文・写真 | sunny sappa
こんにちは。8月は夏休みをいただいちゃって(執筆できなかっただけですが……)、久しぶりの寄稿です。いや、まさに夏休みっていうわけではなくて、映画を観ても頭を整理して考える時間がなかったのかも。と言い訳じみたことを言ってみたけど、今年は娘の受験という大きな関門が間違いなく私の頭を悩ませているのです。塾、テスト、志望校……etc.。同性だからこそ割り切れないことも多くて余計なことを言っちゃったり、変な気を遣ったりね、拗らせがちなんです。怒っちゃって後で後悔と反省。もちろん良い方向に導きたいと思ってのことだけど、もしかしたら逆に追い詰めたりしているんじゃないだろうか……とか。
こういった家庭の事情をこの場に持ち込むのもアレだけど、若いみなさんだってこの先、子を持つことがあるかもしれないでしょう?それに誰だって、誰かの息子や娘であることも忘れちゃいけない!
さて、だいぶ時間が経ってしまったけど、7月16日に亡くなったジェーン・バーキンさんについてのドキュメンタリー映画『ジェーンとシャルロット』が公開されていました。なんと、監督は娘のシャルロット・ゲンズブール!あらすじざっくり↓
スノッブでアヴァンギャルド、フレンチポップのレジェンド、セルジュ・ゲンズブールのパートナー、娘という特異な環境下で家族の形を築いてきたふたりの女性。
彼女たちはセレブリティの母と娘ということ以上に、1960-70年代と1980-90年代、ふたつの時代をセンセーショナルに彩ったシネマ & ファッションアイコンでもあった。
シャルロットが監督デビューを果たした『ジェーンとシャルロット』は、母ジェーンがこれまで誰にも語ることのなかった娘たちへの想い、パブリックイメージとの狭間で感じた苦悩や後悔、最愛の娘ケイトを自死で失って以降の深い哀しみを、ふたりの間に流れる優しい時間の中に紡ぎ出した貴重なドキュメンタリー。誰にも踏み込めなかった母と娘の真実の姿が、感動的に綴られている。
――オフィシャル・サイトより
この映画は雨の日の東京から始まります。あ、あの日だ!2017年のオーチャード・ホールで行われたコンサートは、オーケストラ・ヴァージョンとして甦るゲンズブールの名曲をジェーンが歌う『Birkin Gainsbourg Le Symphonique』というプログラム。曲のアレンジとバンド・マスターを務めた中島ノブユキさんが古くからの知人ということもあり、家族や友人達と駆けつけたのが懐かしい……。コンサートはとても素晴らしく、今でも大切な思い出になっています。それにしても、この頃からこんな映画の企画があったとはビックリ!その後、作中でも鎌倉~京都のシーンへと続きますが、改めてジェーンが日本を愛してくれていたことは本当に嬉しいですね。
シャルロットは10代で俳優として活動し、父親のセルジュ・ゲンズブールのもとで暮らしていたので、破局して家を出て行ったジェーンとの親子関係って実は希薄だったようです。お互い遠慮や気後れがあったり、2人の間にあるギクシャクした空気感は、否が応でもこの序盤の日本のパートで感じ取れてしまう……。
そんなジェーンとシャルロットのなかなか噛み合わないテンションがあって、この後一度撮影が中断されてしまったそうですが、その後のコロナ禍を経て、再び再開。紆余曲折あってこの機に至ったとのこと。それがジェーンの訃報のすぐ後であったのはなんだか感慨深いです。
シャルロットが現在拠点にしているニューヨークや、パリでの撮影パート~最後はジェーンとシャルロット、そしてシャルロットの末娘と3人で過ごすノルマンディの海辺の家へ。飾らない家族の風景が美しい。優しい時間の中で、かつて一緒に過ごせなかった時間を埋めるように、語らい、寄り添い、抱き合う姿を見たら、なんか、良かったな……って。だって、シャルロットにとってこの映画はセラピーのようなものになったんじゃないかな、とも思うから。シャルロットが母親のジェーンを撮ること、それはまるで小さな子供のように自分への愛情を確かめる行為なのです。この映画を撮る過程で、互いが正面から向き合い、今まで触れられなかった思いを伝えることができたとき、2人の間にあった距離や時間という壁も、長年抱いていたわだかまりも、ゆるりと解けていく様は、爽やかな感動がありました。
親子だからっていつもうまくいく訳じゃなくて、良い時も悪い時もある。すれ違ってしまうタイミングもある。同じ親から生まれた兄弟姉妹でも、それぞれ異なった関係性があったりもする。でも根本にあるのは、子供は親の愛を求めるし、親は子供を思っているということ。
シャルロットの父親セルジュ・ゲンズブールのパリの家にまつわる話(なんと内部も公開!)や、亡くなった異父姉のケイト・バリーについての話題なども交え、セレブならではの複雑な家族関係も浮き彫りにしながら、一方ではごく普遍的な母娘の物語になっています。自分も娘であり、母親でもある今だから、いろいろ共感できる部分も多かったな。
そしてなにより、ジェーンもシャルロットも私の憧れの人。プライベートの姿を拝めただけでも嬉しいし、観ていて楽しかった。ジェーンの着ているセーター素敵!シャルロットはコーデュロイのトレンチかっ!! とかね。ごちゃっとしたいかにもフランスっぽいインテリアも好きだな~。などなど。特にジェーンは、自分の価値観に影響を与えてくれた人。改めてその存在の大きさを実感しています。ふと振り返ってみても、ファッションも生きかたも、こんなに夢中になって追いかけた人って他にいないですね。だから、年齢に抗わず素敵に歳を取りたい、なんて言ったら「元が違うだろ!」「言い訳だろ!」と突っ込まれますが、まあまあ、若見えとか、女性らしさや母親らしさには無駄に囚われたくないよね。それよりも、いつもこの世界で起こっていることに興味を持っていたい。それに対して自分に何ができるかを考え続けたい。自分らしくいたい。周りの人を大切にしたい(できていないけど)。トレンドやスタイリッシュさよりコージーなものが好き。かごバッグが好き。そんなこんなも、自分の一部として、お守りのように、これからも大切にしていきたいと思います。
■ 2023年8月4日(金)公開
『ジェーンとシャルロット』
東京・ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷シネクイントほかにて全国順次公開
https://www.reallylikefilms.com/janeandcharlotte
[監督・脚本]
シャルロット・ゲンズブール
[出演]
ジェーン・バーキン / シャルロット・ゲンズブール / イヴアン・アタル
撮影: アドリアン・ベルトール
編集: ティアネス・モンタッシー / アンヌ・ベルソン
美術: ナタリー・カンギレム
エンディングロール曲: ジェーン・バーキン「私はあなたのために完璧でありたかった! Je voulais être une telle perfection pour toi!」
日本語字幕翻訳: 横井和子
宣伝デザイン: 内田美由紀 (NORA DESIGN)
予告編監督: 遠山慎二 (RESTA FILMS)
宣伝: Prima Stella
配給: リアリーライクフィルムズ
2021年 | フランス | 92分 | G | 映倫番号49690 | 1.85 | 5.1ch | DCP・Blu-ray | 原題: Jane par Charlotte
©2021 NOLITA CINEMA – DEADLY VALENTINE PUBLISHING / ReallyLikeFilms. ©ReallyLikeFilms 2023
東京の下町出身。音楽と映画、アートを愛する(大人)女子。
1990年代からDJ / 選曲家としても活動。ジャンルを問わないオルタナティヴなスタイルが持ち味で、2017年には「FUJI ROCK FESTIVAL」PYRAMID GARDENにも出演。
スパイス料理とTHE SMITHSとディスクユニオンが大好き。