Interview | TUDA


黙らせようとしてくる奴がいたら、ぶっとばす

 大学に通いながら音楽ウェブマガジン「OTOTOY」のライターを務めるTUDAとの出会いは、筆者のバンドMs.Machineが出演したBarbican EstateとSTRAMの共催イベント「TIDE」。それから1年ほど経ち、津田がインタビュアーとしてMs.Machineに切り込んだ記事が今年3月に公開された。その取材中、彼女の質問や言葉からは“フェミニズムを語るバンド”、つまり私たちへの共感や期待を感じた。異性のインタビュアーからはおそらく生まれないであろう感情を含んだ声に、私も彼女にいろいろな話を訊きたい思い、今回の記事が完成した。ミュージシャンがライターに逆取材する記事はなかなか珍しいのではないだろうか。ライターになった経緯。制作したジンのこと。淡々とした口調で自身のこと、そして時折見せる世の中への怒りについて語ってくれた。

取材・文・撮影 | SAI (Ms.Machine) | 2021年4月


――自己紹介をお願いします。

 「1998年北海道生まれ、小学生以降は名古屋育ち。大学で東京に来て、OTOTOYでバイトを始めて1年くらい経ちました。ライター……と名乗っていいのか?って感じなんですけれど、インタビューしたり、物を書いたり、みたいな感じです」

――ライターになった経緯を教えてください。
 「名古屋にいた頃に受けた講座みたいなので知り合った人と作った『しゃちほこロック』っていうサイトで書いたりしていて、音楽について書いたのはそれが最初だったけど……書くの辛いし、やりたくないわってそのときから思っていました。東京に来たのは、音楽系の仕事が東京のほうがあるだろうと思ったからです。好きなバンドが立て続けに解散しているのを見て、作り手が搾取されているんじゃないか?不均等があるのでは?とか、当時よく見かけた“音楽は売れない”みたいな論調にも苛立ちを覚えていて、何ができるでもなしに、何らかのかたちで音楽に関わらなければ、と思っていました。今思うとよくわからない衝動ですけど。いざ東京に来て、音楽レーベルとかに入れればよかったんですけど、応募があまりなかったから『Spincoaster』のインターンを始めて、そこで初めてインタビューしたのが当時THREE(東京・下北沢)の店長をやられていたスガナミユウさんです。その後は音楽関係だと、TikTokの子とかを歌手デビューさせよう!みたいなことばかりしている変な音楽レーベルにいました。アマチュアで音楽を作っている人の音源を使わせてもらって会社で稼ぐ、みたいな狡いことばかりしていて、こんなくだらなくてリスペクトもないようなことはしていられないと思ってOTOTOYに入りました」

――転々とした結果、OTOTOYに辿り着いたんですね。OTOTOYの編集部の空気ってどんな感じですか?
 「わりとダウナーな感じ(笑)。でも基本自由です」

――(笑)。場所はどこにあるんですか?
 「神泉です。音楽の話はずっとしているから、そこはいいですね。OTOTOYで働くようになってからForestlimit(東京・幡ヶ谷)とかにけっこう行くようになって、そういう視野の広がりみたいなのはあったかもしれない」

Photo ©SAI

――yukinoiseさん、Risaさんと一緒にジンも制作していらっしゃるんですよね?
 「FNMNLの山本輝洋君と、フリーでライターをやっている松島広人君(NordOst | AIZ)も含めてやっています」

――けっこう大所帯ですね。なぜこのメンバーになったのでしょうか。きっかけを教えてください。
 「柳樂光隆さんのライター講座を受けていたんですけど、その内容が“ZINEをつくろう”みたいな感じだったので、その頃に行った“PURE2000”にあった“愛”や”踊り”を手掛かりにした文章、インタビューを紙で残せたらいいな、と思って」

――“愛”ですか……。
 「ぜんぜん仲良くもなれなさそうな人たちが、一斉に同じ音で踊っていて。ここに思想はないな、みたいな。そういう踊りみたいなのを、ForestlimitとかSPREAD(東京・下北沢)に行ってもみんなが求めているような気がしていて。社会の流れを見て批判しつつも、自分たちがその状況で何をするかという部分に信念を持っているアーティストが多いんじゃないか?ということを仮定で思ったんです。それに遊びに行く人も、そういう場のエネルギーを感じ取りたくて行っているんじゃないかな?って。そういうテーマのジンを作るために、地道にやるのが得意そうな人に声をかけました。ちゃんと作り手にリスペクトを持っていて、現場にも行っている人がいいな、と考えたメンバーです。ファミレスとかで集まったりしたんですけど、“誰かが権力持っちゃうのは違うよね”とか“この世代で終わらせようみたいなことっていっぱいあるじゃん”みたいな話をして、そういうのはすごくいいな、って思ったし、そういう感覚が合う同年代のライターが集まれたのは、よかったことのひとつだと思います。まだジンは出せてないですけど(6月17日に刊行)」

――「PURE2000」について“ここに思想はない”とおっしゃっていたのは、例えば政治的な思想とかそういう意味合いですか?
 「踊る場所だから、政治的な思想はもちろんわからないですけど。個人的な感覚で、仮に違う思想を持っていても共にいることができるんだ、好きな音や遊び場が同じじゃなくても、近しいムードがあるんだな、と思えた。当日は80年代みたいな格好をしている人もいれば、Y2Kのリヴァイヴァル系の格好している人もいて、かかってる音楽もジャンルがぜんぜん定まっていなくて。そういうのがすごく、新しい……のかはわからないですけど、音楽、踊りを求める純粋な欲求にはあのかたちが合っているんじゃないかなと感じました」

『MISTRUST』
津田さんが制作しているジン『MISTRUST』

――ライター、インタビュアーの辛いところを教えてください。
 「正解がないのは辛いし、書いても反応はないけど、反応があるとしたらマイナスの可能性の方が高い……みたいなことは思いますね」

――マイナスといいますと。
 「マイナスな反応と言うと語弊がありそうですけど、単に自分の実力不足を実感するのが、特定のジャンルで例えたときの“自分たちはそうじゃないよ”という本人からの反応で。それは書くために型に当て嵌めたと捉えられても仕方ないし。自分の思考を主体にしちゃってたらどうしよう……と書くたび戸惑うし、それを嗅ぎ取られたときに、アーティスト側に胡散臭い文章だと思われる気がする。そういう葛藤はあります。自分が書いている意味がないと微妙だから、完全には消さないようにするんですけど、そこのバランスがつかめていないです」

――やりがいについてはいかがでしょう。
 「現場にはわりと行ってはいるので、行っていない人よりは、知ることができてるのかな。行っていない人が見つけられないバンドとかのことは書けるから。音楽をやっている人って、反応がないとやめちゃったりするじゃないですか。そういうのをなるべく止めたいじゃないけど、“見てます”ということは言いたいのかも。他の人にも見られる、書かれるきっかけになるのであれば、こんなもんですが……みたいな。ちょっとでもプラスになればいいな、と思っています。毎回あまり納得して出しているわけではないんですけど」

――今後どんなミュージシャンにインタビューしたいですか?
 「難しいですね。ぱっと浮かぶのは、葛藤がある人。“なんでやってるんだろう?”とか、“やっていることと、自分が思ってることが噛み合わないんじゃないか?”とか。考えてたら思うことだろうし。あと、音楽を自分だけのものだと思ってない人。繋がりがあって、その中のひとつになるんだ、みたいなことを意識している人は話していておもしろいかな。誰かが聞いておもしろい話ではなくても、私が聞いておもしろいって思うので、そういう人は興味があります。あと若い人!若いうちに若い人の話をちゃんと聞きたい。近い視点には立てるのかな、っていうちょっとした自負はあるので」

Photo ©SAI

――津田さんがMs.Machineのインタビューをしてくださったときに、「今よりも若い頃はフェミニストについてあまり良い印象を持っていなかった」とおっしゃっていたのが印象的でした。なぜそう感じていたのでしょう。
 「バックラッシュのほうが強かったからかな、って今は思います。大垣友香さんの、論文がジンになったみたいなのあるじゃないですか」

――あ~!ピンクの表紙の。私も持ってます。(『riot grrrlというムーブメント – 「自分らしさ」のポリティックス』)
 「それを読んで、メディアも男の人のほうが多いし、すでにジャッジされた部分だけを見たら、悪いところが目につくというか、悪いところしか言ってなくないか?って思って」

――津田さんがRiot Grrrlについて悪いイメージを持ったメディアって例えば何がありました?
 「Riot Grrrlには悪いイメージを持っていないんですけど、Riot Grrrlについてのジンを読んでいると、Riot Grrrlが過激な集団だと言われていたのって、結局メディアが男社会だからだよね、って思うんです。それは今にもそのまま当て嵌まる」

――大垣さんのジンにはどういうきっかけで出会ったんですか?
 「去年の今頃だったかな。Riot Grrrl自体はもともと好きだったんですど、昔の話だと思っていたというか。よくいるやつですけど、“今はそこまで女性にとって不平等な社会でもないから、怒るのはよくないのかな?”みたいなことを、言えるほど思ってたわけじゃないけど、“Riot Grrrlよりはやらなくて良いんだろうな”と思いながらただ単にかっこいいパンクとして聴いていて。でも去年あたりからフェミニズムについてよく考えるようになって、改めてRiot Grrrlのことを知りたいと思って買いました」

――なるほど。ちなみにどこで購入しましたか?
 「Lilmagで買いました!野中モモさんのオンライン・ショップですね」

Photo ©SAI
大垣友香『riot grrrlというムーブメント – 「自分らしさ」のポリティックス』

――なぜ興味を持ったり、ご自身でもフェミニズムについてツイートするようになったのでしょうか。
 「CAMP COPEっていうバンドが好きで、以前自分のバンドでコピーしたことがあって。それで、歌うから歌詞を調べたんですけど、ライヴの途中でグッときすぎて泣いちゃって。CAMP COPEはオーストラリアのバンドで、“この割合以上女性が出演しないフェスには出ません”って表明したり、歌詞でも、“この音楽業界にどれだけ女が少ないか見てみろよ”って言ったりする。今のバンドでここまで言って良いんだな、言う正当性があるな、って思わせてくれたバンドです」

――歌った曲の曲名を教えてください。
 「フェミニズムについての歌詞で一番有名なのは“The Opener”っていう、“女がトリのバンドをやる”みたいな内容の曲で、そういう歌詞が多いんですけど、私がめっちゃ泣いちゃったのは違うやつなんです。“Jet Fuel Can’t Melt Steel Beams”っていう曲に、

The only thing that stops
A bad man with a gun
Is a good man with a gun
The lies they use to control you

っていうサビの歌詞があって、完全にここで泣きました。決められた敵対関係で憎しみ合って誰が得をするんだろう、ということはよく思うことなので。盲目的になるべきではないな、と何度でも立ち直るために聴く曲です」

――そのライヴは何年くらい前ですか?
 「一昨年の冬くらいでしたね。あまり覚えてないです。そこらへんは……」

――大学のサークルでのライヴだったんですか?
 「そうです。そこから、自分でもそういう話を友達とかにふっかけるようになって。そうすると、すごくテンプレみたいな返しをされたり。“でも、女性専用車両あるじゃん”とか“今は女性差別とかないよね?”とか。女友達に話すとわかってくれることのほうが多かったんですけど」

――大学を2年間休学していたとおっしゃっていたのが気になっていたんですけど、なぜ休学していたんですか?
 「ワーホリに行こうとしていて。そこでもジンを作ろうかな、ってぼんやり考えていました。やることがそんなに決まってなかったし。でもそれが目的だったわけはなくて、私はただ単に……“こんなところにいてらんねえよ”って思っていたから。その気持ちは英語を勉強する中でも膨らんでいって、こんなに変なことしている社会もないよな、って」

――私は津田さんの、時折見せる怒りの片鱗が好きなのですが……どのあたりが変だと思ったりしますか?
 「誰かを下に見ていいと思ってる人が多すぎる。それはほとんどの人が愛を感じられないからなのかもしれないけど。そういう愛を阻まれる現状にも、“仕方がない”と言う人が多くて、システムは人間が継続してきたものなんだから、その言葉は不適切だと感じます。何も仕方がなくないのに」

――英語の記事や歌詞を読んだり、翻訳しているときに思ったんですか?
 「DMM英会話をやっていて、自分がフェミニズムの話をしても嫌悪感示されることなかったから、そういうところから違うんだろうな、って思って。そういうこともあって“出ねば”っていう気持ちがどんどん強くなったんだけど、出られず」

――ワーホリは渡航先の選択肢がけっこうあると思うんですけれど、その中でもカナダに行きたいんですよね?なぜカナダなんですか?
 「単純にビザが取りやすい。カナダのバンドもわりと好きだったし。でもカナダの音楽好きな先生に“こっちは全然ヴェニューないよ”って言われたから、それは意外だなって思いました。自分で曲を作る人はめっちゃ多いけど、ヴェニューはぜんぜんないみたいで。それはそれで、行ってみたらまた違うかもしれないし、おもろそうだと思って。だから行きたいですね、どうにかこうにか」

――日本でフェミニズムについて発信しても、なかなか現状がすぐには変わらなくて。“ずっと話してんのに通じねえな”みたいな気持ちになることが多くないですか?
 「最近も“対話が大事だよね”みたいなことって言われるけど、自分はその対話で黙らされる側なんだけどな、とか思うんですよね。見えないものを、ないものとしてしまうような人は、学ぶ前に反射的に“いやでもこれはさ、こういうときだってあるじゃん”みたいになぜか白熱することがあるけど、“適当なことをでかい声でいう奴がいる環境で、こっちがまともに喋ると思うなよ!”って思う。一発目で話が通じない人に通じさせるのなんて困難だし、そこまでの体力はないぞっていう気持ちはありますね」

――最後にライター、インタビュアーを始めたいと思っている女性にコメントをお願いします。
 「傾向的に、女の人ってあまり語らないイメージがあって。語らせてくれる場所もそんなにないって思うことがあります。もしかしたら、論じるのを阻まれてたのかもしれない。自分も、思っていても言わない、みたいな習慣がついちゃっているところあるし。そこをいかに超えられるかっていうのが自分には第一関門だし、今もくぐりきれていない気がする。ただ今は、喋らせないように働きかけてくる奴がいたらぶっとばすしかない、っていう気持ちでやってます(笑)」

――たしかに(笑)。
 「そういう強い気持ちを持たなくてもいいけど、基本メディア関係は男性社会だと思うので。だから、そこにめげないで、“無意識かもしれないけど、黙らせようとしてくる奴がいる”っていうことを知っておくのが大事な気がしますね。しゅんとするんじゃなくて、闘志を燃やせるじゃないですか」

『MISTRUST 20-21』■ 2021年6月17日(火)発売
『MISTRUST 20-21』
B5 | 74頁 | 1,500円 + 税
https://mistrustzine.base.shop/items/45102272

| ether, MAX SPEED
photography by Yui Nogiwa
| introduction
words by TUDA
| WAIFU, SLICK
photography by Toshimura
| 『LOVE(original mix)B-4』
words by 山塚リキマル

Interview
| Psychoheads
words by TUDA
| Lil Soft Tennis
words by NordOst:Matsushima (AIZ)
| moreru
words by yukinoise
| SATOH
words by 山本輝洋
| SAI
words by TUDA
| 玉名ラーメン
words by TUDA
| lIlI
words by yukinoise
| Le Makeup
words by 山本輝洋
| Baby Loci + sudden star
words by yukinoise
| the hatch
words by TUDA

FEATURE
| 2021survive
words by TUDA
| Kamui
words by NordOst:Matsushima (AIZ)

Y2K culture
| GABBER~cyber fashion
words by NordOst:Matsushima(AIZ)
| EMO~chinese y2k
words by Lisa

PURE2000 columns
photography by Yui Nogiwa
words by Lisa / yukinoise / TUDA / NordOst:Matsushima (AIZ)

DISKS released in 2020
words by 山本輝洋 / yukinoise / TUDA / NordOst:Matsushima (AIZ)