Interview | DEERHOOF


ノイズは単にダークっていうものじゃない

 現在の世界情勢に対して、果敢に政治的な姿勢を示すアーティストは決して少なくないが、その中でもDEERHOOFは最も積極的にメッセージを発信しているバンドのひとつだと言い切れる。先だって、Spotifyから楽曲を引き上げた件も大きく報じられたが、彼らのInstagramをフォローし、オフィシャル・サイトのブログも合わせてチェックしてもらえば、その本気度は直ちに伝わるだろう。

 2025年にリリースしたアルバム『Noble and Godlike in Ruin』にも、同年の11月に実現したジャパン・ツアーにも、そうしたモードがナチュラルに反映されていると感じられた。ただ、昨年のライヴが全キャリアから楽曲を選んだセットリストだったことも併せて考えてみると、彼らは単に、結成30年を超えた今もずっと変わらずDEERHOOFらしく存在し続けただけであり、それが昨今の空気の中で、そういう見えかたをしただけなのかもしれない。来日ツアー最終日のリハ後、Greg Saunier(以下 S)、Satomi Matsuzaki(以下 M)と交わした対話を反芻しながら、そんなふうにも感じている。


 この間にも新規のライヴ予定がどんどん決まっているし、4月14日にはDEERHOOF & THE SOUND SANCTUARYというプロジェクトで、植物との共演作品?もリリースされたばかりだ。2026年以降も勢いを失うことなく、ますます逞しく、しなやかに、そして自由に、強靭な個性を輝かせ続けていってくれるに違いない。


取材・文 | 鈴木喜之 | 2025年11月
ライヴ撮影 | saylaphotos


――2025年の2月にNels Clineにインタビューしたんですが、彼の新しいアルバム(『Consentrik Quartet』2025, Blue Note | The Alstro Imprint)には「Satomi」っていう曲が入っていて。

M 「そうなんです、私にデディケートしてるんですよ。付き合いの長い友達なんです」

――「この曲はDEERHOOFのサトミさんのことですよね?」と質問をしたら、これまでの交流を延々と語ってから、「DEERHOOFみたいな曲を作って、サトミさんに捧げたんだ」という話をしてくれました。
M 「うん、なんかDEERHOOFっぽいストラクチャーだなって思いました」
S 「あはは、クール!」

――アンサー・ソングを書いてみようとか思ったりはしないですか?
S 「いや(笑)、そのNelsの曲が、これまでサトミがアウトプットしてきたすべての曲や、サトミ自身に対するアンサー・ソングなんだよ。だから僕らが何か書くとしたら、新たなクエスチョン・ソングっていうことになるんじゃないかな(笑)」

――なるほどなるほど。さて、京都でライヴを見せていただいたとき、サトミさんが「インタビューの前に今の感じを見てもらえてよかった」と話していましたが、自分たちでも何か変化を意識したりしているのでしょうか?
M 「変わったと思いました?」

――僕が感じたのは、なんというか、3年前の来日公演よりダイレクトというか、アグレッシヴな印象を受けました。
S 「たぶんそれは、小さなライヴハウスで観たから、音がうるさかったんじゃない(笑)?」
M 「セットリストは、わざと前回とは変えて、やっていない曲とかにしたんです。今は祝31周年ツアーをやっているので、過去31年分の曲をいろんなアルバムからリストアップして、私たちの集大成というか、ちょっと懐古展みたいな、とりあえず古い曲も新しい曲も、みたいな感じでやっています」
S 「今回のツアーで、アメリカやヨーロッパで演奏したときには、ローカルのハードコア / クィアコアのバンドといっぱい一緒にやったんだ。彼らはものすごくアグレッシヴで、若々しいから、そこからインスピレーションを受けたのかな(笑)」
M 「今、トランプだとかファシスト的な風潮があって、私たちは社会で締め付けられてる若者たちのために歌いたい、繋がりたいっていうメッセージがあるので、特にそういうバンドに出てもらっているんです」

DEERHOOF | Photo ©saylaphotos

――ツアーのサポート・アクトだけでなく、最新作自体にも、そういうメッセージ性が明確に表れていると言っていいのではないでしょうか?
S 「明確になっているのかどうかは、僕自身にはわからない(笑)。どういうふうに伝わっているかは聴き手側の問題だから。でも、たぶん歳を取ったことによってプレッシャーがなくなって……以前はPitchforkがどんなレビューを書くのかとか、誰かに“ポリティカルなことを言うのはクールじゃない”って言われたりとか、なんかいろいろそういうのを気にしていたようなところがあったかもね。今はもう、この音楽をずっとやってきているから、そういう恐れもなく、はっきり自分たちのメッセージを、SNSとかでもダイレクトに言ってる」
M 「そういう意味では、開き直ってやっているというか、自分たちが本当に伝えたいことを伝えようっていうのが、今回のツアーでは出ているのかもしれないですね」

――Spotifyから楽曲を引き上げられたのも、そういうことは気にしないというところへ至ったからなのでしょうか。
S 「今の若いバンドは、Spotifyに音源がないと聴いてもらえない可能性があるから、ものすごく大変だと思う。でも、僕たちは昔からやっていて、すでにオーディエンスを獲得しているから、この世に存在していることをわざわざSpotifyを通じて宣伝しなくても、十分わかってもらえている。ダメージは少ないし、生き残れるバンドだっていう自信があるんだ」

――ちなみに、最新アルバムの「Under Rats」という曲には、Saul Williamsが参加していますよね。彼とはスイスのフェスに出演したときに初めて出会ったそうですが。
S 「スイスの小さな小さな町で行なわれたフェスに、僕とMarc Ribotが招かれてね。そこにSaul Williamsも呼ばれていたんだ。彼はストリングス・カルテットで、アメイジングなショウを見せていたよ。それで終演後に、MarcとSaulと、スイス人の男が1人、それに僕とで何時間もおしゃべりしたんだ(笑)。政治の話とかもね。もともとMarcとは仲良しだったけど、そうやってSaulともすぐに互いを理解しあって、繋がりを持てたんだ」

――それが、いつ頃の話ですか?
S 「10年くらい前だね」

――けっこう前のことだったんですね。
M 「私も、もう少し最近かと思ってました」
S 「実は、その後10年、Saulとは1度も直接は会っていないんだ。ソーシャルメディアでは頻繁にやりとりしていたんだけどね。互いのツイートをRTし合ったりしていたよ。ただ、僕らはTwitterがイーロン・マスクに買収されてしまったとき、Xはやめちゃったんだけど」

――つまり、10年前に知り合ってはいたけど、今回のアルバムで満を持してSaulに参加してもらった、ということになるんですね。
M 「私が作ったトラックに、ラップみたいなのが入ったらいいねって話していて、“誰かいないかな?Saulがいいんじゃないか?”っていうことになったんです。それで彼に連絡したら、ヴォーカルを録音して送ってくれました」
S 「Saulは2年間以上、毎日毎日SNSで、ガザの件についてポストし続けてきた。その姿には勇気が出るし、そんな彼が新作に参加してくれるって言ってくれたときは、すごく嬉しかったよ」

――アルバムの最後に入っている「Immigrant Songs」も、ここ数年の社会の空気の中で感じたことが歌われている曲ですよね?
M 「そうですね、まず私自身が移民なので。まさに今トランプが、ICEを使って外国から来た人を追い出しちゃってるじゃないですか。ボトムワーカーって、とても大事な人たちなのに。私も最初アメリカに引っ越してきたときには、ウェイトレスをやっていたんですよ。自分もそうだったから、同じ立場の人たち、大切な労働力を担ってくれている人たちを、やっぱり守りたいという気持ちがあります。それに、アメリカ人だって移民なんだから、先住民の人たちの土地を奪い取って、自分の国だっていうのはおかしいっていうのはもちろんなんですけど」

――そもそもトランプだって移民なわけですしね。
M 「そう、トランプの奥さんも私と同じ、ファースト・ジェネレーションの移民だし。それで、私のそうした経験とかがいろいろと混じった曲になっているんです」
S 「“Immigrant Songs”はハッピーな曲調だけど、今は移民が追放されているような状況があるっていう内容はダークで、そういう二面性みたいなところを持っている。しかも、日本人であるサトミが、自分は移民だから追放されるかもしれないのにハッピーに歌っているっていうところが皮肉なんだ(笑)」

――この曲は7分の長さがあって、前半はハッピーな感じでも、後半はノイズの嵐になるじゃないですか。この展開は、そういうダークな部分を意識した構成なのですか?
S 「わからない(笑)。僕たちのインスピレーションである灰野さんの音(インタビューが行われた日の東京公演では、HAINO KEIJI & THE HARDY ROCKSがサポート・アクトを務めた)は、僕にとっては、“怖い”とか“怒り”だけじゃない。もちろん灰野さんはいつも黒(い服のイメージ)だけど(笑)。でも、彼の音楽は?暗い?わからない(笑)。灰野さんのノイズには、すべての感情が同時に入っている。嬉しい、怒り、悲しい、混乱、おもしろい、スローで、速くて、パワフルで、愚かで(笑)。ノイズっていうのはコズミックであって、単にダークっていうものじゃないんだ。それで、さっきの話にも繋がるけど、もし聴く人が、暗いとか怖いとか、なんか怒ってる感じなのが好きじゃないって言うのなら、すみません、もう聴かなくていいです。(“Immigrant Songs”の)ノイズ・セクションの前で止めてください(笑)」
M 「実は、このノイズ・セクションをカットして、前半だけをシングルで出したいってレーベル(Jouyful Noise)が提案してきたんですけど、私たちがダメ出しをしたんです。やっぱりDEERHOOF的には、こういうローラーコースターみたいなのがあってこそDEERHOOFらしいっていうか。なんでもありで、ひとつにこだわらない。例えば、別にレゲエをやってもいいし……やっていないですけど(笑)、曲を作るときに、このジャンルはダメとか、そういう縛りとかも全くなくて、全員が好きなものを持ってきて、みんなでいじって変えていくっていうスタイルなので」

Greg Saunier | Photo ©saylaphotos

――最新アルバムの『Noble and Godlike in Ruin』というタイトルは、怪奇小説『フランケンシュタイン』からの引用で、ジャケットも“パーツを集めて合成したモンスター”の写真になっているそうですが、今作のコンセプトに『フランケンシュタイン』のイメージを絡めるアイディアを、どのようにして思いついたのでしょう?
M 「2024年にアルバム制作の話をバンドでしていたとき、まず持ち寄ったデモを聴いていて、なんとなく『フランケンシュタイン』をコンセプトにしたらどうか?と提案しました。前作『Miracle-Level』と差をつけたかったのもあり、ライヴ録音だけでなく、いろんな音源を自由に組み込んだらいいかなと。フランケンシュタインといえば、一般的にぱっと思いつくのは娯楽としてのハリウッドのホラー映画で、怖い悪者の怪物を想像すると思いますが、私はメアリー・シェリーの本をイギリス留学時代に文学として学習しました。そして2024年の夏、作者の故郷であるイギリスでのツアーがあったので、オーディオブックを車の中でかけながらバンド全員で聞いたんです。バンドのメンバーはその本を読んだことがなかったので、作品の残酷で皮肉で悲しい、この今のAI繁栄の成れの果てを映し出したような内容に驚いていました」

――小説『フランケンシュタイン』は、映画だけでも何度もリメイクされ、最近では原作者メアリー・シェリーを描いた『メアリーの総て』(2017, ハイファ・アル=マンスール監督)のような映画もありますが、特に好きな関連作品などはありますか?
M 「私は個人的に初代の白黒映画が好きです。『メアリーの総て』観てみたいです」

Satomi Matsuzaki | Photo ©saylaphotos

――前作『Miracle-Level』では、スタジオでレコーディングしたり、全曲を日本語で歌ったりという試みがありました。そこでの経験がバンドにもたらしたものが何かあったでしょうか?そこから新作『Noble and Godlike in Ruin』の制作にあたって、参考にしたり、逆に反動があったりとかの影響はありましたか?
M 「バンドの発想は自由でフレキシブルなので、その時その環境に応じて何のこだわりもなく制作しています。スタジオでしかできないこともあるけれど、自宅でゆっくり自分のペースで作るのが良かったりするときもあります。ゴールさえ定まっていれば、ブレないだろうという作りかたなのかもしれません。あと、期限を決めてから作るのも良いプレッシャーですね。『Miracle-Level』のときはスタジオに入る前に2週間練習しまくって録音したので、ほとんど1曲3テイクくらいで録り終えました。録音1週間、ミックス1週間と時間の制限が厳しかったです。そこまで意識していませんでしたが、たしかに、新作にフィールドレコーディングなどが盛り込まれてるのはその反動なのかもしれませんね。『Noble and Godlike in Ruin』はみんなのアイディアを話し合いながら、実際にJohn(Dieterich)の家で録音したり、メールで音源を送り合ったりして、制作過程がじっくり煮込んだものでした。ダークな要素も過程の後半くらいで濃度が増したと思います」

――では最後に、この後の活動予定について教えていただけますか。
M 「このあとは、ちょっとずつツアーのスケジュールも組みつつ、基本的には制作に力を入れていくつもりです。現時点ではまだ細かいことまで話し合っていないですけど。でもDEERHOOFのことなので、もちろんまた違った感じのものを作りたいですね」

DEERHOOF Official Site | https://deerhoof.website/

DEERHOOF & THE SOUND SANCTUARY 'Deerhoof & The Sound Sanctuary'■ 2026年4月14日(火)発売
DEERHOOF & THE SOUND SANCTUARY
『Deerhoof & The Sound Sanctuary』

Joyful Noise Recordings
https://deerhoof.bandcamp.com/album/deerhoof-the-sound-sanctuary

[収録曲]
01. Plants Prosper!
02. Plants! Make Noise! Here we are.

■ 2025年4月25日(金)発売
DEERHOOF
『Noble and Godlike in Ruin』

Joyful Noise Recordings
https://deerhoof.bandcamp.com/album/noble-and-godlike-in-ruin

[収録曲]
01. Overrated Species Anyhow
02. Sparrow Sparrow
03. Kingtoe
04. Return of the Return of the Fire Trick Star
05. A Body of Mirrors
06. Ha, Ha Ha Ha, Haaa
07. Disobedience
08. Who Do You Root For?
09. Under Rats (feat. Saul Williams)
10. Immigrant Songs