Review | Drab Majesty『Modern Mirror』 | キノコホテル『マリアンヌの奥儀』


文・撮影 | ヤマダナオヒロ (nAo12xu | †13th Moon†)

| Drab Majesty『Modern Mirror』

 ポストパンクと一口に言っても、中にはWIREやGANG OF FOUR的なガチャガチャ・ザクザク系のものもあれば、JOY DIVISIONのように引き算で冷ややかなもの、NEW ORDERのようにダンシーなもの、そしてSIOUXSIE & THE BANSHEESやTHE CURE、BAUHAUS、THE SISTERS OF MERCYのようにダークでゴスいものなど、そのスタイルは千差万別である。総じてイギリス発信のバンドが例に挙がることが多いが、現行のモダン・ポストパンクの注目株はイギリスよりもヨーロッパ、そして北米に多い。

 ここで紹介するDrab Majestyは、西海岸はロサンジェルスを拠点に活動する、いわゆる“ゴス”色のあるポスト・パンク・ユニットだ。Deb DeMure(aka Andrew Clinco)のソロ・プロジェクトとして始動し、いま注目の「Dais Records」から2015年に1stアルバム『Careless』をリリース。その耽美な楽曲と世界観、そしてまるで“ラララむじんくん”(わかる?)チックでWWEのレスラー“Goldust”ライクな出で立ちで、世界中のダーク・ポストパンク、ゴス好きにいろんな意味で衝撃を与えた。続く2017年の2ndアルバム『The Demonstration』でそのクウォリティの高いお耽美メロディに溢れた楽曲の数々の完成度を世界に見せつけた彼が、このたび2019年7月12日に3rdフル・アルバムとなる本作『Modern Mirror』をリリースする。先行でMVも公開されているリード・トラック、M3「Ellipsis」とM6「Oxytocin」の2曲は、いずれも開始2秒でキラッキラの美メロで聴き手を包み込み、踊りたい衝動を植え付けてくるヤバい曲だ。ここ最近はDeb DeMure本人の化粧っ気はけっこう下がってきたが、楽曲の質、特に繊細な美メロ具合はますます上がる一方で、本作ではダークさも程よく抜けてテンポの速いドリームポップのような爽快感すら漂い始めているが、こうした流れや方向性の展開を見ても、THE CUREのファンならドンズバでハマることは間違いないだろう(僕もそうだ)。シンセウェイヴが主流の現行モダン・ポストパンク勢にしては珍しくギターをメインでフィーチャーしてるところもポイントだ。そして、発売日にMVが公開されたM8「Out of Sequence」に至っては、歌い出しでAndrew Eldritchかと思うほどにシスターズ感満点っぷりな曲で、過去作品のようにダークなテイストを期待していたゴス・ファンも狂喜乱舞することだろう。

 また、これを読んでピン!ときた方は、『Modern Mirror』だけでなく、2ndアルバム『The Demonstration』も聴いてほしい。特に同作内最強の耽美メロが泣き響き渡るM6「Too Soon To Tell」や、アッパーでパンキッシュなビートで暗闇を疾走するクラブ・フロア向けキラー・ナンバー、M8「Kissing The Ground」でヤラレるだろう。

 Drab Majesty。彼の曲は日本でももっと至る所で耳にしてもおかしくないほどキャッチーでポップである。その色物的ルックスで舐めてると本気で損をするぞ!ってコトで、再度釘を刺しておくが、現行モダン・ポストパンクやシンセウェイヴ好きは勿論、THE CURE、NEW ORDER、THE SISTERS OF MERCY、SAD LOVERS AND GIANTSなどの80sポストパンク、ゴス、ネオサイケ好きの方も是非とも要チェック。

Drab Majesty 'Modern Mirror'

| キノコホテル『マリアンヌの奥儀』

 昔からの友人知人は、僕が日本のバンドを紹介することを、そしてキノコホテルをレビューすることを意外と捉える人もいるかもしれない。しかし個人的に、“支配人”のマリアンヌ東雲は、遠藤ミチロウ、戸川 純、Phew、Siouxsie Sue、Lydia Lunchと同列で語ることができる、唯一無二の才能とカリスマ的個性に溢れたミュージシャン / アーティスト / パンク・ロッカーだと思っている。そして彼女とキノコホテルというバンドを知れば知るほど、そこに広がる美しい闇に根差したパンク・スピリットと、耽美で煌びやかな世界観にどんどんハマっていくのである。とにかく1人でも多くの人に、名前だけでなくキノコホテルの音楽を知ってほしいと思い、ここに書き綴るとしよう。

 今回紹介するのは、令和元年6月26日に発売されたばかりの7作目のフル・アルバム、『マリアンヌの奥儀』だ。キノコホテル創業12年目にして新境地に達したと言える本作を聴けば、これまでパブリック・イメージとして抱かれていたガレージ、サイケ、昭和歌謡といった要素も残しつつ、新たに80sディスコ、ニューウェイヴ、シンセポップ(日本でいうテクノ歌謡も含む)といった要素が全面ににじみ出てきていることがよくわかる。前作『マリアンヌの革命』以降、顕著になってきたサビで大きく歌い上げるメロディや展開もここにきてさらに大開花。そう、マリアンヌ東雲という孤高の天才が、キャリア初となる外部プロデューサー、島崎貴光(SMAP, AKB48 etc.)と組んだことで、こんなにも楽曲の、アルバムの世界観の幅が一気に広がったのだ。誤解を恐れずに言えば、マリアンヌ東雲と従業員らは、パンクに対するポストパンク、キノコホテルに対するポスト・キノコホテルの回答を自らで掴んで産み出したことで、それらすべての要素を飲みこんだ大きなキノコホテルに進化 / 深化を遂げることができたのだろう。

 さて、これ以上僕がグダグダと熱を込めて熱く語ってもしょうがない。これを読んで「そんなに言うなら聴いてみるか」と思った人や「キノコホテル懐かしい!」という罰当たりな輩は、まるでDeborah HarryがGiorgio Moroderと出会ったかのようなリード曲にしてパンキッシュ・ディスコ歌謡ナンバーのM2「ヌード」、スカ調ギターと電子オルガンで心地よく疾走するニューウェイヴ・パンク・ナンバーのM4「東京百怪」あたりから聴いてみてほしい。まるで映画を観ているような気分で一気にアルバムを聴き終え、リピートに入ること必至。

 そんなキノコホテルは、アルバム発売記念ツアー「サロン・ド・キノコ~奥儀大回転」がスタートしたばかりなので、実演会情報詳細を公式サイトで調べて、その衝撃のライヴも体感すべしだ!

ヤマダナオヒロ nAo12xu | †13th Moon†
https://www.instagram.com/nao12xu/

ヤマダナオヒロ (nAo12xu | †13th Moon†)シンガー / DJ / ライター。
ゴシックパンク / デスロック・バンド、†13th Moon†のシンガーにしてコンポーザー。バンドとしては2008年以降、「Drop Dead Festival」や「Gothic Pogo Festival」といった、ヨーロッパのポストパンク / ゴス・フェスティヴァルを主体に海外でのライヴ・ツアーを数度決行し、国内外でのコネクションを活かして現在も活動中。
ヤマダナオヒロ名義では、タワーレコードの月刊フリーマガジン『bounce』や、SUPER HEAD MAGAZINE『DOLL』別冊『パンク天国2』への寄稿をきっかけに、以降いくつものインタビューやディスク・レビュー、CD / DVDのライナーノーツを手掛ける。音楽ライターは最近はサボり気味で、その分の熱量と労力を、こんな時代だからこそあえてのアナログ・レコード / ヴァイナルDJに注ぎ込み、毎度DJ時は100枚以上のアナログ盤を持参する。得意ジャンルは世界各国の80s~現代に至るまでのポストパンク / ゴス / ダークウェイヴ / コールドウェイヴ/ シンセウェイヴ / ミニマルウェイヴ等。
一番好きなバンドはドイツのX-MAL DEUTSCHLANDとフランスのOPÉRA DE NUIT。しかし何よりも好きなのは愛娘のKate Purple。