Review | 岩手・盛岡「青龍水」その2


文・撮影 | あだち麗三郎

 今回ご紹介する青龍水は盛岡市内の市街地にある。以前にもこのレビューで街の中に湧く水、ということで紹介したこの青龍水は、住宅地の真ん中で歓楽街からも車で5分かからないくらいの場所にあり、それでいて美味しいというのが魅力。平成の名水百選にも選ばれている。都市の真ん中に湧く水で、かつ美味しいものはなかなかレアである。

 今回は、この街に湧く水に関連する忘れられない食事についてだ。街中に湧水があふれている長野県松本市や愛媛県西条市など、水の湧く街には独特の美しさがある。地場が澄んでいるような気がする。そして美味しい水のある土地は、すべての食事がおいしい。

「青龍水」 | Photo ©あだち麗三郎

 「やっぱり水の美味しい旅行先で食べる料理は美味しいよね」なんて言葉は、毎週末数多の人々がつぶやいているだろうが、だからこそ、疑ってみたい。きっと旅行中のテンションが混じっており、正確に味の判断ができていないはずだから。味には厳しくしたい。けれど、山梨に住んでいて仕事で行った東京や大阪の店に入ると、味は美味しいのだけれど、使っている水が美味しくないなと思うことが多々ある。“水が美味しい料理”は別ジャンルとして存在しているように思う。

 米と麺類には水の味が顕著に現れると思っていて、柔らかかったり、澄んでいたり、喉越しがあったり、ミネラル味があったり、甘みがあったりという、その土地の水の味は、スープだけでなく麺の味にも現われる。ラーメンに家系、創作系、二郎系があるように、もはや“美味しい水系”というひとつのジャンルが存在しても良いんじゃないかとも思っている。

「青龍水」 | Photo ©あだち麗三郎

 美味しい水系の店だからといって、味の技術がない訳ではない。水や素材が美味しくて、繊細な味の技術もある。それが一番良いに決まっている。そしてその両立が完璧だと思ったのが、盛岡で食べた、「肉の米内」の冷麺だった。

 正直、この店の冷麺を食べるまでは、冷麺自体を馬鹿にしていた。ただの冷えたラーメンというか。焼肉の最後に締めとして食べる、サブキャラ的炭水化物。そんな認識が一層されてしまった。ここのスープは、水が美味しいはもちろんのこと。この美しい水にありとあらゆる方向性の味覚が注ぎ込まれていた。麺のほかにキムチ、梨、煮玉子、牛すじ肉がひとつの椀に入っており、甘味、酸味、辛味、肉の出汁、トッピングのネギの香りのすべてが口内で別々の方向に広がる。高校球児がベンチから守備位置にダッシュしてゆくように、それぞれの味が明確な意図をもって、かつチームとして一丸となって散らばってゆく。

 冷麺は他の麺類よりも、素の水の味のポテンシャルが現れる料理だと思ったのだ。盛岡だからこそ、この青龍水が湧く土地だからこその名物なのではないか。どうやら冷麺は元々北朝鮮の食事らしく、昔、北朝鮮から盛岡に移住してきた方々のおかげで美味しいものが食べられる。こうなると平壌(ピョンヤン)で冷麺を食べてみたい。平壌の水は美味しいのだろうか。早く戦争なんてなくなって、自由にどこの水も味わえるようになれば良い。

あだち麗三郎 Reisavulo Adachi
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あだち麗三郎音楽家。からだの研究家。
人類誰もが根源的に自由で天才であることを音楽を通して証明したいと思っています。
1983年1月生まれ。少年期を米アトランタで過ごしました。
18歳からドラムとサクソフォンでライヴ活動を始めました。
風が吹くようなオープンな感覚を持ち、片想い、HeiTanaka、百々和宏とテープエコーズ、寺尾紗穂(冬にわかれて)、のろしレコード(松井 文 & 折坂悠太 & 夜久 一)、折坂悠太、東郷清丸、滞空時間、前野健太、cero、鈴木慶一、坂口恭平、GUIRO、などで。
「FUJI Rock Festival ’12」では3日間で4ステージに出演するなどの多才と運の良さ。
シンガー・ソングライターでもあり、独自のやわらかく倍音を含んだ歌声で、ユニークな世界観と宇宙的ノスタルジーでいっぱいのうたを歌います。
プロデューサー、ミキシング・エンジニアとして立体的で繊細な音作りの作品に多数携わっています。
また、様々なボディワークを学び続け、2012年頃から「あだち麗三郎の身体ワークショップ」を開催。2021年、整体の勉強をし、療術院「ぽかんと」を開業。