Interview | SIESTE


なんでも自分で作れるんだ!

 国内ガバ / ハードコア・テクノの黎明期にあたる1990年代後半、OUT OF KEY、HAMMER BROSの面々やDJ ISHII, Psybaらを中心としたコレクティヴ「JAP HARDCORE MASTERZ TEAM」の一員として活動し、ナンバリング・パーティ「EBOLA OF GABBA」のレジデントも務めたDJ / トラックメイカー・SIESTE。寡作ながらも、マスターピース『Kitty Whip』EP(1997, Kill The Rest)を筆頭に、柔軟な発想で作られたであろうムードが一際鮮烈な印象を残した彼女の楽曲群をコンパイルするアンソロジー『Go Back To Sleeeeep』を、梅ヶ谷雄太主宰「Murder Channel」がカセットテープ・フォーマットでリリース。

 これにあたり、現在はドールのアウトフィットやミニチュアを手掛ける作家としてブランド「LALA puppenhaus」を主宰し、世界的に活躍するSIESTEさんにメール・インタビュー。当時を振り返っていただくと同時に、表現形態が移ろう中にあっても変わらぬクリエイティヴィティの源泉について語っていただきました。


取材・文 | 久保田千史 | 2025年6月


――小さい頃のことを聞かせてください。ご自身で振り返って、どんなこと / ものに興味を持つ子供だったと思われますか?今も変わっていないな~、と感じる部分はありますでしょうか?

 「ぬいぐるみや人形は大好きでした。母が着物の仕事をしていて布や端切れが家にあったので、子供の手作りレベルですが、服を作ったりしていました。まさか後々ドール服に携わるとは思ってもいませんでしたが、いつまで経っても楽しいと思うことは変わらないんですね。お菓子やパンを作るのも好きで、“なんでも自分で作ることができるんだ!”というワクワク感が好きなんだと思います」

LALA puppenhaus

――周囲の人々は小さい頃のSIESTEさんをどのように回想していますか?
 「緊張しやすかったり、かなりの心配性なので、しょっちゅう自家中毒で病院に行く手のかかる子だったようです。そのくせに家では調子に乗りやすく、家族を笑わせるのが好きでした。兄が物静かで感情をあまり出さなかったので、笑うのを見るのが嬉しかったんだと思います」

――ご出身の京都で、お気に入りだった場所は?
 「自宅の屋根の上が好きです(名所ではなくてすみません……)。瓦ではなく、緩やかでフラットな屋根だったので、簡単に上がることができました。夜はイヤフォンをつけて寝転んで音楽を聴いていました。自分と空の間に何の障害物もないので、重力がなくなって空のほうに行ってしまうのでは?と怖くなったのも覚えています。夏には保津川の花火大会が見えるので最高です」

――贅沢な屋根ですね!空に落ちてゆく感覚、空間識失調というやつですね。わかります。物心ついた頃の印象的な出来事は?
 「小学生の頃に、友達5人くらいで廃屋に入ってラジオごっこをしていました。ラジオと言っても、ただカセットテープにお喋りを録音するだけでしたが、おもしろかったです。しばらくして、管理人のおばさんに見つかって叱られましたが」

――おおらかな時代が伝わるエピソードです。昔は空き地や廃屋で普通に遊んじゃってましたよね……。子供の頃に好きだった音楽や、初めて能動的に手にした音楽パッケージを教えてください。
 「小学生の頃にテレビで見た時代錯誤というグループの大ファンになりました。ジャッキー・チェンの映画『香港発活劇エクスプレス 大福星』(1985, サモ・ハン・キンポー監督)のテーマ「幸運序曲」という曲でした。当時は新聞のテレビ欄くらいしか彼らの情報源がなく、毎日のように熱心に探しているのを見た父親が、突然アルバムを買ってきてくれたのも良い思い出です(レコード屋さんに試聴機がなかったので、店内スピーカーで流されて恥ずかしかったそうです)。このグループはなぜか大陸をイメージした曲が多かったです。歌詞に出てくるベーリングからの風たち国境線に砂嵐など、聴くたびに目の前に異国の大陸が広がっていました。そのときは気にしていませんでしたが、アルバムは鈴木慶一作曲 / PANTA作詞と豪華で、今聴くとYMOな雰囲気もある打ち込みでした。ジャケットのデザインに惹かれて買ったのは、高橋幸宏の『Broadcast From Heaven』(1990)です。高校生の頃に本屋でバイトしていたとき、休憩時間は隣のCDショップによく行っていたのですが、このジャケットを見つけて、なんだこのおしゃれなデザインは!と衝撃を受けました。アートワークは横尾忠則が手がけています。なによりジャケット以上に曲も素晴らしく綺麗でかっこいいいです。私の永遠のアイドルです」

SIESTE

――エレクトロニックな質感は昔からお好きだったのですね。お兄様から教わった音楽などもありましたか?
 「直接教わったことはありませんが、小学生の頃は土曜日の夕方にやっていたMTVっぽい番組を一緒に熱心に観ていました。チャンネル権は兄のほうにあったので、観るアニメは男の子向けが多かったのですが、私としても女の子向けのアニメよりおもしろくて、主題歌やエンディング・テーマも心に残る良いものが多かったです。特に『F』(1988, フジテレビ系 | 六田 登原作)のエンディング(蛎崎 弘 + "r" Project『邪魔はさせない』)、『キャプテン』(1983, 日本テレビ系 | ちばあきお原作)のエンディング(99Harmony『ありがとう』)、『魁!!男塾』(1988, フジテレビ系 | 宮下あきら原作)のエンディング(一世風靡SEPIA『幾時代ありまして』)は哀愁が漂ってかなり好きな曲です(エンディングばっかりですね)。兄からは間接的ですが、大きく影響を受けていると思います」

――アニメのセレクションがシブいですね。私は同じ頃だと『魔神英雄伝ワタル』とか観てました……。ガバやハードコア・テクノには何歳の頃、どのようにして出会ったのでしょうか。今と違って、何かきっかけがないとなかなかリーチできない領域だったと思います。情報はどのように仕入れていましたか?
 「23歳の頃だと思います。OUT OF KEYのメンバーであるYam YamやSyntax(山本シゲトモ)にテクノのおもしろさを教わりました。OUT OF KEYは音源はもちろん、見せかたもかっこよくて、近くで見ることができたのは恵まれていたと思います。品揃えがおもしろいレコード・ショップも多かったので、じっくり試聴したり、発見を楽しみながら好みのレコードを集めていました。そこでPCP(Planet Core Productions | Marc Acardipane + Slam Burt主宰レーベル)のレコードに出会ったのも大きかったです。また、ハードコアやガバはまだ認知度が低かったので、同じジャンルが好きな稀少な人たちが強い力で繋がったのも、情報量やシーンが加速していった要因だと思います」

SIESTE

――私がSIESTEさんの存在を知ったのはとても遅くて、『Kitty Whip』EPを買ったときだったのですが、それ以前からDJとしてはご活躍されていたんですよね。どういう経緯でその世界に飛び込み、JAP HARDCORE MASTERZ TEAMの一員となったのでしょうか。
 「まだジャンルなどもはっきりと意識していない頃に、Fiber Zoomという美容室が主催するクラブ・イベントのファッション・ショウに参加しました。そのときになんとなくDJもやってみることになったのが最初です。JAP HARDCORE MASTERZ TEAMのメインではないので、成り立ちに関わってはいないのですが、関西でジン(『WAX』)を作っていたOUT OF KEYと、同時期に東京でジン(『裏口入学 '83』)を作っていたHAMMER BROSが繋がり、どんどん大所帯になっていく中でメンバーに入れてもらっていたという感じです」

――DJをする際によくかけていた曲、お気に入りだった曲を教えてください!
 「たくさんありますが、今聴いても変わらず大好きな10曲を選んでみました」

Pressurehead「The Surgeon General」1997, Surgeon 16 Recordings

We can't find it on the internet officially.

Demoiselle Douce Innocence「Moonbreaker」1997, Anticore Records

Frozen「Out Of The Light」1997, Narcotic Network Recordings

We can't find it on the internet officially.

Society Of Unknowns「Into The Ditch」1997, Praxis

Zekt「Fixed」1997, Darkness

We can't find it on the internet officially.

Max E-Crew「Metal Ware (Fed Up Mix)」1997, Italian Steel

Lord Nord「Snowman」1997, Dark Park

We can't find it on the internet officially.

Yakuza「Raised In Hell」1995, Test

We can't find it on the internet officially.

The Crusher「Do It In The House」1997, Head Fuck Records

We can't find it on the internet officially.

Shock To The System「Fuck Mix」1995, Rumble Tum Jum

We can't find it on the internet officially.

――ミッド90sのハードコア・テクノは、ネットで聴けるオフィシャルの音源が極端に少ないですね……。そういう意味でも『Go Back To Sleeeeep』のリリースは意義深いです!“シエスタ”というお名前の由来は?“kill the rest”なのに“sieste”なんかい!と密かにツっこんでおりました(笑)。
 「ほんとですね(笑)。でも実はそんな感じで、相反するものにしたくて“シエスタ”にしました。実際お昼寝どころの音楽ではないので……。“SIESTE”という文字の並びもリズム良く見えて気に入っています。現在のドール服作家としては、逆にこの名前は甘さが強く出すぎて、本来の自分とは少し違うので、たまに嘘をついてるような恥ずかしい気分になるときもあります」

――トラックメイキングを始めたきっかけは?必要な機材はどのように調べ、どう手に入れたのでしょうか。サンプラーなどは当時、非常に高価なものだったと思います。
 「Yam YamやSyntaxの家に遊びに行ったりして、たくさんの機材に囲まれているのがおもしろいな、と思ったのがきっかけです。お金はなかったので、ソフマップに行って中古の機材をよく吟味していました。そのときソフマップにあって、手に入れられる価格だったものが主な機材です。足りないものを少しずつ足していく感じで。最初に買ったのはAKAI『S01』でした。見た目も気に入っているので、今でも手放さずに置いています」

SIESTE

――当初は、どのような曲を作ることを目標としていましたか?参考にした音源などはあったのでしょうか。
 「1曲の中に起承転結のような流れができるように、というのは心がけていました。参考にした音源はこれ!というものはありませんが、たくさん聴いていた中で大きなイメージとして受けた影響はあります。漠然としていますが、単純にかっこいい!と思うものができればいいな、と思って作っていました。私の中での“かっこいい”とは、やはり子供の頃に好きだった音楽やアニメなどの影響で、かなり硬派なものになります(笑)」

――「Kitty Whip」「Death Rate」は大ネタ使いのニューメタル・チューンで最高ですよね!当時はいわゆるエクストリーム・ミュージックの黄金期だったと思うのですが、MACHINE HEADやSEPULTURAのほかにはどんなものを好んで聴いていらっしゃいましたか?
 「正直に言うとその頃何を聴いていたのか……はっきり思い出せません……。気に入ったものならなんでも聴いていました。DJ ITOがエクストリーム・ミュージックに詳しかったので、よく教えてもらったりもしていました」

――実はバンドがやりたかった!とかはありますか?
 「一度もなかったです(笑)。みんなで何かをするということに、ほんの少し憧れはありますが、中でもバンドというスタイルはパワーがありすぎて自分には向いていない。なにより緊張しやすいので、人前で披露するのは想像するだけで冷や汗がでます。DJもギリギリですが、手元は見えないし、座れば隠れることもできるので(笑)」

――そうですね(笑)。ある種の匿名性はDJの重要な側面のひとつでもありますし。90年代は「Mokum Records」がChosen Few、DJ Dano、TechnoheadによるFEAR FACTORYのリミックス集をリリースしたり、Delta 9、D.O.A.、Lenny Dee、DJ Stickheadという「Industrial Strength」オールスターズによるCORROSION OF CONFORMITYのリミックス・シングルや、「Earache」作品のハードコア・テクノ・リミックスを集めたコンピレーションもリリースされていました。Atom HeartによるPRONGのリミックスや、THERAPY?のJoey Beltramリミックスなどもかなりインダストリアル・ハードコアに近しい音だったと思います。そういったものにも触れていらっしゃったのでしょうか。
 「Industrial Strengthは大好きで、Delta 9、D.O.A、DJ Stickheadは好きでよく聴いたりしていました。それ以外は初耳です。聴いてみようと思います!私自身は本当に音楽に詳しくないので、きちんとジャンル分けをして捉えていなかったのだと思います。ドイツのレコード・ショップで何時間も試聴して買ったたくさんのレコードの中には、ジャケットもなく盤面にも何の表記もないものがあったりしたので、アーティスト名や曲名を追うことをやめてしまった部分もあります。このレコードのこの曲が好き、という楽しみかたが自分には合っているように思います」

――たしかに!クレジットも全く記載されていない、白盤みたいなヴァイナルめちゃくちゃ多かったですよね。「このレコードのこの曲が好き」という感覚、よくわかります。『Kitty Whip』は故・Yam Yamさん(OUT OF KEY)がマスタリングをご担当されたとのことですが、作業時のエピソードや、氏個人にまつわる思い出などあれば聞かせてください。
 「才能も経歴も飛び抜けているのに、仙人のように静かで誰にでも平等に優しい。たぶん意識してではなく、本来そういう人なんだと思います。そうなりたいという憧れもあります。マスタリングの際には、私の音源が何かの手違いで音が左右にゆらゆら揺れている箇所があったのですが、それを“おもしろいなぁ!”とワクワクしたような表情で言っていたのが印象に残っています。常識的に間違ったことでも、意外とおもしろいものが出来上がったり、それを良い部分として見出せるんだ、と嬉しくなった覚えがあります。めちゃくちゃ良い先生に出会えた感じです。今でも、いろんな話を聞いたりしたいなぁと思います」

――「Kill The Rest」は当時の日本におけるガバ / ハードコア・テクノの動きを象徴するレーベルだったと思います。設立前後の流れや、その中で感じていたこと(ファンやメディアの反応など)を教えてください。
 「Kill The Rest」の設立には関わっていなくて……。みんなそれぞれ曲を作って、なんか楽しいな!くらいに思っていました。今のドール服作家としてもそうですが、いつまで経ってもクリエイター側という意識があまりなく、いちファンとして一緒に楽しみたいという気持ちがあります」

LALA puppenhaus

――『Kitty Whip』を手に入れて、サウンドと同等に衝撃を受けたのがアートワークです。熊(?)のぬいぐるみを引き摺る女の子がなんとも言い難い表情で、かわいらしくもあり、太々しくもあり、孤独な寂しさを湛えているようでもあり……。この絵は、SIESTEさんご自身が描かれたものなのでしょうか?この時点ですでに、現在の「LALA puppenhaus」でのご活動に繋がる美学が芽生えているように感じられます。
 「あの太々しくて不思議な表情の女の子の絵は自分で描きました(笑)。わざとコピーを何度かかけて、影が出るようにしました。たしかに今もワンピースやミニチュア・ベアを製作しているので、好きなものは変わらないんだな、と思います」

SIESTE 'Kitty Whip' EP

――感情面で、制作する楽曲に込めていたことがあれば教えてください。
 「バンドのようなスタイルが苦手ということに繋がるのですが、1人きりで聴く、もしくは大勢の中でも自分の世界に入り込んでしまえる、といった内省的な思いはあると思います」

――これはいろいろなところで聞かれることだと思うので、何度もお答えさせてしまって恐縮なのですが……。当時ガバ / ハードコア・テクノのフィールド(に限りませんが)において、女性のDJ / トラックメイカーは非常に珍しかったと思います。少なくとも私は、SIESTEさん以外に知りませんでした。活動をするにあたって、難しかったこと、嫌だったことなどはありましたか?
 「特にありませんでした。珍しいこともあって、別ジャンルのかたからも優しくアドヴァイスをもらえたりしてありがたかったです。冗談で発言した“SIESTEは髭ボーボーのおっさんなんやで”が一人歩きして、実際に見たことがない人の中には、曲の印象も相まって関西に住むおじさんだと思っていた人もいました。日本人で子供っぽく見えたせいもあったのか、Noise Creatorからは“ハードコア・クイーンではなくハードコア・プリンセスだな!”と茶化されてましたが、かわいい響きで今でも頭に残っています。女性だと知ってさらにおもしろがってもらえたのも事実だと思います」

SIESTE

――『Kitty Whip』収録曲「Thaad」はのちにMEAT PAUNCH MAFIAとのスプリット7"(2001, Double Face Records)にもフィーチャーされていますが、これはどのような経緯でのリリースだったのですか?MEAT PAUNCH MAFIAはフランスのグラインドコア・シーンとの関わりが深いグループですが、SIESTEさんもグローバルなハードコア・パンク / グラインドコアのネットワークと交流があったのでしょうか。
 「全くないのです……。聞くところによると、DKPのメンバー・DJ Elviraが興味を持ってくれて、知り合いだったDouble Face Recordsに紹介して……という流れだったようです。なぜ選ばれたのか未だにわかりませんが、私が何者かわからないにも関わらず、音源だけで興味を持ってもらえたのだと思うと、今でもとても嬉しいです。このレコードはいつの間にかなくしてしまったのですが、DHR(Digital Hardcore Recordings)のレーベル・オーナーだったJoel(Amaretto)とフランクフルトで会って、その話になったときに“持ってないの?!”と驚かれ、ディストリビューターをされていたこともあって次の日にプレゼントしてくれました。今は大切に保管しています(笑)」

SIESTE

――SIESTEさんが主に活動されていた大阪はSxOxBのお膝元ですが、バンド・シーンとの交流はありましたか?
 「こちらも全くないのです……。かっこいいということはもちろんわかっているのですが、バンドを観に行く(大勢で楽しむ)ということが向いていないので、ほとんどそのシーンを知りません……」

――当時SIESTEさんは幾度もヨーロッパでの公演を行っています。その中で感じたことを聞かせてください。日本との反応、規模感、客層、ファッションの違いや、印象深かった出来事など。のちにドイツ雑貨のお店「ddr」を出店されたことにも関係してくるのでしょうか。
 「フランクフルトでライヴをしたTrauma XP主催のイベントでは、曲を気に入ってくれたお客さんたちが次々にコーラを差し入れしてくれたのが印象的です。ブースの下にいっぱいコーラが並んでいました。見た目が子供っぽいのと、お酒を一切飲まないので未成年と思われていたようです。通りに貼られたポスターを見て、日本人がライヴしていることに興味を持った老夫婦が入ってきて、ハードコア・テクノに合わせて手を繋いで踊っていたのも、目に焼き付いています!若いお客さんも特に何も気にしていなくて、カテゴライズはされていても、誰でも楽しめる自由な空気感にたまらなく感動しました。ドレスデンではイベント出演だけではなく、Noise Creatorや彼の友達とよく一緒に遊びました。日本のように夜通しお店が開いていないので、夜には“夜”という時間を楽しむ、というあたりまえですがシンプルな過ごしかたを体験しました。服装もシンプルだからこそ、その人が持つ本来の雰囲気が際立ってかっこいいな、と思って影響を受けました。滞在中は毎日のようにレコード・ショップやお城、ハイキングなど、いろんな場所にNoise Creatorが連れて行ってくれました。そんな流れで、ドレスデンのエルベ川沿いで毎週日曜日に開催されている蚤の市に連れて行ってもらいました。アンティーク・ベアや切手や布など、古い物なのにハッとする色使いと、手作りの技術とセンスに触れて感動しました。何年経っても人の心が動く、物作りの素晴らしさを知ったきっかけです。そこで DDR(Deutsche Demokratische Republik | ドイツ民主共和国 / 旧東ドイツ)製の1mくらいの大きなアンティーク・ベアを買って帰り、そのあたりからドイツ雑貨に興味を持つことになります」

L to R | Tatsujin Bomb (HAMMERBROS), SIESTE, Noize Creator
L to R | Tatsujin Bomb (HAMMERBROS), SIESTE, Noize Creator

――コンピレーション・アルバム『Sweet Sweet Pain』(1998, 殺人ヨットスクール)への収録曲「Mad Minutes」や、今回の『Go Back To Sleeeeep』には収録されていませんが、『Hate Spirit』(1998, Bass2 Records | Kill The Rest)への収録曲「My Melody」ではMEAT BEAT MANIFESTO、RENEGADE SOUNDWAVEのようなインダストリアル・ヒップホップや、一部のDJ Shadow楽曲のようなトリップホップのムードが感じられ、ブルータルなだけではない、もしくは異なるベクトルのブルータリティを持つ楽曲を模索しているのが伺えます。この頃はどんなことを考えて制作に臨んでいましたか?
 「“My Melody”は“Kitty whip”とほぼ同時期に作っています。キティちゃんの次はマイメロ、という感じで作りました。生まれて初めて作ったのが“Kitty whip”で、次に作る曲はさらに自分らしさ(内向的、内省的な部分)を出したかったのかもしれません。音楽に詳しくなく、質問の中にあるアーティストは、どれも当時聴いていなかったのでなんとも言えないのですが、DJ Shadowは5年ほど前に突然ハマって聴いていたので、好きな雰囲気だったんですね」

――『From Poolside』(2001, 殺人ヨットスクール)収録曲「Chain Destruction」や、ラッパーをフィーチャーした『Swimsuit Squad』(2002, 殺人ヨットスクール)収録曲「Contakt To Seoul」になると、THE BEATNUTSやDJ Premierなど、完全に90sヒップホップ / ブーンバップへの憧憬が見て取れます。聴いている音楽、またはライフスタイルにも変化があったのでしょうか。
 「その頃よく交流していたRocket MotocrossにK-POPを教えてもらいました。1曲の中にクラシック、メタル、ラップ、バラードなどが詰め込まれていて、それをキラキラしたアイドルが歌っているのが衝撃でした。そこから韓国に毎月行くほどになり、よく通っていたCDショップのスタッフと友達になりました。“Contakt To Seoul”は、その子の弟がラッパーだったので参加してもらった曲です。韓国の音楽界にはDrunken Tigerなどをはじめアメリカ育ちの人が多いので、90sヒップホップ / ブーンバップに影響を受けたKヒップホップから、私は影響受けたということになります。のちにDrunken Tigerと話す機会があったのですが、“音楽は、日本はヨーロッパ的で、韓国はアメリカ的な雰囲気がある”と言っていて、意外で驚いた覚えがあります。“Chain Destruction”は自分で一番気に入っているトラックです。余談ですが、曲名の由来はハードコア・テクノのDJ兼雑誌の編集をしていたTerror(テロル)たちと毎晩対戦していたカードゲーム『遊戯王』の“連鎖破壊”というカードからです」

――Drunken TigerってDILATED PEOPLESとかとも一緒にやってましたもんね。納得です。そしてカードゲーム熱い!本当にいろんなことにご興味があるのですね……。差し支えなければデザイン・チーム「MGX.factory」での活動についても聞かせていただきたいです。いつ頃から、どのような経緯で始められたのでしょうか。印象深かったお仕事は?個人的には、Knifehandchop『Rockstopper』(2003, Tigerbeat6)のアートワークもそうだったのだと最近知って、好きなアルバムだったのでとても嬉しかったです!
 「フードをかぶった女の子のイラストは私が描きました。ドイツのクラブ・シーンにいる、シンプルな服装でより強い個性が際立つ女の子をイメージしています。音楽関係でいうと、ファッション誌『commons & sense』(CUBE INC. | 河出書房新社)で近田春夫さんの特集ページにイラストを描いたこともあります。メンバーどちらもデザイン専門学校卒で、勤めていたデザイン事務所が廃業したのをきっかけに始めました。1995年くらいなのかなぁ……年代ははっきりわかりません」

――『Rockstopper』の原画すごい!タグのヴァリエーションもあったのですね!「LALA puppenhaus」の歴史についても教えてください。ミニチュアやドールのアウトフィットの制作は、いつ頃から始められたのでしょうか。音楽活動からの影響はありましたか?
 「2006年頃から始めました。最初は小さな人形を作っていましたが、徐々にドール服のデザインもするようになりました。4cmほどの熊のぬいぐるみは、縫えたとしても布を裏返す事が不可能だと思っていました。でもお菓子やパンと同じで“なんでも作れるんだ”という感覚と、もうひとつはドイツやフランスのアンティークが100年以上前に作られたものなのに、手作りの域を超えているものがたくさん存在することで、勇気というか可能性を感じて作ることができました。ひとりで試行錯誤することや、頭の中で想像したものをかたちにする工程と楽しさは音楽活動と同じだと思っています」

――現在は音楽家としてのSIESTEさんよりも、「LALA puppenhaus」のクリエイターとしてのSIESTEさんのほうが圧倒的に有名ですが、音楽家としてのSIESTEさんを知っているお客様もいらっしゃいますか?
 「いないと思います(たぶん)!ですが、“何か他の作家さんと違う空気”は感付かれることがあります。褒め言葉として、日本臭さ(ひどい言葉ですが)がないとタカラトミー企画部の社員さんに言われたこともあります。それは音楽を通して、国内外問わずいろんな人に出会ったおかげだと思っています」

SIESTE

――ガバ / ハードコア・テクノとドールの間に、何らかの関連性を見出すことはありますか?例えばブライスって、ある種エクストリームな何かを投影したブルータリティを持っていると私は思うんです。
 「ブライスは1972年に発売されたドールですが、当時子供たちに受け入れられずわずか1年で消えてしまいます。1972年はビッグアイ・ブームがあったようで、おもしろいおもちゃがたくさん生まれた年でもあります。バービーなどのヴィンテージ・ドールも持っていますが、ここまで集めたり深く入り込んだのは、やはりこの“ただのファッションドールではなさそう”なインパクトのある見た目が大きいです。他のドールと比べて、眉毛がなかったり、笑顔でもない、という特徴が逆に“かわいい”や“かっこいい”など、持ち主の個性を自由に投影するスキになっているのかもしれません。人形の服は、普段自分が着られないような究極にかわいい格好をさせることができるので、そういう意味で極端な部分があり、ある意味ハードコアなのかも知れません」

LALA puppenhaus

――最近お気に入りの音楽や映画、本などを教えてください!
 「お気に入りのアーティストはTOBACCOです。HBOドラマ『シリコンバレー』(このドラマは終わらないでほしいと思うくらい好きな作品でした)の主題歌“Stretch Your Face”で知って、そこから気に入って聴いています。アルバム『Ultima II Massage』(2014, Ghostly International)が特に好きです。曲もかっこいいですが、不気味なアートワークも絶妙にポップで大好きです。Instagramを見る限り、静かに狂っていそうな人でますます気になります。映画は、ウェス・アンダーソン監督のものは必ず見ます。最新で言うと『アステロイド・シティ』(2023)です。画面の隅々まで構図が完璧、シンメトリーだけでなく少しずらしたり汚れた部分などまで計算されていて、一度目に見る際はヴィジュアル面にばかり集中してしまい、内容まで頭に入ってきませんが。この影響で、ドレスの商品撮影をするときには、納得がいくまで髪の毛のバランスやドレスのシルエットなどに気を配るようになりました(笑)。本はほとんど読みませんが、作業中にAudibleで聴いた西 加奈子の『サラバ!』(2014, 小学館)はとてもよかったです。あとは、アザラシ関連の本はいっぱい買っています。去年からアザラシに熱狂していて、今一番行きたいのは北海道の紋別にあるオホーツクとっかりセンターです」

――アザラシ!私はマナティの本やポストカードがあるとついつい買ってしまいます(笑)。今回『Go Back To Sleeeeep』でご自身の楽曲を一挙にお聴きになって、いかがでしたか?GraphersRockさんによるアートワークも、記憶を喚起するようなものになっていると思います。
 「怖いもの知らずな勢いがあり、恥ずかしい気持ちもあります。だけどその当時の自分の中では、納得できるまで試行錯誤しながらこねくり回しているのも感じられて“よく作ったな”と思うし、愛おしいとも思います。このサンプリングは大晦日の深夜、家族が寝てからひとりきりで怖い映画をいっぱい観て録ったものだ、とか、そのあと正月早々ひどい熱出したな、など当時を思い出しました。メインのアートワークに使われているのは、DJのときは毎回持ち歩いていた愛着のある箱なので、今回GraphersRockさんが素敵にデザインしてくださって本当に嬉しいです」

SIESTE

――また新たにご自身の音楽を作るご予定はありますか?
 「今は本腰を入れてじっくりできる時間がないので、性格上うまくできないと思っています。長生きしておばあちゃんになったら、またじっくり作ってみたいです(お琴の代わりにサンプラーを嗜みたいです)。音楽でもミニチュアでも、作ることが楽しいので」

――「LALA puppenhaus」の耳寄り情報を教えてください!コラボレーションや展覧会のご予定などはありますか?
 「来年12月に東京で個展を開催予定です。個展は上海で開催した2017年以来なので、さらに増えた作品を見てもらえるのが嬉しいです。あとは2026年にローマで開催されるドール・イベントからもお誘いをいただいているので、参加予定です」

LALA puppenhaus

LALA puppenhaus Official Site | https://lalapuppenhaus.com/

SIESTE 'Go Back To Sleeeeep'■ 2025年7月中旬発売
SIESTE
『Go Back To Sleeeeep』

Cassette Tape + DL Code MURCT-005 1,700円 + 税
https://mxcxshop.cart.fc2.com/ca2/195/

[Side A]
01. Kitty Whip
02. Death Rate
03. T34
04. Thaad/span>

[Side B]
01. Mad Minutes
02. Chain Destruction
03. Contakt To Seoul

[DL Bonus]
Kitty Whip (Noize Creator's my superior was not at office today remix)
Kitty Whip (Hammer Bros Mix)

SIESTE 'Go Back To Sleeeeep' Limited SetLimited Set
Cassette Tape + DL Code + T-Shirt
https://mxcxshop.cart.fc2.com/ca2/199/