どんな場所でも良い場所になったらいいよね
国内のみならず国外でも精力的に活動し、モデルやニット作家としても注目を浴びる中、『GOOD PLACE』リリース前には歌詞にまつわるテキストを東京・中目黒 COMPLEXBOOST内に再現した自宅の制作環境と共に展示するエキシビションを開催し、表現の幅をさらに拡張しているメイリンさん。本稿では、果敢に変化することを常としながらも強固にディフェンドしてきた創作の本質が何なのかを、リリース・パーティを控えるタイミングでご本人と一緒に探ってみました。
なお、10月5日に東京・南青山 WALL & WALLにて行われたリリース・パーティは盛況のうちに無事終了。『恋のバカンス E.P.』(2015, OMAKE CLUB)でのデビューから10年目のアニヴァーサリーも兼ねた公演に相応しく、「SUMMER TIME」「恋のバカンス」といったオールドタイム楽曲を披露するファン感涙の演出を含んだセットリストでありながら、『GOOD PLACE』収録曲が新たなアンセムとなったことをも強く印象付ける充実の公演となりました。
取材・文 | 久保田千史 | 2025年9月
撮影 | 信岡麻美
――ご無沙汰しております。以前お話を伺ったのは『GANG!』(2017)のときですから、8年ぶりです。この間にいろんなことが変わりましたよね。
「そうですよね」
――『Nintendo Switch』が『2』になったり。『PlayStation®4』が『5』になったり。
「たしかに(笑)!ChatGPTとかなかったですよね。TikTokも。Instagramのリールもなかったし。縦系ドラマがなかった(笑)」
――そういう8年間での環境の変化が、楽曲の制作に影響を及ぼすようなことってありました?
「なんだろ。環境はめちゃくちゃ変化してますけど……。どんな人でも、8年間もあれば環境変わりますよね」
――そうですよね、雑な聞きかたですみません(笑)。自分のことで言うと、ちょうど『GANG!』が出た頃に子供が生まれたんですけど、今小学校3年生なんです。そりゃ変わるわって感じですね(笑)。
「えー!そっか!すごい、それは環境変わりまくってますね!」
――そういう類の変化って何かありました?
「大人になると、メンタル面とかはどんどん安定していくし。物事を知っていくからなのか、わからないですけど。そういう面では冷静に自分を、良い意味でも悪い意味でも、前よりは見えるようになっているかもしれない。し、なっていないかもしれない(笑)」
――今回の『GOOD PLACE』では、年齢のこととは明示していないものの、時間の経過に言及した歌詞がありますよね。あれはそういう内面が反映されて?
「そうですね。やっぱり年齢を重ねると、亡くなっていく人が増えてくる。お葬式に行くことが多くなったり。結婚とかも多いとは思いますけど。それで、生きたり死んだりすることをすごく考えて。お葬式とかって、小さい頃に経験しても、あまりよくわからなかったんですよね」
――うん、そうですよね。
「でも今回アルバムは、大切な人が亡くなっちゃったことがけっこう大きいテーマになっていて。自分の中でショックな出来事で、命についてすごく考えたので」
――メイリンさんの歌詞ってもともと、別離とか後悔とかについて書かれたものが多いじゃないですか。
「はい」
――今回はもっとそこにフォーカスしている感じがしますね。
「そうですね。“good place”、“良いところ”には、死んでも、例えば地獄とか天国とかじゃなくて、どんな場所でも良い場所になったらいいよね、良いところに行けたらいいな、っていう大きいテーマがあって。自分の居心地の良い場所みたいな部分を出したいって思うし、亡くなっていった人たちもそういう場所に行けたらいいな、っていう願いを込めて」
――神様が居ないことを知った
というニヒリスティックな一節もあります。そういう言葉ってよほどの出来事がないとなかなか出てこないですよね。
「はい。でもみんな生きていれば、そういう、肉親が亡くなったりとか、絶対に経験することで。悲しみもあるんですけど、良い意味で俯瞰的すぎず、希望を持てるような、でもやっぱり命に限りがあるのはちょっと切ないよね、っていう感じ」
――うん、そういう風に、突き付けずにふわっと伝えてくれるのがメイリンさんらしいですよね。僕もちょうどこの数年で親を亡くしたので、すごくよくわかる感覚だったし、メイリンさんのその伝えかたに助けられた感じがします。
「そうなんですね……。なんか、びっくりしますよね。こんなことが起こるんだ、って。その人がいないこともよくわからないし、不思議な気持ちになる」
――そうなんですよね……。それが不可避のものとして用意されていること自体も不思議に感じます。それから今回のアルバムでは、そういう内省的な部分とは逆の変化も印象的でした。メイリンさんの歌詞って、これまではちょっと自虐的な面が強かったじゃないですか。
「はい(笑)」
――でも今回はすごく外向きになっている印象がありました。
「えっ!めちゃくちゃそうだと思います。言われて今気付きました……(笑)。すごい!やばいですね、読み取りが。ありがとうございます!」
――いやいやいや、聴いた人はみんなそう感じると思いますよ(笑)。その変化は何かきっかけがあったんですか?
「なんだろう……。やっぱり大人になったからですかね?でも無意識なんです。冷静に見られていないかもですね、自分のこと(笑)」
――今までよりちょっと辛辣でもあったり。大人になって、言うべきことは言おう、という感じ?
「たしかに……。自分に対してうじうじっていうよりかは。……あっ、きっと、コミュニケーションが取れるようになってきたからかな?『GANG!』の頃から、ありがたいことにモデルとか、いろんなお仕事をさせていただくようになって。やっぱり、自分ひとりだけで音楽を作っていたときは、内向的なのか、コミュニケーションが苦手で、撮影のお仕事とかでも最初は誰とも喋れない、目も合わせられない、っていう感じだったんですけど、だんだん打ち解けてきたというか。現場現場で一度しか会わない人もいるし、なんか数年に一度お久しぶりですってなる人もいるんですけど、それを繰り返していくうちにコミュニケーションが取れるようになってきたように思います」
――モデルのお仕事をされている中で、嫌なこととかはなかったですか?
「嫌なことはぜんぜんなかったですね。最初の頃は、楽しいし、新しいことばかりで、自分の写真がどこかに出ると、わー!嬉しい!っていう感じだったんですけど、やっぱり先に音楽をやっていて、途中からモデルのお仕事をいただけるようになったからなのか、人のクリエイティヴに入ることが、だんだんちょっと難しくなってきたんですよね」
――クリエイティヴ側の人間なのに素材になっている、みたいな。
「そうそう。でも、いろんな自分を見られるっていうのはなかなかできない経験だし、ヘアメイクさんだったり、洋服のクリエイティヴの人、カメラマンさんとか、スタッフ全員そうなんですけど、自分にインスピレーションをもたらしてくれる出会いもあるので、また考えが変わって。これからも続けていきたいと思ってます」
――そうなんですね。いや、「あったらシアワセ」はモデル・ギョーカイのキラキラした感じがダメだったとか、そういう話なのかもって思っちゃって(笑)。
「いやいやいや!ぜんぜん!逆にモデルさんとかって、表に出ているからこそ、キラキラしているって思われがちなんですよね。実際、キラキラしてるよねって言われることもあるんですけど、別にそんなに(みんながみんないい意味で)キラキラしていないんですよ。一人一人表現者として活動しているから、キラキラしているっていう一言では表せないというか。表に出るものはキラキラしているし、そうあるべきなんですけど。その違和感みたいなものです」
――なるほど。たしかにメイリンさんて、SNSとかではいつも楽しそうに見えますよね。そういう場でドロッとしたものを開示するタイプではないというか。
「はい(笑)。でも、ドロッとしたものを出す人っているんですか?」
――いるいる。めっちゃいるじゃないですか。
「えっ、アーティストでもいます??」
――いるいる。めっちゃいる。
「本当ですか!? え~~~」
――ドロッを吐露したくなるようなときってないんですか?
「ないですねえ。裏垢の何かが流出!みたいなニュースとかよくありますけど、裏垢みたいなのもなくて」
――なさそう(笑)。
「(笑)。私は裏垢を更新する時間があったら、本垢を更新しないとヤバいぞ……っていう感じで……」
――ヤバいぞ(笑)。がんばって運用しているんですね(笑)。
「がんばってる(笑)。がんばらないとすぐに更新しなくなっちゃう。がんばってるって言えるほど更新してはいないんですけど……」
――いやいや、Vlogだっておもしろいじゃないですか。
「(笑)!Vlogは1年くらい更新してないし……」
――でも、今5本くらいあると思うんですけど、どんどんクオリティが上がっていてすごいですよね。
「上がってますか?ありがとうございます(笑)。家にいることが多いので、撮るものが制作作業とかになっちゃうんですけど、それはおもしろくないと思うから、なかなか更新できなくて……」
――制作風景もおもしろいと思いますけどねえ。でもやっぱりインドのツアーのやつがおもしろかったですね。ツアーってやっぱり大変なんだな~って思いました。
「インドは2泊4日みたいな感じで行ったので、インドにいたかどうかもわからないくらいで……すごかったですね。ほぼ移動で。大事件のひとつは、フェスに向かう道がめちゃめちゃ混んだこと。片側1車線の道路だったんですけど、こちら側だけで5車線分くらい車が走っていて」
――どういう……道なんですか。
「わからないんですよ!それで出演者が誰もフェスの開演に間に合わないみたいな感じになって、フェス自体が3時間くらい押しになって」
――3時間押し……Madonnaかよ。
「(笑)。でもなんとか終えて。おもしろかったですけど」
――移動はずっとDYGLと一緒だったんですか?
「そうですそうです。みんなすごくいい人なので、楽しすぎました」
――DYGLとはもともと面識があったのでしょうか。
「ちょっとだけ。挨拶する程度だったんですけど、インドで、わりと絆が……疲れを共有できました(笑)。移動のバスがすっごい揺れるんですけど、シートベルトがなくて、人が吹っ飛んできたりとか」
――すごいですね……やっぱり大変そう……。
「めちゃ大変でしたけど、なかなかできることじゃないから」
――近年はフランスのフェスにも出ていらっしゃいますよね。フランスとの関係、って言うとちょっと規模感でかくなっちゃいますけど(笑)、
「貿易みたいな(笑)」
――うん(笑)。でも、フランスとの関係っていつ頃からあるんですか?フェスに出たりするようになる前から交流があるイメージですけど。
「うーん、いつからだろう……。5、6年前かな。自由ってなんだっけ?って思って、一人旅に行きたくなったんですよ。フランス語を勉強していたので、なんで勉強していたのかは覚えていないんですけど……(笑)、フランスに行ってみよう!ってひとりで行った旅が楽しくて。アーティストのかたと知り合ったり、そこからフランス語をもっと勉強したりするようになって、フランスに行くことが多くなりました」
――自由ってなんだっけ?になったのはどうして?
「いや~、モデル業が忙しすぎて。そのときは。たぶん疲れていたんだと思います。食事制限とかもしていたので」
――そうか、メイリンさんいろいろ食べるのお好きですもんね。
「そうなんですよ。食事制限とライヴ・パフォーマンスの両立がけっこう難しくて。そのストレスがすごかったんです」
――フランスで自由は得られましたか?
「はい。初めて行ったときは、名称は忘れちゃったんですけど、空き家にアーティストたちが住みついているみたいな……」
――スクワットですか?
「あー!そうそう!スクワット。そういう友人がいて」
――スクワッターの友人がいるっていうことですか?
「そうなんですよ(笑)。日本で知り合った絵描きのフランス人で。そこに遊びに行ったら、自由すぎて。倉庫みたいなところにテントを張って、そこからバレリーナが躍り出てきたかと思えば、後ろでは絵を描いていたり、タトゥを彫っていたりとかして。自由でいいなあって思って、一瞬住むかどうか迷いました(笑)。『STRESS de STRESS』でフィーチャーしたAGAR AGARの人も自分の友人を通じて出会って」
――そういう感じで繋がっていったんですね。レーベルのツテとかなのかなって思っちゃってました。
「レーベルづては難しいですよね。やっぱり直接的なコミュニケーションがないと。そうじゃないと心から楽しめないし、なんだろ、仕事的っていうか、作業的なツアーとかになっちゃうと思うんで。小さいところでも、友達伝いとかでライヴをやったほうが絶対身になるとは思います」
――そうですよね。めちゃくちゃ良いですね。
「その甲斐あってか、私はRebeka Warriorさんっていう、もともとSEXY SUSHIをやっていた人がすごく好きなんですけど、去年かな?その人のレーベル(WARRIORECORDS)から連絡が来て。コンピレーションに参加してくださいって」
――『RainboWarriors Vol.1』への参加はそういう感じで決まったんですね。
「はい。でも、本当に尊敬する人だったので、なんか夢が終わっちゃったような気持ちになりました(笑)」
――嬉しいような寂しいような。
「そうですね。現実なんだ、みたいな」
――メイリンさんの曲って、めっちゃトレンドを押さえてとか、そういう感じじゃないですよね。ガバはリヴァイヴァルがありましたけど、ちゃんとトレンド押さえてます!アピみたいな感じじゃないんですよね。それがすごく謎で。ガバとかハードコア・テクノとかは、どういう風に知っていった感じなんですか?
「ガバとかはなんでハマったのか覚えていないんですけど、コロナ禍のときに、サイケデリック・トランスの映像を観るのにハマっていて(笑)」
――昔のドラッグ・ビデオみたいな?
「それそれ、そうそう(笑)!部屋を暗くしてプロジェクターでひとりで観るのにハマって。現実逃避みたいなところだったんですかね。そこから関連動画でハード・テクノとかにハマっていったので、リヴァイヴァルとかっていうよりは、インターネットのおすすめだったのかな。わからないですけど」
――でも、ガバと一口に言ってもいろいろあるじゃないですか。メイリンさんが作るガバって、1990年代初頭のロッテルダム・テクノのキックから、ハードコア・テクノのいわゆるガバキックまでちゃんと使い分けられていて、すごく研究されているんだなーって思って。
「ああ~。研究なのかなあ……。勝手に耳に残っちゃうのか、あまり細かく考えたことはないんですけど……。作りながら、もうちょっとカンッて鳴ったほうが気持ちいいなとか、丸っこくて堅いキックも好きだなとか、聴いて気持ちいいかどうかで作ってます」
――そうなんですね。でも「J'ai le cafard」のUKGの感じとかも、研究してるなーって思いますよ。
「本当ですか?ぜんぜん研究していないんですよね……。そもそもジャンルかぜんぜんわからなくて。プレスリリースを書くときとか、たぶんジャンルとかを書いたほうがいいじゃないですか」
――ああ~、そのほうが便利に感じる人もいるかもしれないです。
「この曲はこういう曲調で云々、なんとかインスパイアで、みたいな。そういうのぜんぜんわからなくて」
――昔はプロフィールに“アンチEDM”って書いていたことがあったじゃないですか。
「ありました!懐かしい!昔Kimya Dawsonが好きだったんですけど、“アンタイ・フォーク”って言ってたじゃないですか」
――言ってましたね。
「そんなような感じの意味で“アンチEDM”って書いていたような気がします」
――そうなんですね、直球でEDMにアンチっていうわけじゃなかったんだ。今回のアルバムは、FKA twigsのアルバムがそうだったみたいに、ビッグルームとは言わないまでも構造的にEDMになっている曲もあるから、“アンチ”じゃなくなったのかなーって思ったりしていました。
「でもEDMってそんなに聴かないっていうか……(笑)。たぶん私、あまり音楽を聴いていないんで……」
――そうですか?
「そうなんですよ。毎日聴いたりはしないんですよね、音楽を。だから、ジャンルとかアーティストの名前を出されたときに、ぜんぜんわからないんですよ」
――でも、音楽好きで選んでいないと、Kimya Dawsonとかはなかなか聴かないと思うんだけど……。
「学生時代とかって、通学もあるし、感受性も豊かだから、音楽聴くじゃないですか(笑)」
――ああ~、まあね、そうですね。わかります。
「大人になると、感受性というか、複雑なセンチメンタルが少なくなっていくんで。なかなか心に入ってきづらくはなりますよね」
――う~ん、たしかに。イキりみたいなのもなくなってきますもんね。あいつより知ってる!的な。
「はいはい(笑)」
――じゃあまあ、EDMもUKGもそんなに関係ないっていうことで。
「そうですね、あまり関係ないですね(笑)。サイケ・トランスも、アーティストとかはぜんぜん、細かくわからないし」
――トランスとかは特にそうですよね。あまりアーティストで聴くっていう感じじゃないし。
「そうそう、コンピレーションがおもしろいなって思ったりはするんですけど」
――わかるっす、ゴアトラはコンピレーションで聴くのがベストですよね。
「ですよね!」
――今回のアルバムは、そういうガバやトランスといった近作での要素も持ちつつ、過去8年間の作品の中で一番『GANG!』に近い印象があるんですよね。
「嬉しい!1周回ってそうなった感じがあるんですよ。『GANG!』のあとに『PETIT PETIT PETIT』(2018)でバンド・サウンドをやってみて、やっぱり電子音楽がいいなって思って『TAKE ME AWAY FROM TOKYO』を出したんですけど、その頃、良い歌、心に沁みる歌を書かなきゃいけないのかも、みたいな責任を感じちゃって。例えば、“愛のせいで”(『PETIT PETIT PETIT』収録曲)とか、よく褒めていただけるんですけど……」
――うん、良い歌ですよね。人気曲。
「ありがとうございます。今はそういう曲も素晴らしいと思うんですけど、当時はサウンドより感情のほうが優先なんだな、っていうことに不満があったんですよ。純粋に“音”を作るのが好きだから」
――なるほど。
「『PETIT PETIT PETIT』はバンド・サウンドだから感情面のほうが強いのかな?って私は思って。バンドはやっぱり、いろんな人が集まって偶発的に生まれたサウンドがおもしろいし、人間同士のやり取りがおもしろいものになったりするじゃないですか。でも私は作ることのほうが好きだから、結局またトラックを作るようになったんですけど。でも最終的に今は、電子音楽をやって、ジャンルもなんでもいいし、心に沁みてもいいし、歌がヘタな感じもいいし、」
――ぜんぜんヘタではないですけど……
「あっ本当ですか(笑)。ヘタっていうか……歌い上げてもいいし、『STRESS de STRESS』みたいに同じ単語をトラック的に連呼するのもいいし、全部、なんでもいいよね、っていうのが、今回のアルバムなんです」
――今の状態で、ギターを使う曲に変更を作ってみたら、また違う良い曲ができるんじゃないかな~と思ったりもしました。
「うん、それもいいなって思って。1、2年前くらいにトラック制作の仕事をいただいて、パンクっぽいものを作ってほしいって言われたので、ギターを入れたり。リリースはしていないんですけど、ギターを弾きながら歌うバンド・サウンドを作ったりもしてはいるんですよ。そういう曲を入れてもいいな、とは思いつつ、ライヴでどうやるべきか考えてしまって」
――そういうのはありますよね。人に弾いてもらうっていうのもなんか違うし。
「はい」
――今回はバック・トゥ『GANG!』しつつ、新しい要素として、ラップを披露していらっしゃいますよね。昔は、“ZOMBIE-CHANG”で検索するとジャンルに“ヒップホップ”が出てきて違和感があるっておっしゃっていましたけど。
「あはは、はい(笑)。なんでそうなっちゃってたのかわからないんですけど、ぜんぜんヒップホップではないので、ヒップホップの人のに怒られるんじゃないかっていう冷や冷や感がありました。今回のも……ラップって言っていいんですかね……」
――ラップでしょう。かっこよかったですよ。
「よかった!嬉しい!でもなんでできたのかはよくわからないんですよね……。いつも、トラックを作ってかっこいいと思ったら、歌詞のメモを見ながら帳尻を合わせて、じゃあこれにしようみたいな感じでやってるんで」
――それからヴィジュアル面も、新しい要素になっていると思います。これまで、“ZOMBIE-CHANG”っていう名前だけどソンビ・モチーフは使わない、っていうルールがあったじゃないですか。
「はい(笑)」
――でも今回はかなりゴスいイメージで、ゾンビ感もあるような気が致しまして。
「ああ……でも、ソンビ・モチーフではないから……」
――いやいや、いじわるで言っているわけではなくて。かつて言ったこと、やったことと現在の言動が必ずしも一致する必要はないと思っているので。最新の状態が今にフィットしていて、良いものなら、それがベストじゃないですか。でも、これまでになくネガティヴというか、ダークなイメージを用いているのは間違いないですよね。
「そうですね。ジャケットに関しては、さっきお話した“good place”のテーマと関連していて、天国と地獄、光と闇っていうのもありつつ……生まれる前って、お腹の中にいて、暗いじゃないですか。お腹から出てきたら明るくなる、光が当たるんですけど、死ぬときは目を瞑って意識がなくなって暗くなるじゃないですか。だから生まれる前も死ぬときも同じ暗さで、そこに光が当たる……あー!でも説明が難しいな……。生まれるでもあり、死ぬでもあるようなことをイメージしたくて、白く塗って黒い背景にしました。生きることも死ぬこともポジティヴでもネガティヴでもないと思うから、私の中でネガティヴなイメージはないんです」
――なるほど。納得です。今回のアルバム制作はおひとりでこなしてしていらっしゃるという点も新しい要素ですよね。これには何か理由があったんですか?
「マネージャーさんが退職されたっていうこともあったんですけど、なんか、ひとりでやってみたいっていう気持ちがあったから、モデル業とかのやり取りはこれまでも自分でやっていたし、やれることは自分でやってみようと思って。ずっとDIY精神はわりと強いんで、物をどうやって作るのか、みたいなことをどんどん研究したくなっちゃったり。音楽自体の制作の過程はぜんぜんわかるんですけど、リリースするにはどうしたらいいか、みたいな内訳も全部知りたくなったっていうのが大きいかもしれないですね」
――やっぱり研究熱心ですね。
「いやいやいや。でも、リリース周りやプレスリリースなど、たくさんやってもらっていたことをより実感しました。今回は大事な部分はアドヴァイスをもらって手伝っていただきながら、本当に全部自分でやってるんです。曲作りも、ミキシングも、リリースの登録も。デザインやグッズの工場のとのやり取りとかは前から自分でやっていて。ホームぺージも自分で作っていて、初めてBlenderを使って展示会場の模型を作って、NFTタグと連携させたり」
――それ、もっと自信持ってアピールしたほうがいいですよ。
「友達にも、もっと人に言ったほうがいいよ!って言われるんですけど(笑)、どうやってアピールしたらいいんですか?やりました自慢はしたいし、褒めてもらいたいんですけど……(笑)」
――トラックメイキングだけだってすごいんですから。イメージ戦略、考えましょうよ!
「うん……。でも聴いている人は別に、例えばトラックメイカーが私じゃなかったとしても、どっちでもいいんじゃないですか?」
――そんなことないですって(笑)。
「いやっ(笑)、音楽制作に興味がある人とかだったら、この人ちゃんと作ってるんだ、とかあるかもしれないですけど、そうじゃない人は、例えば私が前で歌っていて、後ろにバックDJがいても、たぶん一緒だと思うんです」
――う~ん……。私は全部やっているのに、それに対しての世間の評価たるや(怒)!みたいになることないんですか?
「そこまではないですけど(笑)。私はただ作りたいだけなんで。でも逆に、作りたくならないのかな?って思うときはあります。言いかたが難しいですけど」
――いえ、わかりますよ。
「若ければ若いほど、自己顕示欲みたいな、目立ちたいだとか、そういうものが少しはあると思うんですけど、年々そういうのもなくなってきて。やっぱり制作が楽しいっていう気持ちが一番大きいなって思います」
――でも一応、自慢したい、褒められたいっていう秘めた気持ちがないわけではないんですよね(笑)。
「褒められたいです(笑)」
――さっきお話したインドやフランスでのフェス出演とかも、海外でも活動してるぜ!フェス出てるぜ!みたいなアピールがありそうなものですけど、ぜんぜんないですよね。
「たしかに!」
――そういうところ、おもしろいな~って思って。
「たぶん、やったほうがいいですよね……(笑)。なんでだろう……なんか淡々としちゃって」
――すべてがフラットな感じで、いいですけどね。
「たしかにフラットですね。SNSとか、フラットじゃなければもうちょっと盛り上げられるのかな?とは思います」
――盛り上げたい気持ちはあるんですか?
「そうですね。やってる感(笑)?ツアーとか、もっとやってる感を出したら、おおスゲー!ってなるんだろうな、とか」
――思うところはあるわけですね(笑)。
「はい(笑)。すごく良い経験をしているんですけど、なんか、すごいだろアピールがちょっとヘタ……」
――たしかに、すごいだろ感はぜんぜん出していないですよね。でもそれはメイリンさんの良いところな気がします。
「出したいんだけど、ヘタなだけです。出したいし、褒められたいです(笑)!」
――今回お話を伺うにあたって、これまでの作品を全部通して聴いてみたんですけど、いろいろな変遷が、それこそフラットに聴こえたんですよね。アピが淡々としちゃうところとかも含めて、ぜんぜん変わっていない部分があるな~って。そこがメイリンさんなんだな、って思ったんですけど。
「まあたしかに、芯のところ、真ん中は何も変わっていないと思います」
――いきなりトランスになった当時とかは、うおっ!ていう感じありましたけど(笑)、今改めて聴くと違和感ないんですよね。実際のところ、変化する時々で「メイリン、変わった……」みたいな感じで離れちゃう人とかいました?
「いたんじゃないですか?毎回、そういう意見は聞きます。『TAKE ME AWAY FROM TOKYO』を出したときはバンドのほうが良かったって言う人がいたし、『STRESS de STRESS』を出したときは『TAKE ME AWAY FROM TOKYO』のほうが良かったとか、今回のアルバムも、前のアルバムのほうが良かった、とかあるんで。何を出しても言われるんじゃないですかね(笑)」
――アーティストの定めですかね(笑)。
「なんか、あれじゃないですか?同級生の長髪の男の子がちょっと短髪にしたら蛙化、みたいな。そういう感じなんじゃないですかね、たぶん(笑)。でも、もう一度聴いたら別に変わってないや、みたいな」
――だから今回のアルバムは、「メイリン、変わった……」って思っている人たちにも聴いてもらいたい内容ですよね。
「たしかに(笑)」
――リリース・パーティはどんなセットでやる予定なんですか?
「ああー!準備しなきゃ……やばいやばい。どんなセットにするか考え中です!いつものセットに少しアナログを足そうかな。フェスとかだとセッティングがぜんぜんできないから、いろんな機材を持って行っちゃうと理想の音にならなくて。せっかくいろんな物を持って行ったのに、音のバランスが取れなくてライヴ自体が質が下がるっていうのは良くないと思っていて。メンタル的にも、そこの心配をしてパフォーマンスに自信がなくなっちゃったら良くないし。だから自分が一番やりやすい方法は普段から意識しているんですけど。ストレスにならないように。ライヴ自体、すごく緊張するのでめちゃくちゃやりたい!みたいに進んではなれないんですけど、リリパは自分を観に来てくれる方々しかいない場所なので楽しみです。胃は痛いですが……(笑)」
――大丈夫、みんなわかっていると思いますよ(笑)。
「その、みんな私を見て!みたいな気持ちはそんなにないっていうか」
――うん、メイリンさんはそういう感じですよね(笑)。
「(笑)。だからなるべく緊張しない方法で、心配性が出ない方法で普段はやっていて。でもワンマンは、好きでいてくれる人が来てくれるから、何をやってもいいんだろうな、とは思っています」
■ ZOMBIE-CHANG
"GOOD PLACE" RELEASE PARTY
2025年10月5日(日) 無事終了!
東京 南青山 WALL & WALL
開場 18:00 / 開演 19:00
前売 4,000円(税込 / 別途ドリンク代700円)
ZAIKO
■ 2025年8月20日(水)発売
ZOMBIE-CHANG
『GOOD PLACE』
https://linkco.re/BtVuptC9
[収録曲]
01. どうでもいいこと
02. J'ai le cafard
03. KAGOME
04. YOKATTA
05. あったらシアワセ
06. THINKING ABOUT 目
07. HINOTORI
08. 教えて☆エビデンス
09. 生活があなたを
■ ZOMBIE-CHANG
"GOOD PLACE" EXIHIBITION
>2025年8月16日(土)> 無事終了!
東京 中目黒 COMPLEXBOOST
TBA