Interview | MR. BUNGLE | Trevor Dunn


ないね。確信を持って、ない

 1990年代にFAITH NO MOREのMike Pattonが参加していたもうひとつのバンドMR. BUNGLEが、ここへきてまさかのリユニオン。モンドなセンスとユニーク極まりないミクスチャーぶりで、場合によってはFNMを凌ぐほど絶大な影響を後続のバンド群(例えばKOЯN、INCUBUS、SYSTEM OF A DOWNなど)に与えてきたとされる彼らだが、今回の再結成ではSLAYERのDave Lombardo、ANTHRAXのScott Ianを加えた編成で、アッと驚くスラッシュメタル・バンドとしての復活だ。彼らが作成した最初のデモ・テープ『The Raging Wrath of the Easter Bunny』ではスラッシュメタルをやっていたため、その原点に立ち返ってデモを完成させるという意表を突いたかたちの再始動は、なんとも彼ららしいヒネりが効いている。この突飛なアイデアの発案者でもある敏腕ベーシスト、Trevor Dunnにインタビューを行なった。

取材・文 | 鈴木喜之 | 2020年10月

――早速ですが、今回MR. BUNGLEを再結成することになった経緯について質問します。『Revolver』誌の記事には、「Trevor Dunnが、Dave Lombardoといっしょに、おそらくFANTÔMASのツアーを行なっている間、“Lombardoと初期のスラッシュ / デスメタルをプレイできたら最高じゃないか?”っていうアイデアを、自然に思いついた」というTrey Spruanceの証言が載っています。実際どのようにしてこの考えが浮かんだのか、それを伝えたときのDaveやMike Pattonの反応はどうだったのか、など具体的な経緯をもう少し詳しく教えてください。
 「1980年代初頭にMR. BUNGLEのオリジナル・デモ『The Raging Wrath of the Easter Bunny』を作ったときは、古典的なスラッシュメタル・バンドが頭の中にあった。Dave Lombardoのドラミングや、EXODUSとかMERCYFUL FATEのようなバンドがどのように曲を構成しているのかを熱心に研究してね。その後ずっと経ってFANTÔMASに参加して、Daveと知り合いになったから、オリジナル・デモを録っているときにイメージしていた人と一緒にレコーディングし直したらおもしろいんじゃないかと思ったんだ。10代の頃の創作から30年以上経って、実際にそれをやることが可能になったっというわけ。それで、Trey SpruanceのバンドSECRET CHIEFS 3が、PattonとLombardoがやっているDEAD CROSSのオープニングをやったときに、楽屋で彼らにその構想について打ち明けたんだ。 彼らがどう感じるかは予想がつかなかったけど、みんなポジティヴな反応をしてくれたよ。 それから1年くらいタイミングをみて、再びその話を持ち出してみたら、以降そのコンセプトは雪だるま式に大きくなっていった」

――“スラッシュメタル・バンドとして復活し、最初期のデモを再録音する”という変則的なかたちを採ったことが、とてもあなたたちらしいと思います。というか、普通の再結成話なら実現していなかったのではないでしょうか。今後も、オリジナル・アルバム3作や、その他の初期デモ作品(『Goddammit I Love America!!!$ɫ!』1988, 『OU818』1989, 『Bowel of Chiley』1991)を演奏するようなかたちでの活動は有り得ないと思いますか?
 「間違いなく、他のデモは絶対に見直さないだろう。それらは俺たちの1stアルバムの制作へと繋がったものなので、そこまで戻って下手な曲をプレイする理由がない。Warnerから出たレコードの曲を演奏するということについては……誰が言える?今のところ予定はないよ。今は、ちょうどやったばかりのことに集中しているからね。それには、かなりのエネルギーが必要だったし。みんなしばらくの間、そこに腰を据えていなければならないだろう」

――それでは、DaveとScottを加えた体制のまま、さらに活動を続け、完全に新しい曲を書いてみたりしようという考えはないですか?
 「それも考えられない。『The Raging Wrath~』を再レコーディングしたポイントは、35年前にやったことでも、今も俺たちの心の隅に留まり続けている何かを尊重し、祝福するためだということなんだ。 俺たちのやりかたは、アイディアを完成させて、そこから先に進むこと。 俺たちはスラッシュ・メタルのレコードを作ったばかりだ。もうひとつ別のスラッシュ・レコードを作ることはないよ。より多くの街でこのレコードを演奏したいとは思っているけれど、現在世界が直面しているウイルスの問題がそれを阻んでいる。将来については神のみぞ知るだな」

――今回の正式録音では、オリジナルに収録されていた「Evil Satan」は外され、「Hypocrites」は後半のスカになるパートがS.O.D.のスペイン語カヴァーに挿し変えられました。代わりに、「Methematics」「Eracist」「Glutton For Punishment」が加えられましたが、これら新規のトラックはどのようにして見つけ出されたのでしょう。
 「“Eracist”の核となっているのは、Mikeが80年代に書いたリフで、Treyが記憶の中から拾い出したものなんだ。その後Mikeは現在のブリッジを加え、歌詞を書いて曲を完成させた。“Methematics”と“Glutton~”は、同じく80年代に最初のデモを作った後で俺が書いた曲。自分で完成させた曲を録音したテープがあって、それを何年も実家に保管していたんだ。“Glutton”は歌詞も完全に出来上がっていた。“Methematics”にはタイトルも歌詞もなかったから、Treyと俺で高校時代のアイディアをプールして、Mikeに歌詞を書いてもらったよ。劣化したカセットテープの中に眠っていたんだけど、最初のデモと同じ時期に書かれたものだった。当時の俺たちはすでに他の音楽に移っていったから、練習することすらなかったけど」

Trey Spruance | Photo ©Husky Höskulds

――CORROSION OF CONFORMITYのカヴァー「Loss For Words」をアルバムに採用したのは、やはり今年1月に亡くなったReed Mullinへの追悼の意味合いが強いのでしょうか。
 「俺たちは大昔から、その曲を演奏してきた。90年代のいくつかのツアーで、Danny Heifetzのいたラインナップでね。 COCの『Animosity』(1985)は、他のクロスオーヴァー・レコードと並んで、高校生時代の俺たちにとって重要なレコードだったんだ。今年の初め、“Loss For Words”もリストに含めたリハーサルをやっている最中にReedの訃報が届いて、この曲を演奏することがそのままトリビュートになった」

――その他に、ライヴではCRO-MAGSやCIRCLE JERKS、7 SECONDSといったバンドのカヴァーを演奏していて、これらもレコーディングはされたそうですね。アルバム未収録の先行シングルとしてTHE EXPLOITEDの「USA」が公開されましたが、他の曲もいずれリリースされるのでしょうか?また、カヴァー曲のラインナップを見ていると、スラッシュメタルというよりはハードコア・パンクではないかと思うのですが。
 「そうだね、それらの曲はハードコアのカテゴリに入ると思う。80年代の俺たちは、なぜか自分の好きなジャンルにこだわる純粋主義者の派閥とは違ってたんだ。パンクとメタルは、俺たちにとっては仲間だった。多くの共通点と、ちょうどいい感じの差異があったんだよね。俺たちのオリジナル曲はスラッシュが多かったから、同じ時代のハードコア・ナンバーでセットを締めくくることにしたんだけど、これも楽しかった。それらの曲をどうするかは今のところ決まっていない。まだミックスもしてないんだよ」

――SEALS & CROFTS「Summer Breeze」のカヴァーは異色ですが、この曲を取り上げた理由は?
 「MR. BUNGLEというバンド名を決める前、“Summer Breeze”も候補だったんだ。基本的に、最もメタルっぽくない名前を探していたわけ。そんなわけで、“Summer Breeze”という曲は、俺たちとバンドの起源に結びついて笑えるものなんだよ。それに“Summer Breeze”自体すばらしい曲だし、セットリストに新鮮な空気を吹き込んでくれるからね」

――オリジナルの『The Raging Wrath of the Easter Bunny』は、Mike、Trey、あなたにとって音楽活動の出発点と言えるものだと思います。キャリアを重ねた現在、改めてそれと向き合う作業は、どんな気持ちをあなたにもたらしましたか?
 「3人とも、互いに出会う数年前からそれぞれ活動はしていたけれど、まあ、そうだね、『The Raging Wrath~』は、MR. BUNGLEとしての最初のドキュメントだ。オリジナルのテープが非常にローファイであることはさておき、技術的なレベルもあまり正確ではなかったから、その音楽を覚え直すにあたって、記憶の問題に悩まされたよ。何年も経つと、自分たちで書いた曲を、他の誰かが書いたものであるかのように客観的に見ることも容易になった。なぜ自分が特定の作曲上の決定をしたのか問い直さねばならなかった、というか、その決定を奇妙に感じたんだ。でも、その判断がどこから来ているのかを思い出すこともできたよ。17歳の頃はもっと自然に速く弾けるようになっていたから、少し懐かしくもあり、謙虚な気持ちにもなったね」

――この1stデモの直後から、MR. BUNGLEの音楽性は一気にミクスチャーなものに変わっていくわけですが、あの変化はどのようにして起きたのでしょう?
 「特定のジャンルに制限することに、すぐ飽きてしまったんだと思う。デモを作っている間には、メタルだけでなく、いろんなものを聴いていた。例えばOINGO BOINGO、DEVO、THE SELECTER、FISHBONEなどのバンドに注目して、ホーン・セクションの追加などで作曲の可能性を拡げようと決めたんだ。Treyと俺は、すでに様々な音楽のクラスで作曲をしていたから、そこでのアイディアをメタルに応用したり」

――先に書いたように、先行シングルはTHE EXPLOITEDの“Fuck the USA”だし、それ以前にDEAD CROSSもJello Biafraと「Nazi Trump Fuck Off」を演奏していました。今回のMR. BUNGLE再結成の背景に、現在のアメリカが陥っている政治的な混乱があると言えるでしょうか?
 「俺たちはバンドとして、政治的に行動するためのモチベーションを感じたことは一度もない。俺たちは音楽の選択をしているんだ。とは言っても、自分の政府を批判することが権利として認められている自由な国に住んでいるわけだからね。DEAD KENNEDYSを聴いたことがある人なら、Biafra氏の言葉の選択に驚かされるようなことはないと思う」

――MR. BUNGLEは、後続のバンドに多大な影響を与えています。あなた自身が、そうしたフォロワーの中で、これはおもしろいと感じたバンドはいますか?
 「ないね。確信を持って、ない」

――あなたは、このMR. BUNGLEだけでなく、FANTÔMASやTOMAHAWK、John ZornのプロジェクトなどでもMike Pattonと一緒にやってきて、彼とは最も付き合いの深いミュージシャンなのではないかと思います。また、それと同じくらい、John Zornとも共演の機会を数多く持っていますね。それぞれ、非常に個性的なキャラクターの持ち主として知られていますが、あなた自身はそういう人たちとうまくやっていけるタイプだという自覚はありますか?
 「うん、そうだな。それって、ベーシスト全般の特徴かもしれない。バラバラな要素をうまく組み合わせていくことに醍醐味を感じるっていう。例えば、ドラムとギターを結びつけたり、ヴォーカリストの邪魔にならないようにしたり、褒めたり、伴奏を添えたりするのが俺の仕事だ。ベーシストは柔軟性があり、それはチャレンジであると同時に自分自身にとって有益なことでもあるんだよ」

Trevor Dunn + Mike Patton | Photo ©Husky Höskulds

――John Zornは、MR. BUNGLEのメジャー・デビュー・アルバムからプロデュースを担当していますが、そもそも彼との縁はどのようにしてできたのでしょう?
 「みんなNAKED CITYのファンだったから、単純にプロデュースを依頼したんだ。それまでJohn Zornとは知り合いでもなんでもなかったんだけど、俺たちの考えを理解してくれそうな気がしたんだよね。初めて一緒に仕事をした直後から、俺たちがオープンマインドで好奇心旺盛、難しい音楽にも懸命に取り組めている様子を見て、彼は俺たちを個別に(共演者として)雇うようになったんだよ」

――もともとあなたの音楽原体験はBEACH BOYS、BLONDIE、CHEAP TRICKのようなバンドで、最初にクラリネットを習った後、13歳のときにベースを始めたそうですね。どうしてベースという楽器を選んだのか、その後スラッシュメタルからジャズまで様々なジャンルを横断してゆく中で、自分にとって軸となるジャンルや尊敬するベーシストは誰かなどについて教えてもらえますか?
 「兄がギターを弾いていたのがきっかけでロックにハマったんだ。兄がいないときに彼のギターをよく弾いていたし、ミュージシャンとして尊敬もしていたよ。11歳のとき、初めてコンサートに行ってKISSに無中になった。最終的にはロック・ミュージシャンになりたいと思っていたんだけど、兄とは少し違うことをしたいと思っていたから、ベースを選んだ。レッスンを受けるようになるまでは、その違いもよくわかっていなかったと思う。最初の先生のおかげで、すぐにロックだけでなくジャズやファンクにも触れることができた。Carol Kaye、Bobby Vega、Larry Graham、Stanley Clarke、そしてJaco Pastoriusが、俺の最初のインスピレーション源だったよ」

Trevor Dunn | Photo ©Husky Höskulds

――ところで、少し前にKing Buzzoと『Gift of Sacrifice』という共演アルバムをリリースしましたね。あの作品をBuzz Osborneと一緒にやることになった経緯や、レコーディングの様子はどうだったかなどについても話してもらえますか?
 「Buzzが新しいソロ・アコースティック・アルバムを作っていて、一緒にツアーに出る前に(このツアーはもちろん今年の分はキャンセルされた)、何曲か演奏してくれって頼まれたんだ。彼がその音をとても気に入ったから、さらにレコーディングを続けた。この作品は全て、ロサンゼルスにあるBuzzとToshi Kasaiのスタジオ・The Sound Of Sirensでレコーディングしたよ。2人はヴォーカルとモジュラー・シンセを使っていくつかポスト・プロダクションを施したから、俺が聴いていたオリジナルとはかなり違ったサウンドに仕上がったね」

――2017年にはQUIと組んだアルバムをリリースしていますね。この作品についても、共演の経緯や感想を教えてください。
 「QUIとはToshiを通じて出会ったんだ。Toshiが彼らの曲“Whateryadoin?”を聴かせてくれたのをよく覚えている。数年後、LAでやっていたMELVINSのライヴでMatt Cronkと知り合った。彼が、一緒にレコーディングをしないかと誘ってきて、快く引き受けたよ。正直、もうずいぶん前のことだから、実際にどうやってレコーディングしたのかは忘れてしまった。やっぱり、LAにあるToshiのスタジオでの録音だったと思う。彼らは俺にトラックをいくつか送ってきて、俺自身の要素を加える余地をたくさん与えてくれたから、その間に追加のアイディアを思いつくことができた。実に楽しくレコードを作れたし、本当に奇妙でおかしい曲の演奏を楽しめたよ」

――Toshi Kasaiの仕事をどう評価していますか?
 「超一流。彼が、ちっちゃな雌犬みたいに叫んでるときを除いてね」

――あなたもゲスト参加している、TITAN TO TACHYONSというバンドにとても注目しています。Sally Gatesとはどんなミュージシャンなのか紹介していただけますか?
 「Sallyはニュージーランド出身の素晴らしいギタリストだ。以前プレイしていたフロリダ拠点のORBWEAVERというメタル・バンドで聴いたことがある人もいるかもしれないね。彼女は数年前にニューヨークへ引っ越してきて、様々な種類の音楽を探求している。それに、素晴らしい画家でもあるんだよ」

――ちなみに、あなたはFiona Appleのファンで、新作『Fetch The Bolt Cutters』を研究しているそうですが、あのアルバムの聴きどころについて、あなたの見解を教えてもらえますか?
 「うーん、ちょっと難しいな。まだそこまで深く掘り下げていないし、彼女は簡単には理解できないアーティストだからね。彼女の作品には、長い期間を通じても変わらない一貫性があると思うけど、一方でずっと探求も続けていて、本当におもしろい組み合わせやアプローチを考え出している。彼女の新作を聴くたびに、不思議な気持ちにさせられた犬のように首を傾げ、涎を垂らしながら尻尾を股間に挟んでしまう……俺にとっては、そういうアーティストのひとりなんだ。とにかく、ニュー・アルバムもすごいレコードだと思うし、今後もっと楽しみながら聴き込むつもりだよ」

――さて、現状なかなか予定が立てにくいかとは思いますが、この後どう活動していこうと考えているか、現時点での計画を教えてください。
 「現在は、自分自身のプロジェクトTRIO-CONVULSANTのために曲を書いていて、デュオのSPERMCHURCHとしてのレコードも完成したばかりだから、それらをリリースしてくれるレーベルを探しているところだ。今は亡きオランダ出身のミュージシャン、Sannety(Sanne van Hek | 今年4月に急逝)と一緒に、エレクトリック・ベースとエレクトロニクスを組み合わせた作品だよ。彼女のウェブサイトをチェックすることを強くお勧めする。直近でツアーの可能性がない現状では、今後の予定を立てることは基本的に不可能だ。ゲームは完全に変わるかもしれないし、それは誰にもわからない。その間は、ただただ工夫を凝らし続け、その努力が、食っていくための助けになることを望むしかないね」

MR. BUNGLE Official Site | https://mrbungle.com/
Trevor Dunn Official Site | https://www.trevordunn.net/

MR. BUNGLE 'The Raging Wrath Of The Easter Bunny Demo'■ 2020年10月30日(金)発売
MR. BUNGLE
『The Raging Wrath Of The Easter Bunny Demo』

国内流通仕様CD IPC226CDJ 2,300円 + 税

[収録曲]
01. Grizzly Adams
02. Anarchy Up Your Anus
03. Raping Your Mind
04. Hypocrites / Habla Espanol O Muere
05. Bungle Grind
06. Methematics
07. Eracist
08. Spreading The Thighs of Death
09. Loss For Words
10. Glutton For Punishment
11. Sudden Death