Review | Cornelius『変わる消える』


文・写真 | コバヤシトシマサ

 初めて聴いたとき、泣けてしまった。

 変わる、消える。いずれ変わってしまうし、やがて消えてしまう。だから早く会いにいかなければ。そうした直截なメッセージが平易な言葉で歌われており、そこに思わずウルっときてしまった。これは誰かに向けて書かれたものだろうか。子どもたちに向けたもの?あるいは死んでしまった誰かに向けた言葉のようでもあるし、死んでしまった人があの世から届ける言葉のようでもある。前向きなメッセージでもあるし、どこか諦めのようにも聞こえる。Corneliusの音楽がここまでエモーショナルな内容であるのに驚いてしまった。

変わる 変わる
好きなものあるけど
今は言わない

消える 消える
好きな人いるけど
今は心の中

――Cornelius「変わる消える」(2022)

 小山田圭吾に関するある騒動が起こった後、このシングルはひっそりとリリースされた。

 これまでのCorneliusの音楽、特にアルバム『Point』(2001)以降の作品は、数多ある録音芸術の中でもほかに類のないオリジナルなものだと思う。いまも耳にするたび、その思いが強くなる。世の中には無数の音楽があり、斬新なアイディアを持つものもあれば、伝統的な形式に寄り添ったものもある。およそありとあらゆる音楽があり、それぞれに魅力的だったり、あるいはときに退屈だったりもする。そのうえでCorneliusのサウンドはそのどれとも異なっている。彼の音楽はほとんど発明のようなものだというのが自分の理解だ。

 世に無数の音楽がある以上、メロディやコード進行、それらのアレンジにおいてCorneliusに似ているものもあるのかもしれない。実際のところCorneliusの“元ネタ”として特定の楽曲が紹介されることも度々ある。生来の野次馬根性(?)を発揮して、自分はそうした記事もチェックしてしまうのだが、その上で改めて思う。彼のような“サウンド”は他にふたつとない。Corneliusの音楽は様々な音を散りばめた立体作品のようなものだ。だからリスナーはその立体的な音響を内側から眺めるような体験をすることになる。一体なんのこっちゃ?な説明になってしまうのだが……彼の音楽を“体験”したことのある人ならわかってもらえるのではないだろうか。

 つくづく音楽とはなんだろうか。メロディやリズムを使って何らかの感情の昂りをあらわすものだろうか。いや、そんな説明はあまりに偏っている。音楽を聴くとき、ひとはそうしたことだけを聴いているわけではない。様々な音が混然一体となって“音楽”を成しているわけだが、一方で音楽家は“混然一体”を作っているわけではなく、様々な演奏やアレンジで楽曲を構築している。しかしだからといって彼らはたんに“構築”しているだけともいえないだろうし……。例えば誰かが鼻歌を歌う。鼻歌に伴奏はない。コード進行やアレンジがあったとしても、それは当人の頭の中にしかない。そしてそれもまた“音楽”なわけで。

 以上のようなことをCorneliusを聴くたび思い巡らせてきた。いちリスナーをこのような思索(?)に導いてしまうほどに彼の音楽は特異なわけだ。その上で「変わる消える」を耳にして大変驚いてしまった。これまでのような立体的な音響作品なのは変わらないけども、それよりも先に歌詞が持つメッセージに惹きつけられてしまったのだ。これはこれまでに体験したことのないCorneliusだった。

Photo ©コバヤシトシマサ

 思えばアルバム『Mellow Waves』(2017)のリード曲「あなたがいるなら」にもそれに近い感触はあった。歌詞がまっすぐに届く。

 「あなたがいるなら」と「変わる消える」は、いずれも坂本慎太郎が作詞を担当している。どちらの曲にも共通したムードがある。喪失感がありつつも、ふくよかな多幸にあふれたフィーリング。奇を衒わないシンプルな言葉を耳にするうち、だんだんこの世のものでないような手触りがしてくる。目の前の光景が徐々に遠くなっていくような、現実が遠のいていくような。得も言われぬ体験。

 「変わる消える」にはふたつのバージョンがある。最初にmei eharaがヴォーカルを務めたものが発表され、その後しばらく経ってから小山田圭吾本人が歌うヴァージョンが発表された。後者について、サウンド面にこれまでにない大きな変化があった。Corneliusの持ち味である立体感のあるサウンドデザインが後退し、ヴォーカルが前面に来ているのだ。これまでのように音のパノラマを展開するというよりも、ごく素朴な意味での“歌”に近づいている。些細なようでこれは実は大きな変化だ。小山田圭吾がかつてなく“歌”に向かっている。

 2023年6月に発表が予定されている新しいアルバムは、もしかするとこれまでにない“歌モノ”になるのではないだろうか。小山田による歌を中心に据えたシンガーソングライターのような作品。わお。すごい。いや、あくまでこれはまったくの空想に過ぎないけども。

Photo ©コバヤシトシマサコバヤシトシマサ Toshimasa Kobayashi
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会社員(システムエンジニア)。