Review | 大石規湖『JUST ANOTHER』


文・撮影 | SAI

 みなさんお元気でしょうか。SAIです。めっきり寒くなりましたね。11月のMs.Machineは初の大阪、名古屋遠征に行ったり、新曲『Höst』をリリースしたり、なかなか忙しい月でした。

 11月15日に東京・小岩 BUSHBASHで行ったライヴでは、FUCKERこと谷ぐち順さんとYUKARIさん率いるLimited Express (has gone?)、そしてNINJASと共演させていただきました。Limited Express (has gone?)は活動歴が長いし、谷ぐちさんとYUKARIさんのことをご存知のかたも多いと思うのですが、NINJASはわりとメンバーなど秘密な感じで活動しているのかな……という気がするのでここで一応ご説明を。NINJASは、快速東京のヴォーカリスト・テツマルさんがギタリスト、半蔵門のギャラリー「ANAGRA」のボス・AIさん(0120)がヴォーカリストなのです。快速東京は多摩美生が組んだバンド、ANAGRAは美大に通っていた頃から足を運んでいたりして、おふたりの存在は知っていたので、共演できて光栄でした……。

YUKARI + Ms.Machine
YUKARIさんとMs.Machine。YUKARIさんパワフルで素敵でした……!
AI + YUKARI + Ms.Machine
大集合写真。YUKARIさんとAIさんの元気キャラとMs.Machineの真顔が良い対比になっていますね。

 その帰りに新宿K’s cinemaで大石規湖監督の『JUST ANOTHER』を観てきました。パンク・バンドのレジェンド“the 原爆オナニーズ”のドキュメンタリー映画です。実は、お恥ずかしながら映画を観る前はthe 原爆オナニーズについてあまり知識がなく……大石監督の作品だし、上映している今観ねば!という気持ちで映画館に向かいました。

大石規湖
大石規湖監督。いつも明るく笑っていてパワーをもらいます。

 大石監督の劇場長編第1作は、谷ぐちさんとYUKARIさん、そして息子さんである共鳴さんの家族を舞台にした『MOTHERFUCKER』。そして第2作目である『JUST ANOTHER』のアートディレクション / 視覚効果はテツマルさんが担当しています。なので、11月15日のライヴ後に観たこの映画は、とても心にくるものがありました。

 夏頃にカナダのメディア「CVLT Nation」のオンライン・フェスにMs.Machineが参加したとき、大石監督に撮影 / 編集していただき、そのクオリティの高さと被写体に対する愛に感動したのです。たまにBUSHBASHでお会いするときも、いつもお洒落でシャンとしていて、明るくて素敵な人だなと思ったりしていまして……。直接お会いしたり、お仕事したりで監督の人柄を知ってから映画を観るのは、石原 海監督の映画以来だな、と思いつつ。

 まず最初に思ったのは、気難しそうなthe 原爆オナニーズのメンバーのみなさんが大石監督にとても心を開いてお話していらっしゃるな。ということでした。特に、予告編でも使用されているのですが、the 原爆オナニーズの拠点である名古屋・今池での「今池フェス」のシーン。観客も画面に入るカメラワークのこのシーン、たぶん大石監督もステージに入ってすごい接写で撮っているのがわかります。それと東京・新宿 ANTIKNOCKでのライヴでGAUZEのみなさんも映る楽屋のシーンがあるのですが、大石監督とthe 原爆オナニーズの信頼関係がなければ絶対撮れなかったシーンだろうなあと思いました。

 私がインタビューを受ける場合、信頼関係のあるインタビュアーのかたからの質問だととても話しやすいというのと、今年自分でPsychoheadsiida reoさんにインタビューしたときに、アーティストの本音を引き出せるかはインタビュアー(自分)の人柄がめちゃくちゃ大事だなって感じたんです。そういう点で私はまだまだだなって思ったのですが、もし大石監督にインタビューしてもらえるとしたら、楽しくお話しできるだろうなあと容易に想像できるんです。なので、どこから目線なんだって感じなんですが、大石監督の人柄がなければこの映画は成立しなかっただろうな、と感動してしまいました。

TAYLOW

 the 原爆オナニーズのメンバー各々とても渋くてカッコいいのですが、私はやっぱりヴォーカリストなのでTAYLOWさんの言葉やファッションに一番グッときました。「お金とか人気とかではなく……ではなんで続けるんですか?」という大石監督からの質問に「やりたいからやっている」と答えていて、その言葉は今のMs.Machineやソロ・プロジェクトでモヤモヤしていた自分へのアンサーだな、と思ったり(一言一句は合っていないので、もしかしたらニュアンスが違うかもです)。TAYLOWさんはFRED PERRYの服を着ていたり、ピストルズのJohn Lydonが着ていたようなガーゼシャツを着ていたり(これ60代で着られる人なかなかいないですよ)、アメリカのハードコア・バンドKRIMEWATCHのTシャツを着ていたり。“人に見られる”っていうことをとても意識しているかたなんだなって思いました。

the 原爆オナニーズ

 インタビューのシーンで、その当時の映像がグリッチのかかったエフェクト(それかもしかしたら当時のビデオ映像をそのまま使っているのかもしれません)で入っているのもカッコよくて。ドキュメンタリー映画って語りのシーンが多いと途中で飽きてしまったりするのですが、その映像の効果もあって飽きる暇もなく、とてもよかったです。

 何よりラストの終わりかたがめちゃめちゃよかったです。今年はコロナ禍で映画をいつもより多く観たのですが、邦画で音楽も終わりかたも良い映画ってなかなかなくて。そういう意味でも『JUST ANOTHER』は最高の映画でした。

 こちらに上映館とスケジュールが載っていますのでお見逃しなく!

■ 2020年10月24日(土)公開
『JUST ANOTHER』
東京・新宿 K’s cinemaほか全国順次公開
https://genbaku-film.com/

[出演]
the 原爆オナニーズ(TAYLOW, EDDIE, JOHNNY, SHINOBU)
JOJO広重 / DJ ISHIKAWA / 森田 裕 / 黒崎栄介 / リンコ ほか

[ライヴ出演]
eastern youth/ GAUZE / GASOLINE / Killerpass / THE GUAYS / 横山 健

企画・制作・撮影・編集・監督: 大石規湖
スチール: 菊池茂夫

1.78:1 | カラー | ステレオ | 90分 | 2020年 | 日本
配給: SPACE SHOWER FILMS
©2020 SPACE SHOWER FILMS

SAI
https://jaghetersai.tumblr.com/
https://twitter.com/jaghetersai

SAI | Photo ©Matthew SommersMs.Machineのヴォーカリスト / リリシスト。

2015年にバンドMs.Machineを東京にて結成。近年ではTOTAL CONTROLやUBIKといったオーストラリアのポストパンク・バンドと共演。米NYのメディア・コレクティヴ「8ball」やオンライン・メディア「CVLT Nation」のチャンネルにライヴ出演するなど、ボーダーを越えて活動している。2020年4月にはシングル『Lapin Kulta』をリリース。

ソロでは『Dröm Sött』を2019年8月にリリース。同年にフィリピンのバンドTHE MALE GAZEと共演。2020年はシングル『LIER』『スミノフ』などを発表し、7月にEP『瑞典春氷』をリリース。同作は『音楽と人』誌に掲載されるなど、大きな話題となっている。音楽活動以外では、中国の写真家Ren Hangの作品やインディペンデント・マガジン「CONTACT HIGH ZINE」にモデルとして参加。石原 海監督の映画『ガーデンアパート』に出演している。