Interview | 宮田 信 (MUSIC CAMP, Inc. | BARRIO GOLD RECORDS) + Slowly


BRAINSTORY Japan Tour 直前対談

 2021年発表のEP『Ripe』(Big Crown Records)から溢れ出したサイケデリアは、この地にも届いてる。ロサンゼルスの郊外、インランド・エンパイア出身のトリオ・BRAINSTORYが2023年、初めて来日し、10月20日よりツアーを敢行する。2017年にCHICANO BATMANのEduardo Arenasのプロデュースでデビュー・フル・アルバム『Brainstory』(El Relleno Records)を発表し、のちにNYの「Big Crown Records」から2ndアルバム『Buck』をリリースしているBRAINSTORY。チカーノ・ソウルの文脈の中でそれは伝わってきた。フィンランド出身ながらLAのチカーノたちに愛され、昨年来日を果たしたBobby Oroza。彼のアメリカでのバックバンドを務め、2組でアメリカをツアーするBRAINSTORYをここ日本で引き続き観られることはどれだけ大きなものをもたらすのだろうか?『チカーノ・ソウル~アメリカ文化に秘められたもうひとつの音楽史』(2020, サウザンブックス)を出版したルーベン・モリーナの来日にあたって、その意味を深く理解するためにDJ HOLIDAYの司会のもとで今年5月に実施した宮田 信(MUSIC CAMP, Inc. | BARRIO GOLD RECORDS)と仙人掌(MONJU)の対談に続き、チカーノ・ソウル対談第2弾として、宮田 信(以下 M)とSlowly(以下 S)による対談をBRAINSTORY来日直前にお届けする。

進行・文 | COTTON DOPE(WDsounds | Riverside Reading Club | 以下 C) | DJ HOLIDAY(以下 H) | 2023年9月


――H | BRAINSTORYが10月に来るというので、Ruben Molinaさんが来日された際に宮田さんと仙人掌の対談を企画させて頂いた第2弾みたいな感じで、いろいろなかたと宮田さんがお話しされているのをただ聞きたいだけっていう趣旨なんですけど……(笑)。今回は普段から親交も深いDJ / プロデューサーのSlowlyさんをお呼びさせていただきました。Slowlyさんは宮田さんがご紹介されているような音楽をずっと追ってるじゃないですか。そのきっかけみたいなものから、まずお聞きしたいです。

Bobby Oroza 'This Love'S 「古くは宮田さんがBMG時代に手がけていたWARも聴いていましたし、WARネタのラップコンピ『Rap Declares War』(1992, BMG | Avenue Records)とかも聴いてました。その後、僕はジャズとかに傾倒したりしてたんですけど、そこからまた徐々にソウルとかっていう嗜好になって、やっぱりBig Crown Recordsから出たBobby Orozaですね。LAに行ったときに、ディーラーが当時出たばかりの『This Love』のジャケット付きのレコードを“お前これ知ってるか?”って聴かせてもらったら、めちゃくちゃ良くて。そのとき“これいくら?”って聞いたら$100でした」
M 「たしかにジャケット付きはレアですからね」
S 「LAでは諦めて、日本に帰ってきたら普通にあった(笑)。そこから Big Crown系はすごく買うようになりました。Colemine Recordsとか Daptone Recordsとか、ああいうレーベルを掘り下げて。最初はその流れの中で BRAINSTORYを聴いていて。『Dead End』(2019)。あれにめちゃくちゃくらって、それからですね」

――H | 『This Love』のリリースっていつくらいでしたか?
M 「2018年とか19年とか、Big Crownから出る前にTimmion Recordsから出ていて(2016)。最初LAの人たちが騒いで、みんなたぶんチカーノだと思っていて。まだそう思ってる人いるんですよ。音楽とジャケットがね。コンガが大きく描いてあって、Orozaってスペイン語の名前なので、たぶんLAの人だと思ってるんですよね。まさかフィンランドで、誰もボリビア系なんて予想もしてなかったっていう」
S 「僕もまさに西海岸の人だと思って、調べていったらびっくりして。この人すごくマニアックな感じだなって。実際に会ってみたらすごい好青年」

――H | 中心となるような大きなレーベルがあって、そこから派生したような小さなレーベルがいくつもあるのって、レゲエとかではけっこう馴染み深いと思うんですが、Big Crownや、それよりも小規模な他のレーベルになると、宮田さんみたいなかたがいないと追い切れないと思うんですよ。
M 「そういうのをピックアップするために始めたわけではなくて。最初は普通に、日本に入って来ていないLAのチカーノ系のCDが当時たくさんあったのと、同時にEL CHICANOとかその周りのファンク系とかラテン・ロック系の知られていないバンドがたくさんあったので、それをリイシューしていこうと。チカーノのイメージでなくてもバリオを母体にしているものがあれば、それを紹介していこうというところで始めて。それが今はスウィートな音源ばかりになってきて。必ずしもうちでチカーノ・ ソウルだけをやりたくて始めたわけじゃなくて、その向こうにあるものを仕入れているうちにだんだんその色が濃くなってしまった感じです。いわゆるラテン・ロックとかの、メジャーになっていくてCDを自主制作で2、3枚出したよ、というような、地元のいわゆる箱バンみたいなのがいっぱい活動している。公園でやる地域のイベントに呼ばれて演奏するというレベルのバンドがめちゃくちゃ良いスウィート・ソウルをラテン・ロックとクンビアの間に入れたりとか、そういうのをやたらと丁寧に紹介してました。あと20年以上前に編集した企画盤『イーストサイド・ソウル・クラシックス 1963-1977』(2004, BARRIO GOLD RECORDS)とかクラッシックスの中にもちろんスウィートなものを意識的に取り入れたものはあったので、そういうのに慣れてはいたんですが、まさかBig CrownとかDaptoneとか、そういうものが出てきて、マスに紹介していくようなことが起きるとは全然思っていなかったんですよね」

――H | Big Crownに関して言ったら、僕はもちろん宮田さんが紹介してくれたレコードで知ったんですけど、後から調べてみたらチカーノ・ソウルっていうか、もう少しトラディショナルなソウルとファンク寄りなレーベルのイメージなのかなって思うんです。
M 「完全にそうですね。経営陣のひとり(Danny Akalepse)がDJでもあるんですね」

――H | Bobby Orozaとかにしてみると、あまりメロウとか言いたくないんですけど、なんかもう少し質感が柔らかいな、っていうのがあって、それがずっと続いてるじゃないですか。レーベルとしてちょっと意識しているのかな、と感じました。
M 「スタイルのヴァリエーションがいろいろ増えてきたっていうことだと思います。EL MICHELS AFFAIRの音は相変わらずだし、Lady Wrayみたいなヒップホップがちゃんとあるし、その横でああいうロサンゼルスを中心としたスウィートなもののマーケティングをしっかりやるっていうことだと思うんですよね。あの人たちはやはりスタジオワークがめちゃめちゃ凝ってるんで、音の作りかたとか、単純に昔のソウル・ミュージックのバラードのカヴァーを再生産するというよりは、しっかりとEL MICHELS AFFAIRのアイディアやセンス、蓄積していたものがそこにすごく反映されている。だからちょっとやっぱり他のレーベルと比べると違う感じ。DaptoneのPenrose Recordsのシリーズは、THE ALTONSやTHEE SACRED SOULSは例外ですが、けっこうそのままのものを出していると思うんだけど、Big Crownのほうはすごく演出が効いてる」

Slowly
Slowly

――H | Slowlyさんがそのあたりのレコードを集め出されたのって、さっきのBobby Orozaのレコードの前に何かありますか?
'East Side Story'S 「それこそ当時LAで『East Side Story』を買って、“これは何なんだろう”って聴いたらスウィート・ソウルが入っていて。いわゆる定番ですよね。それですごく“現地の人が聴いているのはこういう感じなんだ”って思って。LAのイメージにメロウなところが僕はあまりなかったんですよ。宮田さんがご紹介されていたような、WARとかEL CHICANOとかのラテン・ロックのイメージ。だから、スウィートなところはそこがきっかけですね。それでスウィート・ソウルをちょこちょこ買うようにして、しばらくしてからBig Crownとかを聴いて、現行でもこういうことやってる人たちがいるんだ、ってけっこうびっくりした」

――H | いわゆるラテン・ロックみたいのって、DJのときかけられてました?
S 「昔ですね。レアグルーヴをよくかけている時代があって、そのときですね。EL CHICANOの“What's Going On”とか。MALOとか」

――H | MALOも90年代に入ってすぐくらいに再発がありましたよね。
M 「1stをCD化して1枚だけ出て、それのライナーは俺が書いてるんですけど、4枚あるうちの1枚目しか出なかったんですよね。それで、うちの会社が2005、6年くらいにWarnerからのライセンスでそれぞれ個々に全世界初でCDを出したんですよね。その前に90年代中盤、SANTANAの新譜が出たときに『レコード・コレクターズ』でラテン・ロック特集があって、そのときも記事を書いていて、いつか紹介しなくては、そして再発しなくては、ってずっと思っていたんですよね。おもしろいのは、やっぱりEL CHICANOにしてもMALOにしても、作品の中に必ずスウィート・ソウルの要素は入っているじゃないですか。それが現場のチカーノたちに向けてわざと作ったというよりは、もう極自然にバリオの中にあるもの、そこにあるいろんなものをミックスしているのが西海岸のラテン・ロックだったので、単なるアフロ・キューバンの融合だけじゃなくて、そこにスウィート・ソウルも内包されてるのが、MALOとかEL CHICANOの魅力。SANTANAなんかはもうちょっと激しいプログレッシヴな感じがしますけど、MALOやEL CHICANOはもっとストリート寄りっていうか。もうひとつの人気ラテン・ロック・バンド、AZTECAとかと一緒に公民権運動等の集会でのライヴなんかにも熱心に出演していて、だから本当に西海岸のバリオのテイストっていうのがものすごくあったんですよね」

――H | EL CHICANOのアルバムにも1曲だけ超メロウな曲が入ってたりしますもんね。
M 「チカーノの有名な、“Sabor a Mí”っていうメキシコのボレロをラテン・ロックで歌うスロウ・バラードなんですけど、ある意味本当にスウィート・ソウル的なところがありますよね。70年代の話ですけど、地元の高校の卒業パーティーであれをかけて、みんなでチーク・ダンスを踊っていたらしいです」

――H | SlowlyさんがDJされてる時は、そういったスウィートなソウルと分け隔てなくレゲエをかけてると思うんですが、そういうのって意識して混ぜようとしてますか?
S 「そうですね。近い部分ってあるじゃないですか。今里さんのDJがそれで、僕は衝撃を受けたんですけど。やっぱり悪い奴ほど甘いものが好きっていう(笑)ジャマイカ人のどルーツみたいなのもあれば、メロウなやつをすごいドレッドの奴がやってるとか、人間両面持っているっていうところがすごく好きで、それを並列にかけるほうがいいのかな、って」

――H | それと新しいもの、現行の作品を昔のレゲエと一緒にかけられているイメージがあって。それが、すごく現行のものを大切にしている感じがします。
S 「そうですね、やっぱりオールディーズだけじゃなくて、現行のものも一緒に、並列でかけるっていう。国もジャンルも年代も分け隔てなくかけるっていうのがなんか好きですね」
M 「やっぱり、現行のものを扱っている我々の責任という感じもしますよね。現行のものを混ぜていかないとやばいな、っていう感じは意識してます」

――H | さっきの話にちょっと戻っちゃうんですけど、それってやっぱり紹介してくれるかたがいてくれないと、あまりにも多すぎるからわからないっていう。
S 「流通が個人のBandcampっていうバンド、多いじゃないですか。そういう中で7"を1枚1人で買うと5,000円とかですよね。宮田さんのところで買うと、1枚2、3,000円じゃないですか、ありがたいですね」

――H | Raphael Saadiq が2008年ぐらいにちょっとヴィンテージっぽい作りのアルバムを出したことがあって、自分的にはけっこうあれが転機でした。そこからそういう感触の現行の音楽を探っていって。BRAINSTORYの最初のEPは2014年か15年で、2000年代初頭からの世界的なそういう流れも関係あったりするんですか?
M 「BRAINSTORYはBRAINSTORYの中の流れでやっている感じのような気がしますね。ヒップホップ、ジャズ独自の表現は影響を受けているところがちょっと他と違うな、っていう感じです。俺が最初にBRAINSTORYを観たのは、たぶんCHICANO BATMANのベーシスト・É Arenasのソロ・アルバムを出すときのリリース・パーティ。俺とGomez(ex-SLOWRIDER)と3人でDJをやったんですよ。そしたら“クンビアかけろ”みたいなお客さんがたくさんいて。俺、途中でやめちゃったんですよ(笑)。クンビアそんなに持ってないから。その頃クンビアが大ブレークしていて、すごかったんですよ。しかも本当にヴィンテージの踊れるクンビアで、オシャレなチカーノたちがみんな踊ってるんですよ。それでÉ Arenasの演奏が始まったら、全然違うサイケデリックなトロピカルとロックを掛け合わせた演奏が始まって、そのバックをBRAINSTORYがやってたんです。ドラムは違うんですけど、ギターとベースの2人。演奏がめちゃくちゃ巧くて、そのときの彼らのマネージャーがもともとCHICANO BATMANの最初のマネージャーだったので、ちょっと音を聴かせてもらったら、最初は全然わからなくて、“早く輸入してやってよ”、“まだわかんねえよ”みたいな感じで時間が過ぎていったんですけど(笑)、それが最初。やっぱり現場では特異な、変わった音作りで、Rubenさんや一緒に来ていたテキサスのHector(Gallegos Jr. | Alamo City Soul Club)とかもみんな、最初に聴いたときはわからなかったって。何回も聴いてるうちにだんだん、BRAINSTORYがすごいことやっていることに気が付いたらしいです。ちょっと他のバンドとは何か流れが違うことになっている。そのとき本当にもうギターが巧くてびっくりしましたね。“ジャズをやっていた”って聞いて、なるほどねって」

――H | Slowlyさんは最初に聴いたとき、どういう印象でした?
S 「最初に聴いたのが『Dead End』で、とにかく素晴らしいし、アルバムもサイケデリックな匂いがして。でも僕はBRAINSTORYの背景がわからなくて、西海岸に昔からあるヒッピー・カルチャーも含めて、いろいろ関連があるのかな?と勝手な想像をしていたんですけど。とにかく一筋縄ではいかない。宮田さんがおっしゃるようにジャズの感じもある」
M 「たぶん、僕は全然詳しくないんですけど、なんかああいうサイケデリアみたいなことが今から10年くらい前にロサンゼルスではけっこう流行っていたっていう感じはありますよね。なぜかというと、ロックのサイケデリアもあるんですけど、やっぱりブラジル音楽をみんな聴いていたんです。たぶん」

――H | トロピカリズモ?
M 「Caetano Velosoなんかみんなすごく好きだし、インターネットの影響とかもすごくあると思うんですけど、レコード・ディガーとして掘っていくと、中米のラテン・ロックとかにめちゃくちゃかっこいいサイケデリックなやつがいっぱいあるんですよ。あとKHRUANGBINみたいなのが出てきてる。チカーノじゃなくてもロサンゼルスで、僕はよく知らないんですけど、やっぱりああいうサイケデリックなことをやっているロック・バンドがいっぱいいるんですよね。そういうのも互いに影響を与え合っているんじゃないですかね。OS MUTANTESとかにもすごく影響を受けていると思います。CHICANO BATMANのメンバーは実際にブラジルに行ったりとかしているし、ヴォーカルのBardo(Martinez)なんかはCaetano Velosoのことを本当に意識してますよ。CHICANO BATMANがニューヨークでレコーディングしたときに、Big Crownの人たちにBRAINSTORYの話をしたら、デモを送ってくれということから始まって、Big Crownと契約したそうなんですよ。CHICANO BATMANの紹介でBig Crownからリリースしたという。本当に兄弟バンドっていうか」

S 「CHICANO BATMANはLAではもう大きいバンドですよね。BRAINSTORYはどれくらいの規模なんでしょうか?」
M 「2月に観てきたときとかはたぶん、6~700人くらい集められる感じで、現在はロサンゼルス以外のところにもいろいろ広げていこう、ってツアーを回っている。あとLady WrayのバックバンドがBobby Orozaのバックバンドもやっていて、先日メキシコシティで初めてやったんですけど、BRAINSTORYのライヴもめちゃくちゃ良かったらしいですよ。でもスペイン語が全然喋れなかったらしい(笑)。最初のときは、HOLY HIVEとBRAINSTORYのメンバーをバックにつけてBobby Orozaがやったんですけど、その次にイースト・ロサンゼルスの有名なシアターでやったときは、Timmionを運営するメンバーでもあるヘルシンキのCOLD DIAMOND & MINKがバック演奏を務めていました。その後に観たとき(2023年2月)はBRAINSTORYがバックをやっていました。Timmionの人たちのソウル愛は本当にすごくて、いろんなところに影響を与えてると思います」

――H | SlowlyさんはLAには良く行かれてましたか?
S 「そうですね、2014年頃は年に数回行っていて。僕はもともと、パンクはどうしてもUKとか、NYはけっこうレゲエがあって、とか、そういう街がすごく好きだったんですよ。それでLAに行ってみたら一発でLAの音楽にハマっちゃう。Snoopとかああいうのも好きだし」
M 「ロサンゼルスの魅力ってそれなんですよね。関東平野と同じって言われてる。LAのそれぞれの地域にそれぞれのテイストがあって、ギャングスタ・ヒップホップがハマるような、ロングビーチのあの何とも言えない空気感の中のものと、イースト・ロサンゼルスのいろんなものが混じり合った、やっぱりメキシコの文化もすごく根付いているところで生まれているものはまた違うし、みんなその音楽の中にちょっとした小さいけど大切に築いてきたローカリズムが入り込んでる。Kamasi Washingtonとかも絶対そうだと思うし、新しいジャズの人たちなんかは、“黒人街の人たちが持っている音楽”というよりはもっと広い意味でのカルチャー・ムーヴメントを表現しているような気がするんですけど。そういうことがいっぱい起きてるんですよね」
S 「ちょっと店の名前は忘れちゃったんですけど、品揃えがすごくエクスペリメンタルなイメージのお店があって、そこに行ったら普通にお客さんでCarlos Niñoが来ていて、いろいろお話したんですけど、やっぱり地域地域のレコード屋にそういう人たちがいて、そこで育ってる」
M 「レコード屋さんにも人がいっぱいいるんですよね。あれがいいっすよね。中古レコード屋さんでも地元の奴とかと常にハングアウトしていて、そんな雰囲気が日本のレコード屋さんとは違う感じがあって。すごくカジュアルなんですよね。あと、それぞれの街を反映していて。イースト・ロサンゼルスにあるにある有名なSounds of Musicなんかは、本当にイーストLAで流れ続けてきた伝統の音楽が全部いつも揃えられていて、その意識には感動を覚えるほどです。だから品揃えが街によって違う。レコード屋さんに行くと、その街にどんな人種が暮らしていて、どんな生活レベルにあるのかもわかるんですよ」

宮田 信
宮田 信

M 「今、新しいレコード屋さんが本当に増えてますよね。すごいですよね、ロサンゼルスは」
S 「しばらく行けてないんですよね、最後が2019年のコロナ前ですね」

――H | 差し障りない感じで、そのときに行かれたレコード屋さんで良かったレコード屋さんは?
S 「最近はどうかわからないですけど、Record Jungleとか」

M 「イースト・ロサンゼルスのはずれにあるレコード屋さんですね。レコード・ブームの先駆けになったお店で、店主のAndy(Perez)は、LAの中古レコード業界にすごく大きな衝撃を与えましたよね。ラテンからヒップホップ、全部詳しいですよ」

――H | LAのレコード屋さんでUKのものを見かける機会ってあるんですか?
S 「相当少ないですね」

――H | それってなんでですか?
M 「流通の問題ですかね。あとはやっぱりLAのレコード屋の中でも中古レコード屋は、これはGomezが言ってたんですけど、“人、特に移民の移動と一緒にレコードも移動してくるんだよ”って。だからラテンのレコードとかは別に、“レコードが輸入された”っていうよりは、本当に“国境を超えてくる移民の流れにレコードが付いてくる”という社会学的な見かたで音楽を理解するようなことをいつも言っています。なんかちょっと違うんですよね。だからフレズノとかカリフォルニアの中西部、ものすごく大きな農業地帯ですけど、そこの中古レコード屋に行くと、昔の美空ひばりのレコードとかがあるんです。出てくるんですよ。日本からの農業の移民の人たちが住んでいたから。坂本 九の『上を向いて歩こう』も、そのフレズノのラジオDJがかけたところから全米1位になっていたわけですから、人の移動がすごく重要だっていうことですよね」
S 「ジャマイカに行くとUK盤がけっこうある。UKルーツとかラヴァーズ・ロックとか、意外とジャマイカにもあるんですよね」

――H | 逆にUKのレコード屋さんに、いわゆる西海岸の音楽はありますか?
S 「UKは当時のアメリカ盤はそこそこ入ってくるんですよね、いわゆるメジャーなものはわりとあります。高いですけどね」

――H | USのレコードだと、どんなものがUKでは人気なんですか?
S 「UKってやっぱりソウルがすごい。ノーザン・ソウルもそうですし。それこそ昔のモッズもそうですし、スキンヘッズもそうですよね。やっぱりそういう時代から、60年代から脈々とソウルが聴かれている」
M 「チカーノのシングル盤の値段が高いものは、ノーザン・ソウルの人たちが特に注目しているからという部分がある。実際不思議なのは、60年代の人、例えばTHEE MIDNITERSとかは、もうノーザン・ソウルじゃなくてUKのTHE ROLLING STONESにすごく影響を受けているんですよ。髪型もそうなっちゃってますもん。着てる服も。UKサウンズにすごく影響を受けて、彼らがそこにメキシカン的な感覚で演奏したものが、ノーザン・ソウルの人たちからも高く評価されているという」

――H | まさに先日の来日時のHectorさんの大阪でのセットって、そういう感じでしたよね。
M 「たしか、あの後ノーザン・ソウルのイベントに呼ばれてDJやったみたいです。Rubenさんも、一番最初に呼んでくれたのはノーザン・ソウルの人たちで、UKだったんです。THEE MIDNITERSはみんな探してますね。僕も探してる有名な1枚があるんですけど、$1,000くらいしましたね」
S 「スウィートが裏に入っているノーザン・ソウルだと、めちゃくちゃ高いですよね」

――H | Pama Recordsの裏とかにもノーザンぽいやつ入ってたりするじゃないですか。そういうのって自分の中でHectorさんがかけてたようなのと同じ感じで、そこの共通点をあれ以降考えちゃって。現行のUKのソウルを聴いている人も、宮田さんが紹介しているような音楽ってすんなり入れるんじゃないかと思っていて。
S 「その共通点を冷静にあまり考えたことがなかったです。UKの人たちって、やっぱりノーザン・ソウル、レアグルーヴ・カルチャー、そういう流れから来ていて、なんかやっぱり独特ですよね。サウンドシステムなんかはベースもすごいですよね。やっぱりちょっと独特なところはあります」

――H | さっき宮田さんにも聞いてたんですけど、Monilocaさんが来日されたときに同行されていたDJのSpiñoritaさんがけっこういろんな音楽をかけてらして、ニュージャックスウィングみたいなやつとか。静かな曲だけじゃないというか。
S 「たぶん世代的なものもあるんですけど、僕らくらいの年代って、どうしてもヒップホップを通過してる。やっぱりそういうところがどうしても自然と入ってくる」
M 「チカーノのDJたちの間で今すごく人気あるのがSADEとBobby Caldwellですから。Bobby Caldwellのレコード高くなってますよ。あんなにいっぱい300円くらいであったレコードが。びっくりしますよね。なんで?って思っちゃう。CHULITA(VINYL CLUB)たちもみんなかけてます」
S 「SADEをかけてる人って後追いなんですかね?」
M 「後追いなんですよ。絶対リアルタイムで知らないですね。20代後半とか30代前半」
S 「レアグルーヴ的な」
M 「過去の音源からの発掘という意味ではそうかもしれません。当時バリオで流れていたというよりは、新しい世代の人たちが知らなかったクールな音源を見つけているということだと思います」

――H | BRAINSTORYは一番最初にリリースしていた音源もサイケデリックなんですか?
M 「いやこれ(『Ripe』)に似てますね。完全に彼らの音ですよ。ちょっと変わったロック」

BRAINSTORY 'Ripe'

――H | 前作のリリースから2、3年経ってますね。
M 「そうですね。でも、新しいアルバムもほとんど完成してるみたいです。実はちょっと聴かせてもらったんですけど、すごく良かったです」

――H | ギターとドラムにすごく特徴がある音楽だと思ったんですけど、実はベースのかたが多才なんですよね。
M 「ライヴでは彼のベースがすごいです。全員すごいですよ。ドラムも音が大きいし、すごく巧いし。やっぱりジャズで鍛えてきてたんですよね。でも“ジャズやっててもしょうがねよ”ってやめちゃったところがおもしろいんですよね。“やーめた”っていう感じでやめたらしいです。自分たちの好きなことをやってみよう、って。さらにとてもメロウでリラックスしている。歌詞は詩的で、そこにうまくスモーク文化を絡めている」

――H | MVとか観ていても、けっこう前面に押し出してるじゃないですか。 LAで大麻が合法化になる時代の流れと、BRAINSTORYの活動って同時期ですよね。そういう高揚感みたいなものは反映されてるんですか?
M 「ちょっとそこのところはまだ聞けていないんですけどね。ただ行くとやっぱりみんなやってますよね。でもそれは前から、30年以上前にLOS LOBOSがGreek Theaterでやったライヴに行ったら、そのときもみんな回してた。もちろん全員ではないので誤解してほしくはないのですが、ある意味文化の中のひとつです、と言ってもいいかもしれません」

――H | 西海岸のイメージにそういうのも正直あるじゃないですか。
M 「マリファナ文化みたいなものをちゃんと考察しないといけないですよね。マリファナと音楽の関係性もちゃんと考えないといけないような」

――H | BRAINSTORYっていうバンド名もそういう感じなんですか?
M 「いや、バンド名の由来は、彼らの同級生にBrian Storyっていう名前の人がいて、卒業アルバムの写真の名前の綴りが間違ってBRAINSTORYになってたから、おもしろくてそれをいただいちゃったっていう(笑)」

――H | サイケデリックな要素はそういった文化が近くにある影響があるのかなって。
M 「彼らはインランド・エンパイアってロサンゼルスから1時間半ぐらい東へ行ったほうの地域の出身です。砂漠と街の境のような広大な場所で、都市部の高い地代から逃れるように最近はAmazonなどが進出しています。雇用が生まれる一方で公害問題も起きています。働き手としてチカーノたちが多く暮らしていますが、おもしろいバンドがたくさん出て来ています。ライヴハウスがないから、ガレージの中で練習してパーティもやる。昔のイースト・ロサンゼルスのような状況かもしれません。そう、Cheech Marinのチカーノ・アートのコレクションを一堂に展示する美術館もオープンしていて、一帯のチカーノ文化の発信源にもなっています」

――C | その地域のバンドで今おもしろいと思ってるバンドはいますか?
M 「QUITAPENASというトロピカル系のバンド。うちの会社でも紹介しています。そのバンドから派生した感じで、トロピカル系音楽様式にマヤ〜アステカ文明の伝統を融合させるような実験的かつ呪祭的な音楽を奏でるMILPAという素晴らしいコレクティヴもあります。あとBRAINSTORYのメンバーにEL-HARU KUROIのEddika(Organista)が参加するバンドもありましたが、そちらは最近活動を休止しているようです。インランド・エンパイアがおもしろい地域なんですよね。LAとちょっと違う、僕も先日行きましたけど、すげえ遠いというか、リヴァーサイドってあるじゃないですか?あそこです」
S 「リヴァーサイドのあたりは1人レコード・ディーラーがいて、LAに行くと言ってました。渋滞しちゃうと大変ですよね。すごく混むんですよ」

――C | 郊外のバンドっていう感じで合ってますか?
M 「そうですね。郊外の感じがちょっとしますね。あれがイースト・ロサンゼルスだとまたちょっと違ったかもわからないですね。今はロングビーチのほうにスタジオを持っているみたいです。ある意味やっぱり、LAのバンドは遠く離れているところが彼らの音を作った、っていうところはあるかもしれない」

――H | 向こうではレコード店より各地域のディーラーから入手することが多いんですか?
S 「やっぱりソウルとかそういうのが欲しかったらけっこう悪いエリアにいかないければいけない。そういうところでもすごく良いのが買えるんですけど、状態が悪くて。おもしろいです」
M 「状態悪いですよねロサンゼルス」

――H | 以前もおっしゃっていましたが、食料品店の裏とかに積んであるっていう。
M 「雑貨屋さんの中とか。そういうところにありますよね。そういうのはもうなくなっちゃいましたけれども。今はもうないですね。たぶんそういう、何か良いものが溜まっていそうなところは全部みんな見ちゃったと思いますよ。地元のレコード・ディーラーがそういうところで買い付けて、我々がディールする。でもレコードがおもしろいのは、またそれがどこかに溜まって。俺、昔フラッシュ・ディスク・ランチ(東京・下北沢)でアルバイトさせてもらっていたときに、2回くらいかな、買付のときに参加させてもらったことがある。LAの暴動が起きる前の黒人街はものすごかったです。今でも夢に出てきますよ。お宝がすごかったし、全部買っておけばよかった。ソウルとか、ジャズも、オリジナルが置いてある。すごかったですけど、もうたぶんみんな暴動で消えてしまったかもしれません」

――H | レコードって価値が変わっていくじゃないですか。そういうのも自分はおもしろいと思ってしまうんですよね。
M 「アメリカのLA周辺の最低賃金はもう日本の倍なので、レコードが高くなっちゃうのも仕方ないですよね。買付なんかできないですよね。難しいですよ。今年の2月に行って、自分のレコード買えなかったですもん。ほとんど買ってないです。あんなに買わなかったの初めてです」
S 「今は海外から来て、日本に買付に来ちゃいますよね」

M 「これは別に狙ったわけじゃないですけど、Bobby Orozaの来日公演をやって、Ruben Molinaさんが来て、それで今回BRAINSTORYって、すごく良いかたちで今まで紹介されてこなかったロサンゼルスのシーンを伝えさせてもらっていると自分で思っています。BRAINSTORYを呼ぶっていうのは、今回はまずピーター・バラカンさんのLIVE MAGIC!のプロデューサーでもあるクリエイティブマンの平野(敬介)さんにプレゼンさせてもらったら気に入ってくれて、それからピーターさんにプレゼンしてくれて“すごくおもしろい”、“じゃあやろうか”ということになって、LIVE MAGIC!、晴れたら空に豆まいて(東京・代官山)、そしてBUSHBASH(東京・小岩)で公演を回せればなんとかなるかと決めたんです。メンバー3人 + マネージャー1人の計4人を招聘するのは簡単ではありません。特にこの円安やインバウンドで都内のホテル代などが大高騰してる中では。今回はピーターさんやBUSHBASHの柿沼さん(柿沼 実 | FIXED, TIALA)らの協力があって、なんとか実現できました。ぜひBobby OrozaとRubenさんを観た人は、この貴重な機会に観てほしい。すごい体験をしてほしいです。LAのバリオを中心として起きている新しい音楽のムーブメントが、体験できると思います。連続性があるっていう考えを、意識してもらいたいな、と思います」
S 「BRAINSTORYの見どころは?Bobby Orozaのときはスウィートなだけじゃなくてグルーヴィなところというのがあって、すごく盛り上がりました。そういう見どころっていうのは?」
M 「まずひとつは歌の巧さです。これはあまりレコードでは発揮されていないですけど、ライヴで見ると本当に歌が巧い。3人の演奏力もライヴもすごいし、本当に巧いジャム・バンドのように演奏がいろいろ発展していきます。スタジオで録音されたものとはちょっと違う、もっとアグレッシヴな。あとメロディのセンスがすごい。インタビューでも言ってますけど、ジャズのコードワークをすごく駆使しています。ちょっと音が変わってきていて、この間2月に観たときはギターの音色とか、ものすごくサイケデリックになっていて、“ちょっとやりすぎじゃね?”っていうくらい(笑)。会場の雰囲気がそういう感じだったんですけど。マネージャー曰く“もう盛り上がればどんどんやっちゃう”、だからオーディエンス次第っていうところもあるんで……盛り上げたいです!宣伝になりますけど、対バンで22日はおなじみのTINY STEP "SOUTHSIDE" TRIO、23日は全員日本人によるカンボジアン・ファンク・バンドLES KHMERSが出演してくれます。クマイルスは関東一円のカンボジア人コミュニティからすごい支持を受けてます。とても独創的で魅せます。ぜひ注目して欲しいです」

――C | ちょっと聞きたいんですけど、BRAINSTORYもインストゥルメンタル盤を出していて、Big Crownのリリースはインスト盤がけっこう出てるじゃないですか。で、Lady WrayとGhostface Killahとか、EL MICHELS AFFAIRとBlack Thoughtとか出てますけど、そういう流れってレーベル的なアイディアなんですかね?
M 「アイディアもあるけど、マーケティング的なところもあると思いますね。DJのファンも多いですし、インスト・ヴァージョンへの需要があるということだと思います」

――C | 音の質感的にヒップホップを感じるし、その感じもあってインスト出してるのかなって思ってました。
M 「BRAINSTORYと一緒にやっているMatthew Littleっていう、キーボード、フェンダーローズ弾いている人。この人が入るとすごくヒップホップになる。LAのヒップホップの有名なミュージシャンと演奏している実力派です。一度この人が入ったライヴを観たことがあるんですけど、めちゃくちゃかっこいい。あと、ラッパーも入ってくるんですよ」

――C | 「Vortex」(『Ripe』収録曲)とかはけっこう声が入ってない小節があって、なんかできそうって感じてました。
M 「本当はそういうゲストも入ってくると展開がもっと強くなって。ヒップホップの影響すごくありますよね」

――C | ツアーの初日になる小岩ではRiverside Reading Club共催ということで、ヒップホップやローカル性に特化したメンバーでやらせていただくのも、とても楽しみにしております。ありがとうございました。

BRAINSTORY Official Site | https://www.brainstorymusic.com/
MUSIC CAMP, Inc. Official Site | https://www.m-camp.net/
Slowly Linktree | https://linktr.ee/slowlysound

BRAINSTORY Japan Tour

| 2023年10月20日(金)
東京 小岩 BUSHBASH
19:00-
予約 6,500円 / 当日 7,000円(税込 / 別途ドリンク代)
予約

[Live]
BRAINSTORY / FIXED

[DJ]
Dopey / HANKYOVAIN

主催: Riverside Reading Club / BUSHBASH

| 2023年10月21日(土)
"Peter Barakan's LIVE MAGIC!"
東京 恵比寿 ガーデンホール / ガーデンルーム
開場 18:30 / 開演 19:00
https://www.livemagic.jp/

主催・企画: Peter Barakan's LIVE MAGIC!事務局

| 2023年10月22日(日)
東京 代官山 晴れたら空に豆まいて
開場 18:00 / 開演 19:30
予約 6,500円 / 当日 7,000円(税込 / 別途ドリンク代)
予約 | 晴れたら空に豆まいて 03-5456-8880 (15:00-22:00) | MUSIC CAMP, Inc. 042-498-7531 (10:00-20:00) bs2023@m-camp.net

[Live]
BRAINSTORY / TINY STEP "SOUTHSIDE" TRIO

[DJ]
DJ HOLIDAY / DJ SLOWCURV / TRASMUNDO DJs

| 2023年10月23日(月)
東京 代官山 晴れたら空に豆まいて
開場 18:00 / 開演 19:30
予約 6,500円 / 当日 7,000円(税込 / 別途ドリンク代)
予約 | 晴れたら空に豆まいて 03-5456-8880 (15:00-22:00) | MUSIC CAMP, Inc. 042-498-7531 (10:00-20:00) bs2023@m-camp.net

[Live]
BRAINSTORY / LES KHMERS

[DJ]
Sato Mata / Takashi Shimada / El Shingon