Feature | 『Sense of Life (Idols Side)』 | AVE

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05/18/2021
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全曲解説 By 加納エミリ

　猪爪東風 aka ayU tokiOと加納エミリが、「NARISU HEALTHY LIFE」なる新レーベルを設立し、第1弾作品として2タイトルのコンピレーション・アルバム『Sense of Life (Idols Side)』と『Sense of Life (Musicians Side)』をリリース。総勢24組が参加した同作は、レーベル名が示す通り、闘病のため休業中の「なりすレコード」ファウンダー・平澤直孝への激励とドネイションを目的に、繋がりの深い両者が企画したもの。アートディレクションにMATERIAL（CARRE）、アートワークに映像作家・浮舌大輔とonnacodomo（野口路加 + せきやすこ）を迎え、平澤ならびに「なりすレコード」縁の面々によるアイディアを結集させた作品となっています。収録曲の大半は、本作のために東京・神保町のスペース「試聴室」にてワンショットのライヴ・レコーディングを敢行（平澤は昨年、「試聴室」の運営支援を目的にドネイション・アルバム『STAY OPEN ～潰れないで不滅の試聴室に捧ぐ名曲集～』を企画・制作しています）。主旨もさることながら、ライヴ録音の楽しみを名曲群と共に再確認できる内容です。

　本稿では、『Sense of Life (Idols Side)』のキュレーションとミキシングを担当した加納さんに、全曲について解説していただきました。

序文 | 久保田千史 | 2021年5月

01 | 加納エミリ「ごめんね」
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　自分の持ち曲ということもあるのですが、今回の収録曲の中で最も短時間でミックスが完成しました。歪みが出ない範囲で躊躇なくロー（低音）とキックを出せたので個人的に満足しています。ややドンシャリ気味なアウトですが、自分のヴォーカルの特徴である鼻にかかった声とローがそれを中和していて、うまく活かされたと思います。

02 | 一色萌 (XOXO EXTREME)「TAXI!」
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　この楽曲は重厚なストリングスが魅⼒のひとつなので、引き立つように他の曲よりも少しローを出しました。特にインター（間奏）部分のパワフルなエアーが気に入っています。厚みがあるサウンドなので、ヴォーカルに対するリヴァーブのバランスが難しく、微調整に時間がかかりました。
　レコーディング当日は本曲の7″のジャケット写真で着用しているシャツを着てきてくれました。そんな粋な心配りがとても嬉しかったです。しかもそのシャツは、平澤さんが真夏の炎天下で熱中症になりながらも下北沢をひたすら歩いて見つけ出した代物。よかったね平澤さん。

03 | SAKA-SAMA「ネズミの生活」
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　お2人（寿々木ここね + 朝倉みずほ）の声のトーンが高いので、ヴォーカルのEQを少し下げて全体のバランスを調整しました。M1、M2が重力のあるサウンドなので、こちらはクリアな音像を意識しながらミックスしました。
　SAKA-SAMAはどんな曲を歌っても“SAKA-SAMA”になれる魔法を持っていると思います。

04 | 3776「八合目にゃまだ早い」
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　ドラムマシン / シンセ / アコースティック・ギターをラインで繋いでレコーディングしました。そのため、他の楽曲とは少し異なるミックス作業だったので、とても楽しかったです。そして改めて、ちよのさんの類い稀なリズムセンスを感じました。
　余談ですが、雑談していた際にちよのさんが「最近はDS（2004年に任天堂から発売された携帯型ゲーム機）でゲームしている」とおっしゃっていて、心を動かされました。

05 | RYUTist「トムテ (Tomtar)」
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　アルバムを通して聴いていただくとわかると思いますが、この楽曲だけ音像がガラリと違います。今回、コロナ禍でメンバーの上京が困難だったため、以前に特典で配布していたもののCD未収録となっていたこちらの楽曲を収録させていただいたのですが、既にマスタリング済みだったり今回のコンピとは異なる録音環境で作られている音源なので、どうしても音像に違いが出てしまい、曲順にとても悩みました。結果的に、この楽曲を中間に置いたことでアルバムのスイッチが切り替わり、良い流れができたと思います。RYUTistの歌心が真っ直ぐに胸に刺さる美しい曲です。

06 | WAY WAVE「マジカル恋愛体質」
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　とにかくお2⼈（小池杏奈 + 小池優奈）のマイキングがとても上⼿。ヴォーカルの処理がスムーズだったので、本当に助かりました。さらに歌唱⼒も⾼いので、ノンフィルターでダイレクトに歌が届くんですよね。特に優奈さんは歌詞もはっきり聞き取れるので、感激してしまいました。

07 | 広瀬愛菜「さくら」
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　作曲家の関美彦さんが今回のプロジェクトのために書き下ろしてくれました。愛菜さんは遠方に在住とのことで、今回は直接のレコーディングが叶わず、遠隔で制作したのですが、ヴォーカルはiPhoneのボイスメモで録音したもので、テクニカルな伴奏にくぐもったヴォーカルの融合が絶妙なローファイ感を生んでいて、とてもおもしろいと思います。こちらのミキシングは猪爪東風さんが担当しています。

08 | カノサレ「A Hungry Girl」
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　病床にいた平澤さんに、カノサレの曲で何が一番好き？と訊ねたところ「お腹すいたって曲」と返答があり、こちらの楽曲を収録させていただきました。持病悪化でお医者さんに大好物を軒並み禁止された平澤さんの心の叫びだったのでしょうか。
　ミキシングに関してはお2人（安達葵紬 + 畠山英莉）の声の周波数が微妙に違うので、えりさんのヴォーカルは微かにEQを上げ、一方あおぎさんはEQを下げてアジャストしました。

09 | なんちゃらアイドル「Ivory song」
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　収録曲の中でも特にライヴ・アイドル固有の精彩が発揮された音像と楽曲になっていると思います。意思疎通がとれたお2人（あおはる + 御茶海マミ）の掛け声が、このコンピレーション・アルバムの表情をさらに豊かにしてくれています。

10 | 組織 (小日向由衣バンド)「夏の夢」
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　レコーディング中の小日向さんやバンド・メンバーの皆さん（久保田祥平 + 諸田英慈 + 仁科希世彦 + たなべあきら）の様子を観察して、その中で感じ取ったものを思い出しながらミックスを作っていきました。個人的な話ですが、この楽曲の作業は裏方としてとても勉強になりました。
　それと、丁寧に音作りをするバンドの皆さんの姿を見てグッとくるものがありました。小日向さんは素敵なかたがたに囲まれて音楽をしているんだなぁ。

　ライヴ音源のミキシングは今回が初めての経験でした。ロック・バンドやアコースティックのライヴ音源は多種多様にありますが、オケを使用したライヴ音源に関しては、ちょうどよくリファレンスになるような音源が見つからず、当初は手探りな状態でした。もはや自分では善し悪しの判断がつかなかったので、共同で制作した猪爪東風さんに何度もデータを送って助言をいただきながら直していきました。初めはヘッドフォンでモニターしながら作業をすることが多かったので、最初にデータを送ったときはローが凄まじかったらしく、自分のコアな癖がバレてしまい、とても恥ずかしかったです。と同時に反省しました。
　今回は“神保町試聴室の音”をテーマにミキシングしました。神保町試聴室には独特な響きがあるんですよね。ライヴハウスとは微かに違って、土曜の夕暮れのように音の輪郭がふわっとしている気がします（それ故にアイドルのライヴ・ミックスをどうディレクションしたら良いか当初は悩みました）。最終的に試聴室の雰囲気を重視して作っていきました。聴いたかたに伝わっていれば嬉しいです。
　ヴァラエティに富んだ内容になっているし、ステキなアルバムになったと思います。そしてぜひ、実際に神保町試聴室に足を運んで“試聴室の音”を実感してみてください。

加納エミリが聴いた『Sense of Life (Musicians Side)』

　今回のために楽曲を書き下ろしてくださったかたが多くいらっしゃって、それが私たちとしても、とても嬉しかったです。佐藤望さんと東風さんのお2人がミックスを担当したのですが、各々音の趣向や作りかたが違うのに、ぴったり調和が取れていて、まさにSense of Lifeを感じました。“Sense of Life”ってどんな意味なのかは、いまだにわかっていないのですが……。それと、通しで聴いててちょっとジーンときてしまいました。かっこいいライヴ・アルバムです。

平澤直孝についての所見

　今回私が収録した「ごめんね」という楽曲は、平澤さんと出会うきっかけになった曲です。2018年の秋頃にTwitterのダイレクトメッセージから連絡が来て、面識もないまま渋谷のルノアールで打ち合わせをすることになったのですが、初めて会った瞬間に「今冬にこの曲の7″を出したい」と言われ、さらに「来年の秋にアルバムを全国流通で出さないか？」と提案されました。当時何もリリースしたことのない、そもそもファンという存在すらいなかった無名の私にそんな話を持ち掛けた平澤さんは、様々な意味で狂っていると今でも思います。そして提案通り翌年2月に「ごめんね」の7″をリリース、11月に「GREENPOP」というアルバムを全国流通でリリース。出会ってまだ3年ほどですが、それから今まで平澤さんと二人三脚で活動してきました。
　平澤さんほど可笑しくて、ヤバくて、みんなから愛されている人に出会ったことがありません。⼤きな体に年中Tシャツで、どんな場所にいても、気がつけばいつも会話の中心。ゆるキャラみたいな風体でボヤ～っとして見えますが、本当はとても繊細で、意外と冷静な視点で相手を見ている人です。平澤さんの新しい仕草や一面を知ると、嬉しくなってつい誰かに教えたくなるのですが、シャイな彼は照れて直してしまうかもしれないので、いつも心にしまって彼を観察していました。平澤さんはずっとそのままでいてほしいです。でもひとつだけ。あまり無茶はしないでくださいね。平澤さんが長生きすることは、私たちと音楽にとって最もハッピーなことですから。
　最後に。あゆさん、大変お疲れ様でした。あゆさんからはたくさんのことを学ばせていただきました。未熟な点もたくさんあったと思いますが、どんな時もあたたかくサポートしてくださりありがとうございました。このプロジェクトに誘ってくれたこと、あゆさんと⼀緒に『Sense of Life』を作れたこと、すべてが私の宝物です。

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