文・写真 | sunny sappa
こんにちは。うっかり2ヶ月ぶりの更新になってしまいました。最近なかなか映画の時間が作れなかったのですが、楽しみにしていたアリーチェ・ロルヴァケル『墓泥棒と失われた女神』をやっと観に行けました!あらすじざっくり↓
80年代、イタリア・トスカーナ地方の田舎町。忘れられない恋人の影を追う、考古学愛好家のアーサー。
彼は紀元前に繁栄した古代エトルリア人の墓をなぜか発見できる特殊能力を持っている。
墓泥棒の仲間たちと掘り出した埋葬品を売りさばいては日銭を稼ぐ日々。
ある日、稀少な価値を持つ美しい女神像を発見したことで、闇のアート市場をも巻き込んだ騒動に発展していく…。
――オフィシャル・サイトより
アリーチェ・ロルヴァケルは、ここ数年で最も好きな監督かも知れない。『夏をゆく人々』(2014)と『幸福なラザロ』(2018)はどちらも自分にとって特別な作品で、とにかく私はロルヴァケル監督の大ファンなのです!
さて“墓泥棒 = トンバローリ”とは、古代人の墓を掘って埋蔵品(遺体と一緒に埋められた壺や彫刻などの調度品)を盗み、骨董市場で売り捌く人たち。一見変わった題材ですが、イタリアではポピュラーな存在だったみたいですよ。実際監督が育った地方では一般農家の土地に眠っている古代の墓がけっこうあって、墓泥棒の話もよく耳にしていたらしいです。しかもそこから大きな歴史的発見に繋がったケースもたくさんあり、学術的な見解としても実は墓泥棒が貢献していたというのですから(さすがに今は法律で厳しく取り締まりがされてるようですが)!
しかしながら、この映画に登場する墓泥棒たちはみんな貧乏で、考古学好きの外国人である主人公・アーサー以外はお金と生活のためにやっているから、埋蔵品自体やその歴史、意味合いはどうでもいいことなんです。一方で、彼らが盗品を売りつけるお金持ち・スパルタコは、その美しさだったり希少性 / 重要性を説き、さらなる価値を付けてオークションを運営。莫大なお金を動かしている。同じものを介していても全く異なる世界が存在しているのは皮肉なことですよね。
アーサーはというと、古代へのロマンや死者(エトルリア人)との結びつきを感じ、唯一ピュアな気持ちで墓を掘り起こしている節もりあつつ、結局のところ両者の間で利用されてしまっているような存在。そんなアーサーが、原題の“幻想 La chimera”を追い求めながら、埋蔵品をめぐる人々と関わるのちに辿る運命とは……。
『幸福なラザロ』でも、田舎の農民が金持ちの地主に騙され、昔の方法のまま働かされていたり(実際にあった事件をモチーフにしています)、騙された農民らも結局報われず貧乏生活で、人を騙して生活せざるを得ない…という描写がありましたが、清貧で純粋な者が社会システムの中で摩耗したり、転落してしまうという構造の描き方はやはり非常にネオレアリズモ的であり、ロルヴァケル監督がテーマにしていることのひとつだとは思います。でも、『墓泥棒と失われた女神』はそれが本題っていうわけじゃないですし、主要な登場人物である移民の女性・イタリアが見つける希望をはじめ、もっとその先にあるものについても言及していると感じました。
まあまあ、実際こう言葉にするとなかなか掴みどころのないストーリーではありますが、個人的にはやっぱりすごく好きでした。
『夏をゆく人々』『幸福なラザロ』に続いて、今回も監督の生まれ育った80年代のトスカーナ地方が舞台になっており、3部作的な立ち位置なのかな?冒頭からあの独特の世界観が繰り広げられていて、それだけで思わず熱狂してしまいました!女の子が着ているニットのワンピース、変な水色のアーガイル靴下、犬の顔、でっかいサボテン……etc.。ちょっとしたディテールや背景の遊び心は観ているだけでとにかく楽しいし、どこか寓話的で不思議な魅力がある。なにより映画の世界に没入する鑑賞時間の幸せを味わえました!
それにしても、そもそもなぜ私はロルヴァケル監督諸作にここまで心酔し、共感できるんだろう?
アリーチェ・ロルヴァケルは1981年生まれ。年齢は私より少し下だけどほぼ同じような時代の環境で育ってきたんですね。カンヌでグランプリを受賞した『夏をゆく人々』は、おそらく自身の幼少期を反映させたであろう作品。「え、これって私のお話?!」っていうくらい、私にとってもたまらなく懐かしく、自分の思春期とシンクロし過ぎてびっくりしてしまった。ちょっと前に、韓国のキム・ボラ監督『はちどり』(2018)に同じような感情を抱く女友達(特に末っ子)が続出したのだけれど、いずれにせよ、単に言葉で説明できるような事象だけではなく、女性ならではの感覚で、私たちがかつて嗅いでいた匂いとか感じ取っていた空気を体現してくれている。それは、監督とほぼ同世代という条件も大きく影響しているんじゃないかな。
あとはね、BS(日本テレビ系)で放送されている「小さな村物語 イタリア」。もともとうちの母親が好きでね、その名の通りイタリアの小さい小さい村に住む人々の物語を取り上げた紀行ドキュメンタリー番組。印象的なオルネラ・ヴァノーニのテーマ曲「逢いびきL'Appuntamento」はたしか、アラン・ドロンが出ている映画でも使われてたような……。その土地土着の魅力もさることながら、村に暮らす普通の人の人生とは、どんな有名人のそれよりも意外と興味深いもんだな、とつくづく思いますね。アリーチェ・ロルヴァケルの作品を観るとなぜかおなじみのこの番組を思い出してしまうのです。
■ 2024年7月19日(金)公開
『墓泥棒と失われた女神』
東京・渋谷 Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下, シネスイッチ銀座ほか全国順次公開
https://www.bitters.co.jp/hakadorobou/
[監督・脚本]
アリーチェ・ロルヴァケル
[出演]
ギジョシュ・オコナー / イザベラ・ロッセリーニ / アルバ・ロルヴァケル / カロル・ドゥアルテ / ヴィンチェンツォ・ネモラート
配給: ビターズ・エンド
2023年 | イタリア・フランス・スイス | カラー | DCP | 5.1ch | アメリカンビスタ | 131分 | 原題: La Chimera
©2023 tempesta srl, Ad Vitam Production, Amka Films Productions, Arte France Cinéma
東京の下町出身。音楽と映画、アートを愛する(大人)女子。
1990年代からDJ / 選曲家としても活動。ジャンルを問わないオルタナティヴなスタイルが持ち味で、2017年には「FUJI ROCK FESTIVAL」PYRAMID GARDENにも出演。
スパイス料理とTHE SMITHSとディスクユニオンが大好き。