Interview | MOGWAI


シンプルにそれが好きだから

オフィシャル取材 | 天井潤之介
通訳 | 原口美穂
構成・文 | 久保田千史
Photo ©Antony Crook

 英スコットランド・グラスゴーを象徴するバンドのひとつMOGWAIが、結成から25年目の2020年初頭に録音されたオリジナル・フル・アルバム『As The Love Continues』を、約1年の時を経て2月19日(金)にリリース。20余年来のコラボレーターであるDave Fridmann(Tarbox Road Studios | ex-MERCURY REV)をプロデューサーに迎えてのレコーディングは、SARS-CoV-2の感染拡大に伴い、当初予定されていた米NY郊外から英ウスターシャーのVada Studiosに場所を変えて敢行されたものの、FridmannがZoomでの参加を余儀なくされた以外は大きな問題もなく進行したようだ。むしろパンデミック下の状況を、制作に関してはポジティヴに活かしているように思える。バンドのギター・ヴォーカル、Stuart Braithwaiteはこう語る。

 「正直、コロナがあったことで、作品はベターになったと思う。なにより集中できたし、時間も作れたからいろいろな作業ができた。コロナのせいで何もすることがない、何もできないという人たちも多かったと思うけど、僕たちの場合はアルバム制作というプロジェクトがあった。その作業ができること、何か取り組むべきプロジェクトがあるということに感謝を感じて作業できたのも良かった」

 完成に至った10thアルバムは、8thアルバム『Rave Tapes』(2014)あたりから徐々に印象を強め、原子力がテーマの英BBCドキュメンタリー・プログラム『Atomic: Living in Dread and Promise』で手掛けた劇伴を自らリワークしたアルバム『Atomic』(2016)、ジョナサン / ジョシュ・ベイカー監督のSFアクション映画『KIN / キン』のサウンドトラック、そして前作『Every Country’s Sun』(2017)を経てサウンドの要として洗練を見せてきたシンセティックなテクスチャと、過去に披露したBLACK SABBATHやSPACEMEN 3のカヴァーに象徴される70s以降から受け継いだギター・オリエンテッドでラウドな側面のミックスに一層磨きがかかった印象だ。そこでクローズアップされるであろうトピックは、15年以上に亘ってTrent Reznorとタッグを組み、NINE INCH NAILSの一員としてのみならず数々の傑作サウンドトラックを手がけてきたAtticus Rossのゲスト参加だろう。MOGWAIとはドキュメンタリー映画『地球が壊れる前に』(2016)のサウンドトラック以来の顔合わせとなったRossの参加はしかし、当初は「頼みたかったのはストリングのアレンジだった」のだという。

 「でも結果的にそれ以上の貢献をしてくれた。彼による本当に素晴らしいストリングのアレンジメントと、彼が演奏してくれた追加のシンセとギターで、曲に命が吹き込まれたみたいだった。完成したサウンドを聴いたときは、本当に嬉しかったよ。Atticusとは前にも一緒にサウンドトラックの制作で作業したことがあって、繋がりがあった。それに、僕はNINE INCH NAILSの大ファンだし、AtticusがTrent Reznorと手がけたサウンドトラックのファンでもある。彼がこれまで手がけてきた音楽の素晴らしさを知っていたから、彼に頼むことにしたんだ」

 もうひとり、これまでのMOGWAIにはなかった要素を『As The Love Continues』に持ち込んでいるゲストが、BADBADNOTGOOD、Anthony Braxton、Mats Gustafsson、Bon Iver、Tom Waitsらのコラボレーターとして知られ、故Jóhann Jóhannssonが手がけた傑作サウンドトラック『メッセージ』(2016)にも参加した名サックス・プレイヤー、Colin Stetsonだ。Stetsonもまた、優れた演奏家としてのみならず、コンポーザーとしてアリ・アスター監督『ヘレディタリー / 継承』(2018)、ショーン・ペン主演のTVシリーズ『ザ・ファースト』(2018)、久々のH.P.ラヴクラフト原作映画として話題となった『カラー・アウト・オブ・スペース -遭遇-』(2020)などの劇伴を立て続けに手がけている。

 「Colinとはコラボレートしようとずっと話していた。彼もサウンドトラックを手がけたことがあって、音楽家としての素晴らしさは知っていたから、前からコンタクトを取っていたんだ。彼が参加してくれた曲には、まだ十分なスペースがあった。だからColinに、そのスペースを埋めて欲しいと頼んだんだ。彼はとても良い仕事をしてくれたよ。サクソフォンは、僕たちだけでは普段取り入れない楽器だしね。彼に頼んで本当に良かった。Colinは、すごく想像力のある音楽家だと思う。彼独特のスタイルを持っていて、聴けばすぐに彼が手がけたサウンドだとわかる。本当に才能ある音楽家だ」

 MOGWAIもまた、『ジダン 神が愛した男』(2006)以降、数多くの劇伴を手がけている。昨年も、ロベルト・サビアーノ著『コカイン ゼロゼロゼロ: 世界を支配する凶悪な欲望』(河出書房新社)をアンドレア・ライズボロー、デイン・デハーン主演で映像化したAmazon Prime Video『ZeroZeroZero』の音楽を担当して好評を博したばかり。同じ劇伴作家として、Ross、Stetsonの存在から刺激を受ける部分も大きかったのだろうか。

 「そうだね。映画音楽にもっともっと興味を持つようになったし、学ぶ姿勢が強くなっていった。その過程で、彼らはもともと素晴らしいミュージシャンたちだけど、その音楽の素晴らしさにさらに気付くようになったというのはあるかもしれない」

 カヴァー・アートは10年以上の長きに亘ってコラボレーションを続けてきたDave Thomas aka DLTによるもの。DLTもMOGWAI同様に活躍の幅を拡げ、ヘヴィロックからクラシカルまで引く手数多のグラフィック・デザイナー / アート・ディレクターだ。これまでに手がけたMOGWAI作品のみをピックアップしてみても、その作風の多彩さに驚かされるが、どのような注文でアートワークが生み出されるのだろうか。今回はどうだろう。

 「いや、注文は何もしていない。彼に音楽を聴かせて、自由にデザインしてもらったんだ。完成したものを見て全員それを気に入ったから、そのまま使うことにしたんだよ。僕は個人的には『Rave Tapes』のアートワークが好きだな。彼のデザインにはバラエティがあって良いよね。THE TWILIGHT SADのレコードのデザインも好きだった。彼のデザインは、刺激的で心が揺さぶられる。そこがMOGWAIの音楽と繋がるんだ」

 Ross、Stetsonといい、DLTといい、コラボレーターの人選の素晴らしさもMOGWAIの魅力に繋がっていると言えるだろう。その手腕が明確に活きているのが、『Kicking A Dead Pig』(1998)、『Fear Satan Remixes』(1998)、『A Wrenched Virile Lore』(2012)、『Music Industry 3. Fitness Industry 1.』(2014)などの作品として発表されてきたリミックス・トラック群だ。これまでにAlec Empire、Benjamin John Power aka Blanck Mass、Justin K. Broadrick(GODFLESH, JESU)、Chris Jeffs aka Cylob、Robert Hampson(LOOP, MAIN)、Tim Hecker、Mike Paradinas aka µ-Ziq、MY BLOODY VALENTINE、Nils Frahm、THE SOFT MOON、Anthony Child aka Surgeon、Justin Sweatt aka Xander Harris、ZOMBI(A.E. Paterra + Steve Moore)ら錚々たる面々をリミキサーに迎えてきたが、現在注目しているリミキサーはいるのだろうか。リミックス作品が予定されているのであればぜひ聴きたいものだ。

 「実はすでに計画しているところ。特に今はツアーができないから、より多くの人に僕たちが新しいアルバムを作ったんだと知ってもらえる数少ない手段のひとつだからね(笑)。数人にリミックスを依頼しているけど、それはまだ秘密。注目しているリミキサーは特にはいないけど、Four Tetのリミックスは最近お気に入り」

MOGWAI | Photo ©Antony Crook

 結成から25年を経てもなお、ナチュラルかつ目に見えて進化を続けるMOGWAIだが、結成時から一貫したサウンドも常に感じられる。不変の部分を機材にフォーカスするとどうだろう。使い続けているペダルなどはあるのだろうか。

 「たくさんあるよ。僕はいまだに同じディストーション・ペダルを使ってる。DanelectroのFab Tone。ギターもFenderのTelecasterをまだ使ってるよ。理由は、シンプルにそれが好きだから。新しい機材もたくさんあるけどね。Barry(Burns)は2ndアルバムから加入したけど、彼はアルバムの度に違うシンセを使っているし、Dominic(Aitchison)は靴下と同じ頻度でベースを買ってる(笑)」

 最後に、やっぱり例のアレについてお伺いしておきたい……。ドナルド・トランプは退任したが、その後John Lydonについてはどう考えているのだろうか。わたしたちは、大好きなSEX PISTOLSやPiLの作品とどう付き合うべきだろう?

 「彼のことはあまり考えてない(笑)。人々を落胆させる大勢のうちのひとり。有名で影響力があって、せっかく人々を動かせる力を持っているのに、ドナルド・トランプのような最悪の政治家を支持するなんて残念だよ。僕自身は、音楽とその演奏者、制作者を切り離して聴くのが得意なんだ。だから今でもPiLの音楽を聴いたりする。でも、ショウを観たいとはもう思えないかもしれない。THE SLITSは聴いてるよ」

MOGWAI Official Site | https://www.mogwai.scot/

MOGWAI 'As The Love Continues'■ 2019年2月19日(金)発売
MOGWAI
『As The Love Continues』

国内盤CD ROCKACT140CDJ 2,400円 + 税

[収録曲]
01. To The Bin My Friend, Tonight We Vacate The Earth
02. Here We, Here We, Here We Go
03. Dry Fantasy
04. Ritchie Sacramento
05. Drive The Nail
06. Fuck Off Money
07. Ceiling Granny
08. Midnight Flit
09. Pat Stains
10. Supposedly, We Were Nightmares
11. It’s What I Want To Do, Mum

+ Bonus Track

MOGWAI "As The Love Continues | Live Performance Premiere"MOGWAI
As The Love Continues | Live Performance Premiere
http://store.mogwai.scot

2021年2月13日(土)
18:00 JST-

MOGWAI
『As The Love Continues』先行試聴イベント
http://bignothing.blog88.fc2.com/blog-entry-11322.html

2021年2月13日(土)
東京 渋谷 ULTRA SHIBUYA

〒150-0011 東京都渋谷区東1-28-9
開場 16:30 / 開演 17:00
入場無料(別途ドリンク代700円)

[参加方法]
お電話にて事前予約をおすすめいたしますが、空きがある場合はご予約なしでもご来場可能です。
※ ご予約人数が定員に達し次第、受付締め切りとさせていただきます。
予約 03-5485-2302(平日 12:00-19:00)

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MOGWAI Official Site | https://www.mogwai.scot/