Interview | THE BREATH


ハードコアとパンクの間をいく

 元LOW VISIONのヴォーカリスト・Masa(以下 M)を中心に、ベースに同じく元LOW VISIONのYagi(UNARM, SOCIO LA DIFEKTA | 以下 Y)、ギターにKatsuya(YOUNG LIZARD, PAYBACK BOYS | 以下 K)、ドラムにAkio(TRAGIC FILM, STANDOUT, SoulDischarge etc.)を迎えて結成されたTHE BREATH。彼らにとって初の7”EP『道理なき憎悪 Reasonless Hate』が、2月に米デンバーの「Convulse Records」よりリリースされた。

 THE BREATHは、“デモ”と呼ぶには完成度が高すぎる1stデモテープ『PROMO 2021』(BLACK HOLE | Quality Control HQ)をリリースした時点でもはや“元LOW VISION”といった言葉は不要に思えるほど強固なスタイルを築いていたが、新作EPはその先を行っている。80年代USハードコアやNew Wave Of British Hardcoreを下敷きに“ハードコアとパンクの間”で反レイシズムや反セクシズムを叫ぶスタイルはより研ぎ澄まされ、またStudio REIMEI(東京・調布)の新間雄介(VINC;ENT, SAGOSAID)による録音 / ミックスでプロダクションも格段に向上した。全6曲約10分、まったく隙のない2020年代東京のハードコア・パンクといえる。


 リリースと前後して、1月には元CROCODILE COX AND THE DISASTERのIxTxOxP(UMBRO | 以下 I)がもうひとりのギタリストとして正式に加入。5人編成となりライヴにおいても隙がなくなったTHE BREATHに、メンバー全員参加のインタヴューを実施した。なお、ドラムのAkio(以下 A)は都合により途中参加となっている。


取材・文 | 須藤 輝 | 2024年6月
Main Photo ©三木鉄平

――THE BREATHって、どうやって結成されたんですか?2020年8月にLOW VISIONが解散してみんなが悲しみに包まれていたさなか、あまり間を置かず2021年4月にBUSHBASH(東京・小岩)で1stショウを行っていますよね。
M 「悲しみに包まれてくれていたらありがたいです。LOW VISIONはメンバーのひとりが欠けることになって解散という選択をしたんですよ。とはいえ、やっぱりバンドはやりたいって話を、たぶん解散を発表するかしないかくらいのタイミングでYagiちゃんとしたのかな。じゃあ、メンバーはどうしようかと考えたとき……」
Y 「オカムラさん(Masa)的には、2019年にLOW VISIONでUSツアーに行って、海外の友達ができたりして意識が変わった部分はありますよね」
M 「どういうこと?」
Y 「日本のバンドの場合、オリジナル・メンバーが全員いてこそみたいな、同じメンバーで何年もがんばるのがよしとされがちな風潮があるじゃないですか。でも、海外のバンドってけっこうメンバー・チェンジが激しくて、それでもバンドの色は変わらないし、やってることもブレない。例えばARMS RACEのドラマーだったTom Pimlottはドラム以外の楽器もヴォーカルできるし、彼ひとりいれば、ストレートエッジなのでユースクルー・タイプなんですけど、完全にひとつのバンドとして成立するんですよね。オカムラさんも、言っちゃえば楽器はなんでもできるし、ほかの人の曲は弾けないし歌えないっていう」
M 「まあ、自分主体でバンドやるならそうかも(笑)」
Y 「新しいバンドを組むにあたって、“Tom Pimlottみたいなスタンスもいいな”みたいなことも言っていませんでしたっけ?」
M 「たしかに、VIOLENT REACTIONとかもTomのプロジェクト・バンドとして、完全に彼のやりたいことをやるためのバンドとして成り立っていたり。最近だと、去年の10月に来日したANGEL DU$TもヴォーカルのJustice Tripp以外は全員メンバーが替わっているけど、ANGEL DU$TはANGEL DU$Tだし」
Y 「GAGも、日本~オーストラリア~東南アジア・ツアーの中で、シンガポールではFUSEのメンバーが弾いてたりするわけじゃないですか。ステージ上のメンバーの半分がFUSEみたいな。ハードコアって、意外とそれでも成立するから」

――実際、去年の11月にTHE BREATHとDEATHROさんがUSツアーに行ったとき、THE BREATHの正式なメンバーはオカムラさんだけでしたよね。ギターは、当時はサポート・メンバーだったイトーさん(IxTxOxP)、ベースは川又 慎さん(Not It? Yeah!, GUMMY BOYS)といういずれもD6(DEATHROのバックバンド)のメンバーで、ドラムはツアーに帯同したBAD ANXIETYのRyan Fetter(NAG, PRIMITIVE FUCKING BALLERS, HOT EARTH etc.)という。
M 「そうなんですよね。言いかたが難しいんですけど、自分がいればTHE BREATHになる、そしてその状況をみんな受け入れてくれていると思っていて。だからといってほかのメンバーは誰でもいいわけじゃなくて、俺がやりたい音楽って、ハードコアとパンクの間をいくようなものなんですよ。ハードコアに寄りすぎても、パンクに寄りすぎてもいけない。そういうプレイができて、人間的にも好きな人となるとKatsuyaくんとAkioくんしかいないんじゃないかと。ただ、ふたりとも忙しいから……Katsuyaくんは当時、YOUNG LIZARDはやってなかったけど、MOONSCAPEとPAYBACK BOYSはやってたんだよね?」
K 「ああ、そうですね」
M 「特にMOONSCAPEをがっつりやってるイメージだったから、ちょっと難しいかなと思ってDEATHROさんに相談したんですよ。そしたら“いや、かっちゃんいけるっしょ”とか言って。じゃあ、聞くだけ聞いてみようと電話したら、すぐにOKしてくれたという」
K 「当時やっていたバンドがけっこうメタリックだったり、MOONSCAPEはジャパニーズ・ハードコアっぽい感じだったんですよね。でも、自分のルーツはどっちかっていうとUSハードコアだから、そういう感じのバンドをやりたかったというのはあります。オカムラさんが好きなユースクルーはそこまで深く掘ってはいなかったけど、80sのバンドもよく聴いていたので」
M 「Katsuyaくんは同時に、現行のハードコアの熱心なリスナーでもあると思っていて。俺も現行のハードコアが好きだし、もちろん80sもかっこいいんですけど、現在進行形の音楽を楽しんでいけるメンバーだと同じ感覚を共有できるのでうれしいなと」

Photo ©三木鉄平
Photo ©三木鉄平

――THE BREATHの曲はたしかに現行のハードコア・パンクを消化している感じがありますし、LOW VISIONと比べるとずいぶんシンプルになりましたね。
M 「なんか、“ヘヴィになった”とか“タフになった”みたいにけっこう言われるんですよね。あまり意識はしてないですけど」
Y 「曲がスロウになっただけじゃない?」
一同 「(笑)」
Y 「LVと比較するなら、2000年代に流行ったスラッシュとかファストコアみたいな要素はなくなって、より80年代アメリカの、特にボストン・ハードコアっぽい感じになった気がする。だけどハードコアの観点から見ると、重くはないよね?」
M 「全然重くないと思う」
Y 「今まで“ハードコア”っていうとニューヨーク・ハードコア的な、サグい音でウィンドミルするみたいなイメージが強くて、日本にもそういうシーンがずっとありますよね。でも、2010年代あたりからアメリカとUKを中心に、ボストン・ハードコアをルーツとして、そこにパンクをミックスしたような、ハードコアとパンクを行き来する感じのバンドが爆発的に増えたじゃないですか」
M 「そう。その急先鋒が、俺の中ではUKのTHE FLEXなんですよね。THE FLEXもさっき言ったVIOLENT REACTIONのTomのバンドだし、やっぱりNew Wave Of British Hardcoreの存在がでかいですね。アメリカだったらTØRSÖかな。ユースクルーっぽさもあるけど、Dビートだし、パンクっぽいみたいな」

――同じくTom PimlottのバンドであるRATED Xは?
M 「ちょっと厳格すぎますね」
一同 「(笑)」
M 「いや、RATED Xはめちゃくちゃストレートエッジでヤバいし、ライヴを観たら絶対にぶち上りますけどね。自分がやりたい音かというとそうではないかなと」
Y 「ブルータルなハードコアをあまり知らない自分からすると、NWOBHCとかはすごくしっくりくるんですよね。でもTHE BREATHを結成しようとした当時、そういうバンドは日本のシーンにあまりいなかったじゃん」
M 「今もいないからね、もっといてほしいですね」
Y 「そうだね。BYBO(BLOW YOUR BRAINS OUT)みたいなバンドもいるけど」
M 「最近だと、去年結成されたBRUOとかね」
Y 「でも、世界的に見たら少ないほうでしょ。例えばシンガポールとか、東南アジアにもけっこういるじゃない。だからLOW VISIONが終わったとき、オカムラさんがそういう、日本では珍しいスタイルのバンドをやろうっていう感じになったのがおもしろかったというか。LVではあんなに複雑な曲をやっていたのに」
M 「今思うとかなり複雑だよね(笑)」
Y 「ノったら曲が終わっちゃったり、次の展開に入っちゃったりするから。それが、めっちゃシンプルになった」
M 「LVの反動でシンプルにしたくなったっていうのも大いにありますね」

Photo ©三木鉄平
Photo ©三木鉄平

――THE BREATHの曲はすべてオカムラさんが書いているとはいえ、演奏に関しては各プレイヤーの裁量に委ねている部分も?
M 「それはめちゃくちゃありますね」
Y 「もう、ギターはKatsuyaくんのアレンジじゃないですか」
K 「リードとかはそうですね。家でひとりで考えて」
一同 「(笑)」
Y 「誰々っぽく弾きたいみたいな、イメージしてるギタリストとかはいるんですか?」
K 「いや、そういうのはあまりなくて。強いていえば、もともとメタルっぽいギターは好きじゃなかったんですけど、いろいろやらざるを得なくなったときに、例えばBLACK SABBATHとか、簡単だけどかっこいいみたいなギターにはたぶん影響を受けています。単音のフレーズを弾くときなんかは特に」
一同 「ああー」
K 「ハードコアだと……逆にピンとこない感じで。ギタリスト云々じゃなくて、あくまでギターのフレーズとしてかっこいいと思ったのはHOAXとかですね」
Y 「そこまでマイナーなコードじゃないオカムラさんの曲に、けっこうメタリックな感じのソロを突拍子もなく、かつ効果音的に入れたりするじゃないですか。あれはどういう狙いなんですか?」
K 「別にソロを弾きたいわけじゃないんですけど、曲にフックがあったほうがおもしろいかなと思って。自分のギターを聴いてほしいというよりは、自分にできる範囲で曲をよりよくしたいって言えばいいんですかね。だからレコーディングの前にすごいがんばって、夜な夜な家で練習して……」
Y 「それは、降りてきたものを弾いている感じ?」
K 「いや、まずメインのリフがあって、そこから少しずつ膨らませていく感じです。このやりかたは昔から変わっていなくて、YOUNG LIZARDとかでもそうでした。そんなに引き出しがあるわけでもないし、すぐにアイディアが浮かんでくるわけでもないので、けっこう時間がかかっちゃいますね。でも、あまりやりすぎるものどうなのかなって……大丈夫ですか?」
M 「それはもう。俺はギター・ソロとか弾けないし、センスもないんでそのへんはKatsuyaくんに完全にお任せなんですけど、レコーディングのときにマジでびっくりしました。“えっ?こんな上モノ考えてくれたんだ!?”みたいな」
Y 「そうそう。ギター・ソロはレコーディングで発表されるから、“そうなるんだ!?”って」
K 「ライヴ前とかに入るスタジオだと、なかなかうまく詰められなくて」
Y 「基本的に、THE BREATHは録ってない曲をライヴでやることはあまりないからね。だからKatsuyaくんはライヴまでに完成させるというより、レコーディングに合わせて完成させる」
K 「そもそも去年まではギターが1本だったんで、ライヴではできない……いや、できないことはないけど、音源なら無理なくできるっていうか。だからレコーディングに合わせて、自分がギターを2本弾く体で作るみたいな。今はイトーさんが入って、日頃のスタジオからリードを弾けるようになったぶん、もうちょっと早めに完成させられるようにがんばりたい(笑)」

――THE BREATHの初音源『PROMO 2021』と比較して、『道理なき憎悪』ではKatsuyaさんのギターの自由度が増していますよね。それは、イトーさんが入ってギターが2本になる前提で録ったからなのかなと思ったのですが……。
K 「いや、録ったときはまだイトーさんが加入するという話は全然なくて」
M 「だから普通に“やべえ!”という感想が」
Y 「“ライヴでどうやって再現するんだろう?”みたいな」

――イトーさんは、どういった経緯で加入したんですか?
M 「イトーさんの加入は、去年の11月のUSツアーに端を発していて。たぶんUSツアーの話が持ち上がったのが、1年ちょっと前ですかね?」
I 「オカムラくんから電話をもらったのが5月5日なんですよ。DEATHROのライヴで野方に向かっているときで、“USツアーに行きたいので、ギター弾いてくれませんか?”って。ゴールデンウィーク中だったんで、そのときは“連休明けたらすぐにご返答します”とだけ伝えて、5月9日に“行けます”と」
M 「早すぎましたね。連休明けて1営業日後にお返事をいただきました」
I 「会社に行って確認して、すぐ返事をしたのを覚えてます。で、6月の2週目くらいから、ツインギターでライヴに参加させてもらって」
M 「そう。USツアーに行く前に、タイミングの合うところでステージを共にしたいということで」
I 「さっきのKatsuyaくんのギターのフレージングに繋がる話なんですけど、このEPを録ったときにKatsuyaくんがリードをいっぱい足したものの、ライヴでギターで1本でやると、どうしてもリードを削ることになるじゃないですか。バッキングも弾かなきゃいけないから。要は、せっかくのおいしいリードがなくなっちゃうという問題にTHE BREATHのメンバーがぶち当たっていて、そこで“もう1本ギターがあったらいいね”という話も出ていたみたいです。そこに、たまたま私がUSツアーの準備というか練習のためにサポートで入ることになったという」
M 「たぶん去年の6月以降、イトーさんがいなかったライヴってないんですよ。USツアーはさっきの話にあった通り俺とイトーさんしか行ってないし、国内のライヴでもYagiちゃんとKatsuyaくんは不在のときがあったけど、イトーさんだけはずっといる」
I 「そうですね。去年の6月から今日現在まで皆勤です」

Photo ©中野賢太
Photo ©中野賢太

――イトーさんが正式に加入したのは、今年に入ってから?
I 「今年の1月です。それまではあくまでサポートで、アメリカから帰ってきたあとに正式にオファーをいただいて、今年の1月にご返答しました」
M 「イトーさんもね、Katsuyaくんと同じく忙しい人だから。CROCODILE COX AND THE DISASTERは去年いっぱいで解散しちゃったけど、UMBROとDEATHROがあって」

――イトーさんは去年、何本ライヴをやったんでしたっけ?
I 「94本です」
一同 「(笑)」
I 「うち50本はDEATHROです(笑)」
M 「いかれてます。だから、まさか正式に入ってもらえるとは思わなかったんですけど、やっぱり2本でライヴをやったらめちゃくちゃよくて。今まで自分はギター2本のバンドをやったことがないから、本当に2本にして大丈夫なのか、意味があるのか疑問だったんです。でもやってみたら、パワーコードのイトーさんとリードのKatsuyaくんの組み合わせ、完璧だなって」
I 「私は完全にバッキング・マシーンなんで」
一同 「(笑)」
M 「イトーさんはUSツアーと、国内のライヴでKatsuyaくんがお休みのときはリードも弾いてたんです。だから弾けるんですよ。だけどバッキングに徹するっていう」
I 「DEATHROでもUMBROでもソロを弾いていますけど、THE BREATHにおける自分の役割は、みなさんの底上げだと理解しております」
M 「SANOAのカメザワさんが“パワーコードを30年弾いてる人の音は説得力が違う”と言ってました(笑)」
K 「イトーさんが加入してくれて、ギターの自分としては当然やりやすくなりました。あと、イトーさんは練習で入るスタジオでもめちゃくちゃしっかり音を取ってくるので、それに負けちゃいけないなと」
I 「悪い影響を及ぼしてないですか?みんなのペースを乱してないでしょうか?」
K 「いや、本当にいいサイクルができあがってると思います」
I 「すでにTHE BREATHのオリジナル・メンバー4人にはしっかりしたフォーメーションがあって、4人の心地よい空間ができあがっているんですよ。じゃあ、自分はいかにそのバランスを崩さないように存在するか。そこに一番気を付けています。私が入ることで誰かひとりでも窮屈に感じたりしたら嫌じゃないですか。だからもう、LINEの返信とかも素早く」
M 「そっちですか(笑)」
I 「(笑)。ちっちゃいことから、ライヴのおっきな音まで」

――イトーさんは、以前ちょっと立ち話をしたときに「THE BREATHの音楽は自分の引き出しにはないものだから続けられる」とおっしゃっていましたよね。
I 「そうですね。THE BREATHはCROCODILEともUMBROとも全然違うし、例えばUMBROでは自分で曲を作っていますけど、THE BREATHの曲は自分では絶対に作れないんですよ。だから新鮮だし、“ギター弾きたい”って思える。逆に、もしTHE BREATHの音楽に新鮮さを感じなかったら加入はしなかったでしょうね」
M 「本当にありがたいです。俺が初めて観たハードコアのライヴは、かつてイトーさんが在籍していたSTOMPEDEだった説があるんですよ。自分は19歳くらいだったかな?場所は旧LOFT(東京・新宿)で、COCOBATとSTOMPEDEの2マンだったと思います。そんな人と一緒にバンドをやれるなんて」
I 「いやいや(笑)。私の話はそのくらいにして、Yagiちゃんに振りましょう」

Photo ©中野賢太
Photo ©中野賢太

――Yagiさんは、オカムラさんにとってはLOW VISION時代からの盟友といいますか。
M 「そうです。もう信頼しきってます」

――たしかTHE BREATHの1stショウのとき、BLACK HOLEのコサカくんが「THE BREATHはYagiちゃんのベースがめちゃくちゃパンクなのがいい」と言っていて、完全に同意しました。
M 「自分も100%同意です」
K 「唯一無二のベースだと思います」
Y 「いや、特別なことはやってないでしょ?基本的に僕、そんなにベースうまくないっていう」
M 「いやいやいや(笑)」
Y 「別に難しいフレーズを弾いてるわけじゃないし、ただ動きが大袈裟で“がんばって弾いてます!”っていう顔をしてるだけ。だから顔芸ですよ」
M 「じゃあ、さっきKatsuyaくんはめっちゃフレーズを考えてるっていう話があったけど、Yagiちゃんはあまり考えてない?」
Y 「そうっすね」
一同 「(笑)」
Y 「いや、レコーディング前に一応は考えますよ。THE BREATHの曲で、ベースが動きまくってユースクルー感が出すぎちゃうのはちょっと違うかなとか。そういうベースを乗っけられる曲調ではあるけど、そうじゃないほうがいいんだろうなって」
M 「そうじゃなくしてほしいと、俺も思ってました」
Y 「かといって、自分は別に88ユースクルー的なベースを得意としているわけでもないんですけど」

――僕はEPの最後の曲「土壌 Soil」の後半、展開が変わるところのYagiさんのベースがめっちゃ好きで。技術的に難しいことはしていないのかもしれませんが、ああいうセンスというか引き出しを持っているのがヤバいなと。
Y 「おお、うれしいです。あの曲は、何回も言ってますけど現行のUKハードコアみたいな、ボストン・ハードコアにOiパンクの要素を加えたような曲調だったので、自分もそういうUK82とかOi!っぽいフレーズを、あそこだけ乗っけてみました」
M 「あのYagiちゃんのベースで、曲の印象がかなり変わりましたね。もちろんいい方向に」

――「土壌」は、そのあとのKatsuyaさんのギターもかっこいいんですよね。ソロというよりはリフを発展させた感じですが。
Y 「あそこ、レコーディングでけっこう苦労してませんでした?」
K 「したかもしれないです。バッキングは2本で弾いてるんですけど、あそこは半分思い付きで1本抜いてみたり、引き算的な考えかたで録ったらいい感じになりましたね。自分でもけっこう気に入っています」

Photo ©小野由希子
Photo ©小野由希子

――以前、Ngrauderさん(PAYBACK BOYS)がX(旧Twitter)で「前にヤギくんが、日本のハードコアはこれからどんどんカッコよくなるって言ってて、それは社会がダメになるからって意味なんだけど実際その通りになってて辛さがある」という投稿をしていまして。その話もちょっと聞きたいなと思ったのですが……。
Y 「今になって振り返ってみると、それってどうなのかなって自分の中で疑問に思っちゃって。というのも、この30年で日本の経済はどんどん落ち込んでいて、例えば家庭を持っている人は子育てしたり家のローンを払ったり、生活の基盤を維持しながら活動しなきゃいけないから、バンドに使えるお金も時間もごくわずかになっちゃいますよね。なおかつ物価も上がっているからレコードとかも買えないし、ライヴのチケット代も10年前より高くなっているわけじゃないですか。そんなフラストレーションだけが溜まっていくような状況で、果たしてバンドとかシーンというものが成り立つのかなって」
M 「たしかにそれはあるかも」
Y 「80年代って、世界中でハードコアがブームになって、今の自分たちの考えかたのルーツになるようなバンドがポンポン生まれていた時代じゃないですか。それに影響を受けて今もバンドをやっていますけど、80年代と今では日本の経済状況がまるで違うんですよね。当時は景気もよくて、給料から引かれる税金とかも少なくて、音楽を含む芸術や遊びにかかる費用も安かったと思うんです。そういう意味では、昔のほうがバンドもやりやすかったのかもしれない」
M 「ニガラくん(Ngrauder)に話したときは、どういう意図があったの?」
Y 「今は暮らすだけで大変だから、年齢を重ねるにつれ、金にならない表現活動を続けていてもしんどいだけなんだけど、その逆境の中で生まれるハードコアはかっこいいものなんだろうなっていう。なんかもう、すんごい濃縮された汗みたいな」
一同 「(笑)」
Y 「めっちゃ塩辛い何かができるんじゃないか、みたいなノリで言ったんだと思う。実際問題、自分の周りでもそうなんですけど、ひとたび経済的なトラブルを抱えてしまうとそれを乗り越える余裕がもはやないんですよね。そういう中で、例えば社会的に弱い人たちに対してフラストレーションを向けるんじゃなくて、そういう人たちを生んだ不均衡なシステムとか政治のありかたに根本的な原因があると気付いてほしいし、その気付きを原動力にして、いい作品を作ることができるんじゃないか」

――僕もあの投稿はそういうふうに捉えていました。抑圧された状況でこそ発揮されるクリエイティヴィティもあるみたいな。
M 「その抑圧の原因は豊富にあるからね」
Y 「あと、単純にSNSで海外のバンドと繋がりやすくなって、遠く離れた国の人たちと、ハードコアというサブカルチャーを通じてお互いに影響し合えるようになったというのもあると思う。例えば海外の友達が何かに対してプロテストしているのを見て、改めて自分たちの社会とか生活に目を向けたりすることが、少なくとも自分にはあるので。そういうところから気付けることも、いっぱいある」

――オカムラさんはLOW VISIONのときから、例えばラストアルバム『STAND AGAINST』(2020, HI LIBERATE)に収録された「No Sexism」のような政治的、社会的な歌詞を書いていました。THE BREATHではそういったメッセージもよりシンプルに、あるいは鋭くなったように思います。
M 「LOW VISIONのスタンスを押し進めたというか、そこをもっと突き詰めたかったから、また今やっているという感じですかね」

――僕は、オカムラさんの歌詞は背伸びしている感じがしないのがいいと思っていて。あくまで自分の言葉で、あたりまえにおかしいことに対してあたりまえに「おかしくない?」と言っている感じというか。
M 「めちゃくちゃありがたいです。まさにそこが狙いというか、政治やジェンダーの問題に対して何か言いたいことがあっても、知識がないと発言しちゃいけないような空気ってあるじゃないですか。でも、そんなことは絶対になくて。いまさら自分が言うまでもないけど、政治は生活に直結しているし、誰もがジェンダー平等の当事者なので、知識のあるなしに関係なく“何かおかしい”と感じたらそれを声に出せばいい。別に間違ってもいいと思うんですよ。俺だって間違えてばっかりだし、間違いに気付いて考えかたを改めたりするのは恥ずかしいことではないので」
Y 「日本のハードコアのバンドで、THE BREATHみたいにMCで歌詞の解説をするバンドって、なかなかいないですよね。さらにいうと、ライヴハウスで起こる痴漢とか性暴力の問題を歌にするバンドもあまりいないと思うんだけど、そうやって言葉にされると考えるきっかけにはなるんじゃないかな。ライヴハウスって、女性が圧倒的に少数派になっちゃうし、いまだに自分の身の周りでも、女性がライヴハウスで嫌な思いをする出来事がけっこう起きたりしていて。ライヴハウスにおける性被害って、本当に意識していないと、被害を受けた人だけが取り残されて、嫌な思いをしたままの状況が放置されるんですよ」
M 「現在進行形でそういうことが起こってるからね」
Y 「その積み重ねで、嫌な思いをした人がライヴハウスから去っていった結果が、今のハードコアの現場の男女比にも表れていると思うんですよ。一方、海外ツアーに行ったときは、ライヴハウスでジェンダー・ギャップ的なものをあまり感じなくて。パッと見で性別がわかる人もいれば、パッと見じゃわからない人もいて……そもそもジェンダー・アイデンティティは本人の中にあるものだから、それを外から勝手に“彼”とか“彼女”って決めつけるのはよくないんだけど、どんな性別の人たちでも安心していられる場所みたいな。それって日本と何が違うんだろうと思うと、バンドがMCとか歌詞で、ジェンダー・ギャップとか性暴力の問題について発信しているからなんじゃないかなって」
M 「たしかに、性差別や性暴力に反対するステイトメントが貼ってあるヴェニューとかも、日本より多い気がしますね」
Y 「あと普通に……あ、Akioさんおつかれさまです」
A 「おつかれさまです。遅れてすみません」
Y 「例えば女性とかアジア系の人とか、小柄な人が前のほうでライヴを観たそうにしていたら、さりげなく場所を譲ってくれたり。誰もが平等に場を楽しめるような環境を、その場にいる人たちが自発的に作ろうとしている感じはあった。そう感じたのは自分だけかと思ったら、ツアーに同行してくれたフォトグラファーのナカケン(中野賢太)も同じようなことを言っていて。そうやってお互いを尊重しながらハードコアの現場を楽しむことって、意識しないとできないですよね」

――オカムラさんはよくMCで「体を触られたり、嫌な思いをしたら俺とかメンバーの誰かに言ってください」と言っていますよね。僕は、性被害にあった人が声を上げるのにどれだけ勇気がいるのか、正直わからないのですが「ここで騒いだら、ライヴが中断しちゃうかもしれない」みたいな心理が働いてしまうだろうことは想像できます。そこで「声を上げていい」というあたりまえのことを、あるいは被害を報告する窓口があることをアナウンスされるだけでもだいぶ違うんじゃないかなと。
M 「そう信じたいですけど、まだまだ難しさは感じていて。それでいうと最近、ライヴハウスとかクラブでトラブルがあったときにアプリで報告できるシステムがあるというのを知って、それはかなりいいと思ったんですよ」
Y 「めちゃくちゃいいですよ。SPACE(東京・新宿)で、女性のDJがオーガナイズしたイベントでそのアプリが使われていて、要はフロア中にQRコードをプリントした張り紙がしてあるんですよ。やっぱり被害を受けたときって、今おっしゃったようにその場の空気を壊しちゃいけないという感覚が強くなって、余計に声を上げづらくなっちゃう場合が多いと僕も思っていて。その点、声を出さなくてもスマホで報告できるシステムはすごく有効なんじゃないかな」
M 「自分たちのイベントでも取り入れたいですね」
Y 「あの、すみません。僕はちょっと用事があって、ここで失礼します。Akioさんと交代ということで」
一同 「おつかれー」

Photo ©三木鉄平
Photo ©三木鉄平

――Akioさんが到着されたので、めっちゃ話が戻りますが、AkioさんはTHE BREATHに誘われたときのことは覚えています?
A 「オカムラさんから電話をもらって……ちょっと記憶が曖昧なんですけど、LOW VISIONの解散はもう知ってたのかな?」
M 「どっちだったっけ?たぶん知ってはいたんじゃないかな」
A 「とにかく“一緒にバンドやろう”って誘ってもらえたのはシンプルにうれしかったですね。オカムラさんは大好きなヴォーカリストだし、LOW VISIONもずっと観てきていたので。なおかつ、基本的にオカムラさん主体で動くバンドにしたいみたいな話でしたよね?」
M 「ですね。俺のやりたいことを一緒にやってほしいみたいな」
A 「そう。もともと僕は、オカムラさんとは音楽的な好みがけっこう近いんじゃないかと思っていて。もちろん好きなバンドとかが100%一致するわけじゃないけど、ベタなところだとYOUTH OF TODAYとかは僕もめっちゃ好きだし」
M 「JUSTICEとかね(笑)」
A 「そういった雰囲気はLOW VISIONからも感じ取れるじゃないですか。それプラス、もうちょっとパンクな要素のある現行のバンドも……これはTHE BREATHに加入してからの話ですけど、例えば今年の5月に対バンしたRESTRAINING ORDERとかは“これ、オカムラさん絶対好きなやつじゃん!”と思ったりして」
M 「実際にAkioくんは“オカムラさん100%好きだと思いますよ!”ってRESTRAINING ORDERのことを教えてくれて」
A 「そういった“こういうの好きだよね?”みたいな感覚を、ある意味、信頼して誘ってくれたのかなって。ただ、僕はありがたいことにいろんなバンドに参加させてもらっているので、そことの兼ね合いで迷惑をかけちゃうかもしれなというか。実際、今に至るまで迷惑をかけているところは多々あるんですけど、“それでもいいからやってほしい”というオカムラさんの熱意を勝手に感じたんですよ。だから、悩む余地はなかったですね」

――Akioさんって、今いくつバンドをやっているんですか?TRAGIC FILMとSTANDOUTとSoulDischargeと……。
A 「ええと……(スマホを見ながら)SNSのプロフィールに書いてあるバンドをアルファベット順でいうと、まずbeyondmanっていう、nervous light of sundayのタナベさん(STILL, UNCOVERING)とかとやってるバンドがあるんですけど、今のところ自分が作った『My Fellows』(2020, Any Fellows)っていうコンピに1曲提供している程度で。あと最近、Buckwheatっていう、自分がヴォーカルのバンドを始めて……」

――あ、誰が言っていたのか忘れちゃいましたが「Akioさんがヴォーカルのバンド、観たほうがいい」と聞いて、気になっていました。
A 「ありがとうございます。astheniaのメンバーが中心なんですけど、astheniaとはまたちょっと毛色が違う、DCな感じかなと思います。それからGoodbye Gangstersっていうインディロック系のバンドと、Kill Listっていうメタリック・ハードコアのバンドをやっていて。後者はドイツのBound By Modern Age RecordsからEPを出しているんですけど、最近はライヴをやれていないですね。あとはMAKE IT LASTっていうオールドスクール / ユースクルーのバンドで、これも10年以上やっているけど、現状はそこまでアクティヴではないです」
M 「以前に比べればってだけじゃないかな」
A 「そうですね。そしてVARIANT FACEっていう……これもアクティヴなバンドとは言えないんですけど、やっています。加えて、最初に言ってくださった3バンドとTHE BREATHだから、全部でいくつだろ?」
M 「Akioくんを誘った理由は、“好きなドラマーだから”というのが一番でかいっすね。しかも、それが自分のやりたい音楽にハマるという確信めいたものがあって。Akioくんのドラムって基本はハードコアだと俺は思っているんだけど、めっちゃ正確でありつつ、ものすごい勢いがあるんですよ。ただうまいだけではないっていうのがポイントですね」

Photo ©小野由希子
Photo ©小野由希子

――先ほどKatsuyaさんとYagiさんが演奏の話をしてくださいましたが、EP『道理なき憎悪』の制作エピソードについて、もう少し具体的にお聞きしてよいですか?
M 「録りはかなりスムーズで、ミックスに一番時間がかかったんだよね?」
A 「そうですね。なんならプリプロもサクッと終わったし」
M 「あ、そう。3曲プリプロして、2曲差し替えたっていう。録ってみて、別に悪くはなかったけど、違う曲の組み合わせで作品にしたいなと思って」
K 「チューニングも変わりましたね」
M 「変わった。あまり意味ないかもしれないけど、半音下げになっているんですよ。そこから、デモテープの曲も今後はチューニングを下げて弾いてもらおうっていう転換もあって。だからそこそこ紆余曲折はあったんですけど、やることが決まってからの本番のレコーディングは、特に話すことはないかも。いきなりDEATHROさんが隣のスタジオにいたとか?」
A 「それってプリプロのときじゃ……いや、どっちだっけ?DEATHROさん、いつも来てくれる感じなので」
一同 「(笑)」

――録音とミックスはStudio REIMEIですよね。
M 「そう、プリプロも本番もREIMEIで。本番のレコーディングをしたのが去年の2月下旬で、リリースが今年の2月上旬だから、録ってからギリギリ1年以内に出せたっていう」
K 「REIMEIは、すごいやりやすかったですよね」
M 「うん。別に自慢するわけじゃないんですけど、初めてREIMEIでレコーディングしたハードコア・バンドが、THE BREATH……だよね?KLONNSも『HEAVEN』(2024, Iron Lung | BLACK HOLE)をツバメスタジオとREIMEIで録ってるけど、プリプロの時点では俺らのほうが早かったんだよね?」
A 「そうじゃないですか。エンジニアの新間くんとオカムラさんでそういう話をしてたと思う」
M 「そうだ。新間くんとしゃべったとき、俺が好きなTHE FLEXとかVIOLENT REACTIONとかTØRSÖとかの話をしても通じるし、新間くんも“ハードコアでいい作品を作ってみたいです。作ったことはないけど”と言ってくれたんですよ。それで、テストも兼ねてプリプロをやってみたら、めっちゃいい感じに仕上げてくれて」
K 「現行のハードコアの話をエンジニアとしてちゃんと理解してくれる人って、たぶんあまりいないと思う」
M 「しかも新間くんは、それこそVINC;ENTの音楽に通じるような、大きな括りでいえばオルタナティヴ・ロックが本業だと思うんですよね。そういう人がハードコアの音源を作るっていう試みが、めちゃくちゃうまくフィットした」
A 「それもあって録りもスムーズだったし、覚えてることといったら、Yagiさんと一緒にビールを……」
M 「そうそう。レコーディング中に写真も撮ってたんだけど、AkioくんとYagiちゃんがビール飲んでる写真しかない(笑)」
A 「ドラムの録り音って、けっこう大事なんですよ。それは僕がドラマーだからっていうのもあるんですけど、音に対する自分の考えかたとか、例えば“もうちょっとバキッとさせたい”といった漠然とした要望とかも、プリプロの時点で新間くんは汲んでくれて。そのプリプロのときが初対面というか、僕はVINC;ENTを観てはいて、軽く挨拶したことはあったんですけど、ちゃんと話すのは初めてだったんです。にもかかわらず“現行のハードコアのドラムだったら、こういう感じですよね”みたいな会話が本当にスムーズにできたし、本番も気持ちよく録れたので、楽しくお酒を飲んだ記憶しかない(笑)」
M 「ドラムの音でいえば、奥行きがある感じとかね。たぶん現行のハードコアを知っていないと、ああはならない」
A 「そう、立体感がある。しかも、ほかの楽器ともちゃんとバランスが取れているんですよね。オカムラさんも言うように、新間くんの主軸はハードコアじゃないかもしれないけど、それができるのはやっぱりエンジニアとしての土台がしっかりあるからなんだろうなと思います」

――イトーさんはレコーディングには参加していませんが、EPを聴いた感想は?
I 「完璧でしょう。USツアーに行く前はまだ発売されていなかったから、練習するために音源データを送ってもらって、死ぬほど聴いたんですよ」
M 「イトーさんが一番たくさん聴いてる説ありますね(笑)。そして完璧に演奏してくださっています」

――2曲目の「道理なき憎悪」をタイトルトラックにした、あるいは「道理なき憎悪」という曲名をEPのタイトルにしたのには、何か理由があるんですか?
M 「そこまで深くは考えていないんですけど、歌詞の内容的にもプッシュしたい曲だし、流れ的にも“Intro”から繋がる実質的な1曲目だし、いいんじゃないかなって」

――その歌詞の内容は、アンチレイシズムですよね。
M 「そうです。本当にあたりまえすぎることだけど、差別があっていいわけがないので、それに対してシンプルに怒っている曲ですね。差別に反対するためにやれることって、いろいろあるじゃないですか。プロテストに参加するとか、署名するとか、差別の歴史を学ぶとか。そういったことはもちろん大事なんだけど、それとは別軸で、とにかく“怒ってるやつここにいるぞ!”という、怒りの発露みたいな」
A 「オカムラさんの歌詞をオカムラさん以上に理解できる人はたぶんいないんですけど、例えば差別は是か非かと問われたら、どう考えても“非”に決まってるじゃないですか。そういう部分で自分も、オカムラさんほど真摯に向き合えているかはわからないけれど、問題意識を共有していると再認識できたりして。しかも歌詞が日本語だから、フックになるようなワードはライヴでも聞き取れるんですよね。LVのときからそういう歌詞の乗せかたというか、ヴォーカルの方法論でやっていると思うんですけど、それがキャッチーな感じもあって、個人的に好きなんです。だからライヴ中は、ドラムを叩きながら心の中でシンガロングするみたいな」
I 「オカムラくんのヴォーカル・スタイルは独特だよね。日本語の歌詞と、声のトーンも相まって」

――何年か前に、DEATHROさんと「日本のハードコア・バンドの中でハイトーンのヴォーカルは珍しい」みたいな話をした記憶があります。最近だったら大阪のTIVEのハジメさんのようなヴォーカリストもいますが。
I 「LVの頃から私もそう感じてました」
K 「それがバンドとしてのスタイルにもなっていますよね。LVでもTHE BREATHでも」
M 「声質って、変えようと思って変えられるものではないじゃないですか。ハードコアは、自分が持ってるものとか自分から自然に出てきたものを、いちいち加工しなくても成り立つ音楽だと思っていて。俺自身はWRONG STATEのTattoくん(TERMINATION)みたいなヴォーカルに憧れるんだけど、自分にはああいう声は出せないし、自分のやれることを思いっきりやった結果、こうなった感じですかね」

Photo ©中野賢太
Photo ©中野賢太

――THE BREATHというバンド名の由来って……オカムラさんはMCで「人が生きるうえであたりまえにすること」といった説明をされていたこともありましたが、改めてお聞きしても?
M 「バンド名の候補はいろいろあったんですけど、最終的には今おっしゃった通り、人があたりまえにする、しないと死んじゃう呼吸(breath)になりました。日本では、特に2010年代以降、在日コリアンに対するヘイトデモやヘイトスピーチが目に余るようになって、コロナ禍ではろくに補償もされず“こんなんで暮らせるか!”みたいな状況になったじゃないですか。そのうえ税負担も重くなる一方だし、セクシズムやホモフォビア、トランスフォビアも蔓延って、本当にクソみたいなことしか起こらない、呼吸さえも奪われそうな現実を目の当たりにしたんです。でも、“breath”という単語自体は、元をたどれば“I can’t breathe”から来ていると思うんですよ」

――Black Lives Matterが世界的な運動に発展したきっかけのひとつ。
M 「そう。2020年に、黒人男性のジョージ・フロイドさんが、白人警官によって窒息死させられる前に発した言葉です。それが“THE BREATH”というかたちで、バンド名の候補のひとつとして残ったんじゃないかな。で、最終的に“THE BREATHでいきましょう”って言ったのはYagiちゃんだった気がする。だったよね?」
A 「ですね」

――ABRAHAM CROSSの「I Need Air」とちょっと似ている?
M 「たしかに、意味的には完全にそうですね。そう考えると、やっぱり拭いきれないものがあるのかも。自分がライヴハウスに行き始めた当時、VIVISICKとかSAIGAN TERRORとかCRUCIAL SECTIONがよく出演していて」

――バンダナ・スラッシュ全盛期みたいな。
M 「まさに。アメリカだと、観たことはないけどWHAT HAPPENS NEXT?とか。それで、俺はLIEとかのイベントにも行って、そこからSTRUGGLE FOR PRIDEとかSLIGHT SLAPPERSとかABRAHAM CROSSを知ったんですよ。そういう入りかたをしたから、知らず知らずのうちに自分の下地になってるんじゃないかな」

――THE BREATHは“Tokyo Mental Obstruction Hardcore”を掲げていますが、“mental obstruction”という言葉はGAGのメンバーが提案してくれたんでしたっけ?
M 「そうです。GAGでドラムを、ODD MAN OUTでヴォーカルをやってるJeff Caffeyに教えてもらったというか。英語のバンド名を考えていたとき、その意味も含めて、ネイティヴの人にとっても変じゃない言葉にしたくて、いくつかの候補をJeffに送って見てもらったんですよ。そのとき、“国家とか政府とか既存のシステムとか、自分たちを抑圧するものにとっての障害物に、俺たちはなる”という意味合いを持たせたいと伝えたら、Jeffが“こういう言い回しだとクールに聞こえるよ”みたいな感じで何個か案を挙げてくれて、その中のひとつが“mental obstruction”だったんです。今思うと、なんでバンド名には採用されたなかったのかは謎なんですけど」
一同 「(笑)」
M 「それが、自主企画の名前を考えてるときに舞い戻ってきたんですよ。“mental”っていうと、自分も含めて日本人は“精神的な”という意味に捉えがちだと思うんですけど、Jeffによれば“ヤバい”とか“気狂いじみた”といった形容詞になるらしくて。“obstruction”はそのまま“障害物”なので、システムにとって本当に厄介な、ヤバい障害物みたいな」

――7月27日の『道理なき憎悪』リリース・ショウのタイトルも「TRUE MENTAL OBSTRUCTION」ですね。
M 「半分ノリみたいなところもあるんですけど、ただの企画じゃなくてレコ発ってことで“TRUE”をつけました。自分たちは比較的マイペースというか頻繁に企画をやれる感じではないので、レコ発は、これが最初で最後ってことはないと思うけど、やれるだけのことをやろうと。で、去年KLONNSと共催した“NEW REALM FEST”でボツになった2ステージでやるっていう」
K 「どうなっちゃうんですかね」
A 「不安です」
M 「練習しよう、練習」

――ちょっと話が逸れますが、その「NEW REALM FEST」を開催するにあたって、オカムラさんは「日本でハードコア・パンクのフェスがないのはなんでだ?」みたいなことをおっしゃっていましたよね。
M 「やっぱりそれが出発点にはなっていて。さっきYagiちゃんと、THE BREATH結成当時は自分らみたいなバンドがいなかったし、今もいないって話になりましたけど、KLONNSのSHVくん(SOM4LI, 珠鬼 TAMAKI)ともそういう話をしていて。俺の中でKLONNSは、THE BREATHとはスタイルが違うけど、ハードコアとパンクの両方に理解がある、ほとんど唯一のバンドなんですよ。ほかいるかな?」
一同 「……」
M 「うん、やっぱり今はハードコア色が強いバンドが多いように感じます。SHVくんと話していて印象的だったのが、このままだと自分たちの居場所もなくなっちゃうかもしれないという危機感を共有していたことで。音楽的にはもちろん、反レイシズムとか反セクシズムといったスタンス的にも。そういう人たちやバンドがいられる場所、選択肢のひとつを新しく作りたいというのがコンセプトですね」
K 「話の途中で申し訳ないんですけど、僕もそろそろ帰らなきゃいけなくて……」

――いえいえ、遅い時間までありがとうございました。
M 「おつかれです!で、あわよくばそういうバンドが増えてほしいし、例えばastheniaのヴォーカルのヒロシくんが始めたSerotonin Mistは、スタンス的にはかなり自分たちに近いかなと。音楽的には近くはないけど、DIYなやりかたとかプロテスト色の強い歌詞には勝手に親近感を覚えていて。レコ発にも出てもらいますし」

――レコ発の出演バンドはオカムラさんが決めたんですか?
M 「7、8割はそうですけど、みんなの意見も入ってます。大阪のTERMINATIONはKatsuyaくんが呼びたいと言ってくれて……ROCKCRIMAZもKatsuyaくんだっけ?」
I 「たぶんそうだよね」
M 「LOYAL TO THE GRAVEはイトーさんで、YOUTH ISSUEはAkioくんなんだけど、Akioくんは誘うの忘れてたんだよね」
A 「すみません。酔っ払ってるときに誘おうと思い付いて、そのまま失念してしまい……」
M 「“YOUTH ISSUE、いいと思うんですよね。僕が声かけときます”って、自分から言っておいて(笑)。まあ、Katsuyaくんも言っていたようにどうなるかわからないんですけど、やるだけです」

――楽しみにしています。さらに先の話をすると、9月にUSツアーとシアトルで開催されるハードコア・フェス「THE DEAL」への出演が決まっていて。「THE DEAL」には、THE BREATHと同時期にUSツアーを行うBRAVE OUTも出るんですよね。
M 「はい。URBAN SPRAWLっていう、元TØRSÖのJasmine Watsonがベースを弾いてるバンドと一緒に西海岸ツアーをして、そのURBAN SPRAWLとBRAVE OUTと共にフェスに出ます」

――今回のUSツアーでは、ベースは元SOILED HATEのZamohfiedさん(HETH, SHAPESHIFTER, NoLA)が務めるんですよね。Zamohfiedさんは、イトーさんがサポートで入る以前は、ライヴでKatsuyaさんがお休みのときにギターを弾いてもいました。
M 「Yagiちゃんが行けないということで、お世話になりっぱなしのザモくん(Zamohfied)にお願いしております」
A 「自分は去年行けなかったので、そのぶん全力でぶちかますしかない。楽しみですね」

――去年のUSツアーでドラムを担当したRyanは、何か言っていました?
M 「“ドラムはいるのか?”って」
一同 「(笑)」
M 「“今回はAkioくんがいるから大丈夫”って返したら“ドライバーはいるのか?”って(笑)。一応、ドライバーはURBAN SPRAWLのヴォーカルのTaylor Toddがやってくれると伝えたんですけど、Ryanは隙あらば参加しようとしてくれるんですよね。本当にありがたいことです」

――Ryanは今年5月のKLONNSのEU / UKツアーもサポートしていましたけど、純粋にKLONNSのこともTHE BREATHのことも大好きだから。イトーさんは、去年のUSツアーでは会社に「ミシシッピで従兄弟の結婚式がある」と言って有給を申請したんですよね。今年は?
I 「1週間の検査入院です」
一同 「(笑)」
I 「有給の申請書に“白血球が少し多いので”と(笑)。前回は“連れていってもらう”という気持ちでしたけど、今回は正式メンバーとしての自覚を持って、かましたい所存です」
M 「去年もかましてくれましたけどね!」
I 「もちろんサポートだからといって手を抜くわけにはいかないし、仮に自分がダサいギターを弾いたら、オリジナル・メンバーのKatsuyaくんのギターもダサいと思われかねないじゃないですか。だから絶対にミスれないという気持ちが強かったんですけど、やっぱり正式メンバーになった今、根本的なところで意識が違います」

Photo ©中野賢太
Photo ©中野賢太

――ところで、Convulse RecordsからTHE BREATHの7”がリリースされたことにもけっこう驚いたのですが。
M 「これも、レコードを出すまでに要した1年弱の紆余曲折に含まれていて。当初はUKのQuality Control HQから出してもらうという話もあったんです。でも、向こうは7”のプレス代がめちゃくちゃ高くなっているらしく、“LPだったら出せるんだけど……”みたいな感じで流れちゃって。そのあと我らがBLACK HOLEが出してくれることになったんですけど、気が付いたらコサカさんが忙しくなっていて、じゃあDIYで、自分のレーベルのHI LIBERATEから出そうかなと。もともとそうするつもりだったし、その方向でジャケットとかの入稿データも作っていたんです。それがUSツアーの数カ月前で、たまたまRyanとツアーマーチの音源の相談をしてたとき、俺が“新曲の録音は済んでるんだけどね”と言ったら、Ryanが“Convulseとか興味ないの?”って聞いてきたから“いや、興味しかないよ”って(笑)」

――Ryanが在籍するNAGは、3rdアルバム『Human Coward Coyote』(2023)をConvulseからリリースしていますね。
M 「そうなんですよ。RyanはConvulseのオーナーのAdam Croftと友達で、“レコード出せるか聞いてみようか?”と。USツアーではConvulseがあるデンバーにも行くし、当地のショウはAdamに企画してもらうことになってはいたけど、その時点ではまだ会ってもないし、さすがに無理だろうと思っていたんです。そしたら……数日後にRyanが“Masa, congratulations!”みたいな」
一同 「(笑)」
M 「“Adamが音源気に入って、レコード出してくれるって”と言われて、もう信じられなかったですね。ConvulseといえばGELやNAG、7月に来日するYAMBAG(※取材は6月上旬に実施)、一緒に西海岸ツアーをする予定のURBAN SPRAWLの音源をリリースしつつ、BLOOD LOSSやCANDY APPLEみたいな地元デンバーのバンドもフックアップしているレーベルで。USのバンドだけじゃなくて、バンクーバー(カナダ)のPUNITIVE DAMAGEやブカレスト(ルーマニア)のCOLD BRATSのリリースもあったりするんですよ。あと、Convulse主催のフェスがあって、そこにはBIG LAUGH、SPY、GEL、SCOWLとか、今をときめくバンドが全部出てるみたいな。かつSPINEっていう、ちょっとした重鎮じゃないけど、中ボス・クラスもいて」

――中ボス(笑)。
M 「その中ボスが最年長みたいなフェスだったんです。とにかくフレッシュなバンドを駆り出してくるレーベルで、自分の中ではConvulse Records、Quality Control HQ、Iron Lung Recordsが世界三大ハードコア・パンクレーベルという感じですね。あっ、でも11PM RecordsとStatic Shock Recordsもいいっすよね」

――THE BREATHだったらTriple-B Recordsあたりもいけそうですよね。
M 「出してもらえるならぜひ!という感じなんですが(笑)、 個人的にはちょっとトゥーマッチ・ハードコアなところもありますね。MINDFORCEとかSUNAMIとかGULCHとか、そっちのイメージが強いので。もちろんみんなかっこいいバンドなんですけど」

――RESULT OF CHOICEの『Discography』(2023)とかも出しているので、そういう枠ならハマるのでは?
M 「たしかに、さっき話に出たRESTRAINING ORDERもそうですけど、ハードコアがメインの中で、重くないバンド枠みたいな」

――ゆくゆくはRevelation Recordsも……。
I 「Revelationは、日本のバンドはリリースしないよね。THE BREATHは適任だと思いますけど」
M 「自分が初めてYOUTH OF TODAYとかGORILLA BISCUITSを聴いてから20数年が経っていて、その間ずっと憧れのレーベルだったから……Revelationから音源を出せたら“やりきった!”と思って解散するかもですね」

――しないで(笑)。
M 「いや、冗談です(笑)。続けられる限り続けます」
I + A 「お願いしますよ」
M 「さっき言った三大レーベル、訂正していいですか?やっぱりConvulse、Quality Control、そしてBLACK HOLEが最高です!」

TRUE MENTAL OBSTRUCTIONTHE BREATH
1st 7inch "道理なき憎悪 Reasonless Hate" from CONVULSE Records Release show
TRUE MENTAL OBSTRUCTION

2024年7月27日(土)
東京 渋谷 LUSH + HOME

開場 13:00 / 開演 13:30
前売 2,500円 / 当日 3,000円(税込 / 別途ドリンク代)
U22 1,000円(税込 / 別途ドリンク代)
販売 | 取り置き

[出演]
9991 / BRUO / DREADEYE / 炎 / leech / MINI MYTH (Pure Rage) Canceled / NEGATIVE SUN / ROCKCRIMAZ / SEROTONIN MIST / THE SPIT / SUICIDE SOLUTION / TRUE FIGHT / UNARM Canceled / underscreen / YOUTH ISSUE

THE BREATH '道​理​な​き​憎​悪 <em>Reasonless Hate</em>'■ 2024年2月9日(金)発売
THE BREATH
『道​理​な​き​憎​悪 Reasonless Hate

Convulse Records CONVR75
https://convulserecords.bandcamp.com/album/reasonless-hate

[収録曲]
01. Intro
02. 道理なき憎悪 Reasonless Hate
03. 生存への憧憬 Longing For Survival
04. 変革の芽 Sprout Of Revolution
05. 有害な類別 Harmful Classification
06. 土壌 Soil