Interview | Feww (YUP YUP)


いかに制服を着崩すか

 安原兵衛がプロデュースする音楽プロジェクト・YUP YUPでヴォーカルを務めるFeww。昨年、東京・下北沢 SPREADで開催されたYUP YUP主催のライヴ・イベント「YOONSEUL」に筆者が出演して以降、互いにシンパシーを感じ、距離を縮め始めている。本稿では、Fewwのミステリアスな部分にフォーカスしてみた。

取材・文・写真 | SAI (Ms.Machine) | 2023年4月

――自己紹介をお願いします。
 「Fewwと申します。YUP YUPというソロ・プロジェクトをやっていて、主に歌とラップをしています」

――Fewwの名前の由来は?
 「現在お世話になっているレーベルの前に所属していたレーベルで活動していたときの芸名の中に“w”が2個入っていたんですけど、そのシルエットが気に入っていて残した感じです。わりとシルエットだけ。最初は5つくらいの言葉を組み合わせた造語で、“Feww◯◯”みたいな感じでちょっと長かったんですけど、機械メーカーの名前みたいになってしまったので“Feww”だけにバサっと切りました」

――過去の活動のことにはあまり触れないほうがいいですか?
 「YUPはもともと、グループでデビューしていたんです。“元◯◯の”っていうかたちで打ち出すよりも、輪廻転生というか、自分の新たな気持ちで、っていうのがあったので、そこは分断している感じです。名前とか出すぶんには全然大丈夫です」

――なるほど、了解しました。以前共演したときに知ったのですが、アイドル活動をしていたんですよね。
 「そうです。それが、前のグループです。ちょっと複雑なんですけど、校庭カメラガールっていう元祖と、2期の校庭カメラガール ツヴァイ、3期の校庭カメラガール ドライっていうのがあって、私は2期と3期にいました」

――そういう感じだったんですね。
 「そうなんです。シリーズ化していましたね。メンバーとかも時期によって異なっていて。でも一貫してラップはしている感じです」

――MVを観て、かなりゴリゴリな感じだったんだなって思いました。アイドル活動をしようと思った経緯も気になりました。芸能、表現を志したきっかけみたいな。
 「高校くらいまでは、ロキノンとかのフェスに行っていたタイプで、あまり音楽を知らなかったんです。大学は、日本大学芸術学部に通っていて」

――なるほど!日芸なんですね。
 「そうなんです。入学したての頃に、周りの音楽好きな人たちと出会えて。その2015~6年くらいの時期って、ライヴ・アイドルのシーンがけっこう盛り上がっていたんです。いわゆる“楽曲派”みたいな、“アイドルだけど曲が良い”っていう。もともとバンドをやっていたようなルーツを持つ人が運営に携わるグループとかの、ライヴハウスでの熱気がすごい時期で。そういうのを好きな人が周りにけっこういて」

――うんうん。
 「私はもともとMVを作るほうをやりたくて、映画学科の映像コースに進んだんですけど、音楽を聴くのはもちろん好きだし、自分でもやりたいな、みたいな感じで思っていて。でも、バンドって私の中ですごくハードルが高いというか。コミュニケーションを取ったり、友達を作るのも自分の中でハードルが高いタイプだったので。あと、自分の嗜好で舵を切れるというよりは、どちらかというと“オフィシャル”みたいな感じでプロデュースをされてみたくて。私は誰かの型にハマる制限が“0→1”というより“1→100”のほうが好きなタイプで」

――なるほど。0→1、1→100は意味合い的にはどういう感じですか?
 「お題を出されて、それをこねくり回すのが好きというか。粘土を渡されて、何を作るかな?って考えるのがすごく好きで。あと、コミュニケーションを取りたいっていう気持ちがすごくある。まとめると、オフィシャルな感じで、誰かにプロデュースをされて、自分で舵を切れる感じではなく音楽に関わりたいな、って」

――なるほど、おもしろいですね!自分の話になって恐縮なんですけど、私はバンドをやっていて、ギタリストの子が曲を作っているんですけど、メンバーがわりと“誰かにプロデュースされたくない”タイプなんですね。だから、考えかた的には、けっこう真逆ですよね。それがおもしろいです。どちらが良い悪いとかはもちろん全然ないですけど。
 「真逆ですね」

――傍から見ていると、FewwちゃんのSNSでの写真やファッションは、自分で確立した世界観のものだと感じているので、プロデュースされたいというのは、ちょっと意外でした。
 「今、YUPの中でも変遷を経てきて、だいぶそこが……壁でもないんですけど、在りかたとか見せかた的には、難しいところにはなっていますね。前は“アイドル”っていう存在だったんですけど、今は違うから。私の中の定義としては、“モノとしてのアイドル”ってまた全然別の要素を持っているジャンルというか」

――YUP YUPのプロジェクトは、いつから始動したんですか?
 「私が関わり始めたのは、2020年末でした。今のレーベルを主宰する安原兵衛さんが、自分の嗜好を入れたグループを作る際に実施したオーディションを受けて。翌年の5月にデビューっていう感じでした」

――その時期って、コロナ禍のときですよね?
 「ばっちりコロナ禍でしたね」

――ライヴとかってどういうところでやっていたんですか?
 「新宿、渋谷、大塚 Heats、LOFTとかでしたね。コロナ禍で、配信ベースでコンテンツをいろいろ出していこうっていう感じだったので、まだあまりライヴの本数はやっていないですね。その時期にメンバーの人数が変わったりもしたので」

――最初4人だったんですよね。
 「4人でしたね」

――そこからいろいろあって、今は1人で活動しているという感じですよね。この間、アイドル活動時期の裏話もちょっと聞いたとき、大変そうだな!いろいろあるんだな~、と思いました。
 「人に命綱を握られる、そういうのがやりたかったので」

――えー!それ、すごくないですか?
 「ふふ(笑)」

――そのメリットってどんなところにありますか?
 「“私のものを作りたくて”とかだったら私ひとりでやるので。でも結局みんなで作っているものだから。そのバランスとか、他人の影響があって壊れるところも含めて、みんなで共同作業をした結果なんだなあ、って」

――めっちゃ俯瞰してますね(笑)!!
 「いや、なんか無責任なのかな?って思うときありますけど」

――いや無責任ではないと思います。
 「俯瞰してるのあんまよくないですかね」

――そんなことはないと思う(笑)!クールで、私は好きです。ちなみにでは、こういうふうになりたいっていうアーティストはいますか?
 「う~~ん」

――気になってました!YUP YUPからのライヴ・オファーのメールをいただいたときに、ライヴ映像を観て、アイドル出身のアーティストだと全く思わなかったんですよ。あとインスタでの印象とか。だからライヴで共演したときに、オーディエンスが私のバンドのお客さんのノリかたとは全然違う感じだったので、びっくりしたというか。それで、そういうアイドル出身の子なんだな、って思っていたけど、Fewwちゃんが毎週更新しているプレイリストにMerzbowとかも入れていて、方向性がすっごい気になりましたね。どういう人を参考にしているんだろう?と思いました。
 「参考というのもおこがましいんですけど、一番憧れの像に近いのは、group_inou。めちゃめちゃ好きで。group_inouもヴォーカルのcpさんがラップをしていますけど。でも私は、ラップに全然にこだわってるわけでもなくて。人と2人でやってるのがいいな、っていうのがまずあるのと、アイコニックな感じ、MCとサンプラーをいじるimaiさんがいて、とか。あと、ラップというところは置いておいて、歌詞が記号的に並びつつも情景が広がる感じの音楽で、重すぎず、純粋に楽しくていいな、みたいな憧れがあります。でも、“なりたい”って、なるとどうなんだろう。自分はひとりだしな、みたいな」

――例えばフェスに出演したい!となったら、どっち系とかありますか?
 「FUJIに出たいですね!プロデューサーの安原さんが生粋のフジロッカーっていうのもあって。私はけっこう、的が狭めのものが好きなんですけど、安原さんはポップさを重要視している人なので、そこが組み合わさって、みたいな感じですね。受け手的には“どのような?”みたいな感じではあるだろうなってすごく思っていて。そこもけっこう、常々話してはいるところなんですけど」

――Fewwちゃんのファッションの感じとかも、Boiler Roomとか、スタイリッシュなクラブとかが似合いそうだなって、パフォーマンスを観て思いました。
 「そうですね。私も好きなんですよね」

――映えそう!
 「YUP YUPというか、私がどこのタイミングでも、メンバーがいるうちの一番端っこのカラーというか。色が全部あるとしたら“黒の人”みたいな、極端な感じだったので、それが残っちゃってどうしようね?みたいな。私単体のわかりやすい好みとかもあると思うんですけど、そこと当初のYUP YUP、安原さんの嗜好とのアンバランス感は否めない感じですよね」

――たしかにモードっぽい黒でソロのアーティストってあまりいないかもしれない。そういうジャンルを一緒に築いていけたら。
 「いいですね~。下北沢 SPREADに出演したときに、“Fewwの中でも的狭めな趣向を凝らしたEP作品などを作ってみたい”という話を星野さん(星野秀彰 | SPREAD系列の統括マネージャー)にしたんですよ。“それは聴いてみたい!”って言ってくださって。そういうのもいいなあ、って」

――うんうん。
 「でも、ちょっと怖いんですよ。狭まり過ぎるというか。ベースに“人と作りたい”っていうのがあるので。人と作ることが、広い世界に行くっていうイメージだとすると、こそっと自室に籠るイメージになっちゃうので。その不安感みたいなところがあって。その作業って怖いな、って思っちゃったり」

――でも作品は、いろいろ出すのがいいんじゃないでしょうかね。私も聴きたいですし。
 「そうですね。そう思ってはおります」

――でも、ブレない感じでいてほしいとは思いますけどね。グッズに写真のポジフィルムがあるのもすごくいいな、って思いましたし。
 「自分がひとりでサラッといるより、制約があるほうが燃えるというか。学校でいかに制服を着崩すかみたいな気持ちがすごくデカいので。今の状態から、もうちょっといろいろやってみないとですよね。やってみないとわからないというか」

――私もいろいろやってみないとって、よく思いますよ。バンドに関しても年に一度くらいは、この後どうなるんだろう?って思いますし。
 「ええ~、そうなんですね」

――私は音楽で食べていきたいとか、大きくなりたいって思っているけど、メンバーはそうではない、とかで難しいなって。やり続けることは大事だけど、方向性とか……目標がないと私は燃えないタイプなので。ゴール地点みたいなのが欲しいんですよね。
 「わかります」

――そうなんです。いろんな人と話をして思うんですけど、そういう目標って、大抵の人はなくても大丈夫なのかな?って感じたりします。
 「ああ~~」

――ここに向かうまでに、どうやって動いていくっていう逆算をそんなにみんなしないで生きているのかな?って。
 「音楽をやっている人って、そういう人多いかもしれないですね」

――たしかにそうかもしれないです。
 「ちなみにSAIさんは、バンドはメンタル的に、何を最優先していますか?楽しいとか、好きとか」

――メンバーのことを好きで尊敬しているっていうのがまずあって、あとMAKOの作る曲が好きっていうのがありますね。あと、2人のセンスを信じてる。例えば、ベーシストのRISAKOは、オンライン・セレクトショップで服のセレクトをしていて、ファッションのセンスはRISAKOに任せて信頼しているし、曲だったらMAKOのセンスを信頼していますね。そういう、ひとりではできないことを、3人だとよりブラッシュアップして作品を作れるっていうのがあります。
 「いや、良いですよね。それこそアイドル・プロデューサーって、そういう人たちを集わせたいけど、できないっていうのが大半。ものづくりをしたい子が来るっていうよりも、もうちょっと別のアレがあるので」

――スタンスがまた違ってくるんですかね。
 「そうですね。あと逆算型……アイドルの子は、わりと逆算型かもしれない。武道館に行きたい、そうするには、みたいな」

――私はそっちのほうが全然燃えるんですよね。バンドの目標みたいなのも、ないと“なんでやってるんだろう?”って私は思っちゃうタイプで。
 「私も、目標っていうよりは、ひたすらやり続けていたい人たちが周りにいるので。その人たちと話していると、好きだったら無心でやり続けるでしょ!みたいな感じなので、えっ、えっ!? みたいな」

――めっちゃわかります(笑)。自分に全くない考えかただから。
 「わかりますわかります」

――黒をメイン・カラーにしている理由を教えてください!
 「あまり具体的な理由はないんですけど、私、ランドセルがネイビーだったんですよ。あと、わりと小さい頃から海に行っていて、深海ってけっこう、濃い色じゃないですか。ああいうのが身近にあるから落ち着くんだろうな、とか。あとは岩井俊二さんの『PiCNiC』(1996)に出てくるココのカラスみたいな風貌は、もしかしたら影響を受けてるかもって思いました」

――『PiCNiC』、今年の 「逗子海岸映画祭」で上映されるっていう情報を最近見ましたね。では最後に、今後の抱負を教えて下さい。
 「YUP YUPは、行き着くところに行き着くので。それこそ“目標が”っていうのは特にないんですけど。個人目標は、友達を作る」

――そうきましたか(笑)!
 「はい(笑)。私、そこがデカいのかな?って自分で思っていて」

――めっちゃおもしろいですね、予想外でした(笑)。
 「ラジオとかもやりたいし。前にひとりでやっていたんですけど、ひとり喋りもやっぱり寂しいじゃないですか。お便りをもらって、ファンの人とコミュニケーションを取ったりして楽しかったんですけど。あとはコラボとかもやりたくて。それには友達をまず作らないとかなって(笑)」

――なるほど(笑)。
 「なかなか難しいですよね。ライヴの本数を重ねてないのもあるかもです。まだ10回もやっていないくらいなので。だから、友達作りからか、みたいな」

――友達になりましょう!
 「ぜひ~」

――ラジオいいですね。私もやりたいです。
 「あまりに友達がいなさすぎて、安原さんとの対談ラジオをやろう、ってなったんですけど、立場が違いすぎて喋れないことも多いし」

――ラジオとか誘ってください。自分がやれることがあればやります!
 「ぜひぜひやりましょう」

Feww Instagram | https://www.instagram.com/000000feww_/
YUP YUP Official Site | https://www.yupyup.jp/

YUP YUP 'Pain Point'■ 2022年11月12日(土)発売
YUP YUP
『Pain Point』

太陽が暮れる
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