Review | 静岡・駿東「柿田川湧水群」


文・撮影 | あだち麗三郎

「柿田川湧水群」 | Photo ©あだち麗三郎

 今回ご紹介するのは、静岡県駿東郡清水町にある柿田川湧水群。ここは柿田川公園という大きな公園の中に入っていて、この公園が非常におもしろい。柿田川公園は東海道新幹線の三島駅と沼津駅の間の国道1号線沿いに位置し、向かい側には巨大なショッピングモールや大型家電量販店がある。日本中どこでも見られる国道沿いの風景。片側3車線くらいの道で、交通量もかなり多く、そんな場所に突如「名水百選」の湧水群が現れる。これまでに紹介してきた湧水の中でも圧倒的に都会というか、喧騒の中にあるのがここの特徴と言えるだろう。

 3月末の晴れた休日に立ち寄ったのだが、駐車場はほぼ満車で誘導のおじいさんが立っているほどに人気だった。湧水で作った豆腐屋とコーヒー屋とアイスクリーム屋を横目に見ながら、湧水スポットまで歩いていった。湧水が人を呼ぶ場所になっているのは素直に嬉しい。

「柿田川湧水群」 | Photo ©あだち麗三郎

 いくつか看板の解説を読んでみた。この柿田川は長良川、四万十川とともに日本三大清流に数えられているという。全く知らなかった。さらにこの川は湧水から発生しており、そのスターティング・ポイントがここの公園だそうだ。湧水スポットにいくと美しく澄んだ大量の水があふれていた。湧水スポットはひとつではなく、何ヶ所もあり、川の下から湧いて盛り上がっている箇所もあって、それらが合計数10箇所の湧水が混じり合って大きな美しい川になってゆくのを見ることができる。圧巻だ。

「柿田川湧水群」 | Photo ©あだち麗三郎

 先日、小豆島でヤマロク醤油という日本でも数少ない木の桶で醤油を作っている工場を見学させてもらったのだが、何かの製造過程を見るのは非常におもしろい。それを知っているのと知らないのでは味わいにも大きな違いがある。ちなみにこの工場は発酵のための菌であふれていて、木の桶だけでなく壁一面に苔が生えているような感じで、森の中で植物たちと会話をしているような感覚になった。

 また最近、甲府で土木現場で働いていたおじいさんと偶然仲良くなり、彼を車に乗せて走ったのだが、彼は目の前の景色を道路の材質と形状を中心に見ている。崖っぷちの山道のコンクリートの下が鼠返しのようなかたちになっているので車を停めて見たり、「ここの橋を渡すのにダイナマイトを5、6発使った」などと教えてくれたり。先月亡くなった祖父も名古屋で同じような仕事をしていたので、昔よく「ここの地下街はよう~」とか「ここのビルは~……俺たちで汗水垂らして作ってよう~」と話していたのを思い出した。

 世界を自分とは違ったレイヤーで見ている他人の視点に少しでも触れられるのは本当に嬉しいことだ。製造過程、途中経過はそれがよりわかりやすい。この柿田川公園では、湧水が川になっていく地球の過程を味わうことができる稀有な場所だ。アクセスしやすいのでぜひ訪れてほしい。

「柿田川湧水群」 | Photo ©あだち麗三郎

あだち麗三郎 Reisavulo Adachi
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あだち麗三郎音楽家。からだの研究家。
人類誰もが根源的に自由で天才であることを音楽を通して証明したいと思っています。
1983年1月生まれ。少年期を米アトランタで過ごしました。
18歳からドラムとサクソフォンでライヴ活動を始めました。
風が吹くようなオープンな感覚を持ち、片想い、HeiTanaka、百々和宏とテープエコーズ、寺尾紗穂(冬にわかれて)、のろしレコード(松井 文 & 折坂悠太 & 夜久 一)、折坂悠太、東郷清丸、滞空時間、前野健太、cero、鈴木慶一、坂口恭平、GUIRO、などで。
「FUJI Rock Festival ’12」では3日間で4ステージに出演するなどの多才と運の良さ。
シンガー・ソングライターでもあり、独自のやわらかく倍音を含んだ歌声で、ユニークな世界観と宇宙的ノスタルジーでいっぱいのうたを歌います。
プロデューサー、ミキシング・エンジニアとして立体的で繊細な音作りの作品に多数携わっています。
また、様々なボディワークを学び続け、2012年頃から「あだち麗三郎の身体ワークショップ」を開催。2021年、整体の勉強をし、療術院「ぽかんと」を開業。