Review | エイミー・ポーラー『モキシー ~私たちのムーブメント~』


文・撮影 | SAI

 みなさん、お元気でしょうか。SAIです。すっかり暑くなってきましたね。昨年リリースしたEPの写真は紫陽花の咲く季節に撮影したのですが、もう1年経つんだなあという気持ちです。

 さて今回は、カフェ・シリーズを一度お休みして、映画『モキシー ~私たちのムーブメント~ Moxie』についてご紹介。ちょうど去年の同じ時期もNetflixの作品について書いていたな。『モキシー』はRisaさんに教えてもらった作品です(Risaさんへのインタビュー記事、今月公開されたのでチェックしてみてください!)。

 「SAIさん、ローレン・サイ好きですよね?この映画、フェミニズムがテーマでもあって、最高でした。きっと好きだと思います」と教えていただき、数週間後に観てみると……。

 そうなんです。トレイラーを観てわかるように、BIKINI KILLの「Rebel Girl」が劇中歌として使われているんです……!

 映画の内容は、アメリカの高校生が理不尽なルールや性差別を“ある手段”を使ってぶっ壊していくのですが、その方法が、もう、なんていうか、最高。ネタバレしてしまわぬよう、この記事では劇中歌について書いていこうと思います!

 BIKINI KILLが流れたかと思ったら、Princess Nokiaの「kitana」も流れます。このMV、去年めっちゃくちゃ見てました。「kitana」は大大大好きな映画『スケート・​キッチン』(2018, クリスタル・モーゼル監督)でも流れるんですけど、その瞬間の私のテンションたるや、という感じです(笑)。

 ちなみにPrincess Nokiaのルーツはプエルトリコ。電車の中で褐色の肌の人が差別を受けたときに、相手のレイシストにスープをかけて追い払ったエピソードが記憶に残っています。

 そしてみなさんもうご存知かもしれませんが、THE LINDA LINDASというバンドが劇中に登場します。アメリカ映画でアジア系のしかもティーンがバンド組む設定なんて珍しいなと思っていたのですが、後にTwitterのライムラインに彼女たちのライヴが流れてきて、映画好きにはたまらない「ここでこう繋がるのか~!」という現象が起こったのです。ライヴのMCも最高だし、ドラマーのMilaがBIKINI KILLのTシャツを着ているのもいいんですよね。

ロックダウンに入る少し前、クラスの男子が私に向かって「父さんが中国人には近寄るなって言ってる」と言いました。私は中国人だと言ったら、離れていった。そのときの経験をEloiseと曲にしました。

というMilaのMC。アメリカにおけるアジア系への人種差別を感じて胸が痛くなったのですが、それに対して怒りを表現する術を知っていて、かつ実践しているのは素晴らしい。実際BIKINI KILLのライブの前座もしたことがあるそうです。THE LINDA LINDASもそうですが、Kathleen Hannaが若い世代と共演する、いわばフックアップする姿勢もめちゃくちゃ素敵だなって思いました。

 ラストではCSSの「Alala」も流れます。CSSのこの曲を聴いていた10代の頃は考えていなかったけれど、ヴォーカルのLovefoxxxはアジアンな顔立ちなんですよね。調べてみると本名は“ルイザ・ハナエ・マツシタ”で、日系ブラジルのかたなのだそうです。裏テーマでアジア人女性のパワーというのも込められていそうですね。

| 追記1

 なんでこんなに選曲が最高なんだ!と調べてみると、監督のエイミー・ポーラーはBIKINI KILLのライヴを観に行ったときにTHE LINDA LIDASを見つけたようなので、おそらくかなりの音楽好き……!Kathleen Hannaとも3~4歳差なので、同世代ですね。『モキシー』はもともとジェニファー・マチューの小説が原作で、あらすじによると90s Riot Grrrlやジンについて書かれているので、もう原作の時点で音楽小説なんでしょうな。

| 追記2

 ローレン・サイ演ずるClaudiaは中国の家系の子で、ルールを破って外出禁止になるという、とても保守的なシーンがあります。この映画を観なければ知らなかったことのひとつは、アメリカでは中国の家系の子はとても厳しく育てられるということ。将来をかけて家族で移住しているので、リスキーなことはするな、というのが理由のひとつみたいです。この間観たアメリカの映画会社「A24」の映画『フェアウェル』(2019, ルル・ワン監督)にもそんなシーンがあったな。

| 追記3

 数ヶ月前にアメリカであったアジアン・ヘイト。これに触れているのがKaren OとLauren Tsaiだったのを覚えています。

 1年前と変わらず、映画の中だけでなく実際の世界で、レイシズムによる暴力があることにこの記事を書いていてハッとしました。

 私には何ができるかな。

SAI
Tumblr | Shop | Instagram | Twitter | TuneCore

SAI現在東京を拠点に活動するヴォーカリスト / リリシスト / ライター。

2015年にバンドMs.Machineを東京にて結成。近年では坂本龍一 / 後藤正文主催イベント「D2021」に出演。また、アメリカのメディア・コレクティヴ「8ball」やオンライン・メディア「CVLT Nation」のチャンネルにライヴ出演し、シンガポール拠点のCNA制作番組「Deciphering Japan」が日本の女性にフォーカスした回に出演するなど、ワールドワイドに活動している。2020年末にUMMMI.監督のMV『Girls don’t cry,too』、2021年には待望の1stアルバム「Ms.Machine」を発表した。

ソロでの音楽活動は2019年夏にスタート。2020年は『LIER』『スミノフ』などのシングルを発表し、7月に1st EP『瑞典春氷』をデジタル・リリース。同年12月に東京・小岩 BUSHBASHのレーベルから同作のフィジカルをCDでリリースした。『音楽と人』誌への掲載や、InterFMのラジオ番組「sensor」への出演など、大きな話題となっている。2021年はシングル『記憶喪失』『Sonatine』や、ex-TAWINGSのヴォーカリスト・KANAEとの楽曲『Myway Highway』をリリースしている。

また、音楽活動以外にライター / インタビュアーとしての側面も持つ。ウェブマガジン「AVE | CORNER PRINTING」に音楽や北欧などについての記事を毎月寄稿し、これまでにICEAGE、Psychoheads、iida reoへのインタビューや、スウェーデンの男女平等社会について友人のVeraとNellaに英語でメール・インタビューを行なっている。

過去には中国の写真家・Ren Hangの作品や、KOHH、Sayaka Botanic(GroupA)なども掲載されたインディペンデント・マガジン「CONTACT HIGH ZINE」にモデルとして参加。石原 海(UMMMI.)監督の映画『ガーデンアパート』に出演している。