Interview | 水曜日のカンパネラ | 詩羽


自分を自分で変えてあげよう

 主演 / 歌唱担当として詩羽(うたは)が加入し新体制となった水曜日のカンパネラが、5月25日(水)に初のEP『ネオン』をリリース。これまでの多彩なサウンドを保ちつつ、歌詞はよりストレートになっていると感じさせられる同作には、七夕を舞台にギャルなラッパーが現れる「織姫」、イースター島から渋谷の風景にたどり着く「モヤイ」、何でもできちゃうクリエイターの自尊心を歌う「エジソン」など、奇抜な設定の裏には今を生きる人々の悲喜こもごもが詰まっている。そんな世界観を歌う詩羽とはどんな人なのか。話題は新作についてはもちろん、加入前のこと、コロナ渦の活動、90年代のファッションなどにまで展開しました。

取材・文 | パンス | 2022年4月
撮影 | 池野詩織

詩羽(水曜日のカンパネラ) | Photo ©池野詩織

――詩羽さんは水曜日のカンパネラに加入されて、ここ数年は怒涛だったのではないでしょうか。そこで、加入前から現在にかけての変化についてお聞きできればと思います。詩羽さんが選曲したプレイリストはとてもおもしろいラインナップでした。音楽に興味を持ったきっかけは?
 「お母さんが音楽好きな人だったので、小さな頃からあたりまえに音楽を聴く環境は整っていました。CDの時代だったから、すごくたくさん持っていて。それが車の中で流れたりしていたから、親の影響が大きいのかな」


――車内ではどんな曲が流れていましたか?
 「母はけっこう感覚が若いので、どんどん新しいものを聴いていくタイプで。私が物心付いた頃でよく覚えてるものだと、YUKIさん、椎名林檎さん、東京事変、木村カエラさん、フジファブリック、くるりとか。特に抵抗なく、親の聴いているものが好き、っていう感じだったんですけど」

――だんだん自分でもいろいろな音楽を聴くようになったんですか?
 「高校3年間は親が好きとか関係なく、自分が好きな邦ロックのバンドを聴いていました。軽音楽部に入ってガールズ・バンドのギター・ヴォーカルをやっていて。KANA-BOONとか、SHISHAMOとか、WANIMAとかを聴いてカヴァーしていました。それで部活が開催するライヴや文化祭に出て」

――アップテンポで、元気が出る感じの。
 「そうですね。同い歳の友達4人で組んでいました。演奏自体は上手くなかったので(笑)、技術的に勢いで行ける曲をやろう!と選んでやっていました」

詩羽(水曜日のカンパネラ) | Photo ©池野詩織

――ご自身で表現をしようと思ったのはその辺りからなんでしょうか。
 「高校の頃のバンドは、今やっているようなこととはちょっと違って、純粋に音楽が楽しいからやっているっていう感じでした。 高校を卒業してからフリーランスでモデルをやり始めて、その頃から改めて自分のできることを探して、発信するようになった感じですね」

――そこからほんの数年で水曜日のカンパネラに加入となるわけですね。
 「まだ加入前の春くらいに、“ミスID”を受けたんですけど、それでたまたま賞をいただいて。たまたまって言いかたは良くないな(笑)。ただその後に特に何かあったわけでもなく、何となく日常を過ごしていて。当時は本当に日によって仕事の量のばらつきがすごく大きかったので、大丈夫かな?これからどうしようかな?とか考えていました。学生だったのもあって、先のことではあるけれど、就職どうしようかな?とか、そういうことを考えて悩んでいたんですけど、そのタイミングで連絡があって、会って3回目のときに水曜日のカンパネラの話をいただいたんですけど、もう即“あ、やりまーす”くらいの、フラットな軽い返事をしました(笑)。もともとできることは全部やってみて、失敗したら失敗したでいいと思うタイプなので、ひとつのチャンスだと思って、すぐ」

詩羽(水曜日のカンパネラ) | Photo ©池野詩織

――でもいきなりスタートして、いろいろ大変でしたよね?
 「えー何だろう……大変なこと、(Dir.Fに)ありましたっけ?(笑)」

Dir.F 「歌詞覚えるのは大変だったよね」

 「そうでした! 歌詞の量が多いし、リズムがけっこう変わったものが多くて、入るタイミングとか“半アキ”みたいなのがあるじゃないですか」

――「バッキンガム」などは、リズムが複雑で言葉遊び的ですよね。
 「これどうやって入ればいいんだ?みたいなところは悩んだりしていましたね」

――でも実際に聴いてみて、これまでの水曜日のカンパネラとは変わらない要素を持ちつつ、よりストレートで、さっきも話に出ましたが、元気が出る感じになっていると思います。
 「自然と元気だったり、楽しそうみたいなイメージが強くなっていますよね。ケンモチ(ヒデフミ)さんから見た私に合う曲を作っているうちに、今までの要素がありつつも、自然とどんどん切り替わっているような状態になっていて。“元気にがんばりましょう!”とかはあまり考えてないんですけど、ライヴでもレコーディングでも、MVの撮影をしていても、“楽しい”っていうのがちゃんと真ん中にあるように作っていきたいな、というのは意識していますね」

――「織姫」は、七夕のモチーフを使って、1年ぶりに会ったら織姫がギャルのラッパーになっていたという歌詞ですね。
 「EPの中でも好きな曲です。私は見た目がギャルなわけではないけど、仲良しのアーティストやクリエイターの友達とは、“うちらマインドギャルだな”って言い合ってます。マインドがギャルなだけでもけっこう生き易くなると思って」

――ギャルも90年代に爆発的に流行しましたが、詩羽さんは「.NOMA」などで90年代カルチャーを発信していますよね。あの頃のどの辺りが魅力で、今とはどのような違いを感じていますか?
 「“.NOMA”は、私がリーダーで、一緒に企画をやってる人たちも同世代なんですけど、私たちが生まれていない時代だったからこそ魅力に感じることは多くて。90年代のファッションが好きな人たちで集まってるんですけど、当時の雑誌『FRUiTS』を見たりすると、今だと出せない味がある、今じゃできないな、っていうものが詰まっていて。それを今を生きている人たちが表現したらどうなるかな?っていうので、やってみようと思って始まったんです」

――「今じゃできない」というのはどういうことだと思いますか。
 「でも、あの時はそれが“普通”だったんだな、と思っていて。逆に今のファッションやメイクの流行も、20年後、30年後にはあのときはああだったよねって言われるひとつの要素になると思う。今、ルーズソックスがすごく流行っていると思うんですけど、90年代に流行ったものが流行っていて。やっぱり私たちの世代が過去のものに興味がある時代なんだな、って思います」

詩羽(水曜日のカンパネラ) | Photo ©池野詩織

――当時は原宿に行くと、『FRUiTS』に載るような格好をしている人たちは、競っているというか、どこまでいろいろやれるかっていうのをファッションで表現しようとしている感じがありました。今はSNSなどで自主的に発信することができるけれど、当時は限られていて。
 「やっぱり今はSNSひとつとっても、使うツールがFacebookからTwitter、TwitterからInstagram、TikTokと変化していて。自己発信できる要素がたくさんあるので」

――逆に今はツールが多くて、発信しようと思ったら大変じゃないですか?
 「Twitterに関しては、水曜日のカンパネラになって、なんとなく落ち着いてから本格的に始めた感じですね。写真の力ってすごく強いので、もともとはモデルをやっていく中で、ギャラリーとしてInstagramを使いたいと思ってInstagramを中心に発信していました」

詩羽(水曜日のカンパネラ) | Photo ©池野詩織

――なるほど。周りの人も同じような感じですか?
 「そうですね。ただ同世代よりもっと若い人たちだと、TikTokが中心かな。私は今20歳なんですけど、高校1、2年くらいの頃に勢いができたんですよ。そのときに“変わってったな~”って思っていて。Twitterは本当に、使う人は使うけど、使わない人は使わない(笑)。ただ、使いかた次第でどれも調整できますよね。友達でも、Instagramではすごくおしゃれだけど、それとは別にTwitterもやっていたり、上手い子は全部上手くやっています。自己発信ができる要素が増えていったからこそ、どこかでみんなの平均的なものが必要とされちゃった時代があったと思うんですよ。ファッションだと」

詩羽(水曜日のカンパネラ) | Photo ©池野詩織

――たしかに、最近はほとんど言われなくなりましたが、2014年前後に“ノームコア”なんて言葉が話題になったことがありました。平均的なのが良いし、なんなら新しい、みたいな。
 「やっぱり学生生活で、制服という決まったものを着ていた環境にいた頃が、自分の中でひとつの苦しかった要素だし、大人の言う“普通”ってその人の“普通”であって、それが正解じゃないのに。でも学生っていう身分なので、私が嫌だと思って反発しても丸め込まれちゃったりすることも、どうしてもあって。変わらなきゃいけないはずだっていうのはすごく思っていたけど、ただ、今のこの現状の日本を変えるとかって、そんな簡単な話じゃないし。私は政治家でもないし。そうなると私にできるのは、SNSで、こんな髪型でこんなピアスしてても人生成り立っている奴がいるんだよ、っていうのを発信すること。こんな見た目でもアリなんだっていうのをわかってもらえたらいいなって思っています。何が良くて何がダメという線引きをせず、全部良いほうに持っていけばいいって私は思っているんです。好き嫌いはあるにせよ、嫌いなものにヘイトを向ける必要はない。自分の好きか嫌いかは置いておいて、全部良いっていうことにしたら自分も自分の周りの人も幸せだと思っているので、それにみんなが気づいてくれたらいいな、って思っています。それがひとつの変わる未来になるのかなって」

詩羽(水曜日のカンパネラ) | Photo ©池野詩織

――ご自身で表現したり、SNSで発信する際に、見られかたなどを気にすることはありますか?
 「それはあまりないかな。自分が自分に満足していたら、気にすることってあまりないと思うんですよ。学生時代の自己肯定感が低かった時代を経て、今の自分ができあがっていて。自己肯定感が上がって、自分の見た目に満足しているし、自分が自分のこと一番かわいいって思っていたら、誰かにクスクス笑われていたとしても、そんなこと思うんだ、ウケる〜くらいの、そういうマインドで生きているので。自分で変わろう、自分を自分で変えてあげようって思った日からは、人の目を気にすることなく、バンバン自分のしたいように、今の今まで進化を遂げてきているな、って思いますね」

詩羽(水曜日のカンパネラ) | Photo ©池野詩織

――詩羽さんの活動では、そういう部分でも、ファッションが重要ですよね。ファッションってその人が街にいるだけで風景が変わるようなところがあって、それって社会を変える感覚にも近いのではとよく思います。
 「ファッションを通じて環境問題を考えるような活動をしている人も多いし、服をダメにする機会をなくそうっていう運動をしている人もいて。ファッションって意外となんでも幅を広げて表現できると思っていて、今の時代に合っていると思います」

――今着ていらっしゃる服(撮影後に羽織ったフーディー)は「CORNER PRINTING SELF」で作られたものなんですよね?
 「そうなんです。自分でプリントするって楽しいですよね。よく行ってます」

――詩羽さんが水曜日のカンパネラに加入してからこれまではコロナ禍の時期とも重なるわけですよね。ご自身の生活がいろいろ変わっていく時期にコロナ渦というのは、やはり影響はありましたか?
 「ちょうどコロナの時期が始まってから大学に入学して、学生生活しながらモデルもやる感じだったんですけど、入学式もなければ登校もできなくて、友達に会う機会もなくて、やりたいことはあるのに動けないっていう子たちがすごく多くなっていました。世の中的にはマイナスなことばかりだった2年間だし、これからも“こういう時期あったよね”ってずっと言われるとは思うんですよ。ただ個人的には今だからこそできることをちゃんと探して進もうと思って、水曜日のカンパネラに入る以前から、制作チームを組んだり、企画を立てたりしていろいろなことをやってきたので、ここ2年は私にとっては良い時期だったと思います。自分自身と向き合う時間ができて、やりたいことが明確に定まって、改めて外に出られる時期に自分のできることがすごく増えていったと思っています」

詩羽(水曜日のカンパネラ) | Photo ©池野詩織

――今後やりたいことはありますか?これから伸びしろしかない状態かとは思いますが。
 「活動としては、今はフェスが再開している時期ではあるので、ライヴはどんどん増やしていきたいですね。テレビにも出られるようになって、ちゃんと水曜日のカンパネラの詩羽っていう存在をいろんな人に理解してもらえるようになって、そこからが始まりかな、と思っています。やりたいことは口に出していったほうがいいと思っているので、やっぱり武道館でのライヴはやりたいですね。それと、感染状況が良くなったら海外でもライヴをしたいです」

詩羽(水曜日のカンパネラ) | Photo ©池野詩織

水曜日のカンパネラ Official Site | http://www.wed-camp.com/

水曜日のカンパネラ『ネオン』■ 2022年5月25日(水)発売
水曜日のカンパネラ
『ネオン』

https://wed-camp.lnk.to/neon

[収録曲]
01. 織姫
02. 卑弥呼
03. エジソン
04. 一寸法師
05. バッキンガム
06. アリス
07. モヤイ
08. 招き猫

水曜日のカンパネラ LIVE TOUR 2022「Neo poem」水曜日のカンパネラ
LIVE TOUR 2022「Neo poem」
http://www.wed-camp.com/

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