Column「Mosh Sommelier」


文・撮影 | Ngrauder + Lil Mercy (PAYBACK BOYS | PAYBACK BOOK)

| 第4回: ボルティモア・ハードコア | STOUT, NEXT STEP UP

 PAYBACK BOYSのLil Mercy(以下 M)とNgrauder(以下 N)による不定期連載「Mosh Sommelier」。NEXT STEP UPをやりたいとずっと思ってたところに、STOUTが来日するとの報せ(この2人でやっているPAYBACK BOOKでも東京のショウをサポートします)。Lil Mercy曰く今まで観たライヴの中で一番モッシュしたくなったSTOUTとボルティモア・ハードコア、Ngrauderが引き摺られるように何度も口にするNEXT STEP UP。そう、私たちはずっとこういう話をしていたいだけなのです。


M 「Mosh Sommelier、4回目なんですね」

N 「まあ、1.5回目も挟みましたけどね。SWORN ENEMYの」
M 「そう言ったらBULLDOZEも1.75回とかそういう感じになってきますよ」
N 「まあね」
M 「来日とPAYBACK BOOKでの東京公演サポートもあるから、これも何かありきの回なので、カウント的には第2回になるんだけど。NEXT STEP UPの話はずっとしたかったから4回目にしよう」
N 「今回はBULLDOZEも来日するということで合わせて4回目でいいんじゃないですか」
M 「STOUTって黒地にグラフ・ロゴのデモCD-R(『Demo 2006』)、いや違う、1stアルバム(『Stout N.G.M.F.』2002, Cornerstone Records | 2005年にRucktion Recordsから再発)のほうか。あれで最初に認識したんですけど。2002年頃、アメリカに行ってAGENTS OF MANのメンバーと会って、ボルティモアのライヴに一緒に行こうってなって。SIDEBARに行ったんだけど、なんだろ、WALL(東京・初台)の後ろ側がバー・カウンターになっているみたいな」
N 「Pit Bar(東京・西荻窪)みたいな感じ?」
M 「そうそう。真ん中に長細いバーがあって、後ろの奥も広くなって。砂時計みたいな……“工”の字型みたいな。そのバーの人がSTOUTのTシャツを着ていて。ライヴハウスに行っても、自分の好きなメタリック・ハードコアのTシャツをお店の人が着ていることってあまりないじゃない。もっとパンクのバンドっていうか、RAMONESとか……」
N 「MISFITSとかね」
M 「DANZIGとか」
N 「現役のバンドを着ているのはね」
M 「2002年だからアルバムをリリースしたばかりなんですよ。WDsoundsでINTEGRITYを出したのが2004年で、そのきっかけって、このSIDEBARでDom(Domenic Romeo | DAY OF MOURNING, END REIGN, ILSA, PULLING TEETH, SLUMLORDS etc. | A389 Recordings)に会ったからだから。しかもAGENTS OF MANと一緒にSIDEBARに行っていて、出かける前にMike(Milewski | BULLDOZE, HOMICIDAL, TRAIN OF THOUGHT, HOLD MY OWN etc.)もNJの家にいたから、SIDEBARにSTOUTのメンバーがいたかは定かではないですけど、BULLDOZEはAOMのメンバー + Mikeだから、そのボルティモアでの1日で経験した人とバンドが一気に日本に来るっていう。それをSTOUTの話をしようって用意していたときにぱっと思い出した。SLUMLORDSも“Member of...”のところは“ex-BREAKDOWN、STOUT、NEXT STEP UP、ex-DAY OF MOURNING”ってなってますもんね」
N 「今回のメンバーでもSLUMLORDSはいるんだよね?」

M 「Doug(Williams)ですよね。あのインタビュー動画にも出てる。この人はアートワークも提供してる。SLUMLORDSのグラフ・レターもそうですよ。ボルティモアって、自分たちで言うとNEXT STEP UPがあって、少し空いてA389じゃない?」
N 「TRAPPED UNDER ICEも出てくるし」
M 「だからその間くらいだよね。クロスオーヴァー、ビートダウンというイメージを最初は持ってました」
N 「それこそエロリン君もブログで書いていたけど、ドゥーミーなハードコア。それはNEXT STEP UPが持ってるものでもあるし」
M 「自分は今回、GUT INSTINCTを改めてずっと聴いていたんですよ。“Off The Deep End”のドラムに対して音が乗ってくるみたいな感じはSTOUTにも繋がっていくと思うんです」

N 「ギターがそこまで主張していない音楽っていうのはあるね。それはボルティモア・ハードコア全体でも、NEXT STEP UPがまずそういうイメージっていうのがあって」
M 「ギターのイメージもあるけど、ちゃんと聴いてみるとそうじゃないよね。この間、“『Fall From Grace』(1995, Gain Ground)を久しぶりに聴いたら、すごいところまで行ってんな”ってメールしたよね(笑)。当時GUT INSTINCTは、NY以外で“ここまでヘヴィなバンドがいるとは”っていう評があったみたいですもんね。STOUTの『N.G.M.F.』はGUT INSTINCTのその感じがあると思うんだよな。STOUTって『Sleep Bitch』(2007, Rucktion Records | 昨年A389 Recordingsから再発)以外サブスクにないんですよね。1stもFWHのEP(『Tales From The Marked Side』2012, Filled With Hate Records)もない。NUMBだったり、ROCKCRIMAZ、CREEP OUT、DOMINATEがUSツアーに行って、“STOUTやばかった”っていう話を聞いたのが印象に残ってる」
N 「前もマーシーに話したけど、バンドをやってるい人がみんな好き、みたいなのがSTOUTの評価としてあるよね。かといってプレイヤー視点のアレを刺激する音楽かっていうとそうでもないっていう(笑)」
M 「ギターをやっていて、ここから影響を受けるみたいなのは?」
N 「ないよね。ライヴを観ないとなんとも言えないっていうのはあるんだけど」
M 「自分がライヴを観たのが2010年くらい?のTRAPPED UNDER ICEのNYでのリリースパーティで。Tad(Thaddeus Stamps | STOUT)をフィーチャーした曲(“Believe” | 『Secrets Of The World』2009, Reaper Records)も入ってるし、STOUTもライヴしていて。すげーモッシュしたいって思って。ライヴハウスというかクラブみたいなところでやっていたんですけど、モッシュピットもすごくて。ステージの脇のフロアの端まで人がモッシュしまくってましたね。あと、テキーラ運んでる人もいました(笑)」

N 「不思議なバンドだよね。聴いてモッシュしてー!みたいなテンションになるかっていうと別の話なんだけど、何かがあるよなっていう雰囲気は漂い過ぎてるしっていう」
M 「全体的モッシュいけるというかいきたくなる感じ。STOUTはRucktion、FWHからリリースしてるのも気になります。特にRucktionは別の機会で検証したいんですよね。Rucktionとはなんだったのかっていう。専門外ではあるんですけど」
N 「おもしろいよね。FWHもだけど、ヨーロッパが注目していたんだっていう。当時アメリカのハードコア・レーベルがどれくらい勢いがあったのかっていうのもわからないんだけど」
M 「DENIEDもFWHからですもんね。BILLY CLUB SANDWICHも『The Usual Suspects』(2008)はRucktionからヨーロッパ盤が出てますよ。Dead City Recordsのリリースですけど。STOUTもボルティモアのCornerstoneリリースでRucktionですよね。A389以前の動きですよね」
N 「A389がそこに刺激されて生まれてるとかもある気はするよね」
M 「STOUTはメタリックなハードコアであり、ハードコア・パンクなんですよね。俺はぶっちゃけ、2nd『Sleep Bitch』からハマったところあるんだけど、 Ngrauderは?」
N 「俺、 STOUTに関しては遅いんだけど最近聴き直していて、『Sleep Bitch』とかあたりまえだけどNEXT STEP UPに近いところあるよなって。じゃあNEXT STEP UPってどこから来たんだ?っていうのを意識しながら聴いていて」
M 「そういうこと言っちゃうとジャケットも似てるんですよ。『Heavy』(1993 | Endgame Records | Shadow Records)と『Fall From Grace』を合体してセピアにしたのが『Sleep Bitch』じゃない」

N 「うん。そして、“そのアートワークじゃなくていいんじゃないか?”っていう。マーシーもボルティモア・ハードコアはNEXT STEP UPからだと思うんだけど、いつくらいに聴いた?」
M 「最初の来日の少し前のタイミングくらいですね。ライヴハウスに行っていて、NEXT STEP UPのTシャツを着ている人がいたのと、Gain Groundのリリースが目立っていた感じだったんで。でも、そのとき自分はアルバムのレコードを買えなかったですね。だから来日記念盤?の『Breaking Point』(1997, Gain Ground Japan)を聴いて」
N 「俺は『Fall From Grace』を西新宿のVINYLで買って。一番最初にNEXT STEP UP知ったのは『EAT magazine』で、『Intent To Kill』(1997, Gain Ground)のレビューが載っていて名前は覚えていたから買ったんだけど。レビューはあまり評価が高くなかったんだよ。ヴォーカルがちょっとSUICIDALのMike Muirっぽいみたいに書かれていて。そのあとに『Fall From Grace』が出てむちゃくちゃ絶賛されていて。ストンプコアの大名盤みたいな。それでストンプコアという言葉を知るみたいな。あと、Cargo Recordsがやたら日本に強いっていうのがあったね」
M 「たしかに、『EAT magazine』で見たのを今鮮明に思い出しました」
N 「それで買ってみようと思って。当時ストンプコア・ブームみたいなのがあってさ、DEVIATEが『Wreck Style』(1995, I Scream Records)を出したときでさ。あの雑誌を唯一の頼りとしてる俺としてはさ、“これからはストンプコアだー!”ってなって(笑)。DEVIATEを買って、NEXT STEP UPを買って。『Fall From Grace』を聴いてびっくりしたよね。なんじゃこれみたいな。MADBALLとかBIOHAZARDとかは聴いていて、NYHCとかを聴き始めの頃だったんだけど、もう1曲目からとんでもない勢いでツーバス叩いていて」
M 「俺恥ずかしながら『Breaking Point』を先に聴いて、そこから遡って聴いてるから、それこそ、その後のWAKE UP COLDだとJR(J.R. Glass | NEXT STEP UP, WAKE UP COLD etc.)のヴォーカルがもっと抜けているけど、『Fall From Grace』は埋もれているというか、怖いんですけど」

N 「初めて聴いたとき、こんなデスメタリックなことをやっていいのか!? って。ギター・リフはシンプルだけど、ツーバス踏みまくりだし。“こんなやっていいの……?”みたいな。ドラムがめちゃくちゃうまい。これはもうみんなに言いたい。DYINGRACEとか当時のSECOND TO NONEとかは絶対あのドラムに影響を受けていると思う。それをアップデートしたのがIRATEのドラムなのかなって思う」
M 「それとスラッジーなところないですか?リフも引き摺るところがあるし、ヴォーカルも引き摺っているところがあるから」
N 「それはアルバムの最後でBLACK SABBATH“Sweet Leaf”をカヴァーしてるのも関係あるんじゃないかな。なんでカヴァーしてるの?っていう。クリシュナの人がなんでマリファナの曲歌ってるの?みたいな。『EAT magazine』とかがストンプコアやばいって言っていて、熱心に聴いていたけど、“stomp”の意味が当時はあまりわかってなかった。今だったら、あれはOiのストンプのことだったんだっていう」
M 「俺はKRUTCHとかみたいなラップコアではないけど、そういうのがストンプコアだと思っていたんだけど、NEXT STEP UPとかが源流だ」
N 「今思うとOiっぽいなっていう。歌詞もそうなんだよね」
M 「バンドが分かれていくに従って、楽器的な部分のかっこよさはTOGETHER WE FALLのほうにしかないじゃん」
N 「あっちに行っちゃった」
M 「TOGETHER WE FALLの新作聴きたいよ。って一生思ってるよ。あれはいろんなものを省いたNEXT STEP UPだから」
N 「そうそう。Oiも省いて」
M 「WAKE UP COLDはデスメタル・パンクじゃないですか。いつも“今聴いたら、かっこいいのかな”と思って聴くけど、いつもカッコよくないもん(笑)」
N 「『Fall From Grace』とかキリスト教の概念じゃん。“Bringing Back The Glory”の歌詞も、CCSがビートダウンするぜみたいな。あ、CCSっていうのはCharm City Skinsね」
M 「教会が多い街なんですよね。ボルティモアはね。裏にストリップ通りがあって、それも有名みたい」
N 「すごい雑な知識の話なんだけど、キリスト教の聖母と娼婦を同一視するっていうのがあるよね」
M 「救われるというか。“Rat City”っていうのも、ラットも救われるみたいなことだったりするんですかね……。まあこのくだりは今何も調べないで話してるんで、聞き流していただいて(笑)。NEXT STEP UPの『Heavy』はハードコア・パンクに通ずる重さだと思うんですよ」
N 「メタルの詰まりかたじゃないよね」
M 「『Fall From Grace』はめちゃくちゃ詰まってるじゃないですか」
N 「ガッチガチにね。ただ今のハードコアとかの16のトレモロ・リフみたいのもないじゃん。全くなくて、でも音はブワッと詰まってるっていう」

M 「だから『Sleep Bitch』が『Fall From Grace』の後継みたいなのある。“Gods Of War”はSAIGAN TERRORのSAKiさんにすごい推されて聴いたんですよね。聴いたらドラムの始まりからやばいってなって」
N 「そういうところでバンドマン受けがいいっていうか。ギター・リフがすげー!っていう音楽ではないんだけど」
M 「NEXT STEP UPは“Nishinga”のイメージがあるから、あれでギター・ブレイクが流行ったのかなと思ってたけど、冷静に考えるとそれはALL OUT WARのほうが影響力あったのかなって」
N 「あそこらへん聴いたらNEXT STEP UPが先にやったからって思うけど」
M 「それより重厚感があるドラムから始まってね」
N 「“Nishinga”あれもね。曲のキャラクターは違うけど全部ね。NEXT STEP UPね」
M 「STOUTもそういうところありますよね」
N 「バラエティーに富んでるし。“Nishinga”って、CRO-MAGAS『Best Wishes』(1989, Profile Records)のジャケットになっているクリシュナのNrsingha(ナラシンハ)の発音ミスなんだよね。あれがどうもNishingaらしい」

M 「TERROR ZONEもGain Groundだもんね。クリシュナ」
N 「TRAPPED UNDER ICEも言ってるんだよね、Nishinga(“Skeleton Heads” | 『Stay Cold』2008, Reaper Records)。ボルティモア・ハードコアってずーっと続いてるよなっていうのは思うよね。A389があって、TUIが出て来て、今もTURNSTILEがいてね」
M 「その中でSTOUTはずっとやってるよね。最近A389が再発したけど、独立してずっといるイメージがある」
N 「A389もDomがINTEGRITYにいたし、NOISEMとかもいるし」
M 「Maryland Deathfestがあるから」
N 「DYING FETUSがいるからね。神様扱いみたいな感じする」
M 「デスメタルとハードコアが近いところにありますね。改めて。Domが、OAKはスタジオに入ったときに隣のスタジオの音がすごくて出会ったって言ってたけど、そういう近さを感じる。NYのプロレス好きな人がマディソン・スクエア・ガーデンに行くのと、BIG4のスタジアム・ライヴ観に行くのとか同じノリだと思うんだけど、そういうのと違いそう(笑)」
N 「NYはANTHRAXがいるからそういう接点もあるし」
M 「ボルティモアはこの『Belley Of The Beast』コンピレーションにもNEXT STEP UPのツアーでT.J.MAXXがGUT INSTINCTのカヴァーをやったことについて書いてあるし、日本のハードコアとのリンクもすごくあると思うんですよね。NEXT STEP UPが来たとき、SECOND TO NONEがいて、ZONE ZEROがいて、REBIRTH、DEVICE CHANGEも活動していたじゃないですか。そういうオンタイムで影響を受けたバンドがいて自分が聴いたっていうのはすごくあると思うんですよね。それがかっこいいってみんなが思っているものを聴きたかったから」
N 「NEXT STEP UPが来日したとき、どういう立ち位置のバンドかわからなくて、NYハードコアとかとは違うのかな?って思っていて」
M 「NEXT STEP UPが極悪ハードコアなんだと思うんですよ」
N 「25 TA LIFEとNEXT STEP UPのどちらかっていう」
M 「NYハードコアと極悪ハードコア。基準としては自分はNEX STEP UPだと思う。極悪ハードコアの派生がストンプコアだと勝手に思ってた。Released Power Productionsが出しているバンドは極悪ハードコアのカズンみたいな」
N 「NEXT STEP UPの来日の映像はね。ありがたいことに半田さん(半田商会)が上げてくれてるから。あの日のCYCLONE(東京・渋谷)すごかったね。人パンパンで」

M 「これ持って来たんですけど(『Belley Of The Beast』を見せる)」
N 「これNSUの曲がとんでもなくて。“I Am The Law”。ギターがもう、こんなイントロで低音効きまくって、突き詰めたNEXT STEP UPなんだよね」
M 「このコンピレーション、2000年代のBALTIMORE HARD COREの重要バンドが入ってますよね」

'Belley Of The Beast'

N 「STOUTのメンバーにもHARSH TRUTHのメンバーいるでしょ。HARSH TRUTHは本当A389ってイメージのバンドだよな」
M 「DEAD END BOYSがCharm City Skinsですよね。これも7inch出てるよね」
N 「NSUがインタビューでCharm City SkinsはDMSのボルティモア支部みたいなもんだよって言っていて、そういう関係なんだみたいな」
M 「BALTIMOREはCornerstone Recordsがあったのがでかいですよね。このコンピ盤、バックインレイの写真がレコード屋(Reptilian Records)なんですよ」

'Belley Of The Beast'

N 「でさあ、NEXT STEP UPがJUDGEのカヴァーをやっているっていうね。“Bring It Down”。どういう接点なんだっていう」
M 「これジャケットのグラフィティはSTOUTのDougですよ。これ以降のに比べると……」
N 「いなったいよね」
M 「かつ荒廃した街みたいな。このコンピレーションを元にCD-Rだったり7”だったりを探して買いましたね」
N 「A389が始まる前のボルティモアのマイルストーン的なね」
M 「NEXT STEP UPも、分かれたWAKE UP COLDもね。1曲目からTOGETHER WE FALLで始まるから。このコンピレーションとかは入手しづらくて、STOUTもちょっと入手しづらかった印象はある」
N 「ジャケットとかロゴのイメージでね、入手しやすそうに感じるんだけど。実はみんな持ってないみたいな」
M 「BACKHANDはツイン・ヴォーカルでテニスのバックハンドで、アルバムのジャケットもテニスでっていう、これは自分の中ではRucktionとかから出ててもおかしくないやつなんですよね」

STOUT 'Tales From The Marked Side'

M 「このEPはかなりドゥーミーなハードコアでびっくりしましたね。このDEFIANTっていうのが、誰か詳しい人がいると思うんですけど、アパレル・ブランドなんですよね。ここを見ると、配信されている『Sleep Bitch』のジャケットが違うものについても知ることができますよ。STOUTのTシャツも売ってますね」
N 「謎が深まる土地だね」
M 「GUT INSTINCTをひたすら聴いているとわかる気がしますね。ディスコグラフィはA389とVicious Circle Records、Parts Unknown Recordsの合同リリースなんですよね」
N 「ボルティモア・ハードコアっていうと、そこにSLUMLORDSが絡んでくるっていう。BREAKDOWNのJeff(Perlin)とね、DAY OF MOURNINGだもんね」
M 「やっぱり移動することで何かあるよなっていうのはあるよね。DISTRICT 9もCAUSE FOR ALARMも移動してますね。何がMosh Sommelierなんだ?っていう感じになってきたな」
N 「モッシュの話あまりしてないもんね」
M 「STOUTは全編モッシュ・パートだからね」
N 「NEXT STEP UPはここっていうところがあるけど、全編モッシュ・パートでもあるね。“Gods Of War”を聴いていてひとつ気付いたんだけど、ギター・ブレイクが入ってくるの。NEXT STEP UPではないんだよね。全部リズムで押すみたいな」
M 「STOUTはギターがJoshだからNEXT STEP UPなんだけどね。RUCKTIONとかもあるので、SIX FT. DITCHにも通ずるようなところも思いますね。ジャケットのイメージも似ていると思う。墓、オールドイングリッシュ。とか」
N 「謎の感じのヒップホップっぽいジャケットで」
M 「ヒップホップっぽいの?まあ、郊外のギャングスタ・ラップのヒップホップであると言えば……」
N 「そういうのの果ての果てがTURNSTILEの洗練された感じなんじゃないかって勝手に思うことにします。ボルティモアのハードコアって俺の中でNEXT STEP UPで止まっているっていうのがやっぱりあって」
M 「NEXT STEP UPを聴いているときって、ボルティモアを意識して聴いてました?極悪ハードコア、Gain GroundのNEXT STEP UPとして聴いてた」
N 「そうだね。それまさにそうだね」
M 「だからALL OUT WARからEDGEWISEまでいっしょくたに聴いてた。レーベルとかそういうので。この間『Kickboxing Is Not A Crime』を聴いてたけど、あれNY、NJ、ボストンだもんね。ベルギーのレーベルだけど。GUT INSTINCTは当時はレア盤だったと思うんですよ。NY以外でアンチ・レイシズムを打ち出したバンドではあるし、それとメンバー構成が似ているっていうのはあまりいい見方ではないと思うんですけど、自分はSTOUTに対してそういうのは思いましたね」
N 「でも絶対意識するっていうか」
M 「BCSとSTOUTもRucktionのつながりがあるもんね」
N 「Rucktionとかあと5年くらいしたら再発ブームがあってもおかしくないよね」
M 「SPECIAL MOVEとかジャケットも含めてすごいですよね」
N 「SPECIAL MOVE好きなんだよね」
M 「モッシュの話になるんだけどさ、2010年くらいまではモッシュ・パートじゃないけど、暴れるところを模索していたと思うんですよ。その中でパワーヴァイオレンスの要素が強いバンドも出てきて、それでもモッシュできるっていうか、腕回したり、キックボクシングのスタイルができると思うんだけど。その中でもSTOUTは古風なスタイルを守り続けてるというか。いろんなことが変わっていく中で、オーソドックスではないんだけど、モッシュ・パートだったり、暴れたくなる衝動っていうか。だから極悪ハードコアですよ。これは」

STOUT

N 「記号化されたモッシュ・パートは好きだし、HATEBREEDだったり、全然モッシュしますっていう感じだけど。そうじゃなくて、変なところでわっ!てなるような」
M 「HATEBREEDだったりANOTHER VICTIMだったり、モッシュコアの源流みたいなのあるじゃないですか。モッシュコアの対義語じゃないけど、そうじゃないものがビートダウンだと思うんですよ。90年代後半~2000年初頭に定型化されていくなかで残ったものがあって」
N 「思うんだけどさ、モッシュコアとビートダウンの違いっていうところで。なんだかんだで俺たちOiのストンプの感じを気が付けば身に付けていたところがあるよね。俺はメタルだからさ、Oiとか聴いてなかったんだけど、それがNEXT STEP UPだと思うよ。このストンプっていう感覚。ストンプってOiから来ていると思うし、NEXT STEP UPから先祖返り的に学んでいて、それを体感できるバンドって現行で言えばSTOUTだと思うし」
M 「もう、一緒にSTOUT観た人と早く“このモッシュ・パートはどうですか?”ってライヴが終わったあとに話したいよね」
N 「ストンプにもね、いろんなかたちがあると思うし。横モッシュとか、そういうのが好きな人にも観てほしいしね。ウィンドミルしている人を横モッシュが蹴散らしていくのを見たいよ」
M 「TRAPPED UNDER ICEとかと一緒に地元でやっていたバンドだから、『America's Hardcore』の何かも感じられる気がする。その中で言うと歳上のバンドというか。ハードコア・パンクと一緒のところにいるんだなと思うときもあって、そういうのがSTOUTなんじゃないかな」
N 「STOUT来るみたいですよ、みたいな感じじゃないですか。STOUT来ますよ!絶対行ったほうがいいよ!みたいな感じですよね」
M 「ライヴを観ただけで謎は解けなそうだけど、観たあとであそこが良かったですねっていう話しをしたら少しは解けそうですよね。NEXT STEP UPもそれぞれ違うことい言いそう」
N 「謎だよね。ウィンドミルできるかっていうとわかんないし。あるじゃん、今でもDEALEのライヴとか観ていて、北関東の人たちがいきなりモッシュしてくるじゃん」
M 「ボルティモア、北関東だよね。違うか」

 STOUTの最新のライヴ映像。この話を上げたあとだから、あえてこう言わせてください。普通にめちゃくちゃかっこいい。

STOUT Japan Tour 2025 @EARTHDOMSTOUT Japan Tour 2025 @EARTHDOM

2025年9月19日(金)
東京 新大久保 EARTHDOM

18:00-
前売 4,000円 / 当日 5,000円(税込 / 別途ドリンク代600円)

[Live]
DEALE / DOMINATE / ELMO / PAYBACK BOYS / PRESS ON AHEAD / STOUT

[DJ]
BLOCK BENDERS / DJ HOLIDAY / MINOR COASTER / ROAR DOWN THE ROAD RECORDS

STOUT Japan Tour 2025Furious Records & Bloodaxe Tour Presents
STOUT Japan Tour 2025

9月13日(土)大阪 西心斎橋 SUNHALL "SUMMER BASH FEST"
9月14日(日)三重 鈴鹿 ANSWER
9月15日(月)大阪 西心斎橋 KING COBRA
9月19日(金)東京 新大久保 EARTHDOM
9月20日(土)神奈川 川崎 CLUB CITTA' "BLOODAXE FEST"

NgrauderNgrauder
Twitter

PAYBACK BOYS | DIRTY MOSH BRIGADE

編集部便り

 今回の「Mosh Sommelier」、お楽しみいただけましたでしょうか!? SLUMLORDS、「A389 Recordings」の話題を含め、完全にお2人の独壇場。冒頭の私たちはずっとこういう話をしていたいだけなのですからして涙ちょちょ切れます。

 私自身のSTOUTとの出会いはと言えば、ソムリエのお2人と同様、1995年から96年にかけて「Gain Ground」をレーベル買いしている中で知り得たNEXT STEP UPにまで遡ります。たぶん『Intent To Kill』より先に『Fall From Grace』を買っちゃったはず。当時は個人的に、NEXT STEP UPとNEGLECTはGain Groundの2大ドスコイ系バンドに分類しておりました。両バンドと比較するとEDGEWISE、HARD RESPONSEはそこまでドスコイな感じがしないというだけの話であって、特段意味はございません。FURY OF FIVEに関してはStikman氏のキャラが立ちすぎていることもあって分類が難しく、ドスコイ系に入れるか否かは保留としておりました。今思うと案外間違っていない気もします。しかしこの「Gain Ground」というレーベル、1995~2000年という短い期間に強烈なタイトルを連発しすぎでしょ。DARKSIDE NYCやALL OUT WARみたいなレジェンドを知ることができたのも、このレーベルのおかげだもんね。超感謝。今回の「Mosh Sommelier」の話で言うと、『Fall From Grace』ラストのBLACK SABBATH「Sweet Leaf」、私も大変気になっておりました。でも、SHELTERも「After Forever」やってるんだよな~、と思って無理矢理納得した思い出がございます。

 そして“元NEXT STEP UPのメンバー率いる”的な触れ込みに釣られて買ったのが『Stout N.G.M.F.』であります。同年に元COLD AS LIFEのメンバーによるH8 INC.が1stアルバム『Fraternal Order Of Felons』をリリースして、同時に買ったような記憶がありますね。NEXT STEP UPもCOLD AS LIFEもそういうタイミングなんだなあ~みたいな気分で。2002年ってめっちゃ最近な気がしますけど、もう23年も前なんですね。やばすぎる。私はこの23年間何をやっていたんだ……。

STOUT 'Stout N.G.M.F.'
これな

 それはさておき、この『Stout N.G.M.F.』、悪を極めてはいるものの、どことなく端正な印象を受けました。曲の構成であったり、オールドロックを思わせるグルーヴであったり。あくまでNEXT STEP UPのドスコイ感と比較しての印象ではありますが。サウンド面も、バーバリックなNEXT STEP UPとはちょっと異なるアプローチでブルータリティが作られていると感じたのです。それもそのはず、この作品のエンジニアはあのMr. Ken Olden(BATTERY, BETTER THAN A THOUSAND, DAMNATION A.D., FAR CRY, WORLDS COLLIDE etc.)なんだよね。一時はSHELTERやYOUTH OF TODAYでもプレイしていたOlden氏ね!そう、UNBROKENの「Three One G」デビュー作『And / Fall On Proverb』をプロデュースした人です!めっちゃタイムリー!だから、めっちゃ雑に言えばBrian McTernan氏系列のエンジニアリングっていうことなんじゃないかな。Salad Days系と言いますか。

 そして、ここがSTOUT一番のびっくりポイントなんだけど、Doug Williamsさん(HATEWAVES, PULLING TEETH, SLUMLORDS)と共にNEXT STEP UPから独立したギタリストのJosh Hart aka The Captainさん。実はREVELATIONのベーシストだった人なんだよね!そうです、Lee Dorrian主宰「Rise Above Records」の超初期タイトルにして、ドゥーマーであれば避けては通れない名作『Salvations Answer』(1991)で知られるあのREVELATIONです!Hartさん途中加入のメンバーで、そのプレイは一時期激レア盤になって2007年に日本の「Leaf Hound Records」からリイシューもされた2ndアルバム『Never Comes Silence』(1992)で聴くことができます。

REVELATION 'Never Comes Silence'
これな

 ちょっとそのアルバムのインサートに掲載されたHartさんのサンクス・リストを見てくれよ……。All the guys in Internal Void, Penance, Asylum (now Unorthodox) and Sheer Terrorって書いてあるじゃん!やばすぎる!! HartさんはUNORTHODOXでもプレイしていたようなので(1994年の『Balance Of Power』で演奏しているみたいなんだけど、今回はしまってある段ボールを発見できず……すみません……)、「Hellhound Records」系の真正ドゥーマーということです。EARTHRIDEのライヴ・メンバーも務めていたみたいですね。あのBLACK ARMY JACKETでプレイしたCarlos Ramirezさんが編集長を務めるウェブマガジン「No Echo」には、『Sleep Bitch』のリイシューに際して行われたRamirezさん直々の!Hartさん単独インタビューが掲載されているので必読です。AGNOSTIC FRONT、THE OBSESSED、PENTAGRAM、SHEER TERRORからの影響を名言していて、完全にそれじゃん!という感じです。墓ジャケはTHE OBSESSEDインスパイアなのでしょうね。そしてもうひとつ、REVELATIONの『Salvations Answer』『Never Comes Silence』(1995年の3rd『...Yet So Far』も)を録音したのはDrew Mazurekという人物なのですが、なんとNEXT STEP UPのほぼ全作品でエンジニアを務めた人なんだよね!ボルティモア、深すぎる!

REVELATION 'Never Comes Silence'
サンクス・リストやばすぎる!「Hellhound Records」ロゴに反応してしまうヤシも多かろう

 『Belly Of The Beast』もボルティモアのイメージ(荒廃……)を決定的にした作品でしたね。今だったらボルティモア・ブレイクスとかさ、おしゃれ感しかないけど……。ソムリエのお2人もおっしゃっていますが、このコンピレーションはNEXT STEP UPがまじですごすぎる。極悪の差を見せつけすぎています。あとSTOUT周辺バンドだと、Aaron Martinek氏をはじめDARKEST HOUR、NEXT STEP UP、TREPHINE、WAKE UP COLDのメンバーが在籍するBET THE DEVILがおすすめ!スレイヤリッシュなリフを中心とした極悪メタルが堪能できます!

(久保田千史)