Review | 大阪「中華そば ふじい」


文・撮影 | Dagdrøm

『かしわそば』 | 写真提供: 中華そば ふじい
『かしわそば』 | 写真提供: 中華そば ふじい
 大阪市に3軒の店舗を展開する「中華そば ふじい」。オーソドックスな昔ながらの中華そばと思いきや、背脂の旨味とキレのある醤油を効かせ、まろやかさも感じさせる『中華そば』と、鶏の旨みを濃厚に味わえる『かしわそば』が2大看板で、岡山県笠岡市の笠岡ラーメンを昇華させた中華そばを大阪市内で食べられる。

 今回はオーナーのご好意で、昨年オープンした野田阪神店にお邪魔して取材させていただいた。新店には初めて訪れたので、注文はもちろん王道の中華そばとチャーハン。内容は後述するが、個人的にはこの組み合わせが定番にしてベスト。奇をてらうような小細工は一切なし。これぞラーメン!という王道を行くスタイルだが、ふじいならではのオリジナリティを確立している。

 中華そば ふじい | Photo ©西川 聡

 はっきり言って、昔から大阪は中華そば不毛の地と言ってよい。東大阪市と大阪市東成区に跨るエリアの“高井田中華そば”と、「薩摩っ子」に代表されるライト豚骨くらいのものだろう。それに対し、お隣の京都や和歌山のラーメンはもっと複雑で、一言で○○系と括ることも不可能だ。筆者は大阪生まれ大阪育ちであるが、比較的京都寄りの文化で育ったので、ラーメンといえば京都の老舗に魅了されてきた。都会的な響きのあるラーメンよりも歴史を感じさせるクラシックなスタイルが好みなので、新進気鋭のオシャレで無化調でレアチャーシューというタイプよりは、どうしても昭和を思わせるものに惹かれてしまう。ふじいは、ローカルの自分好みの中華そばを食べたい!という願望を大阪市内で叶えてくれる数少ない店だ。

 中華そばとはソウルフードであるので、纏っている雰囲気を特に重視している。佇まいを見たり、匂いを嗅いでみることで、箸を付ける前にある程度は判断できるし、看板やメニューのデザインなど、ラーメンそのもの以外にも重要な要素が詰まっている。音楽に例えるなら、ハードコア・パンクやメタル、ギャングスタ・ラップ等にも応用が効く話で、ネットで拾った画像をフォトショで加工して簡単に仕上げた“それっぽい”アートワークや、デジタル全開で耳に痛い音より、荒々しくプリミティヴで生々しいものに惹かれる。決してイメージだけを盗用しても本物にはなれない。素晴らしい老舗には、小汚くても、匂いが凄まじくても、店内におしぼりもティッシュもなくても本物の店は幾多もあるので、この先も安全な限りは改装などせず続けて欲しいと願う。

 その点ふじいは、昔ながらのスタイルをそのままやっているわけではなく、店内も非常に綺麗で、メニューなどにわかり難さは微塵もないので、より多くの人を受け入れる体制があるが、無駄にあれもこれも手を出すタイプの店ではないので統一感が随所に感じられる。

中華そば ふじい | Photo ©西川 聡

 しかし、それこそが重要なのだ。焦点を定めるというのは、リスキーである。熱心なファンを産むのは、そのリスクを恐れない強靭な決断力だ。ふじいといえばこの味!という形を定着させ、今年で10年になるそうだ。熾烈な争いを見せるラーメンおよび飲食業界で、10年という年月をこの大阪で生き残る苦しみは、筆者には想像を絶するものだが、今なお進化を続けるふじいの中華そばは、昨年オープンした野田阪神店によってさらに進化したと感じる。バランス感が変わったとでも言えばいいだろうか。誤解を恐れず書くと、快適なのである。今回の野田阪神を含め、この数ヶ月で何回か芦原本店にも足を運んでいる。共通した印象は、以前のふじいの持ち味を残してより快適になったということ。

 快適とは?ラーメンに対して使う言葉ではないかもしれないが、世の中には食べた後に異常に喉が乾いたり、腹痛を催したり、快適ではないラーメンも多く存在する。ふじいの“快適”は、自動車で例えるならば、過激な高出力エンジンを搭載していても、限りなく乗り心地の良い車だ。少し話は逸れるが、BMWにはM社(現在はBMWに統合)やALPINA社というチューンアップ専門の会社があり、サーキット走行にも耐え得るコンプリート・カーを製造している。特にALPINAは暴力的でありながら、乗り心地に徹底的に拘った足回り、タイヤ選びなど、量産車と呼べるギリギリの範疇で究極の仕上がりをキープしていた。ふじいの中華そばは前述したように、コクのある背脂の旨みとパンチの効いた醬油のキレがガツンと来るものだ。しかし優しさが以前よりも増しているので、食べた後にもう当分は勘弁、という感覚がまるでない。人々の日常に溶け込む中華そばになっていると感じた。

中華そば ふじい | Photo ©西川 聡

 サイドメニューの定番であるチャーハンの旨さも特筆すべきで、オーソドックスなスタイルの範疇で他とは違う独特の香ばしさと醤油のキレを生み出している。中華そばとチャーハンを両方食べて帰らないと気が済まない感覚(実際筆者は、ふじいでチャーハンをオーダーしなかったことは一度もない)は、味は全くの別物だが京都の老舗・新福菜館を彷彿とさせるので必ず食べて帰っていただきたい。

中華そば ふじい | Photo ©西川 聡

 新たにメニューに加わった『中華焼きそば』も、パンチはありながらマイルドなコクがしっかりと主張していて優しい味わいになっているが、麺の美味さがとても印象的であった。

 ずっと同じ所に居るようで、素人には気付かぬうちに進化している。その絶妙な塩梅が長年通い続けられる店が持つ秘訣ではないだろうか。

 最後に、ふじいの卓上調味料にガーリック・パウダーがある。これは関西のラーメン屋ではあまりお目にかからない代物だ。中華そばを半分くらい食べた頃に適量をふりかけると、全く別の世界が広がるので強く勧めたい。

中華そば ふじい | Photo ©西川 聡

昔懐かし昭和の味「中華そば ふじい」 Official Site | Twitter | Instagram

| 芦原橋本店
〒556-0024 大阪府大阪市浪速区塩草3-9-19
店内 11:00-21:00 (酒類 -20:30)
出前 | テイクアウト | デリバリー 11:00-22:00
木曜定休
☏ 06-6568-9455

| 難波千日前店
〒542-0076 大阪府大阪市中央区難波1-3-14
店内 11:00-21:00 (酒類 -20:30)
テイクアウト | デリバリー 11:00-22:00
木曜定休
☏ 06-6282-7301

| 野田阪神店
〒553-0007 大阪府大阪市福島区大開1-2-1
店内 11:00-21:00 (酒類 -20:30)
テイクアウト | デリバリー 11:00-22:00
木曜定休
☏ 06-6743-4751

※ 営業時間は変更となる場合があります。

Dagdrøm
https://www.instagram.com/dagd_rom/

西川 聡she luv it
IMMORTAL DEATH
Ovservr
IP