Review | マイク・ミルズ『カモン カモン』


文・写真 | sunny sappa

 こんにちは。新緑の美しい5月がやってきました。外でビールを飲むのに最高の季節ですね。そしてゴールデンウィークを規制なしで過ごすの2年ぶり?あれ、3年ぶりだっけ?ま、久しいことには違いない!私は特に遠出せず自宅の周辺でのんびり過ごしていました。基本ゴロゴロしていたけど、DJもしたし、家族や友人達たちと飲んだり食べたり、映画館でも配信でもいっぱい映画を観られたので大満足。ちなみに観た作品はハンナ・べルイホルム『ハッチング -孵化-』、マイク・ミルズ『カモン カモン』、ジュリア・デュクルノー『TITANE / チタン』、ジャック・オディアール『パリ13区』などなど。もうさ~、『TITANE / チタン』がすごすぎてさ……その話もしたいんだけど、クラクラしちゃってまとまらないので今回はマイク・ミルズ『カモン カモン』を取り上げますね(あぁ安心感)。

 まずざっくりあらすじ↓

NYでラジオジャーナリストとして1人で暮らすジョニーは、妹から頼まれ、9歳の甥・ジェシーの面倒を数日間みることに。LAの妹の家で突然始まった共同生活は、戸惑いの連続。好奇心旺盛なジェシーは、ジョニーのぎこちない兄妹関係やいまだ独身でいる理由、自分の父親の病気に関する疑問をストレートに投げかけ、ジョニーを困らせる一方で、ジョニーの仕事や録音機材に興味を示し、二人は次第に距離を縮めていく。仕事のためNYに戻ることになったジョニーは、ジェシーを連れて行くことを決めるが……
――オフィシャル・サイトより

 マイク・ミルズと言えば、1990年代の音楽シーンでMVやアートワークを手掛けていたことで特に同世代には圧倒的に支持されてる存在ですよね。私も雑誌で自宅が特集されていているのを見て憧れたもんだ。とにかくセンスが良くて。本人の服装なんかもシンプルで普通でさりげないんだけど、衝撃的にかっこいい!と感じたのを覚えています。『サムサッカー』(2005)で本格的に映画を撮り始めてからも寡作ながら当たり前のように良い作品を作っているから、彼の映画について改めて書くまでもないだろうと思っていました。私も含めてみんながきっと好きに決まっているし、たくさんの良いレヴューもそこらじゅうにあるでしょうよ、と。でもね、『カモン カモン』はそんな私の卑屈な自信のなささえ吹き飛ばしてくれたのです。

 冒頭美しいモノクロームの映像、それだけで私はこの映画に心を掴まれてしまった。自分が好きな映画って本当に初めの1分で決まってしまうものなのですよね。THE NATIONALのメンバーが手がけた音楽も良かったな。

 マイク・ミルズはこれまでにも家族との関係性を半自伝的に描いてきました。『人生はビギナーズ』(2010)では父親について、『20センチュリー・ウーマン』(2016)は母親について。もちろん『カモン カモン』も息子についてのお話とも言えますが、親子ではなく叔父と甥に置き換えることでより多くの人に響く普遍的な物語となっていて、個人的にもマイク・ミルズ史上最高傑作だと思います。

 実際の子育て体験からアイディアを得ているという通り、なるほど「わかるー」とか「あるある」描写もいっぱい盛り込まれているので、親または子供と接することのある人であればなおさら共感出来るでしょう。困ったときの対応方法はネットで調べちゃうとかね、いまだにやっちゃいますし(笑)。みんないつも戸惑いながら子育てしてるんだよね。何だかホッとしちゃいました。

 また、劇中でジョニーや同僚が行うデトロイト、ロサンゼルス、ニューヨーク、ニューオーリンズの子供たちへの取材は実際のもの。だからちょっとしたドキュメンタリー的要素を入れているといった感じですね。この構成がシンプルなロードムービー的筋書きをよりコンセプチュアルで豊かなものに昇華させていますし、同時に子供たちのリアルなヴィジョンは台本の台詞ではないからこそ大きな感動がありました。内容は本作の見どころのひとつだと思うので、ぜひ鑑賞時に!

Photo ©sunny sappa

 話はちょっとだけ飛びますが、マイク・ミルズ監督の奥さんでもあるアーティスト、ミランダ・ジュライの著書はどれもすごくおもしろいので興味があったらぜひチェックしてみてほしいです(翻訳の岸本佐知子さんも大好き!)。『あなたを選んでくれるもの』(2015, 新潮社)は、自身が映画の製作に行き詰まっていたとき、思い立ってフリーペーパーに売買広告を出す人たちに取材をする、というちょっ変わったノンフィクション。普通であれば知り合うことも接することもない人との対話から生じる予期しない感覚を収めています。また、長編小説『最初の悪い男』(2016, 新潮社)は完全フィクションで、年齢も思考も全く異なるタイプの女性2人が偶然同居することから始まるあっと驚くような物語。これも超絶おもしろい。どちらも予測不可能でちょっと不思議な内容でありながら心温まる作品で、アプローチは全然違うけど『カモン カモン』とも少し共通するテーマがあると感じます。それは他者とのコミュニケーションがすなわち自分と向き合うことに繋がり、そこから新しい世界を開いていけるということ。

「人は他人との関係性の中で、自分が何者かを学ぶ。接する相手によって自身も変わり、その体験を通して人生について分かってくる」

 パンフレットで監督もずばり言っていますね。私もまさにそう思います。子供にとってはもちろん、大人になってもその繰り返し。家族でも、友人でも、仕事で関わる相手とか、何かちょっとした機会に接する人にしても……コミュニケーションがうまくいかないことなんてたくさんあります。それでも諦めずに相手を理解しようとすること、考えを伝えようとすることは子供たちの未来に対するひとつの責任であり、自分にとっても(『カモン カモン』のタイトルが意味する)“先へ、先へ”と背中を押してくれるのではないかな。

Photo ©sunny sappa

 それにしても、こんなに優しい映画を絶妙なバランス感覚で撮れるマイク・ミルズはすごいね。当たり前のものをとても大切にする人なんだなぁ。エキセントリックなイメージのホアキン・フェニックスもめちゃ普通のおじさんやってるし。最初のほうでマイク・ミルズのファッションについて言及してみたけど、ジョニーの服の多くは監督私物だそうです(それをホアキンはパツパツで着こなすという……)。オックスフォードのボタンダウン・シャツや、白のオールスターなど、シンプルな定番品をさらっと愛用してるあたりも一貫していてやっぱり好きですね。

■ 2022年4月22日(金)公開
『カモン カモン』
東京・TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
https://happinet-phantom.com/cmoncmon/

[出演]
ホアキン・フェニックス / ウディ・ノーマン / ギャビー・ホフマン / モリー・ウェブスター / ジャブーキー・ヤング=ホワイト

[監督・脚本]
マイク・ミルズ

音楽: アーロン・デスナー / ブライス・デスナー(ザ・ナショナル)

配給・宣伝: ハピネットファントム・スタジオ
日本語字幕: 松浦美奈
2021年 | 108分 | アメリカ | ビスタ | 5.1ch | モノクロ | 原題:C’mon C’mon
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sunny sappasunny sappa さにー さっぱ
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東京の下町出身。音楽と映画、アートを愛する(大人)女子。
1990年代からDJ / 選曲家としても活動。ジャンルを問わないオルタナティヴなスタイルが持ち味で、2017年には「FUJI ROCK FESTIVAL」PYRAMID GARDENにも出演。
スパイス料理とTHE SMITHSとディスクユニオンが大好き。