10年も一緒にいて、話すことなんかもうないはずなのに
ライヴをやれば予測不能、かつては198曲入り、6008曲入り(!)のアルバムもリリースし、メジャー・デビューも、半数のメンバー脱退によるバンドの危機も体験してきた彼ら。『WILD & CRAZY大全』は彼らがそんな10年を経てたどり着いた自力の傑作であり現状報告であり変わらない魅力の詰め合わせでもある。
なんて、かしこまったリードはやっぱりぜんぜん似合わないですね。10年経ってもしぶとくて愛すべきどついたるねんの日常と創作の謎について、先輩(以下 先)、うーちゃん(以下 う)、浜 公氣(以下 浜)の3人(ワトソンは急遽病欠)にインタビューしました。
取材・文 | 松永良平 | 2021年5月
――どついたるねんをいちばん最初に意識したのは、2012年の「下北沢インディーファンクラブ」だったと思うんです。
先 「俺ら、ステージでライヴしてました?」
う 「11年が路上だった」
先 「路上か(笑)!」
――あの年のタイムテーブルではTHREEのトリでした。自分の出番を終えたスカートの澤部(渡)くんや知り合いが「どついたるねん観ないと終われない」と口を揃えて下北の南口をそわそわしながら下っていった。あの光景がすごく印象的でしたね。その頃だと、国立のリバプールでも観たかな!
先 「あれ見てるんですか? 出禁になったやつ」
う 「森は生きているが出てた?」
――そうそう。Gellers、VIDEOTAPEMUSIC、森は生きている、どついたるねんだったかな(* 1)。
う 「伝説のライヴ(笑)」
先 「オノ・ヨーコが着てたGジャンが店内にあって、リハのときに“うーちゃん、これ着て出たらおもしろいじゃん?”って言ったら、店長がブチ切れた(笑)。鬼の顔で見てたよね」
浜 「そりゃそうだよね」
う 「ギャハハハハ、って笑ってた」
* 1 2013年4月5日開催「Gellers presents 咲きっぽ」
――メジャー・デビューを発表した赤坂BLITZ(* 2)のライヴのときは「これからどついたるねんに輝かしい未来が待っているんだな」と思いながら観てました。
う 「しかし、直後に半分が辞めて」
* 2 2017年4月6日開催「彦龍」ツアー・ファイナル
――でも、いろいろありましたけど、1stアルバム『ダディ』(2011年)から数えると、今年で10年ですよね。その節目の新作『WILD & CRAZY大全』を聴いたんですけど、なんか感動しちゃって。「相変わらず」とか簡単に言うけど、10年やってきて、みんな30代半ばになってるわけでしょ?だから、この微妙な難しい年代でどついたるねんであり続けてるのが本当にすごいなと。
先 「そうですね。それは自分でも思いますね(笑)。周りのバンドもみんなやめちゃったり、いなくなったりしてるんで」
浜 「(どついたるねんは)メンバー辞めつつも続いてるしね」
――「バカだなー」って思いながら聴くんだけど、ゲスな感じが皆無。ワトソンが「ちんちん」とか歌ってても汚くないっていうか、むしろ清い。
先 「ファンに手を出したりしてないから(笑)。鉄の掟があるんですよ。監視社会」
う 「それが下ネタの清さに出る。“手出してないぞ!”って」
先 「10年やってきて誇れるのそれくらいだよね」
浜 「本当にしてないよね」
先 「あとで何言われるかわかんないし」
う 「女子高生くらい監視しあってるから(笑)」
――2021年にアルバムを出そう、というのは決めていたんですか?
先 「そうですね。キングレコードを辞めて、今年の年始くらいに。ちょうど『ダディ』出してからなんとなく10年くらいだなって思って調べてたら、発売日が2011年の6月8日だってわかったんです。それで6月8日に出すことを先に決めて」
う 「でも、帳尻が合わなくなっていくんですよ(笑)。発売日だけ先に決めて、そこからスタジオも押さえ出したから」
先 「この1、2ヶ月がフル稼働でした」
浜 「僕がアルバム録るって聞いたのが3月くらいでしたね。“延期とかしないの?”って聞いたら“発売日は動かせない”って。じゃあ、しょうがないかと」
――そもそも、どついたるねんって、どうやって曲を作っていくんですか?
う 「最初は、ワトソンの鼻唄に俺がコードつけたり、曲を乗せたり」
――どれくらいの鼻唄なんですか?
う 「ワード1個とか。それを5個くらい送ってくる」
先 「しかも音質めちゃくちゃ悪いやつ(笑)」
う 「風の音がゴーって入ってたり。でもそれに曲をつけるときに、俺とワトソンがそのときよく聴いてる曲とかを反映させていきますね。“マンチェっぽくしようぜ”とか“ハードコアっぽくしようぜ”とか。そんな軽い感じでやってます」
――ワトソンは一時期フォーキーな曲を作ってたりもしてましたけど。
う 「そういう時期もあったんですけど、今はまたわけわかんない曲が多いですね。それを無理矢理曲にしたやつが、わりとポップになったりするんですよ」
浜 「前のメンバーの頃は作りかたがけっこう違って、やっぱり脱退があってから本当に別のバンドになったというか。曲を作るのがうーちゃんメインになったのがいちばん大きな違いですね。うーちゃんが送ってくれたデモに僕がスタジオでドラムを入れたりしていって」
う 「最後に先輩がクソぶっかける、みたいな(笑)」
先 「俺はテレビしか観てないんで(笑)。ワトソンとうーちゃんがふたりで飲んでるところに行って、テレビのパウダーをクソとして曲にかけます」
う 「それでいい匂いがしてきて完成です。そのやりかたは固まってきてますね」
――先輩がラップするパートは「ここに入れてください」みたいな指定があるんですか?
先 「最近はそのパターンが多いですね」
う 「声優さんみたいな仕事だよね(笑)」
先 「レコーディングでも、俺は楽器弾かないんですることなくて。今回のレコーディングは2日間あったんですけど、初日は映画2本見て、自分のパートだけキャラ入れてテンション上げて声優みたいにやりました」
う 「ほぼワンテイクだった」
浜 「そうだったっけ?すごい!」
先 「実働1時間もやってないです」
う 「2日目だけ来て30分やっても済んだよね(笑)」
――曲の完成形は誰が決めるんですか?
う 「やっぱりそれはワトソンかな。人数も多くて、楽器も多いから、その抜き差しはワトソンのバランス感覚で決まってますね」
――あらためて新作を聴くと、確かに初期よりも整理された部分もあるけど、基本にあるわちゃわちゃした感じは変わってないと思うんです。
先 「自分らの意識としては、もとから整理されたものを目指してたんですよ。ジャケを描いてくれた森(千裕)さんにも最初“わちゃわちゃしてるね”って言われた。俺らにとっての“整理されたもの”が普通には“わちゃわちゃ”なのかも(笑)」
う 「これぐらいやっても“わちゃわちゃしてる”って言われるくらいだから」
先 「より整理しないとね!」
――整理されてるという話で言うと、アルバム全体を通して聴いて、意外と短く感じたんですよ。44分で終わってて。
う 「俺は意外と長えなと思ったんですけど」
――「あれ?もう終わっちゃった」と思ったんですよ。その感じって、前からするとコンパクトというか、キュッとしてると思った。
先 「最初は20何曲くらい候補に上がってて」
う 「“2枚組にしよう”とか言ってたもんね」
先 「それをベースのハルオさん(山中治雄)に精査してもらって、コンパクトになりました」
う 「筋も通ってるような選曲だし、聴きやすいかなと」
先 「俺らだけで決めてたら2枚組になってましたね」
――“とっ散らかった”という印象を持つギリギリのところで、「星によろしく!」があって「塾」が来て「OUTRO」で終わった!みたいなテンポの良さがありました。ちなみに、みなさんは新作ではどの曲が好きですか?
う 「俺は“宇宙 椎名町 おばあちゃん”かな。一番新しい曲なんです。一番みんなで作った感じもあるし、好きですね」
――ちょうど僕は昨日FISHMANSの茂木(欣一)さんを取材してたんですけど、今日がどついたるねんの取材で、しかも「宇宙 椎名町 おばあちゃん」って曲の話をしてる。これってやばくないですか?『宇宙 日本 世田谷』(1997)と「宇宙 椎名町 おばあちゃん」がつながった(笑)。
先 「ヤバいヤバい、ファンに殺される(笑)。でも、このアルバムを作ってる頃はワトソンはずっとFISHMANSだけを聴いてたんですよ」
う 「曲名は先輩がつけたんですけどね」
先 「うーちゃんの歌詞が、出だしはデカい話なのにどんどんおばあちゃんの話になっていく尻すぼみ感だったんで(笑)」
――いや、まさかこんなタイミングで繋がるなんてねえ。
先 「対バンしたいですね(笑)」
――先輩はどの曲が好きですか?
先 「“OUTRO: おしっこ こぼしたのダレ〜?”ですね。これ、俺が歌ってるんです。久々にいいアコギ持って弾いたらすげえ楽しかった」
浜 「おしっここぼしたの誰なんだろう?」
先 「山中湖でレコーディングしたときにエンジニアの人が途中でトイレ行って戻ってきたら、映画見てた俺とワトソンに“おしっこ こぼしたの誰~?”って言ったんですよ(笑)。“いや、ぜんぜん俺らじゃないです”って答えて」
う 「そしたら俺らのところに来て、“おしっこ こぼしたの誰~?”って。で、浜が拭いたんだよね(笑)。“いいっすよ、俺が拭きます”って」
先 「浜が歌ったほうがよかったんじゃない?」
浜 「マジでおしっここぼしたの誰なんだろう?腹立ってきたな(笑)」
――では、おしっこ拭いた浜くんが好きな曲は?
浜 「“SKIT: 松井のツボ”です。これはやっぱ、うーちゃんの音痴な感じとメロディ、ムードが完璧」
う 「この“松井のツボ”の松井が、さっきのエンジニアさんです。この人が全く笑わない人だったんですけど、この曲聴いたときだけ“なんかジョン・レノンみたいだね”って言って」
全員 「(爆笑)」
う 「唯一リアクションがあったんで、それでタイトルが“松井のツボ”になりました」
先 「ちなみに、“INTRO: ゴリ草物語”をアルバムの頭につけたのは、BUMP OF CHICKENの『THE LIVING DEAD』(2003年)の真似をしたんですけどね。“Opening”っていうかっこいい弾き語りの曲が最初にあって、“グングニル”に行くっていう流れの」
――FISHMANSだけでなく、BUMP入ってましたか。
先 「これもファンに殺されそう(笑)」
――歌詞がいい曲が多いですよね。さっきも言ったけど「星によろしく!」「塾」……。「星によろしく」は、どつっぽいけど古風でロマンチックな名曲感がある。
先 「ワトソンはやっぱり学歴がないから、けっこう歌詞が普通じゃ思いつかない感じが出るんですよ。俺、いちばん好きなのが“ラブパワー”の途中でワトソンが、自分が背水の陣の男だということを英語で表現したかったらしくて“アイム ジン ハイスイノ マン”って言ってて(笑)。あれは他の人には出せないなと」
う 「誰も理解できないもんね。“IQ7”の“あしたちんちん触ろ”もさ、予告してるからね(笑)。今日じゃないんだ、って」
――メジャーで作っていた頃は、逆にこいういどついたるねんらしい作りかたがあまりできなかったという面もあるんですよね。
先 「ぜんぜん協力的ではいてくれたんですけど、そこに出すクオリティになかなかならなくて」
う 「誘ってくれたときと、メンバーが半分辞めてまったく違うバンドになっちゃったから、それは出せないわなと」
先 「詐欺師なんで(笑)。ももクロが稼いだ金を俺らが浪費してたようなものでした」
う 「何も恩返しできない状態で辞めちゃったんですよね」
――では、このアルバムがせめてもの恩返しだということで。ライヴもまたやりたいですよね。
先 「ぜんぜんやってないからね。忘れちゃったな」
浜 「ライヴがないと本当に下手になっちゃうから。バンドで合わせる感覚を忘れちゃう」
――いつ見ても「どついたるねんだなー」って思うけど、「また同じことばっかやってるよ」って気はしないんですよ。
浜 「それ聞いて思ったんですけど、今までも同じようなことをもう1回やろうとすると自然となくなるよね」
う 「こすったほうがいいっていうのもあるけど」
浜 「こすらずに別のことやってるかな」
先 「定着する前にもうやらなくなる」
う 「いいのか悪いのかわからないけど」
――3人(ワトソン、先輩、うーちゃん)がどついたるねんをずっと続けていられる理由も、そこにある気がする。
浜 「3人は、ほぼ毎日一緒にいるんじゃない?」
先 「そんなことないよ(笑)」
う 「大学生じゃないんだから(笑)。でも、週1以上では会うようにしてたかな」
先 「練習とは別で“ネタ日”があって」
う 「“ネタ日”っていってもただダベるだけですけど。ワトソンが一昨年の『M-1』見て、ミルクボーイが週2回喫茶店に集まってると聞いて、“俺らも週2回集まろう”って言い出して」
浜 「どういう話してるんですか?」
う 「ゴシップとか(笑)」
――それを何年も続けてるのがすごいですよね。飽きないというか、卒業しない。
先 「確かに。10年も一緒にいて、話すことなんかもうないはずなのに」
――話すことがなくなったところから始まれるのはすごいパワーだなと思うんです。
浜 「僕もめっちゃ思います。僕は途中から入ったし、最初の緊急事態宣言の頃とか2、3ヶ月くらい会ってなかったんですけど、3人はその間もほぼ毎日くらい会ってたんじゃない?会って、ちゃんと曲も書いてて。その3人の関係性が今回のアルバム・タイトル『WILD & CRAZY大全』にそのままなってる。だから、本当ありがとう。3人は本当にすごいっす」
先 「それ太字で書いといてください(笑)」
■ 2021年6月8日(火)発売
どついたるねん
『WILD & CRAZY大全』
CD TTR-07 2,200円 + 税
[収録曲]
01. INTRO: ゴリ草物語
02. 宇宙 椎名町 おばあちゃん
03. IQ7
04. MASK
05. セニョリータ
06. 太陽のチョモランマトマト麺
07. パーティが足りてない
08. SKIT: 松井のツボ
09. ボサ猫
10. チーズケーキ
11. ラブパワー – Cover
12. グラッチェ~心のマッチョマン~
13. 温故知新
14. 星によろしく!
15. 塾
16. OUTRO: おしっこ こぼしたのダレ〜?
■ どついたるねん
『WILD & CRAZY 大全』RELEASE PARTY
https://tiget.net/events/133074
2021年07月10日(土)
東京 新大久保 EARTHDOM
開場 17:00 / 開演 17:30
予約 2,200円(税込 / 別途ドリンク代)