地のいい特別な店がいくつかあって、そういう場所には必ずと言っていいほどMISSISSIPPIのイラストによるポスターや展示のDMが貼られていて、それぞれの店主が「今度MISSISSIPPIの展示があるよ」と教えてくれた。京都にもいろいろなコミュニティがあるけれど、こんなにも日々の暮らしに密接した作家ってそうそういない。


 本人はもちろん、応援し続けている周囲の人々にとって、これまでずっと続けてきたものが詰まった画集『NIGHT ON EARTH』が完成したことの喜びは計り知れない。同作を携えての全国巡回展をまもなくスタートさせるMISSISSIPPIに、この作品ができる経緯やこれまでの活動について聞いた。


取材・文 | 鷹取 愛 | 2021年4月
写真提供 | MISSISSIPPI


――『NIGHT ON EARTH』を出したきっかけを教えて下さい。

 「直接のきっかけとしては、去年の夏頃、どなたかはわからないのですが、メリーゴーランド京都に入ってきたお客様が“MISSISSIPPIさんの画集ってありますか?”と尋ねられたそうなんです。まあその時点では存在しないんですけど。その話をメリーの店長の鈴木 潤さんが僕に教えてくれて、その瞬間、そうだ、画集作ろう!って閃いて。それですぐに助成金のこととか調べて、次の日に応募して、これまでの作品を見直す作業に入りました。まあコロナで展示やイベントが全部吹っ飛んで暇だったからできた、という面もありますけど、最初のきっかけになってくれたお客様に感謝ですね」

――『NIGHT ON EARTH』というタイトルの由来は?
 「好きな映画のタイトルです。邦題『ナイト・オン・ザ・プラネット』(ジム・ジャームッシュ)ですね。邦題のほうは、Hi, how are you?が曲名にしているのもいいな、と思ってました。たぶん、オザケン(小沢健二)の『地上の夜』も、これから来てるんじゃないかな?」

――今回はイラストレーターでありデザイナーの横山 雄(BOOTLEG)さんがブックデザイン、写真家の喜多村みかさんが撮影を担当されていますが、このメンバーで作ろうと思った理由は?
 「映画『ホドロフスキーのデューン』で、ホドロフスキーが“史上最高の映画を作るぞ!主演はオーソン・ウェルズ!絵コンテはメビウス!音楽はピンク・フロイド!”みたいな感じでめちゃめちゃなドリームチームを組み上げるでしょ?そういう気持ちですよ。ふたりとも親しい友人だし、腕も信頼していたので。デザインの横山くんは、きっと端正なものに仕上げてくれるだろうと思って頼みました。バッチリでしたね。みかさんは、東京在住だし、撮影はリモートってわけにはいかないのでダメ元で頼んだけど、快諾して、撮りにきてくれました。その場のノリで“アー写も撮ろう!”みたいになったりして、楽しかったですね。堂々と人前に出せる、良い画集ができたのは、このふたりのおかげです。本当に」

MISSISSIPPI | Photo ©喜多村みか
Photo ©喜多村みか

――これまで、展示では大きい作品を発表されていることが多いですが、その理由と、同時にコミックを描き続けてきた経緯を教えて下さい。
 「僕は学生の頃に絵を描いて展示することを始めたのですが、その頃の意識としては、いわゆる現代アートというか、例えば奈良美智とかリュック・タイマンスみたいな、90年代の具象絵画の復権を担ったアーティストたちに憧れつつやっていたところがあって。わかり難いかもしれないですけど、キャンバスの絵を描くときの気持ちは、実は今でもそのまんまです。簡単に言うと、美術館の空間を意識しながら描いてる。だから、30号や50号程度の絵を特に大きいとは思っていない。コミックはまた別で、トランスポップギャラリーとの出会いが大きいです。そこでオルタナティヴ・コミックと呼ばれるような、アートや文学に近い海外のコミック表現に触れて、あまりのかっこよさにびっくりして、自分でも見様見真似で始めた感じかな。ペインティングの作家としての自分と、コミック作家としての自分って、なかなかうまくひとつにまとめられないし、他人から見ても理解し辛いだろうと思うんですけど、やりたいことをやっていたらこうなっちゃったと言う他ないですね。今回は、ペインターとしての仕事をまとめて1冊の画集ができました」

――絵を描き続けようと思ったきっかけはありますか?
 「初めて個展をしたとき(* 1)に、人に褒めてもらえた経験が大きいかも。そのとき、ああこれを僕は続けていいんだな、その資格をもらえたな、という気持ちになりました」
* 1 2000年、京都・恵文社一乗寺店にて。

――ジンが昨今のように日本で流行ってない時代からリソグラフ印刷などを使って、小さい冊子を作り続けてきた経緯について教えて下さい。
 「うーん、ジン自体は60年代くらいからずっとアンダーグラウンドなカルチャーとして続いているし、特に流行ってる流行ってないは関係ないかな。作家のアイディアをすぐに形にして出すという、産地直送感が楽しいですよね。基本的に、作家個人が止むに止まれぬ創造欲にかられてついうっかり作ってしまった!というようなものであってほしいです。自分がおもしろいと思うことが周りの人には理解されなくても、世界のどこかにひとりかふたりくらいはおもしろいと思ってくれる人がいるかもしれない。そういう希望を託す、拙い手紙みたいなもんだと考えています」

――これまでに、どのくらいの種類のジンを作ってきましたか?
 「うーん、合わせて10~15冊くらい?よくわかりません。2019年から、映画を観た感想とかを絵と文章で記録する『CINEMA WALK』というジンをシリーズで作っていて、2巻まで出てるので、また見てみてください!」

MISSISSIPPI『CINEMA WALK』

――作品の中に多く登場する、目に見えない大きな怪物のような存在について教えてください。過去の記憶とか体験とか何か原点があるのでしょうか?
 「原点というほどのものはないけど、12月に鳥取へ“青春18きっぷ”で旅したことがあって。窓の外はずっと雪で真っ白で、山が大きくて。その旅の後から、絵に大きい存在を描くようになった気がします。こう答えると、なんかスピリチュアルなものの象徴みたいだけど、実はそういうセンスは僕は全くなくて。たぶん子どもの頃、ウルトラマンの怪獣が好きだったし、そういうのを今でも好きなだけだと思います。モーリス・センダックの『かいじゅうたちのいるところ』とかね。ああいうモンスターが好きなんです、造形的に」

『Wall Drawing』公開制作 ブックギャラリー ポポタム(2019)
『Wall Drawing』公開制作 ブックギャラリー ポポタム(2019)

――東京・西池袋 ブックギャラリー ポポタム、京都・トランスポップギャラリーでは繰り返し展示をされていて、近年はメリーゴーランド京都でもたびたび展示をされていますよね。
 「基本的には声をかけていただいて個展をするというスタイルなんですけど、繰り返し声をかけてもらえるのはとても嬉しいです。初めてのギャラリーで展示をするのももちろん緊張感があるけど、慣れてるギャラリーでの展示も、前のほうが良かったなー、とか思われないように、なにか新しいものを見せられるようにしなくちゃ、という別の緊張感があります。それはギャラリーに対してもそうだし、来てくれるお客さんに対してもそうですね」

――音楽と本の出版レーベル「Sweet Dreams Press」、京都・左京区のガケ書房(現・ホホホ座 浄土寺店)とも、多くのお仕事やイベントをされていますが、それぞれ知り合うきっかけを教えて下さい。
 「Sweet Dreams Pressの福田(教雄)さんとは、ライヴ会場とかで会ったのが最初だと思います。いろいろと好きな音楽のライヴに行ったりCDを買ったりしてたら、自然に知り合いました。いつも絵の仕事を頼んでくれたり、ミュージシャンのお友達を連れて展示に来てくれたり、本当にお世話になっています。ポポタムに最初に連れて行ってくれた(* 2)のも福田さんなんですよね。ガケ書房は、当時すぐ近くに住んでたし、しょっちゅう顔を出してるうちに仲良くなりました。ガケ書房末期に、名物の外に突き出た車にペイントしたんですけど、楽しかったですね」
* 2 2010年、ジュヌヴィエーヴ・カストレイ展「魔法使い」

MISSISSIPPI

――そのほかにも重要な場所や人物などがあれば教えてください。
 「うーん、いっぱいあるけど……あえてギャラリーや書店以外で挙げると、yugue(ユーゲ)と屯風、あと、ゆすらごかな。アートとか音楽とかに異常に目の利く、簡単には褒めてくれないコワイ人が、そのへんの飲食店とかにゴロゴロいるのが京都のおそろしいところです」

――京都で作家活動を続けている理由は?
 「出身は大阪で、学生のときに京都に移って、そのままずっと居着いちゃったんですよね。実は別にそんなに京都にこだわってるわけじゃないです」

――『NIGHT ON EARTH』には、2008〜2020年の作品から選んだ36点が掲載されていますが、この期間はMISSISSIPPIくんにとってはどういう意味があるんでしょう?
 「2009年に初めてコマーシャル・ギャラリーの所属作家になったんですね。パリのNew Galerieっていうところなんですけど。それは初の海外個展でもあったし、ギャラリーとのやりとりや、作品の発送、お金の管理とか、全部自分でやったので、ものすごくキツかったですけど、楽しかったし、勉強になったんです。そのときに、自分がどういう作家なのか真剣に考えたし、作品のクオリティーに対する責任感というか、そういう意識が芽生えて。だからパリ個展以前と以後で、自分史の中では大きく違う。そういう理由で、パリ個展以後の作品を選びました」

MISSISSIPPI「midnight special」仏パリ・New Galerie(2009)
MISSISSIPPI「midnight special」仏パリ・New Galerie(2009)

――宇治川、二条駅、出町柳のおにぎり屋など、実際にある場所を切り取るきっかけは?
 「マンガを描き始めて、街の風景に意識がいったんですよね。それまでは、無地の、何もない一色の背景みたいな絵が多かった。なんだろう、ざっくりした言いかたですけど、街というものが好きなのかも。人間が生み出して、生活を営んでる建物や看板、駅や電信柱といったものが好きなんだと思います。古い日本映画とか観ると、映画の内容とは別に、写ってる町の風景や店とかが良かったりしますよね?そういうことをやろうとしてるのかも」

――街や看板のサインを絵の中にしっかりと描く理由は?
 「これは糸井重里さんがインタビューで言ってたんだけど、ゲームの『MOTHER』を作ったときに、始めは街がなぜかいい感じにならなかったらしくて。それで、ふと思いついて、街にできるだけたくさん看板を描き込んでくれ、と指示したら、すごく街がイキイキしていい雰囲気になったんだって。僕が看板とかを描くのも同じ理由かもしれないです。あと、さっきの質問の答えと被るけど、人工物に愛着を覚えるタイプなので、コンビニのサインとかを愛おしく思ってる。なんていうんだろ、“かつて地球上に存在した人類という種族の痕跡”みたいなものとして、街の看板を眺めています」

――作家として大事にしていることを教えて下さい。
 「いい絵を描くということ。これまで応援してくれた人たちを裏切らないように、ヘンなことはしないで、いい絵を描く、という。それしかないなあ」

――これからの展望や予定があれば教えて下さい。
 「この画集を携えて、画集発売記念展示のツアーに出ます。5月1日(土)からメリーゴーランド京都、その後にポポタム、続いて仙台、松本、大阪、広島、福岡などを予定しています。初めて展示をする街も多いので、とても楽しみにしています」

MISSISSIPPI Official Site | https://mississippi.mystrikingly.com/

MISSISSIPPI『NIGHT ON EARTH』■ 2021年5月1日(土)発売
MISSISSIPPI
『NIGHT ON EARTH』

216mm ×236mm ×13mm | ハードカバー | 表紙ベルベットPP貼 | 72ページ | 税込4,400円

https://mississippi-kyoto.stores.jp/items/605aa4f1d263f07d54169746/

MISSISSIPPI
“NIGHT ON EARTH” launch exhibition
画集”NIGHT ON EARTH”発売記念展

| 2021年5月1日(土)-12日(水)
京都 メリーゴーランド京都
10:00-18:00​(最終日 -17:00)| 木曜休廊

| 2021年5月15日(土)-16日(日)、21日(金)-23日(日), 28日(金)-30日(日), 6月4日(金)-6日(日)
東京 西池袋 ブックギャラリー ポポタム
平日 15:00-19:00 | 土・日 13:00-18:00