Review | リーヴ・ストロームヴィスト『禁断の果実』 + Interview | Nella & Vera


文・撮影 | SAI

 みなさまいかがお過ごしでしょうか。前月の記事から約1ヶ月経ちましたが、自分も周りの状況も変わってしまい、日々ニュースを追うのも大変ですね……。今回はスウェディッシュ・コミック・アーティスト、リーヴ・ストロームヴィスト(Liv Strömquist)の『禁断の果実』のレビューと、スウェーデン出身の友人VeraNellaへのメール・インタビューです。

| リーヴ・ストロームクヴィスト『禁断の果実』

 このコミックは私のAmazonアカウントのスウェーデン作品リストに長いこと入っていて、少し高いので購入するのをためらっていたのですが……日本人の視点から見た北欧のフェミニズムや教育システムの本を読んだことはあっても、北欧出身(スウェーデン人)の人の視点から解くフェミニズムの本は読んだことがないなと思い、えいやっとポチりました。

 内容は……なんといいますか、『地獄先生ぬ~べ~』(懐かしい……)なみに文字が多いのと、絵柄もそんなにかわいらしくもないので、読み易いか読み難いかといえば読み難いのですが(笑)、思うに北欧は日本と比べて漫画文化がそんなにメジャーではないので、そう考えると読み易いフェミニズムの本としては革命的だったのかな?なんて思ったりしました。

Interview | Nella & Vera

 そして「『禁断の果実』読んだよ~」とInstagramのストーリーにポストしたところ、スウェーデン語学校のイベントで知り合ったVeraNellaから「I love Liv strömqvist so much!」とのリプライがあり、その流れで2人にずっと聞いてみたかった質問をしてみました。

 北欧出身の女性に真面目にフェミニズムに関して質問したくても、例えば会話だと私の英語力では理解しきれなくて、メールで質問するにしても、Language Exchange(言語交換アプリ)で出会った女性と会話を続けるのは、だいたい返事が返ってこなくなったりしてなかなか難しく……。そういうわけで、なかなかレアなメール・インタビューなのです!

 質問は全部で9つ。私のTumblrには、英語原文を全文掲載(Nella | Vera)しております。

Nella & Vera | Photo ©︎SAI
L to R | Vera | Nella

――1. なぜあなたはフェミニズムに関して興味を持ったの?日本では”フェミニスト”ってSNSのプロフィールに書くのは珍しいんだ。特に、あなたのようにファッショブルな若者が書くのは珍しいって思った。
Vera 「男女平等は誰もが同じ権利を持つ未来にとって非常に重要だと思ってるよ。今日の私たちの社会では、女性は平等であるとは認識されてなくて、女性らしさは偶像化されるか、または眉をひそめられている。誰もが同じ機会と権利を手に入れる人道的な社会を信じているなら、フェミニズムはそのための第一歩だと思う。私にとって、Instagramのプロフィールに「フェミニスト」と書くことは、私がドレスアップしてファッションやメイクが好きな一方で、政治的意見を持ち、重要な問題について考えることを認める方法。私はただ鑑賞される”物”ではなく、信念を持っている”人間”。私は自分のファッションをシェアするのが好きだけど、デモに行って投票し、請願書に自分の名前を書く。私は平等を信じているので、フェミニズムに興味がある。スウェーデンのような国でさえ、私たちはそこから遠く離れている」
Nella 「家族と政治と平等について話すのはごく普通のこと。私の両親はいつもとても政治に関心を持っていて、私を小さな子供の頃からメーデーのデモ(毎年5月1日)に連れて行ってくれた。友達ともディスカッションしてたよ!友達や知り合いとかと話している時、自分のことをフェミニストって言わなかったら、変だったんだ」

Nella + SAI + Vera | Photo ©︎SAI

――2. 何歳のときに興味を持ったの?
Vera 「私には姉と妹がいるんだけど、姉のエスターは13歳の頃からフェミニズムに興味を持ち始めたんだ。彼女はたくさんのフェミニズムについての本を読み始めて、私もそういうテキストを10歳くらいのときに読んだ。私のお母さんは昔から家計の第一人者(稼ぎ手)で、お父さんはアートの仕事をしていて、姉が興味を示したとき、お父さんは姉にフェミニストのアーティストやコミック・アーティストを紹介したんだ。両親は本を読むのが好きだから、このテーマについての本をたくさん与えてくれたんだ。スウェーデンには、若い女性と女の子のためのフェミニスト文学が多い。児童書でさえフェミニストのようなものなんだ。10歳頃にフェミニズムに興味を持ったんだけど、12歳になるまで自分をフェミニストとは呼んでなかった。フェミニストをテーマにした児童書の一例が『長くつ下のピッピ』!」
Nella 「私が最初にフェミニズムについて積極的に学び始めたのは14歳のとき(2013年頃)。名付け親(家族の親しい友人)から、2014年に出版されたリーヴ・ストロームヴィストの本『禁断の果実(Kunskapens Frukt)』をもらったんだ。その年、フェミニズムはスウェーデンで大ブームになって、スウェーデンのフェミニスト党(Feministiskt initiativ)はもう少し票を獲得したらスウェーデンの議会に入るところだった。その頃のフェミニスト運動は、私とスウェーデンの他の多くの若者たちに、フェミニズムに対して興味を抱かせたと思う」

――3. あなたにとって男女平等とは?
Vera 「私にとっての男女平等は、私が持っている他の政治的思想や価値観とかなり関係がある。多くの人々は、性別、宗教、民族性、セクシュアリティなどのために、私たちの社会から差別されている。私たちは人間として、他の人間や自分自身を差別する全てのものと戦うべきだと思う。男女平等は、より公平な未来のために人間同士のギャップのひとつを取り除く方法。平等な賃金、平等な敬意、平等な責任はすべてその一部。だから、私にとって男女平等とフェミニズムは、全ての人の平等を達成する方法の一部なんだ」
Nella 「私にとって、男女平等は私の社会主義イデオロギーの一部。ジェンダーの不平等を大きな不公正なシステムの一部とみなし、人種差別、資本主義、そして私たちの社会や世界の人々を圧迫する他のあらゆる要因と戦わなければならないことを信じている。そのシステムを破壊することによって、人々がお互いに平等に暮らせる公正な世界に生きられることを願ってる」

Nella | Photo ©︎Nella
Nella

――4. どうやってリーヴ・ストロームクヴェントを知ったの?テレビや雑誌に出演していたのかな?
Vera 「リーヴ・ストロームクヴェントを知っているのは、13歳の頃に父が彼女の漫画を紹介してくれたから。それ以来ファンなんだ。彼女は時々番組やインタビューに出演していて、Caroline Ringskog Ferrada-Noliと一緒に『En Varg Söker Sin Pod(ポッドを探す狼)』っていうポッドキャストをやってる。『Liv Strömquist Tänker på Dig(Liv Strömquistがあなたのことを考えている)』っていう、彼女のコミックをベースにした劇もあって、良い作品なんだけど、彼女自身は出演してないよ」
Nella 「2014年に名付け親から『禁断の果実』をもらったときにリーヴ・ストロームクヴェントのことを知ったよ。この本は、ユーモアと歴史、政治理論を組み合わせたもので、すごくおもしろいんだ。それ以来、私は彼女の他の本を読んでた。2014年はお母さんに彼女の劇『Liv Strömquist Tänker på Dig』に連れて行ってもらったよ。彼女はテレビ番組に出演していて、自分のポッドキャストを持っているけど、フェミニスト漫画家として一番よく知られてる」

――5. 男性や友達とフェミニズムについて話す?
Vera 「ほとんどすべての友人や家族とフェミニズムについて話すよ。その何人かは男性。ほとんどの場合、特別な問題が発生したとき、または政治的決定が下されたときに話し合う。私は親しい友人の何人かと、私たちがそれをフェミニズムの議論と呼ばなくても、ほぼ毎日、そのことに関する問題について話し合っているよ」
Nella 「うん!友達とたくさん話すよ。私たちの生活やニュースで起こったことを話し合うとき、自然にその話題になる。例えば、それぞれの社会的な場面で、男性と女性がどのように異なってジャッジされるか、とか」

――6. 日本での男女平等についてどう思う?変なシステムがあると思う?
Vera 「日本の男女平等のシステムやその他の社会問題は、スウェーデンのそれとは大きく異なると思う。私が日本語を勉強し始めて驚いたのは、日本は依然として女性が結婚したら仕事をやめ、家にいて子供たちの世話をすることを期待されているシステムに依存しているということ。デイケアセンター(保育園)がほとんどないから、女性が家族を作りたい場合に、女性が仕事をしたり、職場で昇進したりができなくなる。私が見たところ、どこに行っても、ダイエット、脱毛などのコマーシャルがたくさんあって、見た目を良くすべきというプレッシャーがものすごくある。女性は常に見た目を良く、幸せに、子供の世話をし、文句を言わずに行動するのが期待されている。私は最近の“#KuToo”のニュースも追って見ていた。男性の同僚は着心地の悪い服を着なくてもいいにも関わらず、女性がハイヒールを職場で履かなければいけないことを、ある女性が話しているのを聞いてたら、悲しくて腹が立った。女性にハイヒールを履かせるなどの小さなことも、家父長制を職場で実施する方法であって、男性が女性の快適さを気にかけていないことを示していると感じる」

Nella 「日本の社会についてはあまり詳しくないから、部外者の視点でしか話せないけど、スウェーデンとはかなり違うと思う。スウェーデンでは、ほとんど全ての子供が保育園に行くんだ。これは、スウェーデンのフェミニストが1960~70年代に戦って得たもので、女性が子供を持ちながらフルタイムで働くことができるようになった。日本では家族を始めたいとき、主婦になるために仕事を辞めるのはごく普通のことみたいだね。初めて日本に来たときも、人々がダイエットと体重を減らすことに躍起になっているのに驚いた。東京では、ほとんどどこでも、脱毛会社、ダイエットなどの広告を見かけるよね。YouTubeで初めてダイエットの広告を観たとき、奇妙に思ったことを覚えてる。スウェーデンで観たことがなかったから!女性として日本に住むのは、とても疲れることのように見える。そして例えば#MeToo運動や#KuToo運動、そして伊藤詩織のように、ここで男女平等のために戦っている人々にとても感銘を受けたよ」

――7. なんでスカンディナヴィアは男女平等で高いランキングにあると思う?政治やシステムについてみんな話したりする?
Vera 「多くのスウェーデン人は政治について話すけど、みんなが関心を持っているわけでもない。スウェーデンとスカンディナヴィアの人のほとんどは、ジェンダーの平等は重要ではない、または少なくとも私たちがそれほど多く話すべきことではないと考えている。スウェーデンには長い間戦争がなかった。その結果、お金や時間を教育や平等といった他の重要なテーマに集中させることが可能だったんだ。そして、スウェーデンの主要な一政党が長い間平等と平等の権利を重要なものとして優先していたのも理由のひとつ。そのすべてが、平等のために戦う女性の権利グループと相まって、スカンディナヴィアが今日の世界平等ランキングの高さに貢献したと私は信じている。スウェーデンの平等を支援するもののいくつかは、母親が働くことができるように保育園がたくさんあること(もしあなたが望むなら、あなたの夫と離婚することもできる。自分で働いた分のお金を持っているから)。親が独りの場合は、理由を問わず、政府からお金のサポートを受けることができる。あなたが子供を持つことを決めた場合、あなたはまた国から金銭的支援を得て、育児休暇は父親が半分の時間を取り、母親が残りの半分を占めるように手配することができる。だけど、まだ問題が残っていて、どこの国でもこの進展を止めるべきではないと思ってる」
Nella 「スウェーデンの誰もが政治について話したり、気にしたりするわけではないけど、ほとんどの人は当たり前のようにいくつか価値観を持っていると思う。議論しなくても、反人種差別、またはジェンダー平等を支持したりする。歴史的に、投票権、中絶の自由、保育などを争う多くの強い運動があったから、スウェーデンは今日、男女平等ランキングが高いと思うんだ。その動きがなければ、スウェーデンは今ほど平等じゃない。それとスウェーデンは第二次世界大戦の終わり以来、豊かで平和な国だった。だからスウェーデン社会民主労働党は、平等と強力な公共福祉のために大きな変更を加えることができたんだ」

Vera | Photo ©︎Vera
Vera

――8. スウェーデン人の女性はデートに行く時に割り勘するって聞いたけど、それはあなたにとって普通?
Vera 「うん(笑)。割り勘するのはスウェーデンでは普通のことだよ。一部の人たちは交代で支払う(例えば、男性は最初のデートで支払い、女性はその次のデートで払う)。まだ一部の人は全部払うことを好んでるけど、それは少し古い。どこの国の出身かによっても違うと思う」
Nella 「うん!1人が奢りたい場合(誕生日など)を除いて、割り勘するのが一般的だよ」

――9. 最後にコメントをお願い!
Vera 「日本語を勉強しに来たので、ここにいる間に日本語が巧くなったらいいな。今は、ウイルスの事情があってやることがなかなか見つからないけど、状況が良くなったら東京だけじゃなくてもっと日本を見てみたい!いつか奈良と横浜、北海道のどこか、その他にもいろんな場所に行きたい!あと趣味の合う日本人の友達をもっと作りたい!」
Nella 「スウェーデンはまだジェンダー平等の面で長い道のりがあるフェミニズムを全く信じない、または全く無関心な人もいる。政治と歴史は私の2つの大きな関心事。私がもっと学びたいと思ったときに、教えてくれて、励ましてくれた、政治に興味を持つ両親がいてくれてとてもラッキー!今は東京で日本語を勉強していて、日本を探検し、ここにいる間にできるだけ多くのことを学びたいと思っているよ!」

SAI
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SAI | Photo ©︎SAIMs.Machineのヴォーカリスト / リリシスト。

2015年にバンドMs.Machineを東京にて結成。近年ではTOTAL CONTROLやUBIKといったオーストラリアのポストパンク・バンドと共演。NYのメディア・コレクティヴ「8ball」のチャンネルにライブ出演するなどボーダーを越えて活動している。2020年4月には4thシングル『Lapin Kulta』をリリース。

ソロでの活動では『Dröm Sött』を2019年8月にリリース。同年にフィリピンのバンドTHE MALE GAZEと共演。中国の写真家Ren Hangの作品やインディペンデント・マガジン「CONTACT HIGH ZINE」にモデルとして参加。石原 海監督の映画『ガーデンアパート』に出演している。