Column「Mosh Sommelier」


文 | Ngrauder + Lil Mercy (PAYBACK BOYS)

| 第1.5回: SWORN ENEMY

 連載を始めて初回で更新が止まってしまっておりました。第2回はフレンチ・ハードコア再考といったテーマでコンピレーション『The Nightmare Remains... In This Other Land / A French Hardcore Document』(1998, Overcome Records)を軸に話していたのですが、コンピはもとより、STORMCOREのメンバーが現在やっているバンドの音楽性について等、混迷を極めまして、Back Ta Beat Yaすることができませんでした。フレンチ・ハードコアについてはいつか必ず取り上げさせていただきます。

 2024年春、私(Lil Mercy | 以下 M)とNgrauder氏(以下 N)は「PAYBACK BOOK」というショウの企画チームを始めました。きっかけはクイーンズNYHC・SWORN ENEMYの来日公演の企画です。SWORN ENEMYについて自分たちの視点で伝えてみようと思い、モッシュ・ソムリエは舞い戻ります。「BEER SAURUS」にてSWORN ENEMYについて話すと、また新しい視点が生まれました。来日前に、改めて音源を聴く前に、そしてSWORN ENEMYを初めて聴く前にご一読いただければ幸いです。Mosh Sommelier 1.5はSWORN ENEMYについてのちょっとしたカンヴァセーション。

M 「1stアルバム(『As Real As It Gets』2003, Elektra)で一気にサウンドプロダクションが良くなるというか。なにより1st EPの『Negative Outlook』(1999, Stillborn Records)っていわゆるクイーンズ・スタイル・ビートダウン・ハードコアのひとつの究極だったと思うんです」
N 「H4(DEALE | TRIBECA)が言ってたけどあれMike Dijianが共同プロデュースなんだよ。一番最初OUT TA BOMBで買ったとき、“like BREAKDOWN”って書かれてたから買った記憶があるんだよね。IDSはその頃まだ知らなかったじゃん。それで聴いてみたらBREAKDOWNがメタリックになったっていうか、激しくなったみたいな」
M 「BREAKDOWNが引き合いに出されるのすごくわかる」
N 「『...Blacklisted』(1997, Eyeball Records)とかね。コーキ君(KICK BACK ZINE | PROTECT)に“最近何聴いてるの?”ってマーシーと2人でいるときに聞かれて、“SWORN ENEMYやばいですよ”って言ったら“どうせ、メタルなんじゃないの?”って言われて、“BREAKDOWN好きなら絶対聴いたほうがいい”って答えたのは覚えてる」
M 「そんなことあったっけ?」
N 「当時のLOFT(東京・新宿)の前で。当初はBREAKDOWNの流れでみんな聴いていたと思うんだよね」
M 「その当時EVERYBODY GETS HURTとかBILLY CLUB SANDWICHの7"も出ていたし(『Split Your Head Off This』1997, Back Ta Basics Records)、もうSWORN ENEMYの前身・MINDSETも7"(『State Of Mind』1998)が出てましたよね」
N 「Back Ta Basics(*1)から出てたよね。スプリットだっけ?」
*1 編集部註: 25 TA LIFE~COMIN' CORRECTのRick Healeyさんが運営していたレーベル。
M 「単独です。4曲入ってたんじゃなかったけ(実際は3曲)?SWORN ENEMYのEPで初めてIDSっていうクルーの存在が知れ渡りましたよね」

N 「EYE 2 EYEも当時は名前が知れていたんだけど、音源が全然入ってこないみたいなパターンで」
M 「EYE 2 EYEってSWORN ENEMYに音近いよね?」
N 「近い」
M 「EYE 2 EYEのほうがストレートですよね。一度NYで、バーの前でメンバー会ったことがあるんですけど、スキンヘッドだった。タバコ売ってました。本当のタバコを安く売ってましたね。どういうことなのかわからないんですけど(笑)。それは置いておいて、IDSを語るのにSWORN ENEMYって最重要なんだな、って改めて思ったんですよ」
N 「『Negative Outlook』は聴きまくったけど、それ以外はそこまで聴きこんでないんだよね」
M 「『As Real As It Gets』は聴いてたけど、それ以外の作品あまり持ってないんですよね(*2)。基本全部、ジャケットがダサいじゃないですか」
*2: 1stアルバムより前の音源『Integrity Defines Strength』(2002, Stillborn Records)はライヴ音源が入っていたのもあって当時みんな聴いていたのをこの対談時は忘れています。
N 「ジャケットを見て、聴かなくていいかなって思ったんだよね。1stは完璧じゃん」
M 「SUBZEROと流れは似ているんですよね。メタル化していって、メンバーも変わっていく。EXDOUSのメンバーいますよね(*3)
*3 編集部註: 現SWORN ENEMYギタリスト・Jeff CummingsさんはEXDOUSのギター・テック。ビミョーに話は違いますが、初期SUBZERO(ギーガー・デモ期)のドラマー・Anthony Schiavoさん(あのPORPHYRIAのメンバーだった人)は現EXUMERベーシスト。スゴイ!
N 「そうそう。調べると元メンバーの数すごいしね。ヴォーカルのSal(LoCoco)以外は流動的で、一時期は元COLD AS LIFEのMike Gookいたもんね。RAMALLAHの奴とかも。“Ozzfest”に出演したりして、HATEBREEDのレーベルから出ている注目のハードコア・バンドみたいな印象はすごくあったね。それでちょっと興味なくなっちゃって、みたいな」
M 「そこがALL OUT WARとは違うところというか。ALL OUT WARはあまり活動スタンスが変わらずそのままやってきてるというか。SWORN ENEMYのほうがバンドとしてステージを変えて活動しているイメージがあります」
N 「IDSのバンドの中で一番長くやっているバンドだよね」
M 「FULL BLOWN CHAOSもそのSWORN ENEMY路線で追随してたよね」
N 「FULL BLOWN CHAOSも一時売れそうな気配あったもんね。あまり聴かなかったんだよな」
M 「そのあたりで、自分もいなたいほうを求めてしまったんで。36 DEADLY FISTSとか、それこそ4 IN THA CHAMBER聴き直したりしてたもん(笑)。HATEBREEDの中期以降の感じと近いですよね。当時その感じ苦手だったんですよね。それで、改めて考えたら、なんかライヴが楽しみになってきたんですよ。今聴き直すべきタイミングだったんですよね。旬の状態ではないと思うんだけど、今回は原点的な部分もライヴで見せてくれるんじゃないか?っていう感じがありますよね。新しいアルバム(『Gamechanger』M-Theory Audio)も2019年リリースだけど、新しい作品のほうが初期の感じに近い印象ありません?」
N 「そうだね」
M 「1stアルバムも今聴いてみると“Sworn Enemy”とか、あ、これ好きだったって思うんですよね。『Negative Outlook』はやばすぎるっていう感じでまた毎日聴いてるけど(笑)、音楽性がアルバムで高くなるっていうのは、IDSで比較するとBILLY CLUB SANDWICHも『Chin Music』(2004, Innerstrength Records)では音楽性高くなってますもんね。BCSはそこからローカルのバンドに戻るイメージがあるけど」
N 「もともと、MINDSETも7"は持っていたけど、そこまで聴いてなかった。SWORN ENEMYを聴いてから聴き直したような」
M 「自分たちの中でロウなほうがいいっていうのがあったけど、SWORN ENEMYってしっかりとバンドとして活動しているイメージ。INDECISIONとかも近くない?」
N 「MOST PRECIOUS BLOODとか、その流れと近いよね。時期的にWALLS OF JERICHOが売れだした時期と近いんだよね。もともとはデトロイトのローカル・ハードコア・バンドですよね」
M 「MADBALLとかも近い存在なのか。日本だとそこに対応するバンドがいないよね」

N 「NYHCにSLAYERを足したみたいなレビューをよく見たんだよね。その頃のSLAYERっていったらメタル・フェスのキングだったから。SWORN ENEMYはギターの刻みが細かくてそうかなって思った」
M 「IDSのバンドで言うと、SLAYERからの影響が強いバンドって少ないと思うんですよね」
N 「そうだね」
M 「IRATEとかは……」
L + M 「METALLICA」
N 「絶対今観たら、かっこいいと思うんだよね」
M 「今観たら、ここ30年くらいのハードコアの歴史的な部分が垣間見られそう」
N 「過去も見られつつ、今も見られつつ。EGHとかだと、過去を見るってやっぱりなっちゃうじゃん。SWORN ENEMYだと過去も現在も見られるから楽しみだよね」
M 「自分たちが追っていなかった流れも感じられますよね。MADBALLと同等のバンドなのかなって、改めて考えると思いますね」

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PAYBACK BOYS | DIRTY MOSH BRIGADE

PAYBACK BOOK "SWORN ENEMY Japan Tour 2024"PAYBACK BOOK
SWORN ENEMY Japan Tour 2024

2024年4月12日(金)
東京 新宿 ACB HALL

開場 19:30 / 開演 20:00
前売 4,000円 / 当日 4,500円(税込 / 別途ドリンク代)
e+ | ACB HALL

出演
KLONNS / NUMB / SWORN ENEMY / TEARD DA CLUB UP

主催: PAYBACK BOOKS
招聘: Furious Records

Furious Records Presents "SWORN ENEMY Japan Tour 2024"Furious Records Presents
SWORN ENEMY Japan Tour 2024

4月12日(金)東京 新宿 ACB HALL
4月13日(土)愛知 名古屋 REFLECT HALL 新栄店
4月14日(日)大阪 難波 Yogibo META VALLEY + Yogibo HOLY MOUNTAIN
4月15日(月)大阪 西心斎橋 Music Bar HOKAGE
4月16日(火)東京 初台 WALL/span>

編集部便り

 「Mosh Sommelier」第1.5回、いかがいかがでしたか?編集部的には、来日の前パブとして誉めそやす系かと思いきや、そうじゃなかった(さすが!)ので、ご本人たちが読んだらどう思うんだろ……と内心ドキドキしております(笑)。

 お2人によるやり取りのわかりみを噛みしめながら、探しました。『Negative Outlook』リリース当時の「OUT TA BOMB」コメント。今回の発掘調査では残念ながら1999年のものは発見できませんでしたが(申し訳ありません……。2000年以前はそもそもカタログがなかったのかな?という気もする)、2001年再入荷時の通販カタログにおけるコメントを確認することができました。

 奇遇なことに、表紙には当時まさに「OUT TA BOMB」のホット・リリースだったWIZ OWN BLISSの1stフル・アルバムが!「PAYBACK BOOK」企画の第1回がSWORN ENEMYというのは、このときからの定めだったのか……(笑)。そして件の『Negative Outlook』コメントにはやはり、BREAKDOWNの名前がありますね(タップすると拡大して見られるよ)!Mike Dijanさんがクレジットされているという事実は、NYHC愛好家にとって特別な意味があると思います。実際、当時このCDを手に取ってDijanさんの名前を発見し、クイーンズ・ビートダウンってやっぱり根っからNYHCなんだなあ~、とあたりまえのことにじわじわ感慨を深めた記憶があります。

 この頃の……1990年代から2000年代にかけての……NYHCにおける(Don Furyを除く)名プロデューサー / エンジニアというと、Mike Dijanさん(BREAKDOWN, COLD FRONT, CROWN OF THORNZ, SKARHEAD etc.)、A.J. Novelloさん(BOTH WORLDS, LEEWAY etc.)、そしてJosh Silverさん(TYPE O NEGATIVE)の3名を誰もが想起すると思うのですが、名プロデューサー / エンジニアの印象の割には、3名いずれもそんなにたくさん手掛けた作品数があるわけではないんですよね。その中でもDijanさんは『Negative Outlook』と同時期にFIVE MINUTE MAJOR『Droppin The Gloves』(1998)やEVERYBODY GETS HURT『The Dark Seeds Of Man』(2002)のプロデュース / エンジニアリングを担当していらっしゃって、クイーンズとの関係が深かったのだなあ、と感じます。Novelloさんに関しては25 TA LIFE『Keepin It Real』(1996)やMERAUDER『Five Deadly Venoms』(1999)の印象が強いと思うんですけど、前回の「Mosh Sommelier」でも話題に上がったBORNのEP『The Aging Process』(2000)や、IDS周辺で言うとFIT OF ANGER(EGHメンバー在籍)の1st(1999)とかBILLY CLUB SANDWICH『Superheroes At Leisure』(2001)もやっぱり手掛けていらっしゃいますよね。あとBREAKDOWN『Battle Hymns For An Angry Planet』(2000)ね!アツいです。Dijanさんがギターを弾いてNovelloさんがプロデュースしたCROWN OF THORNZがどんだけクイーンズ最強だったかっていう話でもあります。Josh SilverさんはTYPE O NEGATIVEでの華やかなイメージに反してプロデュースワークがめっちゃシブいので、またこういう機会があったら紹介したいな。

 めっちゃ逸れてしまいましたが、SWORN ENEMY当時もん情報に話を戻すと、「Stillborn Records」第2弾作品『Integrity Defines Strength』については、2002年リリース時の「OUT TA BOMB」コメントを発見致しました!手書きの丸囲みは、電話注文(当時はポチるのがあたりまえじゃなかったので、電話で注文していたのです……今もそうだけど病的に連絡が苦手なので、毎度めっちゃ緊張しました……。メール注文もできたけど、スマートフォンなんて存在すらしていないし、PCを買える財力もなかったので)の前に欲しいやつを絞り込むために筆者が書き込んだものです……お恥ずかしい……。つまり筆者は『Integrity Defines Strength』を「OUT TA BOMB」で買ったんすね(笑)。

「Mosh Sommelier」第1.5回 編集後記 | Photo ©久保田千史

 COLD AS LIFEメンバー加入のトピックがトップに記述されていて、興奮が伝わってきますね!加入したメンバーっていうのがRAMALLAH、PLACENTAのメンバーでもあって、余計に興奮します。SWORN ENEMYは過去にBLOOD FOR BLOODのカヴァーをやっていたりするから(「Doom Patrol Foundation」から発売された『Total World Domination』の国内盤CDで聴けるよ!探せ!)、親和性も高かったんでしょうね。そしてHATEBREEDを超えられるか!?の一文。モッシュ・ソムリエのお2人も語っていらっしゃるように、こういう見られかたやプレッシャーはSWORN ENEMYのみなさん自身も感じていらっしゃったんじゃないかな……。『As Real As It Gets』はいきなりのメジャー・ディールで、HATEBREEDみたいに自主、Smorgasbord、Victoryからの……っていう感じじゃないし、マネジメントもHATEBREEDやSLIPKNOTとかと同じ「No Name」だし……。なんか、期待に応えなきゃ……みたいなの、あったんじゃないかな……。そんな勝手な想像もあって、筆者は「Abacus Recordings」移籍作『The Beginning Of The End』(2006)も大好きです。原点であるスラッシュメタルの要素を大幅投入しているのもそうですけど、『As Real As It Gets』のときよりもSal LoCocoさんが自由に歌っている気がするんですよね。好きなことをもっと気持ちよくやるぜ~!っていう勢いを感じます。Jamey Jastaさんがプロデュースっていうのも、そのほうがいいよ、がんばれ~!っていう手向けに思えて(完全妄想)。その後「Abacus」が倒産しちゃうっていうのは不運としか言いようがない……。でも「Century Media」移籍後の2作『Maniacal』『Total World Domination』も、AS I LAY DYINGのTim Lambesisさん(このかたの人物像にめっちゃ興味あるなあ、ザ・アメリカっていう感じですよね……良くも悪くも……)をプロデューサーに迎えたという字面だけではメタルコア化したように思えるかもしれないけど(SWORN ENEMY的にはAUSTRIAN DEATH MACHINEのイメージがあったのかな?)、独自のクロスオーヴァー感覚を貫いていて、ここまで来てもやっぱりNYHCなんだ!って端々で感じさせるのが感動的なんです。倍速のMERAUDER、EXODUS刻みのMADBALLみたいな曲とかあるし!2019年の最新作『Gamechanger』はかのRobb Flynnさん(MACHINE HEAD)なんだけど、LoCocoさんの念頭にはFORBIDDENとかVIO-LENCEが当然あったんじゃないかな~。同時にMACHINE HEADの重量感で初期のSWORN ENEMYをビルドアップする、みたいな。アンセム「IDS」を再録音しているくらいだから、原点回帰を含めているのは間違いないですよね。モッシュ・ソムリエのお2人がおっしゃる通り、今はキャリアを総括する音になっているんだと思います。

「Mosh Sommelier」第1.5回 編集後記 | Photo ©久保田千史

 しかし『Negative Outlook』のカヴァー・アート、味わい深いですね。なんでSWORNとENEMYの間が全角アキやねん……って今でも思いますもん(笑)。写真は、ガンビーノ一家のボスの命で殺められたと言われる私立探偵アーノルド・シュスターさんの殺害現場だそうです。シュスターさんの亡骸はクイーンズの墓地に埋葬されているとのこと。この頃の「Stillborn Records」のカヴァー・アートは、各段に味わい深いものが多いですよね。ANOTHER VICTIMとか、DEATH THREAT、HOODSとかね……。VOICE OF REASON / OVERTHROWのスプリットとか、現代のテクノロジーをもってしても再現不可能なジャケじゃないすかね……。もうこのへんにしておきましょう。

(久保田千史)