Review | UNCIVILIZED GIRLS MEMORY『Ode to the Angels embryo』


文 | tttttahiti
画 | 玉野勇希

 ひょんなことから恋愛に関する心理アンケートが主体の読み物を読んだとき、恋の体験が個々人に帰属する以上、統計的手法によって均されたデータを分析しても何の参考にもならないと思ったことがある。プラトン『パイドロス』を読むことにしたのは、同じく実体がなく抽象的であったとしても、大規模なデータもなく風習も違った時代の哲学との比較で本質を捉えられるのではないかと予想したからだ。それなのに、出だしで披露されるリュシウスのスピーチは恋というか性欲の話である。もちろんそれが恋を構成する要素であることに異論はないが、一言で表せる事象について個人的に深堀りする気はない。

 本書では他にも恋の定義を「美について神が与える狂気」としている。同じく古くから神から与えられると言われるものに、大麻や酒といった薬物が挙げられる。実際、恋をしている人の脳内にはアドレナリンやドーパミンといった交感神経を活性化させる化学物質が出ているし、それは薬物使用時の脳内状態と似ている。どちらも他の物事が手につかなくなり生活に支障が出たり、たまに死人が出る。こういった特徴から快楽中枢を刺激する脳内化学物質のことを「神が与える狂気」と示唆しているのはほぼ確実だろう。

 ところで(※私の好きな人はこの文章を読まないだろうからここから先はただの虚無だけど)私の恋の願いは相手に私と同じ感情を追体験してもらうことだ。しかし残念ながら、現在の科学技術では脳内化学反応を外的刺激から再現することは難しく、仮に同じ脳内化学反応を再現出来たとしても感じかたが一意である証明はない。ヒントは私の恋にはハーシュノイズのBGMが付いているということくらいで、せいぜい良く解釈してシュレーディンガーの両想い状態だ。であるからして、現実的にはすべての恋は片想いで、これ以上を願わないように言い聞かせている。となるとできることは限られていて、脳内物質を言い訳に客観的な判断を捨て、やるせない日々を酒浸りで過ごすあの人へ、私はあなたといつでもどこまでも向き合う気でいます、と心に決めるくらいだと。あとでプラトンには謝らないといけないかもしれないけど、楽しかったのでまた恋バナでもしたいと思っている。

tttttahititttttahiti たひち
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