Review | マギー・ギレンホール『ロスト・ドーター』


文・写真 | sunny sappa

 こんにちは。あっという間に師走ですね。いつになく週末の予定がパンパンに。こんな感じも久しぶりな気がするな。10年ぶりの人、5年ぶりの人、1週間ぶりの人も昨日ぶりの人も、今年はちょっと会える機会が増えたのは嬉しい限りです。

 そんなこんなで本業の仕事(一応会社員なんで)のほうも年末でバタバタしておりまして、今月はなかなか映画館に足を運べなかったのでNetflixのオリジナル作品をピックアップしてみました。『ロスト・ドーター』(2021)という作品です。この映画はちょうど1年くらい前に配信されて、各映画祭で高く評価されていたみたいですね。

 監督は俳優のマギー・ギレンホール(ジェイク・ギレンホールのお姉さんですね)。そーそー、最近は演じることのみならず脚本や監督などマルチにできちゃう俳優さん多いですよね。昔の人ならクリント・イーストウッドやメルギブ(メル・ギブソン)、はたまたショーン・ペンやベン・スティラーなんかを思い出しちゃうところなんだけど、ここにきて多くの女性たちも台頭しています。サラ・ポーリーやグレタ・ガーウィグ、オリヴィア・ワイルドなんかは監督や脚本でとても良い作品を作っていますし、優等生アイドルのイメージが強かったリース・ウィザースプーンもプロデュース業が光ってる!性別で作品を区別するわけではないけど、実際しっくりくるというか、共感できるところも大きいと感じます。この『ロスト・ドーター』もまさに女性監督ならではの題材。なかなか考えさせられましたし、ちょっとだけ勇気ももらえたかな。まずはあらすじざっくり↓

海辺の町を訪れたひとりの女性。近くの別荘に滞在する若い母親の姿を目で追ううちに自らの過去の記憶がよみがえり、穏やかな休暇に不穏な空気が漂い始める。
――Netflix 配信ページより

 上記のあらすじではわかりにくいけど、イタリア文学の教授として成功した中年女性レダが、若くして産んだ2人の娘の子育てと自己実現の狭間で経験した過去のあれこれを思い出すという話を軸に、バカンス中に知り合った金持ち家族やホテルの管理人などとのやりとりが絡んでくるという内容。何気ない話をサスペンスフルに描くことで、とにかく不穏な空気が漂いまくっています。現在進行形の物語にしても、過去の話にしても、とにかく微妙に嫌~な感じのエピソードの連続なのです。子育てのネガティヴな面も敢えてクローズアップしていて、経験者には痛い痛い(泣)。あの余裕のなさや、どうしようもないイライラわかるな(娘よごめん、と私も過去を振り返って思ったよ)。さらに「子育ての責任は人を押し潰す」「子育てには向いてない」「母性がないの」などのネガティヴ・ワードも満載でまじで滅入るー。しかし、ふと、これらはかつて私の頭をよぎった言葉の数々ではなかろうか(もちろん子供への愛情とは無関係だけど)?だからこそより一層不快にさせるんだわね。あーいやだいやだ。そして、歳を取れば「クソババア」と言われる始末よ。

 そんなわけでこの映画99%はなんだかザワザワするんだけど、それを残りの1%で回収してくれるので、辛辣ではあるけど決して身も蓋もない話ではないのでご安心を。

 嫌な人物にも見える現在のレダ、身勝手に思える過去のレダ、旅先で出会う若く奔放な母親ニナも、彼女たちの直面する現実や心情はなにも特別なものではなくて、子育ての各タームで誰もが感じることなのかも知れない。少なくとも私は身につまされたり共感できる部分がありましたね。逆に男性や子供のいない人にはどう映るのかな?レダがおいしそうなフルーツを手に取ったら実は裏面が傷んでいた、というシーンが象徴していますが、一見幸せそうに見えても、成功していても、その影には不安やもがき、揺らぎもあるのだ(かといって不倫はいかんだろうが……)。

Photo ©sunny sappa

 また、子育てにも生きかたにも明確な正解はないと思う。それでもなんでも結局、母性のない母親なんていないんだな。うーん、母性というか、子供が生まれたらその時点でどんな人であろうが誰もが母親なんだよね。そこからは絶対に逃れられないんですよ。それと同時に一個人として自分らしく生きる資格もある。本作ではそれを、複雑な感情を捉えながら、綺麗事なしで的確に描写されていたのが新鮮だったな。

 そして、過去の後悔や過ちも、未熟だった自分も、向き合うことで今の自分をちゃんと受け入れていかねばね……。

 主人公の中年女性レダをオリヴィア・コールマンが、そして若い頃のレダをジェシー・バックリーが演じています。この2人が魅力的で素晴らしい!特に主人公の居心地悪さと哀愁をうまーく表してるオリヴィア・コールマンの演技は絶妙。ジェシー・バックリーは最近好きな俳優さんで、同じNetflixオリジナル作品のチャーリー・カウフマン監督『もう終わりにしよう。』(2020)に出ていた人です。この映画も実に不穏だったわ……。そして新作の『MEN 同じ顔の男たち』(2022, アレックス・ガーランド監督)でも大変なことになってたよ~。

 『ロスト・ドーター』はNetflixですぐ見られますので気になった方はぜひ~!

 さて、そろそろ今年も終わりますね。みなさま良いお年を!

sunny sappasunny sappa さにー さっぱ
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東京の下町出身。音楽と映画、アートを愛する(大人)女子。
1990年代からDJ / 選曲家としても活動。ジャンルを問わないオルタナティヴなスタイルが持ち味で、2017年には「FUJI ROCK FESTIVAL」PYRAMID GARDENにも出演。
スパイス料理とTHE SMITHSとディスクユニオンが大好き。