Review | 植本一子『かなわない』 | 白石一文『火口のふたり』


文・撮影 | SAI

| 植本一子『かなわない』

 今井 麗さんの絵が印象的な表紙と帯の水色との色合いが素敵でずっと惹かれていたこの本。植本さんやECDさんについて詳しく知らないまま読んでよかったと思いました。

 震災直後の2011年から綴られていますが、放射能のことや、うまくいかない子育てを通じて気づく自分の内面のこと、写真のこと、音楽のこと、夫ECDさんのこと、広島に住む母のこと、下北沢のパン屋「KAISO」やUPLINKなど実在するお店や人物が登場する本作は、自分の親しい友人か、はたまた自分の日記をよんでいるような気持ちになりました。植本さんの本音や、他人に見せたくないであろう感情や思いが赤裸々に書かれていて、住んでいるマンションの階数が登場したときは大丈夫かなあと一瞬心配になるほど。そしてこの日記がリアルタイムで更新されていたもので、夫や母も読んでいたということを加味して読んでいると、剥き出しで生きている人だなあと思わされました。

 グッと心にくる文書は作中にいくつもあるのですが、

私はまだデモに行ったことが無いのでいまいち想像がつかないのですが、自分が思っていることを大声で主張するのって、本当に思いをに芯が通ってないと出来ないことだと思うのです。彼女も私も、怖がって原発についてあまり調べていない。目に見えないにおいも無い、放射能の怖さからただ逃げているような。でも今は、自分が自分らしくいられるよう平静を保つだけで、精一杯なのです。

『自分が思っていることを~』という部分では、Ms.Machineの歌詞について、私が主張するならば私自身の私生活も筋が通ってなきゃだめだよなと思って一時期苦しかったことや、バンドで知り合った友人たちがデモに行っているのをTwitterで見ていたときの気持ちとすごく重なりました。

 ECDさんのことは、亡くなる少し前にMOONSCAPEのことをTwitterで書かれていたことや、Ms.Machine主催イベント「FELINE」やStrip Jointのアートワークを描いているKTYLさんがTシャツのデザインしていたことなどで勿論存在は知ってはいたのですが、一度もライヴに行けないままでした。本当に残念だったな、観ておくべきだったと思っています。

| 白石一文『火口のふたり』

白石一文『火口のふたり』

 この作品もまた表紙の写真が印象的で惹かれていた作品です。ずっと読みたいなと思っているうちに映画化されたので、映画のほうを先に観に行ってきました。R18指定なので、かなり激しいのかなとドギマギしながら行ったのですが、時々客席からは笑いが聞こえたりして、決して観やすいとは言えないですが、意外にもコメディ要素もあって映画館で観てよかったと思う作品でした。

 作中に出てくる野村佐紀子さんが撮影したモノクロの写真がとても印象的で、その写真が物語に火をつけ始めます(BEAMSのギャラリーで写真の展示もあったようです。行きたかったな)。秋田の西馬音内盆踊りが映るシーンも艶やかで印象的でした。原作の舞台は九州・福岡なのですが、監督がこのお祭りに惹かれて映画での舞台を青森にしたそうです(後々このお祭りのことを考えているときに甲斐啓二朗さんの『手負いの熊』という写真作品群を思い出しました。そのお祭りは艶やかというより荒々しくて「ハードコアパンク……」なんて思ったものですが)。

 この作品も震災後に描かれた作品で、放射能のことや震災後の影響が色濃く描かれています。物語なのであまり内容について詳しいことは書けないのですが、直子の女としての思いや、震災後の日本で生きていく“私たち”の目に見えない傷や覚悟(あるいは諦め)を描く文章が、自分の中で言葉に出来なかった気持ちを言語化してくれて、ある種の癒しを与えられました。特に「だが、表面上は誰もが見事なほどに平静に暮らしていた」という一節が、胸の中で忘れたようにしていた、でもどこかで強烈に記憶に残っていた当時の空気を脳裏に蘇らせました。

 10月13日、Ms.Machineの新曲のレコーディング予定の日。台風の影響により延期になったので家でこの2作を読んでいました。内容をよく知らないまま、そしてもともと作者のファンだったのではなく、表紙が気になって手に取ったこの2作は、たまたま震災直後に描かれた作品でした。台風の状況をTwitterで見ながら読み進めたこの時間は、自分の考えや気持ちを反芻しながら読むような体験でした。

 私は日本が嫌いなのではなくて、ご飯も美味しくて好きだし、言葉も美しいと思うし、お祭りなどの文化も好きです。だけど、3.11のときに何かが終わった気がして、それは重く捉えすぎだと思っていたけど、みんなが(かどうかはわからないけれど、少なくともこの2作の著者は)そうこの国のことを思っていたのだなと知れてなんだか安心した気持ちにもなりました。

 Ms.Machineの新曲は12月にレコーディングすることになりました、年明けには新作を発表します。11月と12月には素敵なイベントに出演するので是非お越しください。その時に、この記事をもし読んでくださった方がいたら、立ち話には重すぎるかもしれませんが、感想や色々なお話をお聞きしたいなと思ってます。

SAI
https://sai-ms-machine.tumblr.com/

SAIMs.Machineのヴォーカリスト / リリシスト。
硬質でノイジーなサウンドと“Riot Grrrl”のアティチュードを持ったバンドとして各方面から注目される。

Norr Records Music Studio(スウェーデン)にて制作した初ソロ作品『Dröm Sött』を2019年8月にリリース。

ラーメンとカレーと梅干しサワーが好き。

SAI 'Dröm Sött'■ 2019年8月9日(金)発売
SAI
『Dröm Sött』

CT NORR-20192 1,389円 + 税
DLコード / 歌詞カード付属

https://sai-msmachine-dromsott.tumblr.com/

[Side A]
01. Om du blir trött kom hem(邦題「疲れたら帰っておいで」)

[Side B]
01. 一緒にラーメン食べたい *
* Bonus Track