Review | アニエス・ヴァルダ『冬の旅』


文・写真 | sunny sappa

 こんにちは。このレヴュー・コーナーもなんと今回で1周年を迎えました(パチパチ)!なんだか嬉しいですね。映画が好きという気持ちだけで、文章は決して得意分野ではなかった私ですが、改めて過去の記事を読んでみると、まあよく書いたもんだと自分でも驚いています(笑)。普段から考えていることや言いたいことはいっぱいあっても、いざ言葉に残すとなるとけっこう勇気のいるものですね……。伝えることと表現の難しさを身を持って実感しました。それでも、頭の中を整理しながら再確認していくこの作業は自分自身、時には社会を見つめ直すきっかけにもなりました。そこから思考をさらに深め、思いもよらない発見に繋がることも多々あり、偶然にも今こうして(稚拙ながら)文章を書くのがライフワークとなったことを心から楽しんでいます!このような機会をいただけたことと、読んでくださるみなさまに大きな感謝を!!

 さて、記念すべき13作目は故アニエス・ヴァルダ『冬の旅』(1985)のお話です。ずっとずっと観たいと思っていたものの、機会がなく、今回の上映を心待ちにしていました(フランスでの興行的なヒットにも関わらず配信もレンタルもないのだ……)!女性監督のパイオニアであるアニエス・ヴァルダのこの作品は、これまで自分が意識的に扱ってきたテーマとも通じるものがあり、1周年という節目にも相応しいチョイスではないかな。あらすじざっくり↓

冬の寒い日、フランス片田舎の畑の側溝で、凍死体が発見される。
遺体は、モナ(サンドリーヌ・ボネール)という18歳の若い女だった。
モナは、寝袋とリュックだけを背負いヒッチハイクで流浪する日々を送っていて、道中では、同じく放浪中の青年やお屋敷の女中、牧場を営む元学生運動のリーダー、そしてプラタナスの樹を研究する教授などに出会っていた。
警察は、モナのことを誤って転落した自然死として身元不明のまま葬ってしまうが、カメラは、モナが死に至るまでの数週間の足取りを、この彼女が路上で出会った人々の語りから辿っていく。
人々はモナの死を知らぬまま、思い思いに彼女について語りだす。

――公式サイトより

 キャッチコピーは「彼女は路上を選んだ。」。あらすじからもなんとなく『イントゥ・ザ・ワイルド』(2007, ショーン・ペン監督)を連想してしまいますが、全く毛色の異なる作品です。というか対極の映画かもしれません……。

 『冬の旅』は閉鎖的な南仏の寒村が舞台となっています。弦楽四重奏のテーマが身を切るような寒さと孤独を物語り、冒頭から漂うその不穏な予感は若い女性の凍死体というショッキングなシーンで的中します。何故死んだのか?は、かろうじて劇中でわかるのですが、モナがどこから来て何の目的で旅をしているのか?とか、彼女のパーソナリティや出自、心情の説明や描写が殆どないのがこの作品の一番の肝だと言えるでしょう。

 モナと接触のあった人物が彼女とのエピソードを回想する形式で映画は構成されています。嫌悪感を示す人、軽蔑し、見下す人、性的な対象としてしか見ない人、好意的に感じる人、憧れを抱く人、短い交流の中でのモナの印象はそれぞれです。中には信頼関係が生まれたり深く関わろうとした人物もいたけれど、観ている私達と同じく誰ひとりモナの本心を掴むことができないのです。ただ、モナについて語ることで、彼女と対峙した彼らの持つ思想や背景の方が逆に浮き彫りになっていくのです。ここは本当におもしろいと思いました。パンフレットを読むと、ヴァルダ自身もあえてモナの核心的な部分は設定していないと答えています。それは感情移入を排除することでもあって、あえてモナを“理解しがたいもの”として存在させているのです。アニエス・ヴァルダは何故このような映画を撮ったのでしょうか?

Photo ©sunny sappa

 ヴァルダは『冬の旅』の前に『歌う女・歌わない女』(1977)という映画を撮っています。主人公の1人(歌うほう)もヒッピー的に放浪生活をしている若い女性です。背景には世界的なカウンターカルチャーの流行やフェミニスト運動などがあり、彼女はコミュニティ(劇団))の中に自分の居場所を見つけます。映画自体にも明るい未来を予測させるポジティヴな雰囲気がありました。

 一方、同じく放浪する女性を描いた『冬の旅』は、『歌う女・歌わない女』のようなラヴ & ピース時代の終焉と80年代に蔓延した個人主義に言及しています。選択肢は広がったけど人との関わりは希薄になり始めた時代と言ったら良いのかな?たしかに、これが1970年代であれば結末は違っていたでしょう……。社会・常識の基盤からことごとく逸脱したモナという存在は、かつて“自由の象徴”として迎合されたかもしれません。しかし80年代に撮られた『冬の旅』では“理解しがたいもの”として、孤独と閉鎖感の中行き場をなくし、死という悲しい結末を迎えます。アニエス・ヴァルダはそんな時代の空気と先行きを1人の怒れる女性モナに託したのです。

 あの恐ろしい映画『幸福』(1965)でも明らかですが、アニエス・ヴァルダは丸くかわいらしい見た目にも反して、一筋縄ではいかない作家です。時代や社会を捉える視点も非常に鋭い。でも厳しさだけではなく、同時にユーモアや温かなシーンを交えることも忘れないのです。辛辣な題材の『冬の旅』でもそんな部分には心救われましたし、この作品のハイライトでもあると思います。それは鑑賞時にぜひ!

 『イントゥ・ザ・ワイルド』ではおいおい泣いていた私も、『冬の旅』を観て感動の涙は一滴も出ませんでした。ただただ、悲しみとショックで心が震える。そして、何かが強烈に自分の中に残っていくという感覚が確かにありました。高揚感よりも余韻が長く、まだ自分の中で映画が続いてる感じ。こういう体験を出来る作品はそう多くないと思います。寒さで路上に倒れたモナのことを、私は生涯忘れないでしょう。

■ 2022年11月5日(土)公開
『冬の旅』
東京・渋谷 シアター・イメージフォーラムほか全国公開
http://www.zaziefilms.com/fuyunotabi/

[監督 | 脚本]
アニエス・ヴァルダ

[出演]
サンドリーヌ・ボネール / マーシャ・メリル / ステファン・フレイス / ヨランド・モロー / パトリック・レプシンスキ / ジョエル・フォッス / マルト・ジャルニアス

製作: ウーリー・ミルシュタン
撮影: パトリック・ブロシェ
編集: アニエス・ヴァルダ / パトリシア・マズィ
音楽: ジョアンナ・ブルゾヴィッチ

配給: ザジフィルムズ
1985年 | フランス | ヨーロッパ・ビスタ | カラー | 105分 | 原題: Sans Toit Ni Loi (英題: Vagabond)
©1985 Ciné-Tamaris / films A2

sunny sappasunny sappa さにー さっぱ
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東京の下町出身。音楽と映画、アートを愛する(大人)女子。
1990年代からDJ / 選曲家としても活動。ジャンルを問わないオルタナティヴなスタイルが持ち味で、2017年には「FUJI ROCK FESTIVAL」PYRAMID GARDENにも出演。
スパイス料理とTHE SMITHSとディスクユニオンが大好き。