Column「たまちゃんのバイクパッキング紀行」


文・写真 | 玉田伸太郎

北海道編 4

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2025年5月16日 | 4日目

Photo ©玉田伸太郎

| 5:30
 テントの外から声を掛けられて起きる。「すいません。ここは私有地なので申し訳ないんですが……」やはりここは私有地だった。びっくりしたけど声が優しかったこともあり、落ち着いて返事できた。得体の知れないものに声を掛けるのは怖いよな。自分でもそっと声をかけられるか?本当にすみません。

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 昨夜は施設に長居して野営地をちゃんと探さなかったので、すぐ撤収できるように荷物も最小限にしていた自分偉い。テントさえしまえば、泊まっていた事実が隠蔽できると思っているので、テントをしまった後は気が抜けて、細かいパッキングはダラダラしていた。

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| 6:30 荷物をまとめて出発。国道に出るときに、私有地の大きな門があった。昨夜はいつの間にか私有地に入っていたようだった。

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| 7:00 静内という大きな街についた。ラーメン屋の看板や、スーパー、チェーン店など、建物が並んでいる。朝ごはんを食べようとセイコーマートでおにぎりを買って公園に移動する。

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 公園の遊具をテーブルに見立て、朝食の準備。2日前にスーパー銭湯で買ったラーメンをスープ代わりに作る。最後は雑炊にする作戦だったが、炊き立ての米で作ったおにぎりのおいしさに負けて雑炊にできなかった。セイコーマート恐るべし……。空になった鍋に、余ったお湯を入れて食後の一杯兼、鍋の掃除。道具を出してはしまう。この繰り返し。

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| 8:00
 朝食を済ませ出発。風がなく、よく進むが景色は全く変わらない。海沿いを淡々と進む。

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| 8:30
 プレハブの小屋が見えてきた。干物が回転している機械の横で、「いらっしゃいませ」と書かれた赤い旗が揺れている。一度素通りしたが、引き返す。挨拶して中に入ると、海鮮や野菜が置いてあり、奥にはベンチと椅子が並んでいる。商店のような場所だった。一番奥は、ソファ、ローテーブルにストーブ。応接間のような空間もある。色褪せたクッションと古いノートパソコンが置いてあったので、ご主人の定位置だろう。自転車で旅をしていることを伝えると、「ゆっくりしていきな」と言い、その定位置に座らせてくれた。

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 見たことのない山菜があったので聞いてみると調理して食べさせてくれた。大きな貝ですねというと刺身で出してくれた。北海道で食べたかったアスパラも頂いた。

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 しばらく滞在すると、近所の方々が来ては農産物を置いていく。そのお返しに他の農産物や海産物を渡している。「かねおか水産」という直売場だった。商店とコミュニティを兼ねた場所になっていて、出入りが頻繁にあって驚いた。

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 気づけば2時間近く経っていた。最後に現金とお礼の意味を込めてお土産を渡した。お金だけに頼らない生活のヒントになったような気がした。

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| 10:30
 かねおか水産から10分。静内温泉に到着。全然疲れていない。風呂も昨日済ませた。本当に必要な寄り道か迷ったが、まだ10時。知らずに帰るのはもったいない。時間の余裕もたっぷりある。行こう。

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| 12:00
 またしっかり休んでしまった……。シニアの先輩方が、家と同じくらいくつろいでおしゃべりしていた。ファミレスや喫茶店で人の会話を聞くことを「ラジオ」と呼んでいる。今回は空間が広すぎてうまく受信できなかった。チラシで作ったくず入れがたくさん用意してあって、ここもコミュニティ・スペースになっていた。

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| 14:00
 画変わりのない海沿いを進むと駅のような場所があった。旧JR日高線、三石駅の跡地がまだそのまま残っていた。道路挟んだ向かいに「セイコーマート」もある。少し休憩。北海道にしかなさそうなコーヒーと小豆アイスを買った。町の職員さんがちょうど駅舎に除草剤を吹き付けていた。流れで自転車に除草剤をかけないか、凝視していた。

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| 14:50
 「苫小牧から100km」の看板があった。自力で100kmも進んだのか!きっと車なら……と計算すると馬鹿らしくなりそうだったので、そういう事じゃないと自分を納得させた。ものすごい達成感でしばらく独り言が止まらなかった。

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| 15:00
 「道の駅みついし」に到着。ここは以前、高村牧場でMV撮影をしたときに来たことがあった。安心感が漂っている。ゴールした気持ちになっていて、またお土産をドカッとかってしまう。

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 自分用のお土産をひとつ食べたあと、ゴミ箱を探すが見つからない。お店のかたに聞くとゴミ箱は置いていないといわれた。何を聞いても反応が悪い。「紙くずくらいなら預かりますよ」と言ってほしかったが、仕方ないかと納得した。

 ディスコミュニケーションという連想からB’zの「BAD COMMUNICATION」を頭の中でループしながら、ゴミ箱って超繊細なコミュニケーション・ツールかもしれないと、小さな発見があった。

| 16:00
 道の駅を出てしばらくすると浦河町に入った。まだ10キロあったが残り10キロと思うともう少し。

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 地図を見るとついに海沿いの国道235線から離れる。最後なので海を見ながら休憩した。来た道を思い返していた。苫小牧からずっと走った一本道。今回は本当に1本道だった。

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 国道235線を曲がると景色は緑に変わって空気感も穏やかになった。端っこを厳守して走らなくてもいいのが嬉しい。以前、案内してもらった記憶が蘇ってくる。

 この辺りは牧場が多く、放牧地が広がっている。緑の丘が広がっている風景は本州ではあまり見たことのない。田畑がないだけで海外を旅しているような気持ちになる。

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 馬との距離も近くなってきた。触れ合いたい気持ちがあったものの、トラブルにならないように遠目で眺める程度に留めたが、馬はこちらに興味津々。並走する馬もいたり、逃げる馬もいた。

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| 17:00
 この道は絶対通ったことある。高村牧場が近づいてくる。遠くに人影が見える。高村ファミリーだ!外で出迎えていてくれた!

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 移動中に連絡を取っていたので、高村夫妻と息子の悠仁と犬のシロが外で待っていてくれた。シロが勢いよく飛びついてきた!「たまださんようこそ浦河へ」。悠仁が絵を描いた手作りの旗をたくさん用意していてくれた。

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 家に入ると悠仁がピアノを弾いてくれた。レパートリーをガンガン弾く。曲調と情緒が合ってない感じが子供っぽくてよかった。

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総距離: 約140km
日数: 4日

Photo ©玉田伸太郎玉田伸太郎
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Videographer。1983年生まれ。2009年、多摩美術大学院 絵画専攻版画研究領域修了。2011年、東京・高円寺 ASOKOに参加。2014年、本格的な映像制作を始める。VJ、MV、CM、ドキュメンタリーなど幅広く活動中。