例えば50年後に、誰かが
取材・文・撮影 | 小嶋真理 Mari Kojima (gallomo co., ltd.) | 2021年7月
――NEW EP『21FW』、聴きましたよ。このアルバムは岩本幸一郎さんの写真展のために制作されたとあるんですが、展示のために楽曲を作ることになった経緯は?
「岩本幸一郎君とはこの写真展の前から友達で、“今年の4月に個展やるんで、その音楽をやってほしい”って今年の1月に言われて」
――なるほど。どうでした?写真展のために音楽を作るって。インスピレーションが写真になる訳ですよね。
「そうそう。話をもらうまでは、その1ヶ月前に発表したEP『21SS』があって、コロナになってから1年くらいずっと自分の作品のために音楽作ってたから、何かのテーマに沿って音楽を作るってことを久しぶりにするからすごく意気込んで、新鮮で楽しい時間になりそうだな、っていう話をしていて。今回の岩本君の写真は、ポップというよりかは、少しダークな側面があるような作品群だったから、けっこう自分の素の音楽と相性がいいな、っていうのは思った。展示スペースで音が鳴ったときに、写真を邪魔しないけど写真を引き立てられたらいいなって。それと、飽きが来ない感じになるといいな、と思って、だいたい写真を観て一周するのに15分くらいかな?っていう話をして、じゃあ音楽も15分位の長さにするか、って一緒に話し合って決めたり。展示に滞在する15分間が特別な時間になって、写真と曲が共鳴するように考えた結果が今回のEP『21FW』になるんですけど、こういう音楽は作ったことがあまりなかったから、もっといろんなヴァリエーションができそうな気もするし、今回は写真展のために作った曲を収録したけど、機会があればもっとアンビエントみたいな、ヴォーカルの入っていない曲もやりたくなった感じはしますね」
――確かに『21FW』、ヴォーカルが入っていない曲がありますね。あれはやはり写真に合わせるため?
「展示を見ているときに歌が入りすぎると、なんか邪魔する気がしちゃって。ハミングとか、“うー、あー”とか、それくらいがいいのかな?と思ったんだよね。でも1曲だけ、“Waltz”は、流れの中で盛り上がる歌詞ありの曲を持ってこようと思ったから。ちなみに、展示用の曲は“SH#1”、“SH#2”、“SH#3”、“Waltz”。」
――『21FW』をリリースしたときのnaomiさんのコメントを読みました。「数えきれないトライアル・アンド・エラーを経て作業を終える」っておっしゃってたんですけど、「これだ」っていう歯切れのいいポイントってどうやって辿り着きます?やってたらキリがなくなっちゃうような。
「キリがないし、きっとみんな、振り返ってみると“あれはもっとああできた”って思ったりすることあるんじゃないかと思うんだけど。だから今回で言うと、トライアル・アンド・エラーを繰り返してやり切ったって言うよりは、やり尽くしたっていう感じでしたね」
――満足度は?
「トライアル・アンド・エラーを繰り返して身についたこともあるから、筋肉がついたというか。次はもっと良くできるだろう、こういう能力がもしかしたら身についたかもしれないから、次はこんなことをしてみよう、って思いました」
――筋肉作りだったんですね、制作は。鍛えていく、積み上げていくっていう。
「毎回そうで、特にソロは前作の『21SS』も、自分1人が受け持つ割合がこれまでの経験と比べても多いから。ほぼ自分で、自宅で録音して、最後のミックス作業もして、90%できたところでエンジニアに渡してマスタリングしてもらうって感じだから。いつもはプロフェッショナルに任せていたところも自分でやっていたから、勉強しなきゃいけない部分も多くて。そういう意味ではトレーニングになってますね」
――1人で作業を行うのは、初めてだったということですが、人と共同作業するのと比べて大きな違いって何でしたか?
「jan and naomiの作品作りで言うと、jan(Urila Sas)も俺も曲を作るから、基本的に曲を作ったほうがイニシアティヴをとって進めていく流れなんだよね。だからそのときは、作曲したほうがプロデューサーとして舵を握る、もう一方がこういう感じでトライしてみないか?っていう、ミュージシャンとしてアイディアを提案する。今回ソロで2作目だけど、ルールがないっていうのをルールにするためにはどうするのか?っていうことは考えた。だから、どんな音楽でも、どんなスタイルでもできるような感じになれたらいいな、って思ってる」
――ファッション・ブランド的な考えですね。EPのタイトル通り。
「(ブランド内で)デザイナー変わるじゃん。デザイナー変わってロゴだけ一緒だったりするでしょ?伝統を保ちつつ。それいいなって思う。例えば50年後とかに、誰かがnaomi paris tokyoやってくれてたらおもしろいよね。俺が死んだ後とかに(笑)」
――突然ですが、ドンピシャに好きな音楽っていうのは?
「聴いていて気持ちいい音楽が好き、リスニングで言うと。観る音楽と聴く音楽の好みは分かれていて。ティーンエイジャーのときは激しい音楽を観るのも聴くのも好きだったけど、どんどん大人になるにつれて激しい音楽は好きだけど観るだけになって、聴くのは優しい音楽だけになって、明確に分かれたかな。観るのは、アヴァンギャルドであればあるほど興奮する。すごいって圧倒されるのが観るという観点としてはずっと好き」
――ジャンルとしてはパンクとか?ジャンルは関係ない?
「定義はないけど、記憶に残ってるのはハードコアとかエクスペリメンタルなことやってる人が多いんだけど。アグレッシヴな人のライヴ・パフォーマンスを観て感動してきたから、ライヴ終盤にjanがいきなりマイク・スタンド蹴ったりして、なんで蹴ったの!ってビックリするけど、それがおもしろかったりするしね(笑)」
――ちなみに、一番最初に何に衝撃を受けたんですか?アヴァンギャルドとの出会い。
「一番最初は、なんだろう、NIRVANAとかGREEN DAYとかRED HOT CHILI PEPPERSとかそういうのまず聴くじゃない。そんで、御茶ノ水にジャニスっていうレンタルCD屋さん(2018年閉店)があって。それと高円寺のSMALL MUSIC(2011年閉店)。そこに行って世界のインディ音楽に触れたのがけっこう大きい転機。それが2000年代だったんだけど、ハードコアとかヒップホップとかテクノとかがクロスオーヴァーしてる時代があって、そのシーンと、ジャニスやSMALL MUSICでインディ・ミュージックを聴いていたのがちょうど同時期で。GREEN DAYとかレッチリでは得られなかった興奮がそこにはあったの。禁酒法時代の、ここでしか酒飲めないんだぜ、みたいな感じが楽しかった。そんで、イベントとかに行ってると、周りと顔馴染みみたいになってきたり。そういうのを経て自分の趣味を確立していった」
――新しい感覚というか初期衝動的なもの感じちゃったんですね。
「そう。特に、インターネットが今ほどじゃなかったから、実店舗でCDを借りたり買ったりして聴く、イベント行ってたまたま出てた他ジャンルの音楽やアヴァンギャルドな文化に触れる、そこに来ていた人たちだけが最高な瞬間を共有しているって思えたのはデカいと思う。そのときのムードが俺のベースになってると思う」
――その当時出会った友人にも感化されたりした?
「当時顔馴染みはいたけど、友達になるわけではなくて、ライヴには友達1、2人と一緒に行って、本当に音楽好きな友達みたいなのは1人くらいしかいなかった。そんで、もっともっと大人になって、俺あん時ああいう音楽好きだったんだよね~とか話すと、いや俺もだよって、10年越しくらいに仲良くなった友達とかはいる」
――その当時って音楽作ってました?
「作ってない。00年代って言われる時代にすごく影響を受けているけど、その時代に音楽は作ってない」
――それを経て、音楽を作り始めたきっかけは?
「インディ・レーベルからリリースしている人たち(1人で家で宅録して完結するスタイル、ベッドルームミュージック的なの)が台頭してきていて、俺のMacにもGarageBandが入ってて、なんかみんな1人で音楽作ってるらしいぞって知って。だいたい音楽ってバンドやらなきゃいけないって思い込んでたし、音楽の友達とかいなかったから。そんで、1人でやってみようって思ってちょっとずつ作り始めたのがきっかけ」
――楽器経験ってありました?
「楽器経験はある。高校のときにバンドやってたけど、自分で音楽やりたいなっていう気持ちはなくて、仕事するなら音楽関連の仕事がいいなって思ってたくらい。でも、自分で音楽を作ってみたら、気に入ってくれる人がいて。それでライヴやったりして、そうしてる間にjanと出会ってバンドやることになったって感じ」
――最初、自分の音源をMySpaceとかにアップしてたんですか?
「MySpaceの時代はもう終わってたから、YouTubeにアップして、そのリンクをたっちゃんっていう友達に送って。たっちゃんは店やってたから、音源送って今から店行くわ~って行くと、たっちゃん、めっちゃ褒めてくれて(笑)。それで俺、気持ち良くなって酒飲んでたら、たっちゃんが“ライヴやったほうがいいよ~”って言うからまじ~って言ってまた音源作って、それを毎週やってた(笑)。音源作って、たっちゃんに送って、会いに行って、褒めてもらうっていう(笑)。それでライヴやるようになって」
――たっちゃん、グッジョブですね。
「たっちゃん、グッジョブだよ。当時は本当にたっちゃんが応援してくれて、ライヴもたくさん組んでくれて、それでレーベルも作ろうって言ってレーベル活動してくれて。そしたら徐々にjan and naomiでも活動するようになって」
――一度、jan and naomiは教会でライヴしてましたよね。経緯は?
「jan and naomiとしてライヴ会場を探すときはずっとそうなんだけど、もちろんライヴハウスもいいんだけど、どこか特別に感じられる場所でできないか?って考えていて。それで、どういうところでできるんだろうか?っていう内のひとつが、教会だった」
――他にライヴやりたい場所ってあります?
「来た人がおもしろいって思える空間とか場所がいいな、って思うんだけどね。ライヴだけじゃない楽しさを味わえるといいなって思う」
――全てを提供するって感じですね。
「でもそういう企画をやった後は、次は絶対ライヴハウスでやろうって思っちゃう。大変だから」
――たしかに(笑)。ちなみに、『21FW』ツアーとか考えてます?
「まだ考えてなくて、安心してライヴやれるようになるといいなって思ってる。うん、考えるよ。ライヴやりたいしね」
naomi paris tokyo Instagram | https://www.instagram.com/naomi_paris_tokyo/
■ 2020年7月14日(水)発売
naomi paris tokyo
『21FW』
https://virginmusic.lnk.to/21fw
[収録曲]
01. SH#1
02. Vase
03. Tokyo pt2
04. SH#2
05. Waltz
06. SH#3