Review | スティーヴン・キジャック『ショップリフターズ・オブ・ザ・ワールド』


文・写真 | sunny sappa

 早くも師走ですね!1年が早すぎてヤバいです。みなさん、2021年はどうでしたか?私はいろいろあったような、なかったような。常に目の前のことでいっぱいいっぱいだったから、なんだかすでに思い出せないや……(泣)。とりあえず今年は再び映画館に行って映画を観る機会が増えました。それが嬉しかったですね。

 年明けは『燃ゆる女の肖像』(セリーヌ・シアマ監督)と『Swallow / スワロウ』(カーロ・ミラベラ=デイヴィス監督)を立て続けに観に行きました。国や時代背景、テイストは違うけど、前年の『はちどり』(キム・ボラ監督)に続いて女性として大変共感できるテーマでした。音楽ものならスパイク・リーが撮ったDavid Byrneの『アメリカン・ユートピア』は2回も劇場に観に行ってしまったし、?uestloveが監督した『サマー・オブ・ソウル (あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』もめちゃ熱かったです!ほかにも個人的にはトマス・ヴィンターベア『アナザーラウンド 』、ダウリス・マーダー『サウンド・オブ・メタル』など小さな作品も素晴らしかったな……etc.。

 いわずもがなですが、昨今の世相を反映して人種差別、性差別、女性蔑視、格差、搾取などに言及する内容は引き続き目立っていた気がします。悲しい事に「そんなテーマはもう古いじゃーん!」と言われる日はなかなか来ないようです。

 その中でも2021年を象徴する映画はやはりクロエ・ジャオ『ノマドランド』ではなかったでしょうか?この作品でノマドとして生きる人たちの存在を初めて知りましたが、何より驚いたのは切り口の斬新さです。従来型であれば突然街がなくなるというあり得ない状況や、高齢者の低賃金、長時間労働といった悲惨で辛い面をクローズアップしたザ・社会派映画になっていたところ、クロエ・ジャオ監督はすごくナチュラルに、美しく、そして肯定的(ここ大事!)に撮っているので、どちらかと言うとアート映画のような雰囲気です。でも決して綺麗事じゃなく、あくまでも半ドキュメンタリーとしてリアルに描いてるから、そのバランスが気持ち良いんですね。社会的な背景についてはもちろん考えさせられるけど、押し付けがましさが一切ないっていうか。まさに新しい時代にふさわしいと感じました。

 すっかり前置きが長くなってしまいましたが、今回は『ノマド~』ではなくて、もしかしたら今年最後の映画館での鑑賞となるかもしれない『ショップリフターズ・オブ・ザ・ワールド』の話です。ズバリ、タイトル通りTHE SMITHSの曲を題材にした映画として楽しみにしていた作品。いざ東京・日比谷 TOHOシネマズ シャンテへ!

 あらすじはざっくり↓

コロラド州、デンバー。スーパーで働くクレオは、大好きなザ・スミス解散のニュースが流れても普段と変わらない日常に傷つき、レコードショップの店員ディーンに「この町の連中に一大事だと分からせたい」と訴える。ディーンはクレオをデートに誘うが、友達が軍隊に入るので仲間と集まるからとクレオは出かけていく。1人になったディーンは、地元のヘビメタ専門のラジオ局に行行ってザ・スミスの曲をかけろとDJに銃を突きつけた。同じ頃、クレオ、ビリー、シーラ、パトリックの仲良し4人組は、パーティーでバカ騒ぎをしながらも、自分自身や将来について思い悩んでいた。
――公式サイトより

 驚くことに、このコロラドのラジオジャック事件は実話らしいです。THE SMITHSと言えば1980年代のイギリスを象徴するバンドというイメージがありますが、実はアメリカ人もTHE SMITHSが大好きなんです!それこそ前述した『ノマドランド』では、フランス・マクドーマンド扮するファーンが季節労働者として働くAmazonの倉庫で出会った人が、THE SMITHSの歌詞とモリッシーの入れ墨を入れているエピソードが出てきましたね。私も数年前に行ったポートランドで、カフェやホテル、古着屋なんかでかかっているのを目の当たりにして驚いたもんです。ましてや30年くらい前の音楽を短期間でこれだけ耳にするのだから、アメリカでもかなりポピュラーなのではないか?! と思います。『The Queen Is Dead』のカセットテープもこのときポートランドで買いましたし。

Photo ©sunny sappa
アメリカで買ったカセットテープは$3だった。

 さて本作、あらすじでもわかるように、所謂大道のザ・ティーンズ青春ストーリーでございます。若者男女5人のTHE SMITHS解散一夜を描いているので、『ブレックファスト・クラブ』(1985, ジョン・ヒューズ監督)とか『エンパイア レコード』(1995, アラン・モイル監督)とか、最近なら『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』(2019, オリヴィア・ワイルド監督)なんかの系譜かな?そういった類の映画もけっこう好きなんで、私はかなり……えっと……、最高でしたっ!正直言うと、もうストーリーとか設定とか実話だとか整合性がどうだとか、どうでもいいんです。自分にとっては。THE SMITHSの曲をこんな風に聴けるのが幸せ過ぎて泣きましたよ。改めて歌詞を噛み締めながら胸がギュッとなった。そして自分は後聴きのTHE SMITHSファンなんだけど、もし若い頃にリアルタイムで出会っていたらこんな風だったのかな?と思うとちょっと羨ましいようなお話でしたね(日本では有り得ないと思うけど)。

 5年くらい前だったか、「今こそTHE SMITHSは若者に聴かれるべきだ!」とか思い立っちゃって、THE SMITHSのレコードだけをかけるDJイベントをやったことがあります。きっかけは、安倍政権がサッチャーの施策を参考にしているっていうのをどこかで読んだからなんだけど、その後にブレイディみかこ氏の『いまモリッシーを聴くということ』(ele‐king books)をはじめ、『ジョニー・マー自伝 ザ・スミスとギターと僕の音楽』(シンコーミュージック | 丸山京子訳)、『お騒がせモリッシーの人生講座』(イースト・プレス | 上村彰子著)、『モリッシー自伝』(イースト・プレス | 上村彰子訳)等、ここ数年THE SMITHSやMorrisseyに関する出版も目立った気がします。2016年には「Supreme」がMorrisseyのTシャツを出してましたね。今年の夏にもレディスのアパレル・ブランドでモリT見かけました。買わなかったけど……。「AVE | CORNER PRINTING」の久保田千史氏に「今こそTHE SMITHSでしょ!」みたいな話をしたときも「最近の若いバンドってTHE SMITHSみたいなの多いよー」って言われたしな。覚えてるかな?(*)まぁ、時代は巡って再びTHE SMITHSを求めているんだと勝手に思ってます。
* 編集部註: 覚えています(笑)。

 映画では2019年日本公開の『イングランド・イズ・マイン モリッシー、はじまりの物語』も記憶も新しいです。これはもう全く期待しないで観に行ったけど、モリッシーの伝記映画的な雰囲気でTHE SMITHS好きなら楽しめる内容だったと思います。ただね、THE SMITHS結成前の話だからか、音楽は全く使われていなかったんです。仕方ないんだけど、なんだか残念。その点『ショップリフターズ~』はオンパレードで楽曲を堪能できたので、そりゃ大満足ですよ!あ、でもひとつだけ文句言うなら『This Charming Man』のレコードをかけるシーン。パンフレットにも書いてあったけど、ジャケは12″シングル(1983, Rough Trade)なのに、ヴァージョンが『Hatful of Hollow』(1984, Rough Trade)なのは、たしかに私もあれれ~?! ってなっちゃいましたね~。あのJohnny Marrのハイライフ風のイントロ期待しちゃうでしょー?! って。でもUSでは『Hatful of Hollow』がメジャーっていうのも聞いたことあるから、敢えてそっちのヴァージョンを使ったのかな(だったらジャケも合わせて欲しかったけど……)?

 ともあれ、主人公の部屋やレコ屋に貼ってあるポスターや切り抜き、ところどころで挿入される実際のインタビューやライヴ映像なども見どころになっていて、ファンにとっては堪らない内容なのは間違いないです!そんな私はもはや客観的になんてなれないんだけど、もしTHE SMITHSを知らない人にこの映画を薦めるとしたら微妙かな?! いやいやそんなことはないと思っています。あるバンドの解散を巡る青春ストーリーとして退屈しないし、それが実際の事件をベースにしているわけだから「そこまで特別なバンドって一体どんなもんなんよ?」って興味を持って聴いてもらえたら最高です。最初は好きじゃなくてもタイミングが合えばグッとくる瞬間ってありますから、とりあえず知ってもらえたら嬉しい。

 うちの娘は小さい頃からTHE SMITHSを聴いているけど、一向に好きになってくれない。でもいつかわかってくれる日が来るんじゃないかと密かに思ってます。だって娘はMorrisseyタイプだから。皮肉屋で、だけど内気で繊細。溌剌とした青春を送れない人間だっているんです。鬱屈としているそんなとき、仮にTHE SMITHSじゃなくてもいいけど、音楽って本当に救いになるのだ。だから大丈夫。きっと10代っていろいろあると思うけど、辛いときもきっと大丈夫!

『ショップリフターズ・オブ・ザ・ワールド』
TOHOシネマズ シャンテ、渋谷シネクイント ほか
https://sotw-movie.com/

[出演]
ヘレナ・ハワード / エラー・コルトレーン / エレナ・カンプーリス / ニック・クラウス / ジェイムズ・ブルーア / トーマス・レノン / ジョー・マンガニエロ

監督・脚本: スティーヴン・キジャック

原題: Shoplifters of the World
2021年 | アメリカ・イギリス合作 | 91分 | シネマスコープ | カラー
配給: パルコ
©2018 SOTW Ltd. All Rights Reserved.

sunny sappa さにー さっぱ
Instagram

sunny sappa東京の下町出身。音楽と映画、アートを愛する(大人)女子。
1990年代からDJ / 選曲家としても活動。ジャンルを問わないオルタナティヴなスタイルが持ち味で、2017年には「FUJI ROCK FESTIVAL」PYRAMID GARDENにも出演。
スパイス料理とTHE SMITHSとディスクユニオンが大好き。