文・写真 | sunny sappa
こんにちは。はじめまして。sunny sappaと申します。普段はファッションに関する仕事をしているごく一般人です。サブカルをこよなく愛し、1990年代からマイペースに音楽活動なんかもしています。ご縁あって「AVE | CORNER PRINTING」で執筆させていただくことになったのですが、こちらのレヴューでは主に映画、たま~に音楽や本なんかを通して思ったこと感じたことを徒然と書き留めていきたいと思っております。なんせ私、このような機会をいただくのは初めてで、ドキドキ緊張しています(文面上なんですが……)。拙い文章で大変恐縮ですが、しばしお付き合いくださいませ。
さてさて記念すべき第1回目ですが、アレクサンダー・ロックウェルの新作『スウィート・シング』を取り上げてみました。『イン・ザ・スープ』以来25年ぶりに劇場公開されるということで、新宿のシネマカリテへ!
私は渋谷のTSUTAYAによく行くのですが、公開に合わせてインディペンデントのコーナーが設けられていて、そこでこの映画の情報を知りました。それこそ『イン・ザ・スープ』が90年代後半にジム・ジャームッシュやハル・ハートリーと一緒にニューヨーク・インディとして取り上げられていたのはよく覚えているのですが、アレクサンダー・ロックウェルの名前は当時認識していませんでしたね。ちなみ私スティーヴ・ブシェミを始めて知ったのが『イン・ザ・スープ』なんです。何故か『レザボア・ドッグス』より前に。
さて、本作のあらすじをざっくり↓
普段は優しいが酒を飲むと人が変わる父アダム。家を出て行った母親イヴ。頼る大人がいないビリーとニコの姉弟。ある日出会った少年マリクとともに、彼らは逃走と冒険の旅に出る!
――公式サイトより
なんだか久々にこんな映画を観たな!っていうのが私の率直な感想。こんな映画って何なんだろう?うまく表現できないけど、一言で言うと純度の高い映画かな?!
アレクサンダー・ロックウェルは現在ニューヨーク大学の教授が本業で、それ故の寡作のようですね。本作はクラウドファンディングによって制作されていて、撮影クルーも学生だそうです。だからというわけではないけど、商業性が全くないんです。撮りたいものを撮っているというか、そういう意味での純度。もうひとつは内容の純度。とにかく子供たちをキラキラと描いていてすごく可愛い。演じているのは監督の実の子供たちだというから、愛情たっぷりっていうのも観ていて伝わってきます。そんな暖かさを感じる素敵な作品でした。
同じく姉弟が旅に出る映画で思い出したのが、ギリシャの巨匠テオ・アンゲロプロスの『霧の中の風景』です。私の生涯ベストに入るくらい好きな1本なのですが、『スウィート・シング』とは180度異なる実に辛辣な作品でもあります。テオ・アンゲロプロスは基本、カメラ引き気味で感情移入しにくいように撮っている気がするのですが、これはなんか涙が出ちゃうんです。リアルで突き放すような描写の中に、一瞬のびっくりする様なファンタジーがあったり、感情の爆発があったり、唐突なシーンが不思議な余韻を残しながら、かつては自分にもあった、でも失われてしまった子供時代(思春期とか)を思い起こしてしまって……涙。『霧の中の風景』は容赦のない過酷な旅として終わりますが、どちらの作品も数日間の出来事がこの世の全てみたいに感じさせられるのは、この時期(特に姉に焦点を当てて)に経験することって、なぜか大人になっても引きずるわけで、つまりは自分を作る大きい要素になるからなんだと思います。子供の頃って1日がもっと長くて、大人になると時間はあっという間。ほら、もう気がついたら年末ですよ!余談で、うちには中学生の娘がいるんですが、いつもダラダラ、ゴロゴロしていて、私からしてみたら時間がもったいないー!ってなってついイライラして、衝突しちゃうんですけど、そもそもの時間感覚が違うんだろうな……。
『スウィート・シング』に話を戻すと、ビリーが劇中で歌い、映画のタイトルにもなっているVan Morrisonの曲をはじめ、音楽がとても素晴らしくて、それだけでも十分楽しめます。その中のひとつ、Karen Dalton「Something On Your Mind」が収録されたアルバム『In My Own Time』をもし聴いたことがなかったら、ぜひ聴いてみていただきたいです。押し付けがましくてすみません!でも本当に本当に良い作品なんです!! 劇中では、ビリーの名前の由来となったBillie Holidayの姿が何度も現れますが、Karen Daltonはフォーク界のBillie Holidayと言われた人です。グリニッジ・ヴィレッジ界隈で活動していましたが、途中ホームレスのような生活をしながら93年にドラッグの過剰摂取で亡くなっています。今でこそ再評価系で知名度がありますが、当時はほぼ無名でしたし、この映画のように商業的な事柄とは無縁の人でした。
公式サイトに掲載されたアレクサンダー・ロックウェル監督の言葉に「映画とはマジカルな幻想をもたらす魔法だと思う」とありました。映画を観ている2時間くらいって、人の一生に換算すると一瞬ですが、その魔法のような瞬間があるかないかで人生が全く違うものになると思うんです(というか自分はそう信じたい!)。ビリーとニコが体験した数日間みたいに。少なくとも『スウィート・シング』はそんな幸せな映画体験ができます!そしてアレクサンダー・ロックウェルの作品がいかに特別で、多くの人に愛される理由がとてもよくわかる1本なのです。
■ 『スウィート・シング』
ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
http://moviola.jp/sweetthing/
[あらすじ]
世界は悲しいけれど、幸福な1日はある。15歳のビリーと11歳のニコ、その家族の物語。
普段は優しいが酒を飲むと人が変わる父アダム。家を出て行った母親イヴ。頼る大人がいないビリーとニコの姉弟。ある日出会った少年マリクとともに、彼らは逃走と冒険の旅に出る!世界はとても悲しい。でも、幸福な1日はある。その1日がずっと長く続きますように。すべての大人に子供時代のきらめきを思い起こさせ、ベルリン国際映画祭ジェネレーション部門で最優秀作品賞を受賞した。
[出演]
ラナ・ロックウェル / ニコ・ロックウェル / ウィル・パットン / カリン・パーソンズ
監督・脚本: アレクサンダー・ロックウェル
原題: Sweet Thing
2020年 | アメリカ | 91分 | DCP | モノクロ + パートカラー
日本語字幕: 高内朝子
配給: ムヴィオラ
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東京の下町出身。音楽と映画、アートを愛する(大人)女子。
1990年代からDJ / 選曲家としても活動。ジャンルを問わないオルタナティヴなスタイルが持ち味で、2017年には「FUJI ROCK FESTIVAL」PYRAMID GARDENにも出演。
スパイス料理とTHE SMITHSとディスクユニオンが大好き。