Interview「新間雄介engineering白書」


第2回: 横山 令 (SML) + ラブリーサマーちゃん

 東京・西調布のリハーサル / レコーディング・スタジオ「Studio REIMEI」でエンジニアを務める新間雄介(VINCE;NT, SAGOSAID)は、自身がギタリストとして所属するSAGOSAIDをはじめ、オルタナティヴ・ロックやハードコア・パンクを中心に多様なバンドの音源制作に携わってきた。そんな新間(以下 S)が、自身の敬愛するエンジニアやミュージシャンのもとを訪れ、録音物に対する考えかたをエンジニア視点で掘り下げる連載企画第2回。

 今回は、SAGOSAIDのEP『itsumademo shinu noha kowai?』(2025, Re:ME(i) RECORDS | SECOND ROYAL RECORDS)などのバンド作品から大編成の劇伴まで幅広く手がけるエンジニア、横山 令の「SML」(東京・幡ヶ谷)を訪ね、横山に継続して録音とミックスを依頼しているラブリーサマーちゃん(以下 L)を交えた鼎談を実施。脱線しながら横山(以下 Y)のバイオグラフィをなぞっていく過程で、普遍的な“良い音”にするために何が必要か、“ポップさ”は音楽のどこに宿るのか、若い世代のためにエンジニアは何ができるのか、“良い歌”とはどんな歌か……などなど、興味深いトピックがいくつも浮上した。


取材・文 | 須藤 輝 | 2026年3月

撮影 | 久保田千史

――この連載は、新間さんが自分の好きなエンジニアまたはミュージシャンを訪ねて聞きたいことを聞くという、新間さんの新間さんによる新間さんのための連載なので、基本的に僕は何もしません。
S 「いや、ちょっと、ヤバくなったら助けてくださいよ」
L 「珍しいですよね、エンジニア視点のインタヴューって」
S 「エンジニアリングにフォーカスした読み物って、『Sound & Recording Magazine』(リットーミュージック)みたいな雑誌はあるけど、インディペンデントな音楽だとなかなかないじゃないですか。だから自分で何かできないかなと思って。今回は第2回というか、初回がイントロダクション的な感じだったので実質的な第1回とも言えるんですが、僕が尊敬するエンジニアのひとりである横山 令さんのスタジオ“SML”にお邪魔して、かつ令さんがかねてから録音とミックスを手がけているラブリーサマーちゃんをお迎え……」

「ピンポーン」(ドアチャイムが鳴る)

Y 「あ、荷物届いちゃった(席を外し玄関へ)」

(一同、玄関での郵便配達員と横山の会話に耳をそばだてる)

L 「“ドイツからのお届け物です”だって。ドイツから何が届いたんだ?」
S 「絶対、音楽機材でしょ」
L 「“1万円です”って郵便屋さんが言ってる。これは送料なのか代引きなのかによって話が変わってくるよ」

――「税金」と言っていました。
L 「税金で1万円!? 関税っていうことでしょ?じゃあ中身はその数倍だ。何だろう?当てようか」
S 「マイクじゃない?」
L 「私もマイクだと思う。ドイツでしょ?ドイツといったらさ、戦争のあれがあるじゃん」

――ああ、プロパガンダの演説やラジオ放送で使ったから?
S 「そうそう、戦時通信の技術に力を入れていて。マイクで有名なbeyerdynamicとかNEUMANNもドイツのメーカーだし、ヴィンテージのマイクの場合、ドイツ製かロシア製って基本ロマンですよね」
Y 「お待たせしました。これは、あとで開けますね」

――いや、今開けましょう。
S 「あ、これはマイクじゃないかもしれない」
Y 「説明がむずいんだよな、これ」
L 「そういう系なんだ?ダンボール箱に“www.vintagetools.de”って書いてある」
S 「そういうサイトがあるんですよ」
Y 「知ってる?」
S 「令さんに教えてもらいました」

Y 「僕はこのサイトを運営しているOliver(Nauck)さんという人とよくメールしていて、ドイツから機材とかを売ってもらっているんですよ」
L 「通販サイトからじゃなくて、直メールで?」
Y 「そう。メールでやりとりしているうちに仲良くなって“これ、売ってくれない?”みたいな。彼の機材を調整したりメンテナンスしたりする腕がめっちゃ好きで。すごくレベル高いんですよ」
L 「そんなOliverから何を買ったんだろう?」
Y 「“わあー!”って盛り上がるようなものではない」
L 「音を録るものですか?」
Y 「ええと、答えを言っちゃうと、箱です」
L 「箱?」
Y 「順を追って説明すると、僕はちょっと前にEckmillerというドイツのメーカーが作った古いEQ(イコライザー)を買ったんですよ。ただピン配列が特殊で、それに合うコネクタがないと使えないんだけど、手に入らなくて。そっち系にめっちゃ詳しいOliverさんに“これに合うやつ作ってくれません?”とお願いして、入れ物だけ作ってもらったという」
L 「入れ物なのに高くね?税金だけで1万円かかってましたよね?」
Y 「うん。びっくりした」
L 「どこに送っても税金かかるからな。今度からOliverに、税金がかからない品名の書きかたをしてもらったら?“chopsticks”とか」
Y 「いや、彼はすごく真面目だから、正しく書いて、保険もかけて出荷してくれるもん」

Photo ©久保田千史

――EckmillerのEQは、何が良いんですか?
Y 「これはですね、パッシヴのEQなんですけど、まず意匠がクソかっこいいなと思って。ノブが金色って、あまりなくないですか?」
L 「これは、どういうノブ?」
Y 「このEQはハイとローしかないから」
L 「じゃあ、これでdB(デシベル)を上げ下げするんだ?」
S 「使うの楽しみですね」
Y 「EckmillerのEQはめちゃくちゃ評価が高くて、“史上最高のEQ”って言う人もいる。“Eckmiller”というのは人の名前で、この(Hans)Eckmillerさんがひとりでやっていた工房みたいなのがあって。そこで歴史上ありえないくらい緻密な設計で作られていたって、なかば伝説化している感じですね」
L 「ここに書いてある数字は、シリアルナンバー?」
Y 「“441”って書いてあるけど、たぶん1,000個から2,000個くらいまでしか作られてない」
L 「側面に貼ってあるステッカーもかっこいいな」
Y 「これはドイツ語で“積み上げるな”って書いてあるらしい。精密機器だから、重ねて置いちゃダメ」
S 「めっちゃ重ねやすそうだけど」
Y 「つい重ねたくなるよね。あと、これ実はめっちゃ重い。持ってみる?」
L 「重っ!」
S 「これは、けっこういい値段するんですか?」
Y 「いい値段はしたけど、かなり安く手に入った」
L 「え?何が入っていてこんなに重いんだ?だってハイとローの2個しかいじれないんですよね?」
S 「そこにロマンがある。2個しかいじれないのに、しかもこんな弁当箱みたいなサイズなのに、バカ重い」
L 「なんでプラグインじゃダメなんですか?」
Y 「プラグインは、“やっぱりプラグインの音だな”っていう感じだから」
L 「そうなんだ?同じEQの処理をしても音の感じが違うっていうことですか?」
Y 「やっぱり質感とかトーンが違う。カーブとしては同じにできるけど、ひずみとかざらつきはプラグインでは出せない特有のものになるし、なんで僕がそんな機材を探しているかというと、自分のオリジナルのトーンにしたいから。要はずっと自分のシグネチャー・サウンドを探しているんですよね。“横山じゃないとこうはならないよね”っていう」
L 「そりゃそうだ」
Y 「結局、機材も一緒で、この時代にこの人が設計したからこの音になった、みたいなのがあって。ほら、戦中くらいに作られた真空管のプリアンプを、愛夏さん(ラブリーサマーちゃんの本名)の“君と暮らせても”(2025, 日本コロムビア)っていう曲の歌に使ったことがあるじゃない」
S 「めっちゃ良かったですね。なるほど、そういうことか」
Y 「古い機材だから古い音になるとは限らなくて、すごく綺麗な音が出ることもあるんですよ」

――真空管のプリアンプを使うと、何がどうなるんですか?
Y 「プリアンプはマイクの信号を増幅する機械なんですけど、これは真空管を使って増幅するので、かなり柔らかい音が出ます。メーカーはRaytheonっていう、のちにパトリオットミサイルとかを開発するアメリカの軍需企業で、そこが1年だけプリアンプも作っていたそうなんですよ。戦前、戦中は真空管が軍事無線とかレーダーに使われていたから、おそらくその流れで」

Photo ©久保田千史

――ちなみにEckmillerのEQはいつ頃作られていたんですか?
Y 「どうやら1950年代頃に作られていたと言われています。もともとこれはコンソールの一部だったんですよ。放送局とかの卓にこれがいっぱい並んで挿さっていて、それが引っこ抜かれてバラで出回っているという」
L 「めっちゃ状態良いですよね」
Y 「これはね、工場出荷時の状態で、未開封らしい。この黒いシールみたいなのが残っているのがそのサインなんだって。開けるときに剥がさないといけないから。そんなのが今でも使えるというだけで、半端ない技術ですよね。現代の機材はすぐ壊れるというか、たぶん壊れるようにできていて……」
L 「え、意地悪だね」
Y 「定期的に買い替えたり修理してもらうことで、採算が合うようになっているみたいな。薄利多売で儲けを出さないといけないから。でも、戦中の機材とかに使われているのは軍事技術だから、採算度外視なんですよね。予算無制限で、国中から天才技術者を集めて作らせる感じだから、そういう時代の機材はやっぱりレベルが違うとエンジニアの間でよく言われています」
L 「へええ、そうなんだ」
Y 「僕の機材の趣味ってかなりアナログ寄りなんですけど、わざわざ古い機材を集めているのは、まだ使えるのに使わないのはもったいないと思った瞬間があったから。なおかつ、Eckmillerさんのような人の設計に宿る美学みたいなものにも惹かれるんですよね。物への愛着と言ってもいいかもしれない」
S 「70年くらい前にドイツで作られたEQが、東京の幡ヶ谷のスタジオに届いて、これから横山 令という日本人エンジニアが使うって、ちょっと熱くないですか」
Y 「これが作られた当時、たぶん用途はまったく違っていたというか、録音に使われていたかどうかすらわからないからね。それが時を経て、もしかしたらラブリーサマーちゃんの音楽に使われるかもしれない」
S 「Eckmillerさんはそんなこと想像だにしなかっただろうし、それヤバいっすよ」
L 「けっこうロマンチストなんだね、新間くんって」

――同じヴィンテージでも、楽器より機材のほうがロマンを感じるかも。
S 「言葉に言い表せない良さがありますよね。でもそれって、楽器に比べて機材はわかりにくいからなのかなとか思ったり。仮にEckmillerのEQがサマーちゃんの音楽に使われたとして、それが昔のドイツの放送局のコンソールから引っこ抜かれたものだということはリスナーには伝わらないじゃないですか。いや、伝わらないのはあたりまえなんだけど、伝わってほしいという気持ちもあって」
Y 「まあでも、出てきた音で評価されるというのは、ある意味フェアだよね。裏で僕が何をしているかはどうでもよくて、WAVファイル1個だけ、それがすべてみたいな」
S 「それはそうなんですよね」
Y 「結局、センスのある人だったら普通のプラグインでも超かっこいい音を作れるんだよね。だから、良い機材を使ったから良い音になるわけではないというのはめっちゃ肝に銘じていて。その上で、僕がこういう古い機材を使うのは、さっきも同じようなことを言いましたけど、良いものはずっと使われ続けるということに嬉しさを感じているから。それが優れた設計だったから今でも需要があるし、“これが最高だよね”と言う人もいて、たまに中古市場に出回って、それまで使ってきたたくさんの人たちが大切にしてきたから今も使うことができる。僕自身、長く聴かれ続ける音楽を作っていきたいという気持ちもあるし」
L 「祈りですね」
Y 「祈り?」
L 「良いものが良いものであり続けてほしい、ちゃんと評価されてほしいみたいな気持ちは、希望というより祈りに近い気がする」

――ヴィンテージ機材と現行品の音の違いについて、中にはオカルトじみた言説もありますよね。必ずしも波形などで可視化できるとは限らないので。
Y 「プラシーボだったりね。ちょっとヴィンテージ機材からは逸れるけど、エンジニアの間でも笑い話があって、EQを上げたつもりで“わあ、効いた効いた”とか言っていたら、実際には上がっていなかったとか」
L 「気持ちですよね。この間、ヴォーカルの処理で最後に(oeksound)soothe2(耳障りな周波数帯を抑えてくれるプラグイン)を挿したんですよ。私はこれを挿したら絶対に音が良くなると思い込んでいるから“ああ、良くなったわ”って言ったら、“いや、まだオンにしてないよ”って」
S 「めっちゃある。立ち合いをやっていても、ミュージシャンから“ここ、ちょっと上げてくれませんか?”みたいな感じで言われて、僕が“OKです”って返事しながらプラグインを探している最中に“あ、めっちゃ良くなりました”とか」
Y 「本当にあるよね」
S 「ライヴでもそうじゃん。例えばPAさんに“ギターの返し、もっとください”とか言って、まだPAさんは何もしていないのに音が大きくなった気になって……」
L 「“ありがとうございます”って」
S 「けっこうヤバいよね、あの感じ」
L 「自分の耳が信用できないよね。本当に気持ち次第でさ、たぶん返しに意識が向いて、私たちの耳が立っているから大きく聞こえているだけであって」
S 「あと、これは初歩中の初歩の話なんですけど、プラグインって、挿すだけで音量が大きくなる仕様になっていたりして。コンプレッサーとか、かけたら勝手に音もでかくなるんですよ。たぶん、それで良くなった気になるんだけど、音量を下げてコンプをかける前と同じレベル感で聴くと“これ本当に変わった?”みたいなことってめっちゃあるじゃないですか」
Y 「そう。だからエンジニアはマジでそこに気をつけないといけなくて。やっぱり大きな音で聴くとテンションも上がるし、音も飽和して細かいところが気にならなくなるんで、音量を下げて聴き比べたり、かなり念入りに確認しています」
S 「これ、本当に良くない話なんですけど、エンジニアの中には、細かいところを気にしている時間がないときはあえて音をでかめに作る人も……」
L 「えっ!?」
S 「そういう人もいますよね。それで、めちゃくちゃ鳴っているように聞こえるから“これでOKです”ってなる。でも、よくあるじゃないですか。その音源を自分の家で聴いたら“あれ?こんなんだっけ?”みたいな」
Y 「僕は、普遍的な良い音にするにはどうしたらいいか、いろんな角度からずっと考えていて。今の話の流れでいうと、スタジオのでかいスピーカーで聴いたら“マジ最高じゃん!”ってなるけど、家に持ち帰って聴いたらしょぼく感じるのって、たぶんすべてのエンジニアが経験しているんですよ。そこがスタート地点で、その差をなんとかして埋めることがひとつの普遍性に繋がるんじゃないか。どんな環境でも、大きいスピーカーで聴いてもイヤフォンで聴いても、スーパーの天井のスピーカーから流れてきても“いいよね”って、同じ感情になれるものが、たぶん、音源として優れていると思う」
L 「今、めちゃくちゃ大切なことを言いましたよね」
Y 「普遍性?うん、大事にしています」
L 「それが一番ですか?令さんがエンジニアリングするにあたって、一番大事にしていることが普遍性?」
Y 「……」

――詰められた。
Y 「一番ではないかもしれないが、かなり重要ですね。僕は、音楽は大衆のものであってほしいんです」
L 「そうですよね!」
Y 「だから、”最高の環境で聴かないと本当の良さはわからない”みたいなのは僕が目指しているところではなくて。閉じているのが好きじゃないんですよね。もっと開かれたものであってほしいし、音楽好きな人でもそうじゃない人でも、子供でもお年寄りでも、誰がどこで聴いてもその曲の魅力が伝わるようにしたいから、ミックスするときはいろんな環境で聴きます」
L 「普遍的に響かせるために何をするかは曲によって変わってくると思うから、一口に言えないかもしれませんけど、具体的には?」
Y 「必ずやっているのは、自分を“オフ”の状態にしてから聴くこと。仕事をしているときって“オン”の状態で、スピーカーの前でめっちゃ集中して“ここがこうだからこれをあれして……”みたいになっているんですけど、いったんそこから離れてみる。家に持ち帰って、料理とかしながら流し聞きして“ああ、いい感じじゃん”って腑に落ちたら、自分の中でゴールに近づいた感じがあって。もちろん“ちょっとベースがでかかったな”とか“歌、ちっちゃすぎたかも”とか気になっちゃうこともあるけれども、いずれにせよリスナーに戻る瞬間をかなり大事にしています」
L 「それって、私もめっちゃやりますよね。ここで令さんにミックスしてもらったやつをそのままこの部屋で聴くと、正座して虫眼鏡で悪いところを探すみたいな感じになっちゃう。でも、そんなふうに聴いているリスナーはいないし、私はいつも歩きながら音楽を聴くんで、ミックス・チェック中に“ちょっと歩いてきまーす”って、イヤフォンして出ていきますよね」
Y 「そう、まず自分がいろんな角度から見てみることがたぶん重要で。正面から見るといい感じだけど、裏から見るといまいちな場合ってよくあるから、立体として捉えなきゃいけないというか。陶芸家がろくろをぐるぐる回すみたいに、時間をかけて全体像を見ながら整えていくと、だんだん美しくなってきて“あ、完成した”っていう瞬間が訪れる。自分が“オン”の状態のときって正面からしか見ていなくて、それはすなわち平面でしか捉えていないということなんですよ。だから“オフ”にして別の角度から見る必要があるし、そうすることで“ああ、まだまだやれることあったな”って、改善の余地があることに気づける。そういう意味では“オン”のときの自分の感覚を疑っていますね」
L 「視野狭窄に陥っているんでしょうね。スピーカーの前にびたーって張り付いていると、“木を見て森を見ず”になっちゃう」
Y 「木を見る時間も必要なんだけどね。作曲も一緒で、めっちゃ集中して、細部をめいっぱい拡大してあれこれいじって、そのうえで遠目から見て“ああ、なるほどね”ってなるから。僕らは最終的にいい感じの森を作ることを目指しているけど、そのためには1本1本の木を大事にしないといけなくて。でも、中には“細部を気にしたってしょうがないよ。森なんだから”みたいな感覚でやっている人も、けっこういるよね。時間の制約があったり、しょうがないこともあると思うんだけど」

――エンジニアで?
S 「いますいます。“森を見て木を見ず”な人」
Y 「それは効率化を優先することの、ひとつの弊害じゃないかな。森はあくまで木の集合体だから、木にちゃんとフォーカスしないと本当に良いものはできないと、僕は思っています」
S 「さっきのプラシーボの話じゃないけど、僕らもミックスしていて、例えば良い機材に通したりして音がめっちゃ色付くのが聴感上はっきりわかることもあれば、何が変わったのかよくわからないこともあるじゃないですか。でも、よくわからないなりにそういう細かい作業を、歌とかベースとか単体のトラックごとに丁寧にやっていくと、全部まとまったときに違いが出るみたいな」
Y 「やっぱりエンジニアとか作曲家って、どんどん細かいほうに行きがちじゃないですか」
L 「細かくなっちゃうんですよね」
Y 「そのせいで普遍性が失われてしまったり、細部にこだわってみたものの“本当に良くなったのか?”って自問したりする瞬間もいっぱいあるよね。そこは本当に難しいんだけど、全体が良くなるように細かいことをし続けるみたいな視座が、重要な気がする。細かいことをしすぎた結果、普通の人には良さが伝わらなくなってしまうのは本末転倒で。普通の人が何も考えずに聴いて、理屈とか抜きで“ああ、いいね”と思ってもらえるものにしたい。そのためには、細かいこともきっちりやっていくのが大事だと、今のところは考えています」
L 「考えかたが超“ポップス”ですね」
Y 「そうかな?」
L 「うん。“俺がかっこいいと思う音にガラッと変えてやんよ!”じゃなくて、あくまでみんなが“良い”と思えるものを目指すっていう。まあ、サザン(オールスターズ)がやっていることですよね」
Y 「僕自身、ポップスが好きなんですよね。J-POPも聴くし、海外だったらTaylor SwiftとかJustin Bieberの曲もかっこいいと思うんで。自分はインディの音楽も大好きだけど、だからといってメジャーな音楽はつまらないとか、商業音楽はクソだとか、そういう考えはまったくなくて。“良いものは良い”と言いたいというか、そう信じたい。大学生がDIYで作ったデモテープも、世界的なポップスターがめっちゃ金かけて作った大作も、同じくらい素晴らしいし、感動できるじゃないですか」
L 「おおー。私もめっちゃポップス好きなんですけど……いや、私は喋らないほうがいいわ」

――喋ってくださいよ。
L 「私が喋ると精神論みたいになっちゃうから。もっと具体的な話をするべきじゃないかなって」
Y 「愛夏さんの話、聞かせてよ」
L 「私もめっちゃポップス好きなんですけど、なんでポップスが好きで、私自身もポップスをやっているんだろうって考えたんですよ。私はインディの、メロディもビートもないような音楽も好きなのに、なんで私は人が歌えるようなテイストの音楽をやっているのかなって。結論からいうと、愛なんですよね」
Y + S 「おおー」
L 「“ポップ”ってみんなあたりまえに言うけど、ポップとは何かと言ったら、人懐っこさだと思うんですよね。人懐っこさとは“ねえねえ、こっち向いて?”っていう他者への興味関心であって、愛の根幹を成すものじゃないですか。さっき令さんが“子供でもお年寄りでも”と言っていたけど、子供とお年寄りって属性が違うわけじゃん。にもかかわらず、とあるポップスを聴いたとき、どちらもそのメロディを口ずさめたのなら、それは属性を飛び越える他者への興味関心ってことにならない?それをやってみたくて、私はポップスを作っているんですよ。全然違う人が同じ何かに触れて感動できるって、めっちゃ素敵ですよね?」
S 「ロマンチストだね」
L 「言い返されちゃった!でも、令さんも今、私と同じ気持ちで私の話を聞いてくれていましたよね?言ってしまえばBrian Enoだってポップなわけじゃないですか。歌えるか歌えないかとか、ビートがあるかないかという話じゃなくて“この音色って、素敵”と思えるのがポップさだから」
Y 「うん。そういうことを考えて、ラブリーサマーちゃんの曲をミックスしているよ」
L 「ですよね。すごく伝わってきます。いつもありがとうございます」
Y 「僕も“この人の曲を手がけていてよかった”って、今思いました」
L 「あらぁ、マイボーイ」
S 「たしかに、サマーちゃんの“ポップ”の考えかたを今聞けてよかった」
L 「ウケるよね。こんなくっせえことをシラフで言えちゃうって。でも、令さんも同じほうを向いているのは嬉しいし、そういう温かい気持ちで、人の原始的なところに響く音楽を作りたいですよね」
Y 「わかる。僕は人間が普遍的に“良い”と思う音が絶対にあるはずだと信じていて。ASMRとかもそうじゃないですか。川のせせらぎとか焚き火の音を聴いて気持ちよく感じるみたいな。それにしたいんですよね、いつも」
L 「かっこいい!」
S 「それって音楽の本質じゃないですか。音楽には思想とか時流とかスタイルとか、いろんなものが付随しているんだけど、そういうのを全部剥ぎ取ったところでポップであろうとしているってことですよね。それを言えるのはめちゃくちゃいいなって」
L 「ヤバいよね。しかもエンジニアって、私たちミュージシャンが録音するときはエンジニアリングを通さないとWAVにならないから、いわば出口を預かる大切な職業なんだけど、音楽制作において関与できる領域はめっちゃ限られているんだよね。音楽を構成する要素ってさ、よく言われるのはリズム、メロディ、和声じゃん。あと、歌がある場合は歌詞も大事かもしれない。でも、エンジニアは作曲家でも作詞家でも編曲家でもないから、そこにはまったく関与できない。じゃあどこに関与しているのかといえば、音色じゃないですか。そんな専業の音色屋さんが、ポップさというのは音色に宿ると信じているって言うの、ヤバくない?」
S 「それは本当にヤバい」
L 「そういう人がいてくれてよかったなって思っています、今、本当に」
Y 「それくらい重要な仕事だと思っています。別にエンジニアがいなくたって納品はできるし、僕らは音色しか作っていないけど、たったそれだけでポップであるか否かを大きく左右する、超責任のある仕事なんだって。そういう信念でやっています」
L 「“メロディが良ければなんでもいいじゃん”みたいな話じゃないですからね。それ以外の要素が人の心に与える影響って、いっぱいあるもん」

ラブリーサマーちゃん + 横山 令 (SML) + 新間雄介 | Photo ©久保田千史

――先ほどの「属性を飛び越える」という話をちょっとスライドさせて、最近、RAGE AGAINST THE MACHINEが好きなネトウヨが話題になりましたよね。あれも、ある種の美談として捉えていいのかなって。
L 「そうそう。“お前はレイジを何もわかってない”ってカリカリするんじゃなくて、レイジをかっこいいと思えるんだったら、少なくともレイジを聴いている間は手を繋げるんじゃないかと思いたい。音楽は常に開かれたものであってほしいんですよね。私はいわゆるリベラル側の人間であるという自覚があるけど、そうじゃない人たちにも私の音楽を聴いてもらいたいし。例えばハードコアのライヴとかで、全然知らない人たちともみくちゃになったりして、他者との境界が薄れるような瞬間があるじゃないですか。そういう垣根がなくなる、ひとつの美談ですよね」
S 「それは本当にそう」
L 「もちろん、カリカリしちゃう気持ちもわかるんだよ。“えっ!レイジ聴いてんのに!?”って、びっくりしてつい言いたくなっちゃうよね。でも、だからといって“お前にレイジを聴く資格はない”みたいな意地悪さで音楽に接していたくないんですよ」
Y 「年齢を重ねるにつれてカリカリしやすくなるというか、“レイジのリスナーはこうじゃなきゃいけない”みたいな、原理主義的な感じになりがちだと思うんですよ。でも、誰もが自由に受け取れるのが音楽の良いところじゃないですか。それなのに受け取り手の側が閉じてしまうと、豊かじゃなくなっていきますよね」
L 「カリカリしている人は、カリカリせざるを得ないバックグラウンドがあるからカリカリしているんだろうけど、私たちは今のところは“音楽はみんなで楽しもう”と思えているわけじゃない。そう思えているうちは、なるべくそういうふうに振る舞いたいよね」
S 「レイジを入口にすればいいわけで。さっきの音色そのもののポップさの話とは逆に、レイジの音楽に付随する思想とかメッセージとか、純粋に音楽的じゃないところから得られることもたくさんあるから」
L 「そうそう、入口にしてね。いや、心の話をしすぎたな。本当はね、令さんのバイオグラフィをなぞったりしたいんだけど、ずっと心の話をしたがっちゃう」
S 「めっちゃ大事だと思うんですけどね。サマーちゃんの“垣根がなくなる”という言葉に絡めていうと、ちょっとズレちゃうかもしれないけど、僕はジャンルという垣根が気になっていて。音楽って、必ずと言っていいほどなんらかのジャンルで括られるし、僕らも同じジャンルのバンド同士で集まったりしがちじゃないですか。でも、僕が本当にかっこいいと思っている人たちって、ジャンルを飛び越えている感じなんですよね。すごく抽象的な話なんですけど」
L 「ジャンルねえ……ジャンルに対して何か言いたいことはありますか?」
Y 「ジャンルで括ることが悪いことばかりだとは思わないけど、僕自身はあまりジャンルで音楽を見ていないところがありますね。例えば自分の仕事においても、今のところバンドをいっぱい録っているけれども、バンドだけを録りたくてエンジニアになったかというと全然そうではなくて。いろんな音楽をやりたいし、どんな音楽でも扱えるようになりたいというプロ意識みたいなものを、最初からけっこう強く持っていたんです。最近、映画音楽の劇伴とかもやらせてもらっていて、数十人の編成のストリングスを録ったりしているんですけど、そのときの感覚って、僕の中では4人編成とかのバンドを録っているときと一緒なんですよ。それはなぜかというと、どちらも生演奏の、人間らしい表現だから」
L 「じゃあ、リズムマシンで作ったグリッドびっちりな電子音楽とか、最近だったらAIが作った音楽とか、そういう生っぽさとか人間らしさが失われている音楽は好きですか?」
Y 「それは、曲にもよるかな。僕はエレクトロニカも好きなんですよ。90年代のBOARDS OF CANADAとか……」
L 「大好き!」
Y 「めっちゃ聴いていたし、もっと最近だったらUKのFloating Pointsとかも好きで。そういうのは電子音楽でも、音楽として有機的に感じられます。その理由も、たぶん音色にあると思う」
L 「はいはいはい。BOARDS OF CANADAなんて、まさにそうですよね」
Y 「グリッチとかも、僕には人間的で、温かく聞こえるんですよね。血が通っている感じというか、たぶんそれがあると好きになれる」
S 「BOARDS OF CANADAもFloating Pointsも、けっこうバンドっぽいというのはわかるかもしれない。バンドセットもあるし」
Y 「そうなんだよね。逆に、バンドであっても音源として綺麗に整えられすぎていたりすると、あまり琴線に触れないかも。そういう意味では、人間味を感じられるサウンドにしたいからエンジニアを始めたみたいなところもけっこうあって。でも、人間味のあるなしって、何が線引きなんだろう?」
L 「人間味追求の始まりって、どこだったんですか?」
Y 「高校生のときかな」
S 「お、これはバイオグラフィに持っていけるんじゃない?」
L 「そうだね。バイオを軸に聞いていこう」
S 「令さんは楽器も弾くし作曲もしますけど、学生時代からバンドをやっていたんですか?」
Y 「高校1年生のときに、ストラト(Fender Stratocaster)のギターを買いました」
L 「なんでなんで?」
Y 「中学生2年生のとき、友達の家に遊びに行ったらBUMP OF CHICKENの『jupiter』(2002, TOY’S FACTORY)が置いてあって。それまで僕はJ-POP、それもNHK紅白歌合戦とかに出るような人の音楽しか知らなかったから、なんとなく“何これ?”って聞いたら貸してくれたんですよ。そこからJ-POPじゃない音楽がある、バンドというものがあるんだなと思って、バンドを聴くようになりました」
L 「バンチキの前はどんなのを聴いていたんですか?」
S 「“バンチキ”って略すのヤバすぎる」
Y 「森山直太朗とか」
L・S 「ああー」
Y 「それはそれで好きだったんですよ。あとORANGE RANGEとかも売れていたけど、それも“テレビに出ている人たち”という感じで見ていて。一方、当時のバンプはそこまでメジャーじゃなくて、たぶんまだ大学生だったメンバーもいて、ギターもうるさいし、今まで聴いてきた音楽とは何か違うものに見えたんですよね」
L 「そこから、どうしてギターを手に取ることになったんですか?」
Y 「中学の同級生に楽器を弾ける奴が何人かいて、僕と仲良かった奴がベーシストだったんですよ。そいつと僕ともうひとりで“俺たちも音楽やろうぜ”みたいな感じになったことがあって。そのベーシストのお父さんがジャズ・ミュージシャンで、お父さんのほうが僕にジャズとかフュージョンのCDをいっぱい貸してくれたんです」
L 「そういえば、令さんのギターってけっこうジャジーですよね」
Y 「ああ、そうかも。コードが複雑な音楽もけっこう好きだし、そのときインストがすんなり入ってきて。映画とかアニメ、ゲームのサウンドトラックもよく聴いていました」
L 「じゃあ、今ちょっと回帰している感覚はありますか?」
Y 「ありますね、すごく。実は自分の進みたい道に進めている気がする。オーケストラも好きだし」
L 「yuma yamaguchiさんの作品とかも録ってますもんね」

Y 「そうそう。yumaさんにはお世話になっています。だからバンドの音楽と、クラシカルな音楽というふたつの軸が自分の中にあって、それが交わってきているような感覚が今ある。クラシカルなほうは、中学のときに好きになったジャズとか劇伴の影響じゃないかな。あとJ-POPのシングルって、よくインスト・ヴァージョンが入っているじゃないですか。高校生くらいのときに、Every Little Thingの“スイミー”(2006, avex trax)っていう曲の……」
L 「大好き!」
Y 「インストがめっちゃいいなと思って、友達と聴いていました」
L 「それで、中学のときに友達と“音楽やろうぜ”みたいになって、高校でエレキギターを買い、そこからどうなっていくんですか?」
Y 「ええと、中学のときにバンドをやろうとしたんだけど、それはそれとして、曲を作りたいという気持ちが大きくなって、打ち込みで作曲を始めたんですよ」
L 「えー!知らなかった」
Y 「高校1年生のときにギターを買ったのと同じタイミングで、フリーでダウンロードできるDAWみたいなやつで曲を作って、ひとりで宅録していて。だから自分のルーツって、宅録なんですよね。例えばゲーム音楽みたいなインスト曲を作って、ヴァイオリンの音を入れてみたり、友達とゲームしながら共作した曲を流して遊んだりとかしていました。そういうことをしつつ“ギター弾きてえな”と思ったらギターを練習したり。僕は当時、東京都の府中市に住んでいたんですけど、調布の高校に進学して、人見街道っていう、府中から斜めに三鷹のほうに伸びる細い道が通学路だったんですよ。その道を自転車で45分くらいかけて通っていたら、隣の高校に進学した中学の同級生と毎朝会うようになって。そいつが、バンドを始めていたんです」
L 「きたよ!」
Y 「そいつは僕よりもずっと……なんだろうな?」
L 「ヤンキー?」
Y 「ヤンキーじゃないけど、学校に自分のギターを持ってきたりして、目立っていたんですよ。僕はそういうタイプじゃなかったんで、そんなによく喋る間柄でもなくて。でも、毎朝会っていたら、ある日そいつが“俺、中学の奴らとバンド始めたんだよね”って言い出したから、僕もちょっと勇気を出して“俺もギターやってんだよね”とか“家で曲作ってる”っていう話をしたら“すげえ!今度聴かせろよ!”みたいな感じで仲良くなり始めたという」
S 「いい話だ」
Y 「そうしたら、そいつに“今度、府中の同級生で組んだバンドでCD作るから、お前も手伝えよ”って誘われたんです。“家で打ち込みとかしてるなら、そういうのいけるっしょ!”って。それで立川のスタジオペンタっていう、当時はすげえ汚い、タバコの吸い殻だらけの風俗街の真ん中にあるビルに入っているスタジオの、深夜パックを利用して録りました。ペンタって、セルフ・レコーディング用に8chくらいのMTRと、ゴッパー(Shure SM58 | ヴォーカル・マイクロフォン)をいっぱい貸してくれるんですよ。それでスタジオのお兄さんに“このへんにマイク立てておけばいいよ”とか教えてもらって、とにかく録ってみたのが、自分にとって最初のエンジニア体験」
S 「高校生のときにエンジニア・デビューしていたんだ?」
Y 「高校1年生の終わりくらい」
L 「すごいよね」
Y 「ほとんど遊んでいただけで、音もひどかったと思うけど、友達に“一緒にやろうぜ”って誘われてやったのが原点なんですよね。みんなでああでもないこうでもない言いながら、“これで合ってるのかな?わかんないけどやってみるか!”みたいな。そういう感覚はエンジニアを仕事にしてからもずっと自分の中に残っていて。今でも覚えているのが、高校2年くらいのとき、友達と初めてミックスっぽいことをやっている最中に“タムっていうのはな、パンを振るらしいぞ”って言われて……」
L 「ヤバ!」
Y 「“マジか!?”って。要は、それまで全部モノラルだったんですよ。よくわかっていなかったから」
L 「ある日、パンの存在に気づいてしまったんだ」
Y 「そうそう。パンを振ればステレオ感が出るらしいって。実際にやってみたら、振った瞬間に“タムが回った!”“ドラムが立体的に聞こえる!”ってみんなで大騒ぎして、すごい感動あった」
L 「それってさ、レコードがモノラル録音からステレオ録音に切り替わった1950年代の技術革新を、なんかよくわからないうちに追体験しちゃった感じですよね」
Y 「そういう感じかも。あれ、忘れられないんだよね」
S 「いいなあ……」
L 「それが高校2年生のときで、そのあと大学に進学して軽音サークルに入るわけですよね?なんか、私が喋っちゃってるけど」
S 「もう完全にインタヴューの手綱握っていて笑う。よく知ってるね」
Y 「大学のサークルではコピーバンドをやっていて、それを録音することはなかったけど、楽器をめっちゃ練習したのが良かったですね。耳コピしないといけないから音楽もいっぱい聴いて、音感とかリズム感とか、どちらかというとプレイヤーとしての基礎教養を身につけることができた。この経験がなかったら、自分の人生はまたちょっと違っていたはず。やっぱりエンジニアは楽器を弾けたほうがいいし、練習もしたほうがいい。特にリズム感を養うことが必要だと思っていて」
L 「なるほどね」
Y 「ノれる音のバランスがあるというか、ある音楽に対してノれるかノれないかって、音のバランス次第で変わってくるから。たぶん、それはリズム感がないとわからない」

――ノれる音のバランスとは?
Y 「主に低音の聞こえかたですね。低音をただでかくすればいいわけじゃなくて、例えばバスドラムの余韻の長さとか、周期みたいなものをきちんと捉えてあげると、ビートがあるように聞こえてくる。そうすると、例えば歌のボリュームを上げても歌が浮くことはないんです」
L 「おもろー!」
S 「エンジニアは絶対に楽器をやったほうがいいというのは、僕も同意見ですね。実際、良いエンジニアは良いプレイヤーでもあることが多いから」
L 「たしかに、エンジニアさんがギターをやっていたりすると任せやすいですよね。“ここの入りのグリス(グリッサンド)を削ったら、ちょっとノりかたが変わるな”とか、絶対ありますもんね」
S 「そういうのは感覚だから、わからない人に説明するのは難しいですよね」
Y 「その感覚を身につけるには、楽器を練習するのが一番手っ取り早い」
S 「令さん、ギターめっちゃ上手なんですよ。たまに録音の合間とかにピロピロ弾き出して、その場にいるプレイヤーの中で令さんが一番うまいみたいな」
Y 「ギターはね、高校生の頃は練習というよりは“どうやったら変な音が出るんだろう?”みたいなことばっかり試していて。でも、大学でサークルに入ったら楽器うまい奴がいっぱいいて、“ちゃんと練習しないとヤバい!”と思って必死で練習したんですよ。その経験が、図らずも今のエンジニアの仕事に生きている」
L 「大学でもレコーディングは続けていたんですか?」
Y 「うん。さっき話した、通学路が一緒だった中学の同級生のバンドを録るようになってからバンド友達が増えて、その友達の友達のバンドを録ったりするのを大学生になっても続けていて。20歳くらいのときに、同い年のすごくいいバンドと巡り会えたんですよ。ちょっと恥ずかしいんだけど、そのバンドを録ったときの写真が残っていて……(写真を持ってきて見せる)」
L 「サッと取り出せるところにしまってあるのヤバいですね」
Y 「これは当時、吉祥寺の地下にあったスタジオで……」
L 「MUSASHI?」
Y 「そう、MUSASHI。そこに籠って……僕の写真もあるかな?」
L 「あ、これ大学生の令さん?わけー!かわいすぎる!」
S 「僕も高校と大学で友達のバンドを録ったりしていましたけど、こんな写真ないですよ……」
L 「今度撮ろう。いや、今日撮ろう!」
Y 「僕も見るのひさしぶり。こいつらはウィピールっていうパンク・バンドで、これが完成品のCD」

Photo ©久保田千史

L 「出た!ウィピール!あれ?これは私が令さんからもらったやつではない?」
Y 「愛夏さんにあげたのはね、これの次に作ったアルバム。こっちのCDは初音源のEPで、録ったのは2010年かな。白盤にみんなで手書きして作ったんだけど、これを聴いてくれた人たちが“めちゃくちゃいいね”って言ってくれて。ウィピールは、自分の中に“プロのエンジニアになりたい”という気持ちが芽生えるきっかけになったバンドですね。たぶんこのCDが、初めて自分の名前がクレジットされた音源」
L 「なんか寄せ書きみたいなのもある。“令くんじゃなきゃできなかったぜ!ありがとう!”、“令くん、君のおかげさ!”だって!やだー、泣いちゃう」
S 「青春ですね」
Y 「青春だったね。夜な夜な深夜パックで入って、当時はパンチインの概念を知らなかったから、とりあえずみんなで一発録りして。曲の最後でギターの“ジャラーン”を間違えたら、もう1回頭から演奏するみたいな」
L 「鬼エンジニアや。でも、演奏めっちゃ上達しそう」
Y 「知識がなさすぎて、間違えたところだけ差し替えればいいのに、ひたすら録り直すっていう」
L 「私もそうでした。最初はMTRのパンチインのやりかたがわからなくて、いつも頭から録り直していました」
Y 「だからこれも、さっきの50年代のステレオ録音の話と同じで、何周も遅れて技術革新に追いつく感じで。“え?録ったやつを編集できるの?”みたいな。でも、そんな音源を“いいね”って言ってくれる人たちがいて」
L 「怪我の功名みたいな感じですよね。パンチインを知らなかったから、一発録りでやるしかない」
Y 「一発録りしたおかげでめちゃくちゃパンクな感じになったし、この録れ音は最高だったなって、今でも思う」
L 「ウィピールとの出会いがきかっけで“プロのエンジニアになりたい”という気持ちが芽生えたって言いましたけど、そこからエンジニアへの道を現実的に探っていったんですか?」
Y 「いや、このEPを作ったのは大学2年生くらいの頃で、まだ遊びの延長というか、ただ楽しいからやっていただけだったんですよ。でも4年生になって、将来のことも考えなきゃいけないけど、普通に就職できる気がしないなとか思っていたとき、ウィピールが“アルバム作りたい”って言い出して」
L 「タイミング、ヤベえな」
Y 「僕はこのバンドが大好きだったから売れてほしかったし、売れると思っていたんですよ。そのためにエンジニアとして何ができるのか調べ始めて。本屋で表紙に“エンジニア特集 決定版”とか書いてある雑誌を見つけて買ったら、エンジニアらしき人がでかい卓の前でキメている写真がバーン!って載っていて“何これ?ヤバ!”みたいな。そのとき初めて、エンジニアを職業として認識したんじゃないかな。例えばスピッツの音源と、自分がMUSASHIとかで録った音源を聴き比べて“なんでスピッツの音はこんなに素晴らしいのに、俺が録った音は……”って、真剣に悩んだりして」
S 「熱すぎますね」
Y 「そこで、ウィピールのアルバムを作る前にちゃんと勉強したいと思って、音響系の専門学校に行く決心がつきました」
L 「おおー。専門学校、どうでした?」
Y 「自分の人生の中でも、かなり充実していた時期だったと思う。やりたいことが決まっていたからあとはひたすら勉強するだけだし、やりたいことのためにする勉強は苦じゃなかった。そういう気持ちになったのも、人生で初めてじゃないかな。それまで勉強は嫌いだったし、もっと鬱屈していたんですよ。鬱屈してギターでファズ踏むみたいな感じだったけど、エンジニアの勉強をしている間はそんなこと考えもしなかったですね」
S 「その専門を卒業して、エンジニアに?」
Y 「もともとスタジオに就職したくて専門に行ったんですけど、普通に就活して、希望通りとあるプロユースのスタジオにアシスタントとして入社しました」

――結局、ウィピールのアルバムは録ったんですよね?
Y 「録りました。ウィピールのアルバムもここにあります」
S 「あ!ジャケがちょっと良くなってる!」
Y 「画質がね、綺麗になったでしょ。このCDは愛夏さんも持ってる」
S 「なんで持ってるの?」
L 「なんか、前に今日みたいな話をしていたときに“愛夏さん、これ好きだと思うからあげる”って。めっちゃいいよ」
S 「盤もちゃんとプレスしてある!」
Y 「ウィピールのメンバーが“今度はちゃんとしたい。もう手書きは面倒くさいから嫌だ”って言うから。ちょっと聴いてみます?」
L 「EPからアルバムへのジャンプを見たいね」
Y 「そうだね。アルバムは一発録りしていないし、まずはEPのほうから」

(ウィピールのEPを再生する)

L 「え!? めっちゃいい!演奏うまくね?」
S 「うん、めっちゃいい」
L 「やっぱり一発録りで何度もやり直しているうちにうまくなったのかもしれない」

――正直、もっとポンコツなやつを想像していました。
L 「あ、パンだ!パンがきたぞ!」
Y 「このときはステレオにするやりかたを覚えていたからね」
S 「“パンクフォークロック”って、ジャケの裏に書いてありますね」
Y 「こいつらは銀杏BOYZとか好きだったから」
S 「たしかに、ちょっと青春パンクっぽさもある」
L 「歌も一発録りですか?」
Y 「歌は別でやった。そこはね、知恵があった。“別で録れるらしい”っていう」
L 「かっこいいなあ、ウィピール。曲がいいよね」
Y 「いいバンドだったんだよ」

――このEPは何枚くらい作ったんですか?
Y 「100枚は作ったんじゃないかな?全部手売りだったけど、企画をやったら1日で70枚くらい売れて。その瞬間だけ奇跡が起きた」
S 「長いな、この曲。まだ1曲目ですよね」
Y 「ウィピールはね、曲が長いんです。この曲は“34時間”っていうタイトルなんですけど、録るのに17時間かかった」
L 「えげつない!」
Y 「この曲の最後にさっき言った“ジャラーン”があって、これがなかなか決まらなかったんだよね」

(「34時間」が終わりに差しかかる)

L 「あ!ジャラーン!これか!これがやりたかったのか!」
Y 「そう。こうしたかった」
S 「この曲、6分以上あるじゃないですか。一発録りで6分間ダレずに演奏して、最後に“ジャラーン”が待ち受けているって、緊張感ヤバいですね」
L 「そりゃあ17時間かかるわ。よくがんばったね」

(EPの2曲目「パンクフォークロック」再生中)

L 「ギターの歪みかた、ヤバくないですか?」
Y 「この頃はYAMAHAのSOL2っていうDAWを使っていたんだけど、それに同梱されていたFinal Masterっていうプラグインがあって……」
L 「Final Master!すごい名前だ」
Y 「それのディストーションみたいなやつを全部突っ込んでマックスにすると、こうなる」
L 「Final Masterのマックス、ヤバすぎますね」
Y 「でも、今はもうこの音にはできないんだよね」
L 「またFinal Master使えばいいんじゃないですか?」
Y 「生産終了しちゃったし、今あるやつはもう使えないんだよね。2003年くらいに出たやつだから」
L 「ええー。私もこれにしたい」
Y 「たしかにこの音っていうか、この感じが自分の原点だから、今でもこれにしたいと思ってる」
S 「この音、最高っす」
L 「めっちゃいいバンドだよな。アルバムも聴きません?」
Y 「うん。いや、でもこれを聴かせたことをウィピールの奴らに知られたら怒られるな。“絶対に誰にも聴かせるな”って言われてるから」
L 「なんで?こんなにかっこいいのに」
Y 「じゃあ、聴いてみましょうか。アルバムはね、EPを録ってから2年後……いや、3年後かな?作るのに1年くらいかかったんだけど、とにかく僕が専門に通っていた時期に録りました」

(ウィピールのアルバムを再生する)

S 「あ、ヤバい!令さんの音になってるかも!」
Y 「たしかにそうかも」
L 「このオーギュメントのところがめっちゃいいんだよな。ここ!わかります?」
S 「楽器の音、EPとは別のベクトルでいいですね」

――彼らの音楽的な嗜好もちょっと変わったのかな?
S 「変わりましたね、間違いなく」
L 「ウィピールのディスク・レビューが始まってる」
S 「確実に上を目指そうとしていますね。でも後年、ファンの間でEP派とアルバム派に好みが分かれる感じ」

――初期衝動的なEPか、音楽的に洗練されたアルバムか、みたいな。
Y 「いや、マジでそうだと思う。このアルバムを作るとき、こいつらが“俺たちはオルタナをやりたいんだ!”って、PIXIESの1stアルバム(『Surfer Rosa』1988, 4AD)とDINOSAUR JR.の1stアルバム(『Dinosaur』1985, Homestead Records)を持ってきたんです。“これなんだ!お前も聴いてくれ!”って言われて聴いたんだけど、それが自分にとってはオルタナとの出会いだった。それまではちゃんと聴いていなかったから」
S 「言われてみればPIXIES感あるかも」

――WEEZERっぽさもありません?
Y 「あ、バンド名はWEEZERの“My Name Is Jonas”(『Weezer』1994, DGC)の歌詞に出てくる“Wepeel”から取っているんですよ。だからWEEZERもめっちゃ好きです」
L 「このギター、けっこうキテレツだと思うよ」
Y 「J-ROCKとかも好きだったし、いろいろ融合しているんだと思う。こいつらはいつも“俺たち、ハウリングだけは本物なんだよな”と言っていて。オルタナの音が出せる自信はあるみたいで、たしかにハウリングはかっこいい。さっきも言ったように、ウィピールがいなかったら僕はきっとエンジニアになっていないです」
L 「そんなウィピールのアルバムを聴きつつ、令さんのバイオグラフィに戻りましょうか。令さんが就職したレコーディング・スタジオって、あれですよね、言っていいのかわからないけど……」
Y 「一応、名前は伏せておこうかな。某大手レコード会社と提携しているスタジオで、僕はアシスタントとして社員になったんだけど、アシスタントになる前に“アシアシ”というのがあって。それはコントロール・ルームでコーヒーを淹れるのが主な仕事で、あとはセッティングとバラシだけやるみたいな。それ以外の時間は後ろのほうに座って見ているだけで、1年くらい経つと“お前、前でやれ”って言われる」
L 「1年もやらされるんだ?“雑巾みたいに扱われた”って言っていましたよね?」
Y 「そう。これ言っていいのかな?やっぱり縦社会なんで、最初の頃は先輩のエンジニアに挨拶しても返事してもらえなかったりして」
L 「えぇ!?」
S 「パワハラすぎる」
Y 「でも、“アシスタント”になって以降はプロのミュージシャンともたくさん仕事できたし、提携先のレコード会社は劇伴とかクラシックとかジャズもやっていたから、いろんな音楽に触れることもできました」
S 「これ、エンジニアの話と関係ないんですけど、そのレコード会社は演歌もやっているから、怖い人もスタジオに出入りしていたって」
Y 「ああ、来てた。そのレコード会社からCDを出している歌手の事務所がそっち系っていうのはちょいちょいあって。社員はみんな知っているから“ちょっと気をつけようね”みたいに言われる」
L 「こわ。何に気をつけるの?」
Y 「まあ、それはよくある話だし、別に何も起こらない。ただちょっと危ないのは、クライアント自体がそっち系な場合。要は親分さんみたいな人が演歌大好きで、自分でお金を出して自分の好きな歌手の歌をレコーディングさせるみたいな。自分で歌詞も書いたりして」
S 「立ち会いミックスとかしたら泣いちゃうよ」
L 「わははは!」
Y 「あと、スタジオのスタッフみんなにお小遣いくれる。封筒に入れて」
L 「え!めっちゃ嬉しいじゃん」
S 「いや、怖いでしょ!」
Y 「あまり嬉しくはない。アシスタントをしていたとき、なるべく関わらないようにしようと思って距離を置いていたら、親分さんが取り巻きの人に“彼にもあげなさい”って」
L 「何万円入ってたんですか?」
Y 「5,000円」
L 「えぇ!? 案外安い!」
Y 「エンジニアはもっともらっていたのかもしれないけど、とにかく毎回くれる。取り巻きの人たちもいっぱいいて、僕が緊張感ある中で集中してやっていると、卓とかを見に寄ってきて“ヤベえ!すげえ!”って、ちょっとうるさい」

――いい話じゃないですか。垣根がなくなっている。
L 「たしかに!」
Y 「言われてみれば、取り巻きの人たちも音楽好きっぽくて、“これって何に使うんですか?”とか質問されたりしました。あの瞬間は、僕たちは音楽で繋がっていられたのかも」
L 「そうやって社員エンジニアとして仕事をするかたわら、インディのバンドも録り続けていたんですよね?」
S 「めっちゃインタヴュー回してくれるね。もう“ラブサマengineering白書”でいい。ありがとう」
Y 「入社してから3年くらいは、アシスタントの仕事についていくだけで必死だったんですよね。せっかくいろんな音楽に触れられる環境だったから、たくさん勉強もしたくて。でもその裏で、休みの日はライヴハウスに友達のバンドを観に行ったり、大学の後輩のバンドを録ったり、学生時代からの繋がりは絶対に途切れさせないようにしていました。その中にSUMMERMANっていうバンドがいて……」
S 「SUMMERMANは僕ら周辺ともめっちゃ仲良くて。回数はそんなに多くないけど、SAGOSAIDとも対バンしていたんですよ。たぶんそこらへんから……」
Y 「新間たちと合流していったのかな。直接会うのはもう少し先だけど」

Photo ©久保田千史

――ちょっと時系列を整理したいのですが、横山さんが専門学校を卒業してスタジオに入社したのは何年?
Y 「2015年です。僕はウィピールと一緒にプロになるのが夢だったんですけど、彼らはアルバムを作ったら速攻で解散したので、その夢は潰えてしまって。でも、サークルの後輩が始めたバンドと関わるようになって、そのひとつがSUMMERMANなんですよ。彼らの2ndアルバム(『Fun』Super Capsaicin)を録ったのが2018年だから、入社4年目ですね」
L 「SUMMERMANのほかには、どんなバンドを録っていたんですか?」
Y 「NENGUとか、ほぼ同時期に録ったんじゃないかな。庫太郎がいるからね」
S 「庫太郎っていうのはNENGUのギタリストで、ラブリーサマーちゃんのサポートもやっているかなりクレイジーで最高な奴です」
L 「そうそう。庫太郎も令さんの大学の後輩で、今はTeleとかセントチヒロ・チッチちゃんのところでもギターを弾いたりして、ちょっと売れっ子みたいになってる。私は以前、ビクターエンタテインメントに所属していたんですけど、辞めて、そのあと音楽をやる気がなくてプラプラしていたんですね。しばらくして“インディペンデントでもなんでもいいから、またレコーディングしてえ!”ってなったとき、当時からサポート・メンバーだった庫太郎にエンジニアを誰にしようか相談したんです。そうしたら“NENGUの2ndアルバム(『PONGYARON』2017, Nengu)を横山 令さんという人に録ってもらったけど、サマーちゃんにも合うと思うよ”って、NENGUとかSUMMERMANのアルバムを聴かせてくれて。そこで“予算的にいけるなら、お願いしたい”と思って、実際にお願いしたのが私たちの出会いでしたよね」
Y 「“ミレニアム”(2019)っていう曲を、急遽録ることになったんだよ」
L 「そうだった!あの曲はね、CMの話が来たから急いで録らなきゃいけなくなったんです。とりあえずこの流れでNENGUとSUMMERMANを聴きません?」
Y 「“ミレニアム”も聴きたいところだけど、じゃあ先に名前が出たSUMMERMANから」

――JIMMY EAT WORLDみたい。
Y 「そう、エモとかメロディック・パンクが大好きな奴らで。だから僕が関わってきたバンドって、ざっくりオルタナ、パンク、エモの要素を含むバンドが多くて。濃淡はありますけど」

――WETNAP(『gnarled』2022, DEBAUCH MOOD)もそのラインですね。
Y 「ああ、そうです。WETNAPと出会ったのは、彼らがSUMMERMANの友達だったから。実は10年くらい前、WETNAPの麻野くん(GAME&chips)がやっていたVOTZCOっていうバンドを録る話が持ち上がったんですけど、流れちゃって。それから5、6年経って、WETNAPのレコーディングに繋がったという」
S 「VOTZCOは僕らとも繋がっていて。彼らのセルフタイトル7”(2016)がDEBAUCH MOODからリリースされているんですけど、VINCE;NTも同じDEBAUCH MOODからLP(『VAPID』2022)をリリースしているんですよ。それは、僕らがVOTZCO経由でDEBAUCH MOODのシュウゴさんと知り合ったから」
L 「SUMMERMAN、めっちゃいいなあ」
S 「SUMMERMANは吉祥寺のバンドで、位置付け的にはfallsの後輩でもありますね」
Y 「fallsのドラマーは、僕の大学の先輩なんですよ」
S 「前さん(MOONSCAPE, SHUT YOUR MOUTH, MENTALLY MUTILATED REACTOR)?」
Y 「そう。前さん先輩」

――ということは横山さんが通っていた大学って、成蹊大学?
Y 「そうです。だから吉祥寺という地域ともずっと繋がりが強いんですよね。ウィピールを録ったのも吉祥寺のMUSASHIとペンタだし、メンバーの大半は武蔵野市寄りの三鷹市内の高校に通っていて。僕の高校は調布市と三鷹市の境目くらいにあったから、知り合う前からお互いに吉祥寺にはよく行っていました」

――僕はハードコア・パンクが好きなので、前さんはMOONSCAPEとSHUT YOUR MOUTHのドラマーというイメージが強いかも。
Y 「そう、大学時代に僕の中にけっこうハードコアの血が入ってきたんですよ。サークルにもハードコア好きな奴が多かったし、吉祥寺WARPとかにもよく行っていたから」
S 「SUMMERMANのメンバーもみんなめっちゃハードコア聴いていますよね」
L 「それで、そうやって社員エンジニアをやりながら友達のバンドも録れていたわけじゃないですか?なんで独立したんですか?」
Y 「もっと自分らしいやりかたで仕事をしたいという思いがどんどん強くなって。あたりまえだけど、会社にいる以上は会社のやりかたでやる必要があるし、どうしても“お仕事”という感じでアーティストやお客さんとの間に距離があったんです。そうじゃなくて、もっと密になって同じ視点で一緒に音楽を作りたかった」

――独立するにあたって、不安はありませんでした?
Y 「不安しかなかったですね。けっこうやけくそで辞めたんで、まともな収入がなかったら2年で貯金が尽きる計算だったんですけど、“これでダメだったら、才能がなかったと思ってエンジニアやめよう”って」
L 「ええっ!? そんなこと思ってたの?」
Y 「思ってたよ」
L 「知らなかったよ!怖い怖い。そういうのは言ってくれないと。もしかしたらミュージシャンの紹介とかできたかもしれないじゃないですか」
Y 「そうか。でも、そういうことを話すの苦手だし、なんか、ダサくない?」
L 「そんなことないよ!がむしゃらに、往生際悪くしがみついてほしい。いやあ、2年でやめないでくれてよかった」
Y 「おかげさまで、今のところ5年間続けることができています」

――では2021年に、今我々がお邪魔しているSMLを立ち上げた?
Y 「そうです。2020年の12月にこの部屋を借りて、2021年に会社を辞めました」
L 「そろそろバイオグラフィも終盤に差しかかってきましたけれども、今のお話を聞く限り、独立してからは安定して仕事を受けてきたわけですよね?あ、ここでいったんNENGUを聴きましょうか」
S 「NENGU最高です。最後にサマーちゃんの一番新しいやつを聴いて締めよう」
Y 「それはね、話すことありすぎる」
L 「いやいやいや。私がNENGUのCDかけていい?これ押すんでしょ?」

L 「あ、3曲目から始まっちゃった。ちなみに私が一番好きなのは6曲目」
Y 「いいよね。カリンバの録音大変だったな」
L 「ああー、入ってますね」
S 「NENGUはインストゥルメンタル・バンドで、マスロックとかが引き合いに出される印象だけど、ジャンルレスで予測不能、唯一無二で最高な感じある」

――サンディエゴっぽさもあるかも。LOCUSTとか。
S 「そうそう。ハードコアイズムもあるし」
L 「NENGUなあ、またやってほしいなあ」
Y 「本当だよね」
S 「NENGUは今は活動していないんですけど、めちゃくちゃ復活が待望されているし、みんなが復活させようとしている。ベースの樋口くんはuri gagarnとかNOUGATとか、けっこう僕らと近いところでやっていたりして」
Y 「sans visageでもベース弾いてるよね。ちなみに僕はsans visageも録っていて、EP『drowned / resistance』(2025, asian gothic label)や香川のLook at momentというバンドとのスプリット7”(2020, Impulse Records)で聴くことができます」

L 「NENGUはめちゃくちゃかっこいいけど、ちょっとおもしろくもあるんですよ。GAMEBOYの音とかが入ってきたりして、けっこう笑っちゃう」
S 「TERA MELOSだったり、あとはAN ALBATROSSとかBloodlink Records周辺の感じもあったりして」
Y 「僕も大学の頃にけっこうそのへんを通ったんですよ。高校時代にtoeが出てきたり、ポストロックの流れもあって、そこからインストに超ハマってTERA MELOSとかDON CABALLEROを聴き始めましたね。NENGUのメンバーもたぶんそういうの好きだと思う」
S 「庫太郎はギタリストのIan Williamsみがありますね。ドンキャバやって、そこからいろいろ経てBATTLESするみたいな」
L 「NENGUマジかっこいいなあ。これって一発録りなんですか?」
Y 「一発録り。彼らは一発録りしかしないというか、一発録りしかできない。これ、テイクを繋いだりとか一切してないの」
L 「すごいな」
Y 「テンポが自在に動くんで、視線で合わせているんですよ。だからメンバー同士、お互いが見えていないといけないくて。僕のところに録りにきてくれる人は、そういうタイプが多い気がします。僕自身もみんなで一発録りした熱量の高い感じ、クリックとかグリッドに収まらない、はみ出して言語化不能領域みたいになっている感じが好きだから、類は友を呼ぶじゃないけど」
L 「そういうのも人間味ですよね。あ、今かかってる曲のルーパーの使いかた、ヤバくない?ルーパーじゃなくてディレイなのか?」
S 「どうなんだろうね。こういうところはさっき言ったIanみというか、ちょっとBATTLESみを感じたりもしますよね。本人たちはあまり意識していないと思うけど」
Y 「そうだよね。BATTLESにも影響を受けてる可能性はあるよね」
S 「だから聴いているといろんなバンドが浮かんでくるんだけど、全然パクリとか模倣で終わっていないから、やっぱりNENGU最高ですね」
L 「じゃあ、“NENGU最高”という結論が出たところで、最近の話もしましょうか。最近はどんなバンドを録っているんですか?」
S 「(小声で)SAGOSAID」
Y 「SAGOSAIDに触れないわけにはいかないよね」
S 「というか、サマーちゃんと令さんはNENGUの庫太郎を介して出会ったという話がありましたけど、僕たちって令さんとどうやって出会ったんでしょうか?」
Y 「新間たちがStudio REIMEIを始める前に、SAGO(SAGOSAID | Studio REIMEI)からDMが来たんだよ。“録音してほしいんですけど”っていう内容の。それで“やりましょう”という話になったんだけど、そのあとREIMEIを運営することになって“自分たちで録ることになりました”って言われて流れた。それがたぶん、1stアルバム『REIMEI』(2021, SECOND ROYAL RECORDS)なのかな?」
S 「そうだそうだ」

――あれ?初めてStudio REIMEIで録ったSAGOSAIDの作品って、2ndアルバム『Tough Love Therapy』(2023, Re:ME(i) RECORDS | SECOND ROYAL RECORDS)じゃないんですか?
S 「実は1stも、REIMEIで一部録ってます」
Y 「じゃあ、それだ。それが、何年前だ?」
S 「5年前ですかね」
Y 「だよね?だからSAGOたちがStudio REIMEIをオープンしつつ『REIMEI』をリリースした年と、僕が独立した年が一緒なんです。どちらも2021年」
L 「そっか!」
S 「熱すぎる」
Y 「僕が会社を辞めたタイミングでSAGOたちと出会って、SAGOたちはSAGOたちで人生の転機を迎えていたっていう。もちろん存在はもっと前から知っていたけど」
S 「そうそう。僕の友達もみんな令さんを知っているし」
Y 「サゴセはもともと京都のバンドだったから、なんとなく距離を感じていたんだよね。それが調布を拠点に活動し始めて、僕がREIMEIのオープン準備とかを手伝いに行ったときに“めっちゃおもしろいことやってるじゃん”と思って仲良くなって。そこからなかなかサゴセを録るところまで行かなかったけど、去年ようやく録音から一緒に作らせてもらったのが、最新作『itsumademo shinu noha kowai?』です」
L 「最高の作品」
S 「サウンドの至るところに令さん節が出ています」
Y 「それ、詳しく聞きたいんだよね。自分以外の人から見た自分のサウンド感って、どうなんだろう?」
S 「ロウなんですけど、最初のほうで令さんが言っていた“普遍性”がある。僕がこういう音にしようとしたら、たぶんただロウなだけになっちゃうと思うんですよ。でも令さんは、誰でも聴けるようなロウさにアップデートしてくれた。それが一番でかいっすね」

――この連載の初回で新間さんが、横山さんは「REIMEIでしか録れないアンビエンスとかを開発してくれた」と言っていて。それは具体的にどういうことなのか、聞きたかったんです。
S 「REIMEIって、入口の階段がめっちゃ急で、吹き抜けみたいになっているじゃないですか。あの謎に天井が高い空間を生かすかたちで初めて録ってくれたのが、令さんなんですよ」
Y 「僕は臨場感のある音が好きなんで、特にドラムはなるべく広い部屋で録りたくて。それを考えると、REIMEIには申し訳ないけど、あそこのブースはちょっと狭いんですよ。でもREIMEIのことは好きだし、ここでなんとかできないか頭をひねった結果、ブースのドアを開けて、階段にマイクを立てたんです」
L 「へえー!」

――ドラムはブース内で叩いてもらって?
Y 「そうです。ドアを開け放して、ブースから漏れてくる音を録るっていう。あの階段がある空間は全面コンクリで、天井も高いからめっちゃ音が響くんですよ」

SAGO + 新間雄介 | Photo ©久保田千史
この階段。(連載第1回参照)

S 「でも、ドアを開けたまま演奏なんかしたらスタジオの外まで音が漏れちゃうじゃないですか。REIMEIは住宅街にあるから騒音にはマジで気をつけなきゃいけないんですけど、令さんは“いや、やりましょう。やってみないとわからないから”って。結果、幸いにも苦情は来なかったし、しかも録れた音が信じられないくらい良くて。あの音は、REIMEI以外のスタジオでは絶対に出せない」
Y 「うん、出せない。あの謎空間があってこそだから。洞窟っぽさのある、深い音がするんだよ」
S 「しかもちょっとダーティで。その音が最高すぎて、僕もたまに令さんのやりかたをパクっています」
L 「良い手法はどんどん取り入れないとね」
S 「特許権は令さんで」
Y 「でもね、REIMEIはそれをやらせてくれるスタジオだっていうのが、僕にとっては熱くて。普通は絶対に断られるんですよ。どこも騒音に対して超厳しいから」
S 「ドアを開けて録っているときにREIMEIの外に出てみたら、全部の音が聞こえました」
Y 「やっぱそうだったんだ?ごめん。僕も内心“どこまで大丈夫なんだろうか?”ってそわそわしていたんだけど」
S 「そこで文句を言われないのがREIMEIの強み……と言ったらいけないかもしれないけど、この5年間で苦情が来たのはVINCE;NTが練習していたときの1回だけ。マジでそれっきりですから」
L 「初回のインタヴューで言っていた、前掛けのおじさんだ」
Y 「REIMEIの階段にマイクを立てたりとか、その環境でどうやったらおもしろいことができるのかを考えるみたいなやりかたって、やっぱりウィピールから始まっているんですよ。アルバムを録るときにレファレンスとして渡されたPIXIESの1stは、Steve Albiniが録っていて。“Albiniは壁に向かってマイク立ててるらしいぞ”とか言って、自分たちも真似して変なところにマイクを立ててみたり、スネアをボトムマイクだけで録ってみたり。感覚的にはそれと同じことを今でもやっていますね」
L 「いつもいろんな提案をしてくれますよね。デッドな録音にするために、毛布をいっぱい出してもらったり。まあ、毛布は誰でも使うか」
Y 「ダクトに向かってマイクを立てたりね。あれも奥に細長い空間が続いているから、めっちゃ音が響く」
S 「そういうの、楽しいですよね。今年に入ってからREIMEIの機材をちょっとアップデートしたんで、試し録りがてら、カウンターの奥の扉の先にある倉庫みたいなスペースにアンプを置いてマイクで拾ってみたら、それもけっこう良くて。防音になっていないんで、やっぱり音はダダ漏れなんですけど」
Y 「ああ、めっちゃおもしろそう」

――ちょっと話の腰を折ってしまうかもしれませんが、そしてここまでの話と重複しても構わないのですが、ラブリーサマーちゃんが横山さんに録音、ミックスを依頼し続ける理由は?
L 「ふたつしかないかも。ひとつは仕上がりが好きだから。もうひとつは、人柄が好きだから」
S 「その話、広げていいですか?やっぱり人柄ってめちゃめちゃ大事で。というのも、令さんのところに集まってくる人たちって、全員癖がありすぎるんですよ。もう、癖がある人の終着駅みたいな、そういうレベル」
Y 「まあ、みんなすごいよね」
S 「良くも悪くもこだわりの強い人ばかりで、当然その中にはサマーちゃんとかSAGOさんも含まれるんですけど、令さん以外の人には扱えないんじゃないかな」
L 「そうなの。マジでそう」
S 「ほら、本人もそう言ってるんで」
L 「信憑性高いよ。令さんって、本当に穏やかなんですよ。ね?」
Y 「そうかな?」
L 「少なくとも私に対しては。やっぱさ、メジャー・レーベルで予算を付けてもらってレコーディングすると、時間の制約がヤバいんですよね。“今日1日でこれだけ録らなきゃいけない”みたいな。私はちんたらしてるからそういうタイム感で生きてないし、私がレコーディングするときはいつも無理してるんですよ。ていうか、みんなそう。程度の差こそあれ、みんな“時間内にやらないといけないけど、この進み具合だと……”みたいな焦りとか苛立ちを抱えているわけだけど、それが表に出ちゃう人もいるじゃないですか。あと、私はエンジニアさんに“こういうふうに録りたいんです”っていうのを伝えなきゃいけない立場なんだよね。そこで、例えば録り直したいと思ったとき、エンジニアさんがカリカリしていると何も言えなくなっちゃう」
S 「それは本当にそう」
L 「だから“なんか、今ちょっと話しかけづらいな。でも、ここのタムはもっと良いのが録れると思うから、絶対に言わないと”って決意を固めて、ゆっくり深呼吸してから“あの!”みたいな。でも令さんはね、フィール・フリーって感じなんですよ。何を言うにも言いづらくない。それが一番嬉しいし、本当に感謝しています。いつもありがとうございます」
Y 「いえいえ」
L 「音も、これも人柄なのかもしれないけど、すごく素直に録ってくれる。何か突拍子もない、キテレツな録りかたをしたとしても、そこに変な作為は一切なくて。ただただ曲と向き合って、シンプルに録ろうとしたら結果的にそうなったみたいな。令さん自身がけっこう好奇心が強いタイプだから、“今日はこれを持ってきました”とか“こういうふうに録ってみたら、愛夏さんも気に入ると思うんだよね”とか、私の知らないやりかたを試そうとしてくれる。あと、これは前にSAGOとも話したんですけど、マスタリング・エンジニアは誰がいいかとかも提案してくれますよね」
Y 「僕は、自分が主体的に音楽制作に関わりたいタイプで。たぶん、言われたことだけをやるみたいなやりかたは向いていないし、だから会社を辞めたというのも大いにあると思う。それも、振り返ってみると学生時代に友達と一緒に録っていた経験から来ていて。パンも知らない奴らが集まって、みんなでアイディアを出し合って試行錯誤しながら作っていく。それが根っこにあるから、誰に対しても積極的に提案するようにしています」
S 「今のマスタリング・エンジニアの提案という話で、令さんはSAGOSAIDの音源のマスタリングを、Emily Lazarにお願いしようって提案してくれて。EmilyさんはBeckの『Colors』(2017, Fonograf Records | Capitol Records)のマスタリングでグラミー賞を獲ったりもしている人で、依頼をしても返事が来るかすらわからないんですよ。でも、令さんがコンタクトを取ってくれたらOKの返事が来て、みんなで“よかったね!”って喜んだのも束の間、報酬を見たら意味わからないくらい高い」
L 「だろうねえ」
S 「一応、インディ価格みたいな感じで設定してくれてはいたんですけど、それでも僕らからしたら高すぎるから、諦めかけていたんですよ。そうしたら令さんが“いや、俺はお願いしたい。自分のギャラを削ってもいいから”って。いや、もちろん対価は絶対に払われなきゃいけないし、こういう話は書くべきじゃないかもしれないけど、おかげで僕らはEmilyさんにマスタリングしてもらえたという。そんなふうに言ってくれるエンジニアって、あまりいないじゃないですか」
L 「いないね」
S 「もしかしたら令さんにも、自分の録った作品をEmilyさんのマスタリングで完成させたいっていう欲みたいなものがあったかもしれないけど、とにかく親身になって考えてくれる」
L 「相当だよ。大丈夫ですか?タダ働きしてないですか?」
Y 「それで言うと、自分はお金にはけっこうシビアなほうだと思っていて。僕が一番嫌いなのは“好きでやってるから、お金はいいです”みたいな態度なんですよ」
L 「そりゃそうだ」
Y 「それって言い訳にしか聞こえないよね。ぼんやりいい話っぽい雰囲気があるけど、絶対に違う。そうじゃなくて“俺たちは最高の仕事をしようとしているし、俺たちの仕事には価値がある。だから金銭的にも恵まれるべきだ”っていうのが自分の発想なんですよ。だから“お金はいいです”と言っちゃうのは、自己否定に近い」
L 「ああー、よかった。そういうふうに考えていてくれて」
Y 「サゴセのときはね、自分の取り分をEmilyのギャラに充てれば予算的になんとかなる計算だったし、そうするだけの価値があると思ったから“やろう”と言ったまでで、それは“お金はいいです”とは違うんですよ。むしろ、素晴らしい作品のためにお金が払われるべきだし、そのためにまず自分がそうありたいと思ったんです」
L 「でもさ、令さんはあまりにも親身だから、頼んでいる側からすると心配になるときもあるんですよ。“うわあ、こんな夜中まで付き合わせてしまった……”とか」
S 「ちょっと名前は伏せるけど、あるバンドは一度やると決めたらとことん突き詰めるタイプだから、午前0時を回っても全然終わりが見えなかったりして。僕も含めてほぼ寝落ちみたいな状態になっている人たちもいる中で、令さんだけは黙々と作業を続けているみたいな。いや、そのバンドの音楽は最高なんですよ」
Y 「ベランダでしょ?最高だよね」
S 「なんで名前出しちゃうんですか!そのとき僕は手伝いで入っていただけでしたけど、結局、始発まで録音し続けていましたよね」
Y 「自分は時間をかけて音楽を作るのが良いことだと思っていたから、彼らと出会ったときは“デカいブーメラン返ってきたな……”と思った。でも、それだけ素晴らしい作品になったよ」

L 「ここからぬるっと自分の話に繋げると、私のレコーディングって、めっちゃ大変じゃないですか?」
Y 「大変なやつもあった」
L 「でも、新しいやつはめっちゃスムーズじゃなかったですか?」
Y 「“ウインド・ソング”(2026, 日本コロムビア)?うん、スムーズだった。それはね、愛夏さんが成長したんだよ」
L 「えんぷていもね、がんばってくれたからね(“ウインド・ソング”はラブリーサマーちゃんとえんぷてい・奥中康一郎の共同プロデュース)」
S 「成長する前とは、何が違ったの?」
L 「これは本当に言いかたが難しいんですけど、私は、自分の音楽は自分でコントロールしたいんですよ。自分のペースでハンドルを握りたい。でも、ある時期にそれが難しくなって、精神的に耐えられなくなっちゃったんですよね」
Y 「最近は、人に任せられるようになったよね」
L 「ああ、ですよね」
Y 「それはすごく良かったなって。前はね、自分で仕切らないといけなかったというか、自分で仕切ることで自分の音楽を守ろうとしていた感じで。そうするとさ、周りの人とも戦いになっちゃったりするから。でも、今は全然違うよ。いや、全然ではないか」
S 「風の噂で、サマーちゃんがスタジオに来なかったことがあるって聞いたんですけど」
L 「あれはヤバかった。まあ、その原因と責任はもちろん私にあるんだけど、当時はいろんなことがうまくいっていなかったんです。レーベルのスタッフが入れ替わって、新しいスタッフから“こういうのを作ってください”って言われて“無理です!”って反抗して、落としどころを決めてから制作に取りかかったものの、“やっぱり、これは私の作りたい音楽ではない”と悩むようになって。いや、途中から作りたい音楽に変わっていったんですよ。だけどそうなる前は“私がスタジオに行ったら、私の作りたくない音楽ができちゃうから、私はスタジオに行ってはいけない”と思っちゃったんだよね。気持ち悪いですよね!」
S 「そんなことないよ」
L 「“スタジオに行ったらおしまいだ!”みたいになって、本当に不幸だった。今はね、こうしてNENGUとかSUMMERMANとかウィピールを聴いて“良い曲だな。私もこういう曲作りたいな。帰って台を触るの楽しみ。スタジオにも入りたい”って思うから、不思議だよね」
Y 「愛夏さんは、スタジオ苦手だったよね。歌も狭いところで録っていたし。それは今でもそうだけど」
L 「例えばさ、デビュー曲ってめっちゃ大事じゃん。自分のディスコグラフィの1分の1だから、この1曲が私のすべてになっちゃうでしょ。でも、リリースを重ねるたびに徐々にそれが私のすべてではなくなっていくし、私も制作に慣れて、自分の曲を世の中にリリースすることに対して過度に緊張して意気込んでしまう感じとかも薄くなっていくんだよね、たぶん。そういう流れがある中で、3枚目のアルバム(『THE THIRD SUMMER OF LOVE』2020, 日本コロムビア)を作れたのが大きかった。このアルバムで私のやりたいことをある程度やり切って、ラブリーサマーちゃんの名刺みたいなものができあがったから、以降はもっと気楽に作ってみてもいいかなって」

Y 「なるほどね」
L 「それまでは、自分ひとりでしか音楽を作りたくなかったんですよ。自分のエッセンスが詰まった自分の曲で、自分の真実しか歌いたくなかった。だけど、そのスタイルでひとまず満足のいくものが作れたから、これからはいろんな人とやってみるのもおもしろそうだなって。あと、庫太郎とケンカしたのも大きかったかもしれない」
S 「そんな回があるんだ?」
L 「私がスタジオに行けなくなっちゃったとき、庫太郎に“スタジオに来ないのはナシでしょ”って怒られて。“令さんをはじめ周りの人たちを大切にできてない。それがめっちゃムカつく”って、もうサポート・ギタリストやめるくらいの勢いで言われちゃったんだけど、そのときに“絶対に庫太郎と一緒にやりたい”と思ったの。素晴らしいものを作るよりも、庫太郎と一緒にやるほうがいいなって……泣きそうになってきた、うううう」
S 「めっちゃいい話じゃん」
L 「でも本当にそうなんだよ。私の作りたいものを作るために令さんが寝られないんだったら、作らなくていい。それより、私が納得できないところがあっても、みんなと気持ちよく、長いこと音楽を作ったほうがいいって考えるようになった。庫太郎とケンカしてから」
S 「それはでかい変化だよね」
L 「楽しくないと嫌なんだよ。まあね、楽しくレコーディングして素晴らしいものを作るためには毎日練習しなくちゃいけなくてダルいとか、楽しいことばかりじゃないのは知ってるよ。だけど、自分が意地悪になったりするような現場で音楽を作るくらいなら、作らなくていい。最近は本当にそう思う。音楽家である前に、いい奴でありたいからね」
Y 「“音楽なのか人なのか”っていう、ずっと人の頭を悩ませている問題があって。ある若い作曲家が、自分の親友にギターでアドリブを弾いてもらいたいんだが、どうしても納得のいく演奏にならないって超悩んでいるんですよ。その作曲家は耳が良いから、オブリガードがコードの流れに合っていなかったりするのとか全部気になって演奏を止めさせるんですけど、何がいけなかったのかはその親友に自分で考えてほしいみたいな。ちょっとオチのない話だけれども、音楽に妥協したくないから演奏を止めさせているわけで、道楽でやるのとは違うっていうことでしょ」
L 「そう」
Y 「だから絶対に譲れないラインがある。でも、じゃあ仮にお金を払って超うまいギタリストに弾いてもらって完璧な作品が作れたとして、それって何がおもしろいの?っていう……マジでオチがないんですけど」
L 「本当にそう」

――音楽以外でもそういうのありますよね。例えば編集者とライターとか。「こいつ、いつまで経っても文章うまくならないな。でも、こいつに書かせたいんだよなあ」みたいな。
S 「みんなそうですよね。たぶん、令さんはそういう葛藤をいっぱい見てきているんだと思う。ちょっとベクトルが違うけど、僕とSAGOさんがめちゃくちゃケンカしているのを令さんに見られたことも1度や2度じゃないし」
L 「そうなんだ!?」
Y 「そういう場面に僕はよく遭遇するんですよ。僕が録っているアーティストはだいたい揉めていて、“ああ、また始まった”みたいな」
S 「SAGOSAIDの音源を令さんに録ってもらうにあたって、僕とSAGOさんで“こういう音源がいいよね”みたいな話をしていたんですよ。そのとき、僕も悪かったんですけど、SAGOさんが挙げた音源に対して“それはダサいと思う”と言ったら“なんでそういうこと言うの?”って、めっちゃ空気悪くなって。そこで令さんは、ニヤニヤしながらギターの練習を始めるっていう」
Y 「“この状況で自分にできることは何もないな。時間もったいないな”と思って、YouTubeでジャズ・ギターの動画とかを見て“へえ、そうやって弾くんだ?”みたいな」
L 「みんなね、令さんに甘えすぎ。私もだけど」
S 「そう、全員甘えているんですよ」
Y 「そうなんだよ」
S 「でもね、やっぱりそこが難しいんですよ。バンドなんて特にそうじゃないですか」
L 「レコーディング・エンジニアはバンドのメンバー同士の揉め事になんか介入できないから、やめてほしいですよね?なんか、サッカーのイエローカードみたいな仕組みを導入したら?2枚出たらスタジオから退場みたいな」
Y 「やっぱりバンドはバンドでどんどん内側に閉じこもっていっちゃうし、レコーディングは大変だから、どうしてもピリつくんですよね。朝から録り始めて、時間もお金もかかるから、うまくいかないとケンカになっちゃうのはしょうがない。結局、バンド内でそれを消化しないと前に進めないから“やめろ”とは言わないし、やめさせたとしても解決には至らない。あと、僕自身も共感できちゃうんですよ。自分がバンドをやっていても、そうなるだろうなって」
S 「それをわかってくれる人、いないっすよ」
L 「だから令さんって、本当に人柄がいいのよ。私が“ちょっとコンビニ行ってくる”と言ってスタジオを出たきり、戻ってこなかったことがあったじゃないですか。あのときも“私が今スタジオに戻ったら、音楽ができちゃうんだ”と思って、コンビニの前で動けなくなっていたんですよ。令さんたちからの連絡もフル無視しながら」
Y 「すぐ無視するからね」
L 「コンビニの前でコーヒーを啜りながら、じーっとしていたわけ。そうしたら、令さんが迎えに来たの。“ここにいるんじゃないかなと思って”とか言って。2人で地べたに座って、私がズビズビ泣いて“帰れない、帰れない”って言ってるのを令さんが黙って見てるっていう。場所を伝えてないのに迎えに来てくれるって、すごいよね」
Y 「“連れて戻らねえとなあ”と思って」
L 「なんでそれを令さんがやるんだろうね。A&Rがやれよって思うよね。あのとき私のA&Rは何してたんだ?」
Y 「入院してたよ」
L 「あっはっは!」
S 「それはそれでダメだろ」
L 「かわいそうすぎる。令さんマジでかわいそうじゃん」
Y 「ねえ、かわいそうだよね」
L 「もう二度とそんな気持ちにさせないから」
Y 「あたりまえなんだけど、録音っていうのは人間がする行為だから、情緒のうねりがすごくて。それが嵐みたいになったら、自分としてはその嵐が過ぎ去るのを待つしかない。でもね、待ち続ければいずれ快晴になることを知っているから」
L 「へえええ」
Y 「愛夏さんとかSAGOとかがね、今はなんかギャーギャー騒いでるけど、最後にはめちゃくちゃいい景色を見せてくれるだろうという、よくわからない信頼があるんですよ。だから、待てる。雨も風もめちゃくちゃ強いし、雷も落ちまくってるんだけど」
L 「今のコメントはね、SAGOと私に近しい人にぜひ読んでほしい。待ってさえいれば、いつか必ず晴れるから!」

S 「本人を前にして言うのもなんですけど、その嵐のレベルが半端なく高い奴らばっかりなんですよね。トップクラスの嵐を呼ぶミュージシャンたちが令さんのもとに……」
Y 「集まってきちゃうんだよね」
L 「なんでだろう?」
Y 「僕はそういうタイプじゃないんですけどね。静かに、テキパキ終わらせて、早く帰りたい」
L 「でもさ、話を戻しますけど、こないだの“ウインド・ソング”のコーディング、サクッと終わらなかった?」
Y 「だから大人になったんだよ、愛夏さんが」
L 「大人になった!? 大人になった愛夏さん、めっちゃヤバいですね!私も、令さんと出会った23歳だった頃の自分と、今の自分は別人だと思う」
Y 「長いこと同じアーティストを録っていると、そういう変化が見られるのも嬉しいですね。僕は、“人は変われる”と信じたくて。“こいつ、クソじゃん”みたいに切って捨てるのは簡単なんですよ」
L 「わかるわかる。ね、そうですよね」
Y 「それって一瞬でできるじゃん。社会人になるとそういう、1回失敗したら終わりみたいなケースは嫌でも目にするし、ビジネスの世界とかは特にそうだよね。でも、人にはそれぞれ成長曲線みたいなものもあって。だから僕が見ているのは、その人の意志なんですよ。熱意とかやる気と言い換えてもいいけど、とにかくそれを感じられたら、嵐が来ても待てる」
L 「優しい。親かな?」
S 「もうお父さんだよ」
Y 「別に優しい人間ではないと思う。その人に意志が感じられなかったら待てないし、“ああ、この人は違うな”と思ったら、すっと離れちゃう。誰でもOKなわけではないです」

――自分を守らなきゃいけないし。
Y 「そう。やっぱりフリーランスなんで、自分の身は自分で守らないと」
L 「それは大事だ。そうやって5年間、フリーでエンジニアの仕事を続けてきて、10年後とかどうなっていくんでしょうね」
Y 「自分の中では、今ちょうど節目を迎えているような感覚もあって」
L 「え、そうなの?たしかに5年はひとつの区切りといえばそうだけど」
Y 「風向きも変わってきて、すごく簡単に言うと、自分の手がけた作品を“いい”と言ってくれる人が増えました。例えばどこかのスタジオに行って、初対面のアシスタントの人から“あのアルバム聴きました。めっちゃ好きです”とか言ってもらえたり、若い人から“レコーディング・エンジニアになるにはどうしたらいいですか?”みたいなDMをもらったり……」
L 「どうしたらいいですか?」
S 「それも聞きたかったんですよ。エンジニアになりたい若い人に向けて、僕らは何ができるのか。僕もたまにそういう相談を受けることがあるから」
Y 「それが、これからの自分のでっかいテーマかもしれないと思っていて。若いバンドマンにも懐かれている……のかわからないけれど、10歳くらい下の子たちから“ライヴ来てください!”とか言われて、自分的には“こんなに仲良くしてくれるんだ?”みたいな、そういうことが増えているんですよ。今までは自分のことで精一杯すぎたんだけど、スタジオの土台がある程度できて、愛夏さんみたいに継続して録音を頼んでくれる人もいて、少し余裕ができて自分が20代だった頃を振り返ってみると、やっぱり大変だったんだよね」
L 「うんうん」
Y 「もし今の若い子たちの中に、才能があるかもしれないのに立場が悪くて発揮できないような子がいるならちょっとでも楽にしてあげたいし、その中に“エンジニアになりたい”と思っている子がいるって時点で僕的には“こいつ、最高だな!”という感じなんですよ」
S 「今、この時代にね」
Y 「そうなんだよ。今は、昔みたいにスタジオに就職すればエンジニアになれる感じではなくなっていて。音楽制作が多様化しまくっているから、ミックス専門のエンジニアも多いし、逆に作曲家がミックスもやる場合は録りしかやることがなかったり。要するにエンジニアになるための明確な筋道がなくて、エンジニア志望の若い人が路頭に迷っているならば、自分の仕事を手伝ってもらうのもひとつの手かもしれない。具体的なことはまだ何も決めていないんですけど」
L 「令さんチルドレンが生まれるかもしれないと思うと、楽しみかも」
S 「ヤバい奴しか来ないと思うけど、さっき令さんが言っていた“意志”がないと、たぶん雇ってもらえない」
Y 「実は、僕にDMをくれた子から“弟子にしてください”って言われたことがあって。そのときは断っちゃったんだけど、同時に“こういうやる気のある若い人たちのために何かしたい”という気持ちも生まれて、ときどき連絡を取ったりアドバイスしたりとかはしています」
L 「それ、無料でやっちゃダメだよ。自分の知識とか技術って、すごく大事なものだから」
Y 「たしかに、そこは自分も気になっていて。お金取るか、100万円くらい」
S 「それもまた難しい問題なんですよね」
L 「私も“こういうことで困ってるんですけど……”みたいな相談が多かったんで、レッスン制にしましたもん」

――今は情報が安く見られている時代ですもんね。
Y 「僕も最近、“ヴォーカルに挿さってるチェインを教えてください”って聞かれて」
L 「えぇ!? きっしょ!」
Y 「それはさすがに怒りましたけど、そういうのをあたりまえだと思ってしまう感覚もあるのかなって。アイディアって無形のものじゃないですか。でも、無形のものにも価値があるということはちゃんと伝えていきたい。そこを履き違えるとおかしくなっちゃう」
S 「それはどのジャンルでも職業でも一緒ですよね」
L 「最近はね、“教えてください”って言いやすくなっちゃっていますからね。Instagramのストーリーとかでも」
Y 「わからないことを聞くこと自体は悪いことではないんだけど……あ、僕がエンジニアとしてすごく大事にしていること、もうひとつあった」
L 「なんだなんだ?」
Y 「ここではっきり言っておきたい。今は、レコーディングがあまりにもインスタント化しすぎている。今はというか、ずいぶん前から思っていることなんですけど、とにかく短時間で録って“マズいところはあとで直しておけばいいです”みたいな感じが常態化しちゃっているんですよね。商業音楽でもインディでも“あとで直せるんだから、録りを長引かせるのは時間の無駄”とか言われちゃう。たぶん2000年代くらいからその兆候はあって、2010年代にはそれがあたりまえになって、そこからさらに10年以上経った今、“いい加減、そういうのやめません?”と言いたいし、自分の仕事を通してそれを伝えていきたい。めっちゃ簡単なことなんですよ。ちゃんと時間をかけてテイクを録るだけっていう」
L 「そうなの、本当に」
Y 「それってさ、音楽制作の原点じゃん。一番大事なことじゃん。それすら蔑ろにされているっていうのは、由々しき事態だと思う」
L 「由々しすぎるね。日本コロムビアにそのまま伝えたい」
Y 「言っちゃう?言っちゃう?」
S 「それを言うためにこの連載があるから」
Y 「だからレコーディングのインスタント化というのも、僕が会社を辞めた大きな理由のひとつですね。例えば会社にミックス・チェックをしに来たディレクターが、やる気がないのか早く帰りたいのかわからないけど、1曲目だけ確認してほかの曲は一度も聴かずに“もう、これでいいよ”みたいな感じでOKを出したりしていて。そんなのエンジニアもアーティストもかわいそうじゃないですか。そういうのを見て“これは間違っている”という思いが募っていったんだよね」
L 「悲しい!みんなもっと一生懸命になって!」
Y 「あと、歌もピッチを直すのが大前提になっていて。僕はピッチ修正とタイミング編集は、基本的に悪だと思っているんですよ。音楽をより良くするために使われるならまだしも、単に効率化とか時短を目的に使われる場合は、受け入れられない。むしろそれは音楽をつまらなくしているよね」
L 「本当にそう!いや、私もピッチ修正することもあるからあまり偉そうなことは言えないんだけど、“ウインド・ソング”はがんばったよね?」
Y 「がんばった。あの歌、最高だよ」
L 「でも、こないだ自分で聴いて“やっぱり歌、ヘタだな”って思ったんだよね。レコーディングが終わったとき、マジでマズいところはピッチ修正してもらうつもりで帰ったけど、結局直さなかったじゃないですか。そもそもレコーディングの場で良いテイクが録れたから採用されたわけだし、ヘタかもしれないけれど、良い歌に聞こえるなって」
Y 「世の中的に“ピッチが合っていないのは良くないことだ”という思い込みが、まずあるじゃないですか。エンジニアリングの現場ではモニタでピッチのズレが視認できちゃうし、カラオケでもそういうのを点数付きで見せられちゃう。そんなことはどうでもいいんですよ。重要なのは、それを聴いてどう感じたかであって」
L 「ガチでそう」
Y 「“この歌で、お前の魂はどう動いたんだ?”と、僕はリスナーの襟首を掴みながら問いたい」

――うまい歌じゃなくて、良い歌が聴きたいんですよね。
L 「そうそうそう」
S 「本当にそれでしかない」
L 「この間、Xで“ラブリーサマーちゃん”でエゴサしたら、“ウインド・ソング”について“Spotifyで流れてきたこの歌、ヘタすぎてびっくり。どういう神経でこれをリリースしようと思ったのか気になる”みたいなポストを見つけて」
S 「そんなことある?」
L 「まあ、私自身がヘタだと思ったくらいだから、そういう感想を持たれてもしょうがない。でも、良い歌であるという自信はあるんだよ。だからね、この人は結局、歌をうまい、ヘタでしか見ていないんだなって。それは違うんだけどなって思った」
S 「まさにカラオケ的なうまさ、点数しか見てない」
L 「そういう人もいるだろうけどさ、録音って、それだけじゃないんだよ。“ヘタだけど、いい”みたいなのがあって。そういうニュアンスを、私たちはめっちゃ大事に録っているじゃないですか」
Y 「そうだよね。今、20代前半くらいのバンドをけっこう録っているんですけど、彼らに“歌は何回も録っていいんだよ”とか“ピッチを直さないでパンチインでキメていくほうが、良いのできるから”みたいな助言をするとみんな素直に応じてくれるし、実際良いものになる。中には“歌は、ニュアンスにこだわって録るとこんなに変わるんですね。感動しました”と言ってくれる子もいたりして。そこにちょっと希望を見出しているし、みんなで良いものを作って、それが相応に売れたらもっといいじゃないですか。そういう未来に生きたいし、それを目指して活動しています」
L 「いいなあ。私もできればもっと早く、そんなエンジニアさんと出会いたかった」
Y 「時間をかけて音楽を作るのって、すごく豊かな行為だから」
L 「本当にそうなの!」
Y 「さっきのインスタント化の話と重なるんだけど、ムダを削りすぎているんですよ。いや、ムダを削ること自体は大事で。例えばバブル期とか、いくらでも予算が付いた時代はスタジオを1ヶ月押さえて、録り終わってやることがなくなってもまだスタジオ使えるから、そこで弁当だけ食って帰るバンドがいたり」
L 「もう1、2枚作れよ」
Y 「それで制作費が3億円くらいになったとか、そういう昔話を社員時代にいっぱい聞かされて。たぶんその反動もあり、あと単純に景気が悪くなったりして効率化とか低コスト化に振れていったんだと思うけど、それも行きすぎるとただの流れ作業みたいになって中身がスカスカになっちゃう。もちろん時間をかければ良いものが必ず録れるわけではないし、お金を出す側からすればどうにかお金と時間を節約したいっていう気持ちもわかる。だからこれも答えの出ない話ではあるけれども、アーティストとエンジニア、およびレーベルやプロデューサーも含めた全員がなるべく納得できるやりかたを探っていきたいですね」
L 「私もね、本当はヴォーカルはおうちで録りたい」
Y 「録ってもいいんじゃない?」
L 「audio-technicaの、そんなに高くないコンデンサマイクだけど、それでもいいですかね?」
Y 「全然問題ない。最近の愛夏さんの歌の処理、めっちゃいいよ」
L 「マジっすか?家ではデモしか録っていないけど、朝起きて“今日、ちょっと元気ないなあ”みたいなときに録りたくないの。喉ってさ、指とかと違って気持ちが出ちゃうから。例えば“イエーイ!”って言うとするじゃん。今の“イエーイ!”はそこそこ楽しそうな“イエーイ!”だったけど、もっと元気なときはもっと楽しそうな“イエーイ!”が出るはずなんですよ。だから自分が録りたいときに、録りたいだけ録りたい」
Y 「やってみれば?アリだと思うけどなあ」
L 「“今日、今から録れます?”みたいなノリで録りたい。Charaさんも家で録ってるの」

――Adoも初期は自宅の押入れで録っていたそうですね。
L 「え、そうなんですか?」
Y 「だから座った姿勢じゃないと歌えなかったって」
L 「すごい。そうだよね。やっちゃいけないことってないからね」
Y 「そうそう。もっと自由でいい」
L 「すみません、ちょっとお手洗いに行ってきます」
S 「かなりいっぱい喋ってもらいましたね。僕はけっこう満足しちゃったんですけど、記事を書くにあたってほかに聞いておきたいことはありますか?」

――では、「ウインド・ソング」のレコーディングまたはミキシングで、エンジニア的におもしろかったとことは?
Y 「この曲では、ドラムをとにかくタイトに録りたかったんです。例えばMEN I TRUSTのドラムの音って、“宅録かな?”と思っちゃうくらいタイトじゃないですか。ああいう感じを目指していて。録ったのは青葉台スタジオ(東京・中目黒)で、ちゃんとライヴな音が録れるところだから、スタジオのアシスタントの人に“ありったけの毛布を出してください”とお願いして、超デッドな環境にしました。マイクスタンドを横向きに立てて、そこに毛布をかけて衝立みたいにしてドラムを取り囲んだり。スネアもめっちゃミュートして……あ、これはわざわざ書かなくてもいいことかもしれないんですけど、スネアはサカナクションのドラマーのかた(江島啓一)のを借りたんですよ」

「ウインド・ソング」レコーディング @青葉台スタジオ | Photo ©横山 令
「ウインド・ソング」レコーディング @青葉台スタジオ | Photo ©横山 令

――サカナクションのスネア、良いんですか?
Y 「サカナクションも青葉台スタジオで録音しているから、スタジオにスネアが置いてあるんですよ。それをアシスタントのかたがご厚意で“使っていいですよ”と出してくださって。叩いてみたらブライトに鳴る感じだったので、“違う”ってなって限界までミュートしたんですけど……」
L 「ただいまー。今、なんの話をしているの?」
Y 「“ウインド・ソング”の話をしているよ」
L 「イエーイ!」
Y 「ドラムをめっちゃタイトにしたっていう話」
L 「“チッ、チッ、ドン、タン”ってね。“ターン”じゃなくて“タン”。今回は私、ほとんど口出ししませんでしたよね?もう令さんにお任せで」
Y 「もっとミュートしたかった?」
L 「いや、十分でしょう」
Y 「サカナクションのかたのスネアもね、ミュートしながら“まだまだ緩い”とか言って、財布とかも置いてどんどんタイトにしていったら、結果的に目指していた音になったんだよね」
L 「別物になりましたよね。楽器はえんぷていのメンバーに弾いてもらったんだけど、どうやって録ったんだっけ?私は途中でごはんを食べに行っちゃったからな」

「ウインド・ソング」レコーディング @青葉台スタジオ | Photo ©横山 令
「ウインド・ソング」レコーディング @青葉台スタジオ | Photo ©横山 令

Y 「いなかったよね?一発録りではないけど、編集なしで、生演奏で通した。デモの段階ではもっとエフェクティヴな、DTMっぽい加工をしていたんですよ。でも、録ってみたら“やっぱ生演奏、最高じゃん!”ってブチ上がって、無加工でいくことになってできたのが“ウインド・ソング”のオケです」
L 「えんぷていの演奏、めっちゃ良くないですか?」
Y 「本当に最高だった。技術もセンスもある。愛夏さん、なんて言ってたっけ?なんか、特殊部隊みたいな……」
L 「ギター・ヴォーカルのおっくん(奥中康一郎)がマジで有能かつストイックすぎて、SATの隊長みたいな感じなんですよ」
Y 「規律があるよね。決してバンドをダラダラさせない」

「ウインド・ソング」レコーディング @青葉台スタジオ | Photo ©横山 令
「ウインド・ソング」レコーディング @青葉台スタジオ | Photo ©横山 令

L 「もう本当に“17。ワン、ツー、はい”って感じなんですよ。“17”っていうのは17小節目からっていう意味で、カウントも“ワン、ツー、ワン、ツー、スリー”じゃなくて“ワン、ツー”のみ。速くないですか?譜面をめくる余裕もないみたいな。そんな人たちが演奏してくれたおかげで、私は安心してごはんを食べに行けました」
Y 「えんぷていの楽器録り、おもしろかったなあ。音楽へのこだわりをすごく感じたし、そのうえでバンドとして統制がとれていて」
L 「でも私、“おっくんとはバンドやりたくない”って本人に言っちゃった」
Y 「たしかに、あの中に入ってやれる自信はないかも。仕事をしているぶんには楽しいけどね……という流れで、“ウインド・ソング”を聴きましょうか」

S 「言われてみれば、MEN I TRUSTですね」
L 「ベースもマジでブリッジミュートですからね」
S 「これは全部、青葉台スタジオで完結してる?」
Y 「うん、1日で全部録った。この曲は打ち込みが入っていないんですよ。生演奏のみ」
S 「令さんはミックスするとき、プラグインをたくさん挿しますか?それとも録った音を生かすほう?」
Y 「録りでできるだけ追い込んで、トラックにはなるべく挿さないようにしているけど、マスターには整える系のプラグインをけっこう使う。ミックスで音に味付けするというよりは、綺麗にしていく感じかな。だから録りで味がいっぱい付くようにしています。“ウインド・ソング”はかなり録れ音尊重型ですね」
L 「おっくんとかが足(エフェクター)でけっこう作るからね」
Y 「そう。だから生演奏の感じをそのまま生かした。まあでも、ミックスのやりかたは曲によるかも。自分の宅録魂が疼いてきたら、バキバキに加工したりすることもある」

Photo ©横山 令
ヴォーカルに使っているリヴァーブ。超ロングテールのチャーチリヴァーブを極小音量で裏に敷いている。(横山)
Photo ©横山 令
トータルに使われているEQ。わずかな処理でアナログライクな質感を得ることができる。(横山)
Photo ©横山 令
トラックは楽器毎に細かくフォルダ分けされている。(横山)

――良い歌ですね。
L 「嬉しい!ありがとうございます。ですよね?」
Y 「歌、ヘタじゃないよ。だいぶうまいと思うけどな」
S 「これは全然補正してないんだ?」
L 「してないっすね」
Y 「テイクで選んだから、部分的に差し替えたりはしているけど」

――昔、中谷美紀がミュージックステーションに出たときに、坂本龍一が「この人、本当は歌がうまいんです」と言っていたのを思い出しました。
L 「わかりますよ。いや、“わかりますよ”とか言っちゃいけないんですけど、私もこれをうまく歌うことはできるんです。なのに、わざと振らせているんですね。私はニュアンス優先なんで、そっちのほうが素敵だと思って選んだけれども、それを聴いた人が“全然のびのび歌えてないじゃん”って思う気持ちもわかる。でも、私も本当は歌うまいんですよ」
Y 「うまいよね」
L 「そう、中谷美紀なんですよね。声もね、素朴だから」
S 「“ウインド・ソング”は、大人になったサマーちゃんですね」
Y 「大人になって、大人の曲を作った」
L 「ねー。これ、録り音めっちゃ良かったんだよね」
S 「たしかにすごくいいですね。さすが青葉台スタジオ」
L 「それはあるね。中谷美紀、最高ですよね。“フェティッシュ (Fetish)”(『クロニック・ラヴ』『私生活』1999, Warner Music Japan)の歌詞、ヤバくないですか?“君が 自分の少年の時代しか 愛せないように 君を愛した”って、どういう意味なん?マジで、どういう愛しかただったんだろう?」

SML Official Site | https://strohornmusiclaboratory.com/
ラブリーサマーちゃん Official Site | https://www.lovelysummerchan.com/
Studio REIMEI Official Site | https://studioreimei.com/
新間雄介 Instagram | https://www.instagram.com/vince_axia_ys/

ラブリーサマーちゃん 'ウインド・ソング'■ 2026年2月18日(水)発売
ラブリーサマーちゃん
『ウインド・ソング』

日本コロムビア COKM-46196
https://lsc.lnk.to/WindSong

[収録曲]
01. ウインド・ソング
02. ウインド・ソング (Acoustic ver.)
03. ウインド・ソング (Inst.)