Review | アシュレイ・セイビン + デイヴィッド・レッドモン『キムズビデオ』


文・写真 | sunny sappa

 こんにちは。今回は『キムズビデオ』というドキュメンタリー作品を取り上げてみました!これはニューヨークにあった伝説のレンタル・ビデオ・ショップに関する作品です。映画関係者の話の中で度々耳にしたことがあり、このお店の存在はなんとなく知っていたけれど、映画になるとは。ちなみにこちらのコーナーで取り上げた『ロボット・ドリームズ』にも「キムズビデオ」でレンタルしたビデオが出てきます!あらすじざっくり↓

ニューヨークの映画ファンたちが通い詰めたレンタルビデオショップ「キムズビデオ」。そこは、5万5000本もの貴重かつマニアックな映画の宝庫だった。 時代の変遷で閉店になった2008年、経営者のキム・ヨンマンは、価値ある膨大なコレクションをイタリアのシチリア島にあるサレーミ市に、収蔵・管理、ならびに会員が引き続きそのコレクションにアクセスできる事を条件に譲渡することを決意、コレクションは長旅を終えシチリア島へ到着した。
――オフィシャル・サイトより

 2008年に閉店したというので、へー、意外と最近まであったんですね。この映画に出てくるのはズバリVHSなんだけど、DVDもあったのかな?! そこはわかんなかったけれど、とにかくVHSのラインナップがすさまじかったみたいです。となるとハード(プレイヤー)のほうが絶滅危惧だから、さすがに厳しいか……。私もビデオレンタル時代と共に青春を送った世代で、20代そこそこまで普通にVHSで観ていました。その後プレイヤーがぶっ壊れてからは諦めちゃったのですが(現在もソフトは一部所有しているんだけど)。それでもDVDを含め、レンタル・カルチャーはまだあったから楽しかったな~。棚のインデックスにある監督名や、国別になっていたり、ジャンルで分かれていたり……。タイトルに惹かれてパッケージ裏のあらすじを読むと時間も忘れて、気が付いたら数時間経っていた!なんていうことばかり学生時代から続けてきたのですから、一昨年前、ついに憩いの場だった渋谷TSUTAYAのレンタル・コーナー(最後は旧作4本借りたら1本100円だった!!)がなくなったのは本当に本当にショックだった私。もちろん我が家もNetflix、Amazon Prime、さらにWOWOWにまで入会していたけれど、それでも観ることのできない作品がごまんとあるわけです。配信されている映画って、世界中で作られた作品の一体何割なんだろう……という話で、今かろうじてDVDの生産はされているけれど、購入となるとハードルが高すぎて多くの人に開かれることのない、日の目を見ない作品は増えてますよね。VHSのみだとしたらなおさらです。

 さて、映画の話に戻りますが、前半は「キムズビデオ」の元スタッフ、元会員のインタビューや映画のシーンをコラージュしながら、まあ言ってみたらいわゆる普通のドキュメンタリー的に「キムズビデオ」の存在を掘り下げていきます。しかし、途中からお話は奇想天外な方向に爆走。「キムズビデオ」の膨大なコレクションを追って辿り着いたシチリア島サレーミ市で目にした驚愕の実態から、ビデオたちの声を聞き、映画の亡霊たちを呼び出して(って、なんのこっちゃ?!)、5万5,000本のビデオ救出大作戦がスタートするのだ!! そして、「キムズビデオ」創始者であり、当時は謎の人物とされていた本作のキーパーソン・キムさんにコンタクトを取るため、韓国にも行っちゃいます。

Photo ©sunny sappa

 これはね、パンフレットでも何名かに指摘されていますし、監督自ら言及してますが、奇跡的な大団円で終わる作中で語られる以上に、実際は問題いっぱいで大変だったと思うんですよ。法的なことや交渉で公開までに8年を要し、おそらく莫大なお金もかかっている。加えてビデオ奪還後も現在進行形で解決しきれてない様々な物理的、金銭的なリスクを抱えていると想像ができます。

 まず、VHSの物質的な問題。5万5,000本ってものすごい量なので、保管にめちゃ場所を取る上に、劣悪な環境下にあったことで再生可能なものがどこまであるか?誰が管理するのか?それを踏まえて一番深刻なのは果たしてどれだけの人がこれらのコレクションと作品に興味を持ち、必要とするのか?というところ……ここだよね……。世の中の大半は配信で満足しているんだから。

 いや、いや!だからこそ、それこそが、この映画の根幹であってロマンなんじゃないかと私は思うのよ。なぜそこまで……?! というほどの映画愛、カルチャーやお店へのリスペクト、c映画作家として、まずこの作品を最高に面白くしようというアーティスト根性が実際に色んな物事を動かしていくっていう展開には思わず胸が熱くなりました。昨今、まさかのレコード・ブームだったり、カセットテープのリヴァイヴァルだったり、古いメディアがちょっとずつ見直されていますよね。独特の質感を楽しんだり、物としてのパッケージやカヴァー・アート込みで、アートピースとしての価値を見出す人、配信にない映画を掘りたい観たいという人たちが自分含めて一定数いますのでね、「キムズビデオ」のコレクションがなんらかのかたちで布石となるといいなと思います。この映画によって危機一髪で救出され、今なお瀕死の作品たちも未来で輝ける日が来ますように……!

Photo ©sunny sappa

■ 2025年8月8日(金)公開
『キムズビデオ』
ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷ホワイト シネクイント ほか全国順次公開
https://kims-video.com/

[監督・編集]
アシュレイ・セイビン / デイヴィッド・レッドモン

[撮影]
デイヴィッド・レッドモン

[音楽]
エンリコ・ティロッタ

[録音]
デイヴィッド・レッドモン / マチュー・デボルド

[出演]
キム・ヨンマン (主人公) / ショーン・プライス・ウィリアムズ (キムズビデオ元従業員) / アレックス・ロス・ペリー (キムズビデオ元従業員) / ディエゴ・ムラーカ (この地区の自治体の警察署長) / エンリコ・ティロッタ (キムズビデオの管理人 | ミュージシャン) / ヴィットリオ・ズカルビ (かつてのサレーミ市長 2008~2012) / ジュゼッペ・ジャンマリナーロ (マフィアとの繋がりが疑われる謎の人物) / レオパルド・ファルコ (マフィア撲滅委員会 会長) / ドミニコ・ヴェヌーティ (サレーミ市長)

配給: ラビットハウス / ミュート
提供: ミュート / ラビットハウス
2023年 | アメリカ | 英語・韓国語・イタリア語 | 88分 | カラー | 16:9
©Carnivalesque Films 2023

sunny sappasunny sappa さにー さっぱ
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東京の下町出身。音楽と映画、アートを愛する(大人)女子。
1990年代からDJ / 選曲家としても活動。ジャンルを問わないオルタナティヴなスタイルが持ち味で、2017年には「FUJI ROCK FESTIVAL」PYRAMID GARDENにも出演。
スパイス料理とTHE SMITHSとディスクユニオンが大好き。