第1回: SAGO (Studio REIMEI | SAGOSAID)
第1回はイントロダクションとして、Studio REIMEIのオーナーであり、SAGOSAIDのヴォーカル / ギターでもあるSAGOに同席してもらい、Studio REIMEIと新間自身について語ってもらった。
取材・文 | 須藤 輝 | 2025年6月
撮影 | 久保田千史
――この企画について、最初に新間さんから軽く説明しておきます?
新間 「そもそもこの企画は僕の持ち込みで、自分がStudio REIMEIでエンジニアとしてちゃんと働きはじめてもうすぐ4年になるんですけど、エンジニアの視点で音楽を語る記事を目にすることがあまりなかったんです。そういうのを自分でやれたらおもしろいなと思いつつも、何をどうすればいいのかわからなくて。そこで、僕はライターの須藤 輝さんがAVEとかでやっているバンドのインタヴューが好きだから、ダメもとで相談してみたところ“絶対やったほうがいい”と言ってくれて、こうして実現したという」
SAGO 「そうなんだ?」
――エンジニアの仕事って、めちゃくちゃ重要であるにもかかわらず広く認知されているとは言い難いし、僕自身もよくわかっていないので、読者としてもぜひ読みたいと思いました。
新間 「内容としては、自分が好きだったりおもしろいと思っているエンジニアやミュージシャンのところに行って、その人たちの哲学みたいなものをエンジニア視点で掘り下げられたら。うまくいけば連載というかたちで続けていきたい。その場合は僕が聞き手を務めるつもりなんですけど、初回はStudio REIMEIにフォーカスしてくださるとのことで、オーナーのSAGOさんと僕へのインタヴューというかたちになりました」
――今回はイントロダクション的な感じで。では、まずStudio REIMEIの成り立ちから聞いてよいですか?
SAGO 「Studio REIMEIは西調布の住宅街のマンションの地下にあって、もともとこの場所では別のスタジオが営業していたんです。私はそれをインターネットで発見してこっちのほうに引っ越してきたんですけど、コロナ禍で閉店しちゃって。“せっかく引っ越してきたのに困る”と思ってこのへんをウロウロしていたところ、前オーナーがいるのを見つけたので、すかさず“再開してください!”って話しかけたら“絶対やらない”みたいな感じで。それでも“なんとか開けられませんか?”って食い下がったら“あなたが引き継げば?”と言われて“それ、できるんだ?じゃあ特に失うものもないし、やるか”となったのが経緯といえば経緯ですね」
――なぜ西調布のスタジオに目をつけたんですか?
SAGO 「スタジオって、例えば吉祥寺とか大きい駅には普通にあるけど、そういうところには住みづらいなと思っちゃって。もうちょっと郊外の、のどかな町にある小さめのスタジオをめっちゃ探してここを見つけたんですよ。こっちに越してくる前は豊島区に住んでいて、会社員をやっていたんですけど、コロナで会社にも行かなくてよくなったし、バンドマンの友達がみんな東京の西側に住んでいたから、ちょうどいいかなって」
新間 「僕も西調布の隣駅のつつじヶ丘で、5kaiのドラマーの若松(Amia Calva, OAS)とずっとルームシェアをしていて。当時、たぶんSAGOSAIDもすでに活動拠点を東京に移していたけど、もっとがっつりやりたいみたいな感じになっていたと思うんですよね」
SAGO 「そうそう」
――Studio REIMEIがオープンしたのは、2021年の何月?
新間 「一応、11月っていうことにしています」
SAGO 「いや、9月じゃん?あれ?10月?忘れちゃったな」
新間 「たぶん、プレオープンとか言ってパーティみたいなことをやっていたのが10月くらいじゃないかな」
――周年イベントの類いって、今までやっていないですよね?
SAGO 「今年はやります。11月に“Studio REIMEI 4th Anniversary – Re:I MADE ROOM #8 刹 with to Blends”という、オープン4周年記念イベントを。Studio REIMEIにゆかりのあるバンドを集めて、THREEとBASEMENTBAR(東京・下北沢)を往来するかたちで」
新間 「マジで今まで何もできていなかったけど、ついに」
SAGO 「重い腰を上げてね」
新間 「そもそもの話、僕が聞くのもおかしいかもしれないけど、いきなりスタジオを経営するってヤバくないですか?普通はできないと思う」
SAGO 「そのとき私、パニック障害がめっちゃひどくて、まったく家から出られなかったんですよ。コロナ禍だったから目立たなかったけど、ライヴとかもできる状態じゃなくて。でも、スタジオだったら家の延長というか、外に出ていく必要がないじゃないですか。だから、弱っていたからできたのかもしれない」
新間 「今“スタジオやれ”って言われたら、やる?」
SAGO 「やらん。もうパニック障害は治ったし、外にも出られるから」
新間 「やっぱり動機が、これを言うとお客さんに失礼になるかもしれないけど、“スタジオがめっちゃやりたい”というわけではないんですよね。自分たちと、自分たちの周りの人たちが練習とかで自由に使えるスペースを作りたかった」
SAGO 「私の場合、人の家に行くより自分の家に来てもらったほうが安心するんですよ。スタジオを始めたらみんな勝手に来てくれるようになって、よかったですね」
新間 「この機会にきっちり言っておきたいことがあって、よく“Studio REIMEIは新間さんが始めたんですか?”って聞かれるんですけど、違います。SAGOさんが1人で決めて、お金を借りたりして始めたんですよ。だからREIMEIにおいてはSAGOさんが社長で、僕は平社員にすぎない」
SAGO 「いや、新間くんをはじめいろんな人に手伝ってもらったから、自分1人でやった感じは全然しない。みんなのおかげで始められました」
――スタジオを運営するにあたり、新間さんを誘ったのはなぜ?
SAGO 「あ、家が近かったからです」
新間 「ウケますよね。マジでそれだけの理由」
SAGO 「あとSAGOSAIDも一緒にやっていたし、そのとき新間くんは仕事をしていたけど、正社員じゃなくて契約社員かなんかだったよね?」
新間 「そう。今思うと恥ずかしい、あまり人には言えない仕事をしていたんですよ。当時はいろんなことがよくわかっていなかったし、生活するためのお金も必要だったから。たぶん、僕は一生その十字架を背負いながら生き続けることになるんですけど……」
SAGO 「別に法に触れているとか、そういうのじゃなかったじゃない。ていうか、そんなに悩んでたの?」
新間 「モラルとか価値観の問題というか……この感覚、わかります?」
――わかっているかわからないですが、僕もかつて、そこそこいいギャラに釣られて“意識の高いビジネスパーソン”が好みそうな媒体でネオリベ的なインフルエンサーとかを取材して、あとになって「世界一つまらない人間たちの売名に加担してしまった……」みたいな。
新間 「そういうことです。そんな負い目もあって、REIMEIに飛び込めたというのも大いにありますね。まさに今話に出たようなインフルエンサーとかが前提にしていそうな、経済合理性みたいなものからできるだけ距離をとりたかったし、この空間ではそれができているんじゃないかな」
SAGO 「資本の匂いが全然しないもんね、ここ。シンプルにお金がないから勝手にこのような状態になっているだけで、お金があったらもうちょっと小綺麗にしたかったけど」
新間 「意識的にも大企業の製品を置かないようにしていますね。具体的にはコカ・コーラをドリンク・メニューから外したり、ネスレのコーヒーメーカーを使うのをやめたり」
――コカ・コーラもネスレも、イスラエルによるパレスチナの占領およびアパルトヘイト、民族浄化、ジェノサイドを支援している企業ですね。BDS(Boycott = ボイコット、Divestment = 資本の引き上げ、Sanctions = 制裁)運動の対象にもなっています。
新間 「もちろんそれも意図しています。ボイコットは個々人の判断でやればいいとは思うんですけど、お店としてはそういうアティテュードを示しておきたくて。だからちょくちょく商品が入れ替わっているんですよ」
SAGO 「ただ、“コカ・コーラ”はなくしたけど、世の中にはコカ・コーラ社のものがめちゃくちゃある」
――ドクターペッパーやファンタ、スプライトなどもそうですからね。
SAGO 「そうなんです。コカ・コーラ社の支配からは逃れられないにせよ、看板商品くらいは取り扱わないようにしようと。できる範囲で、ゆるくやっています。そこは個人経営ならではかもしれない」
――僕はバンドをやっていないのでStudio REIMEIにはスタジオ・ライヴがあるときに遊びにくる程度ですが、雰囲気いいですよ。
新間 「うれしいです。出てくれる人たちもみんな“最高”って言ってくれて」
SAGO 「うんうん、楽しい」
――初めてのスタジオ・ライヴって、SAGOSAIDと鏡 KAGAMIと……。
SAGO 「たしか3マンでしたよね。あとひとつは、ゲタゲタじゃなかったっけ?」
――そうだ、Zieさん(KLONNS, 鏡 KAGAMI, XIAN, 珠鬼 TAMAKI, ゲタゲタ)が2ステージやったんでした。そういえばZieさんもこの近辺に住んでいますよね。
新間 「そう、Zieさんもめっちゃ家が近くて。個人練とかでしょっちゅう入ってくれるし、練習が終わってからも2、3時間くらい世間話とかここだけの話をしたりして、僕としてはそれもすごく楽しいんですよ。あと、家は近くないけどDEATHROさんもオープン当初から定期的に来てくれているし、シングル『ときめき』(2023, Royal Shadow)もここで録らせてもらったので、Studio REIMEIはZieさんとDEATHROさんと共にあると言っても過言ではないです。ちょうど今も、DEATHROさんとKLONNSの新譜を作らせてもらっていますし」
SAGO 「今調べたら、最初のスタジオ・ライヴは2022年の6月にやっているんですよね。まだコロナ禍で、人を集めるのはけっこうプレッシャーがあったけど、みんなが“やろうやろう”と言ってくれて。実際にやってみたら意外といけた。2023年から“Re: I MADE ROOM”というタイトルでシリーズ化するようになって、正直、定期開催が危ういくらいになってはいるんですが、がんばって続けています。あと、REIMEIは住宅街にあるから“音がうるさい”とか言われたらどうしようかと心配してもいたんですよ。でも、スタジオ・ライヴで苦情が来たことは1回もないし、演者もお客さんもみんな気を遣ってくれるから、うまくいっている」
新間 「たしかに、この上(Studio REIMEIが入っているマンションの入口付近)で溜まったり騒いだりする人もいないし」
――あの、恩着せがましく聞こえたらあれなんですが、以前、上に数人溜まっていたときに、静かに話すか大通りのほうに移動するようにと……。
新間 「言ってくれたんですか?」
SAGO 「助かります。めっちゃありがたい」
――そういうことをしている人、けっこういると思います。自分の知る限りだと川又まことさん(Not It? Yeah!, GUMMY BOYS, GREEDY FAT CAT)とか。
新間 「みんなのおかげで成り立っている」
SAGO 「私たちは基本的にずっと中にいるから、外のことはよく見えないもんね」
新間 「ただ、苦情に関して言うと、1回だけブチ切れられたことがあるんです。それは、VINCE;NTが練習をしていたときで」
SAGO 「ウーファー使ってたんだよね?」
新間 「そう。スタジオ・ライブとかをおもしろくしようと思ってウーファーも入れたんですけど、まだREIMEIがオープンしたての頃だったから加減がわかっていなかったんでしょうね。練習していたら突然、前掛けをしたおじさんが“うるせえ!”って怒鳴り込んできて」
SAGO 「前掛けをしていたから、最初、酒屋さんが酒を売りにきたのかなと思ったし、私は怒られ慣れていないからびっくりしたというか、自分が怒られていることに気づかなくて。依然としてVINCE;NTの音はうるさいし、たぶんその場にいた全員が事態をよく飲み込めないまま、おじさんは帰ってしまった。しかもREIMEIの出入口って、トイレがあってちょっと迷路みたいになっているじゃないですか。だからおじさんは帰り際に迷ってしまったのか、キョロキョロしていたので“出口はあっちですよ”って」
――そのかたは、REIMEIが入っているマンションの住人だったんですか?
SAGO 「わからないんですよ。何も聞けなかったし、あれ以来、近所で見かけたこともなくて。ちゃんと謝ったほうがいいんだけど」
新間 「けっこうでかい音が出るハードコア・パンクのスタジオ・ライヴとかでも来たことないよね」
――VINCE;NTがよっぽどだった。
SAGO 「本当になんだったんだろう?おじさんの妖精だったのかな?でもそのときは迷惑かけてすみません」
――Studio REIMEIを始めた時点で、新間さんはエンジニアの経験は?
新間 「高校生のときから友達のバンドを録ったりとか、そういうことはずっとやっていたんですけど、エンジニアを仕事にして、これだけでやっていこうとなったのはREIMEIからです」
――高校生のとき、なんで録ろうと思ったんですか?
新間 「DTMで曲を作るのが好きだったんですけど、それより、たぶん最初から楽器の音とか演奏のほうに興味があったのかな。だから、SAGOさんに言ったら怒られちゃいますが、歌はあまり耳に入ってこなくて。“この音って、どうやったら出せるんだろう?”とか“どういう録りかたをしたらこういう音像になるんだろう?”みたいなことをめっちゃ考えながらマイクの位置とかをいろいろ試して、録った音を聴き比べたりしていました。当時はほとんど遊びで何もわかっていない状態でしたけど、それが続いて今に至るっていう」
――じゃあ、ほぼ独学で?
新間 「一応、大学時代にレコーディング・スタジオで働いたりしたこともあるけど、そうなりますね。そのあと東京に出てきて、インディ・シーンの中で少しずつチャンスが広がっていったというか」
――新間さんって、大学は京都でしたっけ?
新間 「そうです。その京都で大学が一緒だったcontrolと、大先輩のshipyardsのスプリット7"(2022)をimakinn recordsが出すことになったとき、controlサイドの録音とミックスを南條くん(control)に頼まれたのがひとつの転機だったかも。このときのミックスは気合い入ってたし、いろいろな解釈を加えてやったから、今聴いてもかっこいいと思っています。あと、imakinn recordsのボスのいまきんさんには特にお世話になりまくっていて。最近も篠沢さん(shipyards)から話をもらって、shipyardsと、僕の同期のby the end of summerを録らせてもらったり(『bows : by the end of summer : THE SLEEPING AIDES & RAZORBLADES : shipyards / 4way split』2025, imakinn records)、いまきんさんとその周りの人たちは全員超信頼しているマイメンです」
――僕はいまきんさんとは面識はありませんが、いまきんさんと新間さんが仲よさそうにしているのをライヴハウスで何度か見かけました。
新間 「そんな流れもありつつ、VINCE;NTが初めてレコーディングしたとき(『VAPID』2022, DEBAUCH MOOD)、ツバメスタジオ(東京・小伝馬町 | ※ 当時は浅草橋)の君島 結さんにエンジニアリングをお願いしたんですよ。君島さんはかつてgajiという最高のバンドをやっていて、エンジニアとしてもいろんな作品を手がけているんですけど、例えばZとか、魚頭 圭さん(FIXED, CONGRATULATIONS, STORM OF VOID)周辺の人たちのバンドの音像が僕は大好きで。実際に君島さんとお会いしたら、録音やミキシングの手法はもちろん、録音物に対するスタンスや考えかたがめちゃくちゃかっこよくて。ちょうどStudio REIMEIを始めるギリギリ前だったのでいろいろ相談をしたら、“やりたいと思ったならやればいいじゃないですか”と」
――君島さんに師事したとか、そういう話ではないですよね?
新間 「ないです。でも、実は僕も君島さんに聞いたんです。“REIMEIでエンジニアとして働く前に、誰かに弟子入りとかして勉強し直したほうがいいですか?”って。そしたら“え〜、師匠とかにつく意味ってあるんですか?自分でやったらいいじゃないですか”みたいな感じで。そのうえで“もし何かわからないことがあったら、聞きに来てくれれば教えられることは教えるから”と言ってくれたんですよ。そこで勇気をもらったというか“よし、やろう!”という気になったのは、今思うとかなりでかいですね」
――君島さんの音って、独特ですよね。
新間 「日本で“一般的”と言われる音とは違う味が出ていて、そこに自分の音に対する自信というか、“この音、素敵でしょ?”という感じが滲み出ているのがめちゃくちゃかっこいい。そういう人ってなかなかいないと思うんですよね。例えば配信でいろんな曲をランダムに聴いているときって、どの曲の音や音量が迫力あるとか一番でかいとか、逆にしょぼいとか、そういう感じで判断してしまう人が日本では多い気がするんです。でも、本当に判断すべきはそのバンドに合った解釈を音に落とし込んでいるか否かであって、そこに気づかせてくれたのが、僕の中では君島さんでした。あと、君島さんの音は“○○みたい”という言いかたができない。要はほかと比較できないところが最高かも。個人的に、音だけじゃなくて音楽においても“〇〇みたい”という形容から離れたいと思っているので」
――Studio REIMEIを始めたとき、「こういうスタジオにしたい」みたいな展望や目標はありました?
SAGO 「最初はいっぱいあったんですけどね。お金がない人は無料で使ってもらいたい、くらいの勢いの夢が。でも、ある程度お金を取らないと回らないし、当時も今も自分のことで精一杯なところもあるし、現実的に、できないことがあまりにも多すぎる。っていう絶望……までいかないけど、普通に“現実、でかいな”って感じですね」
――でも、Dischord House的な存在になっているのでは?
新間 「もしそうなっていたらめちゃくちゃうれしいし、それが理想ですね」
SAGO 「たしかに。理想、理想か……」
新間 「レコーディング・スタジオとしては、今僕らが関わっている、かっこいいとか素敵だなと思っている人たちの音楽をいい感じに仕上げたいし、こういうコミュニティがあることを知ってもらいたい気持ちはあるんです。その一方で、ちょっと有名になったり“おもしろいね”と言ってもらえるようになったことに対して、けっこうバッド入るみたいな。自分たちはマス的なところから離れて、自分たちの好きなことをやっていたつもりなのに、いつの間にかマス的なほうに流されているんじゃないかって」
SAGO 「それはそうかも。そのせいでいろいろできないこともあるよね。Studio REIMEIのレーベル(Re:ME(i) RECORDS)を作ろうぜってなったときも、仲間感、内輪感が出ちゃうから嫌だなみたいな」
新間 「レーベルやるのはダサいだろって」
SAGO 「ダサくはないだろ。でも新間くんは、私以上にそういう気質があるよね。群れるのが嫌いだから。“群れる”っていうか、“協力”なんだけどね」
新間 「群れるのが嫌いだから、西調布の、誰も来ないような閑静な住宅街のスタジオで働き始めたのに、なんかいい感じになってきたら結局群れてるじゃんっていう……」
SAGO 「いや、でも私はそれを脱したい。そういうふうに考えていたら何もできないから、途中で“もうみんなでやればええ”ってなった」
――そのへんの葛藤めいたものは、SAGOSAIDの音源の変遷にも表れているように思います。
新間 「ああ。それは、本当にそうです」
SAGO 「たしかに。1stアルバム『REIMEI』(2021, SECOND ROYAL RECORDS)は異常なローファイだもんね」
新間 「でも、『REIMEI』の音が一番かっこいいと思っている人もいるはずなんですよ」
SAGO 「内にこもっているからね。そういうのが好きな人は気に入ると思う」
新間 「そこからどんどんポップになっていくし、2ndアルバム『Tough Love Therapy』(2023, Re:ME(i) RECORDS | SECOND ROYAL RECORDS)はもう、音が全然違いますもん。昔のSAGOSAIDが好きな人たちが聴いたら、もしかしたら嫌いになってしまうかも、みたいな気持ちもありました」
――僕は「昔のSAGOSAIDが好きな人たち」の1人なんですよ。『REIMEI』のアングラなドリームポップっぽい、ダウナーで滲んだ感じがツボだったので。そしたら『Tough Love Therapy』で急にカラッとして。
SAGO 「そうなんですよ。自分がリスナーでもそう思う。だから『Tough Love Therapy』を出すときはめっちゃ悩みましたね。“こんなポップでいいのか?”って。だけど、やっぱりちょっと広がりたかったんですよ。実際、そもそもSAGOSAIDはインディロックとかオルタナと呼ばれるジャンルが好きな人しか聴かない音楽だとは思うんですけど、『REIMEI』のときは本当に好きな人にしか聴かれていない感じだったのが、『Tough Love Therapy』はかなり広く聴かれたという実感がありました」
――そこから、6月にリリースされたEP『itsumademo shinu noha kowai?』(2025, Re:ME(i) RECORDS | SECOND ROYAL RECORDS)でいい感じに『REIMEI』のほうに戻りましたよね。
SAGO 「1回開かれたけど、ちょっと開きすぎたから、また内にこもりたくなった」
新間 「『Tough Love Therapy』を出して一定の評価は得られたけど、これでSAGOさんもバッド入るみたいな。世の中に迎合しすぎじゃないかとか、これをやっていて本当に楽しいのかとか、正直、何がいいのかわからない状態になってたよね。もちろん『Tough Love Therapy』の曲は最高だし、今もライヴでやっているんですけど。それを踏まえると『itsumademo shinu noha kowai?』は、今のところ一番いいかたちなのかなと」
SAGO 「うん。ちょうどよく戻った感じはする。『Tough Love Therapy』は、媚びようとした結果かも」
新間 「いや、媚びてはいないけど、頭はおかしくなっていました。だって“こんなポップでいいのか?”ってなって、ヘヴィな曲を1曲入れることになったじゃん」
SAGO 「それで新間くんが“In REIMEI”を作ったんだよね」
新間 「けっこうダウン・チューニングな曲なんですけど、なんか、わけわかんなかった」
SAGO 「しかも、このアルバム自体すごい早さで、3カ月で作ったじゃん。ありえんスピードで作ったから、それもあっていろいろ大変だったね」
新間 「でもたしかに、この3枚にスタジオの思想が出てる。おもしろい」
SAGO 「『Tough Love Therapy』のときは、Studio REIMEIを維持するためにもSAGOSAIDがもっと売れないといけないという気持ちがあって。私たちが無名なままだとスタジオにお客さんが来ないし、困るっていう。そんな焦りから生まれたアルバムとも言えるかも」
――でも、気に入っていないわけではないんですよね?
SAGO 「もちろん好きではあるけど、この音楽性でずっとやるかと言われたら、なんか違ったなみたいな」
新間 「それでいうと『itsumademo shinu noha kowai?』は、僕ら全員が“あ、これかも”みたいなちょうどよさがあった。今までの積み重ねもあるし、結果論かもしれないけど、聴いてくれた人の反応もダントツによくて。さっき言った“昔のSAGOSAIDが好きな人たち”も、たぶん嘘偽りないSAGOSAIDを感じてくれているんじゃないか。だからSAGOSAIDの録音の変遷は、明らかにStudio REIMEIの成長でもある」
SAGO 「うんうん。新間ワークスが更新されていく」
新間 「次のSAGOSAIDの作品は、マジで最高のものができると思っています。集大成な感じで」
――いい変化だと思います。例えば『Tough Love Therapy』は、HOLEのアルバムでいえば『Celebrity Skin』(1998, DGC)かなって。
SAGO 「なるほど。『Celebrity Skin』なんや」
新間 「おもしろいっすね。その捉えかた」
――対して『itsumademo shinu noha kowai?』にはDon Fury的なソリッドさがあって。QUICKSANDとか、そのあたり。
新間 「それ、めっちゃわかるかもしれない。けっこうQUICKSAND聴いてたし」
SAGO 「QUICKSANDいいよね。この『itsumademo shinu noha kowai?』の路線はけっこう好きなんで、もうちょっとこの感じで作りたいかなって。いや、でもあまり考えてないんだよな。できたものを出している感じなんで」
新間 「『itsumademo shinu noha kowai?』は、Studio REIMEIで録ってはいるけど、エンジニアは横山 令さんというかたにお願いしていて……何系の人って言えばいいんだろう?」
SAGO 「わりと歌物のギターロックをやっている印象だけど、ラブリーサマーちゃんとかayutthayaとかも手がけている人で。令さんの自前のアンプとかをREIMEIに持ち込んで録ったんだよね。録った場所は一緒なのに、音は『Tough Love Therapy』とはまた全然違っていて、すごくよかった」
新間 「めっちゃアナログな機材で録っていて、もちろん僕もいろいろ口を挟ませてもらったんですけど、令さんもけっこうこだわりが強い、おもしろい人で。少しロウだけど音源としてはしっかりしているみたいな感じを実現させてくれるんですよ。そのサウンドが最高だし、考えかたも僕らとマッチしているし、REIMEIに初期からいろいろなかたちで関わってくれていて、すごく信頼もできる。EPでもREIMEIでしか録れないアンビエンスとかを開発してくれたし、この連載で話を聞いてみたいエンジニアの1人です」
――当然、SAGOSAIDの音作りにはSAGOさんの意向が反映されているわけですよね?
SAGO 「もちろん反映されています。ただ私は、自分で歌ってギターも弾いていますけど、音作りに関してはそんなに詳しくなくて。だから基本的にざっくり“こういう感じで”というのを伝えて、あとは新間くんと令さんにやってもらう感じです」
新間 「ヘヴィにしすぎると、うるさくて声が聞こえなくなっちゃうから、その塩梅は難しいです」
SAGO 「そう。新間くんって、私がそれをめっちゃ指摘するまで、びっくりするほど歌を聴いていなくて。歌物なのにありえないミックスをしていたんですよ。“え?歌の処理、全然してないじゃん!”みたいな。でも、最近はすごく丁寧になった気がする」
新間 「さっきも言ったように、僕はもともと音そのものとかアンサンブルに興味があって、VINCE;NTがそれを体現しているというか、それでしかない。正直、歌はどうでもよくて、今は自分が歌っているけど代わってくれる人がいたら代わってほしいくらいの感じなんです。でも、SAGOSAIDはSAGOさんの歌をちゃんと聴かせなきゃいけないとあるとき気づいて、SAGOさんの意図を汲みつつ歌が映えるようなセッティングをするようになりました。だから、VINCE;NTとSAGOSAIDのエンジニアリングは対極にあるかも」
SAGO 「もう全然違うよ。初期はいろいろヤバかったよね。そうだ、1stの『REIMEI』のヤバさ、今だったら語れるんじゃない?」
新間 「『REIMEI』は、もうヤバいっす。でも、結局そこに立ち返っちゃうというか、これが一番、音がいいのかも」
SAGO 「いや、悪い」
新間 「悪いのに、一番いいみたいな。もう、レートとかラウドネスの基準値とか、すべての常識を無視して作ってる」
SAGO 「ドラムがライン録りなの、マジでヤバいよ」
新間 「そうそう。当時のドラマーはKaichiくん(Dead Stallone)っていう、SAGOSAIDの前身のshe saidでも叩いていた人なんですけど、彼は名古屋在住なんですよ。だから遠隔で、“ラインでいけるかな?”みたいな感じで録ってもらっていて」
SAGO 「ライン録りだから、バスドラとかシンバルとか全部分かれていないんですよ。おかしいよね。しかもボロボロのインターフェイスで録ったから、ノイズもめっちゃ入ってるしさ」
新間 「例えばPAVEMENTとか、めっちゃ音ちっちゃいのに、いきなりドラムだけクソでかくて“どうした?”みたいになったりするじゃないですか。ああいうヤバさもわかるんですけど、当時はあまり言いたくなかった。でも今聴き直すと、やっぱり僕は『REIMEI』が一番好きかもって思っちゃうんです」
SAGO 「『REIMEI』って、制作費5万円とかじゃない?」
新間 「そう。そこから音質だけじゃなくて制作費も上がる。だから『REIMEI』と『Tough Love Therapy』の2枚は本当に対照的すぎますね。『REIMEI』は、さっきSAGOさんが言ったように異常なローファイだったけど、『Tough Love Therapy』は一番いい音で録っているし、なおかつミックスできれいにしようとしていないから、メジャー感があるというか」
SAGO 「機材もね、Studio REIMEIで買ったいいやつを使ったから」
新間 「マイクのチャンネルも、『REIMEI』は2チャンネルだったのが、たぶん『Tough Love Therapy』は40近い」
SAGO 「急に増える」
新間 「トラック数も5倍くらいになっていて。『Tough Love Therapy』を聴いて、“ああいう感じでお願いします”ってレコーディングとかミックスを依頼してくれる人もめちゃくちゃいるので、これは効きましたね」
SAGO 「そういう意味では『Tough Love Therapy』を作ってよかった。そう、さっき“Studio REIMEIを維持するためにもSAGOSAIDがもっと売れないといけない”と言いましたけど、同時に、早くREIMEIの代表作というか、“エンジニア・新間雄介がここでこれを録りましたよ”と言えるような、名刺代わりになる作品を作らないといけないっていう焦りもありましたね。たくさん依頼が来るように」
――『Tough Love Therapy』以外に、そうした依頼につながった作品はあります?
新間 「Cruyff(『Lovefullstudentnerdthings』2023)とTexas 3000(『Weird Dreams』2025)ですね。Cruyff、Texas 3000、SAGOSAIDを聴いてエンジニアリングを頼んでくれる若い人がマジで多いというか、だいたいそう。この前も韓国から“ミックスをお願いしたいです”というメールが来て、“どうやってStudio REIMEIのことを知ったんですか?”と聞いたら“もう、Cruyffの音源が好きすぎて”みたいな」
――先ほどからちょいちょい機材の話が出ましたが、新間さんも機材は……。
新間 「好きです、録音機材も楽器も。VINCE;NTでも、ライヴをするときは自分たちの機材を全部ライヴハウスに持っていきます。それは自分たちだけの音を出したいと思っているからだし、エンジニアとしてもそういう機材へのこだわりは持っています。それを具体的に伝える機会も欲しいっちゃ欲しいんですけど……」
――今日ではないですね。こちらから振っておいてなんですが、僕は機材のことはよくわからないので。
SAGO 「私もいい返答できないしね」
新間 「技術的なことはエンジニアと対談したときに話せればいいというか、むしろ僕が聞きたい。あと、エンジニアだけじゃなくてバンドマンでも、例えばTexas 3000のJojoは機材とか録音にめっちゃこだわりあるし、KLONNSのSHVくん(SOM4LI, 珠鬼 TAMAKI)とか5kaiの松村もおもしろいんじゃないかな」
――最初に新間さんからこの連載の相談をされたとき、Jojoさんが企画立案のきっかけのひとつになっていると言っていましたね。
新間 「そうそう。ちょうど今、Texas 3000がアルバムのレコーディングをしていて、エンジニアは僕ともう1人、奈良在住のKC(岩谷啓士郎)さんという、LOSTAGEとかを録っている人でやっているんですけど、やっぱりJojoは録りかたのこだわりがすごくて。基本的に、スタジオの中で全部決めるんですよ。あまり事前に用意してこなくて、ギターを弾くときも、ある程度は型が決まっているけどほぼアドリブみたいな。その場で考えて、その場でエディットする感じで、少なくとも僕はこんな人に出会ったことがないんです。そんなJojoがもっとも信頼しているのが、たぶん魚頭さん」
――おおー。
新間 「魚頭さんはプレイヤーであると同時に、界隈では有名な機材コレクターでもあって、Jojoはレコーディングするとき必ず魚頭さんから機材を借りているんですよ。そういうこだわりは僕も理解できるし、じゃあその機材で録るとどういう音になるのかとか、ちょっと角度を変えて、例えばこの時期のDiscord Recordsのこの音はどうだとか、そういう話も今後していけたらいいなって。だから、Jojoと魚頭さんと僕の鼎談とかをやってもおもしろいと思う」
――今、魚頭さんに話を聞きに行くのはいいですね。
新間 「魚頭さんも重い腰が上がってきたというか積極的になっているし、最近、FIXEDの音に感銘を受けている若い人がめっちゃ多いんですよ。“何これ!?”みたいな感じで。激しい音楽が好きなんですかね、みんな」
SAGO 「世の中が終わってきてるからじゃない?世の中が終わってくると激しい音楽を脳が求める……のかもしれない」
新間 「それ、ちょっとわかるかも。バンドをやっていても、スタジオをやっていても。たぶん『itsumademo shinu noha kowai?』を5年前に出していたら、今とまったく反応が違うと思うから」
――ちなみにTexas 3000のアルバムは、Studio REIMEIで録っているんですか?
新間 「それもおもしろくて、三重県の四日市大学の、だだっ広い講堂みたいなところをKCさんの伝手で借りて、去年は1週間くらいそこにこもってリズム・セクションを録ったんです。そのうえで上物というか、歌とかギターはREIMEIで録る感じですね。もちろん四日市大学にも魚頭さんの機材を全部持ち込んでいるし、ここでも魚頭さんの機材を使っています。やっぱり音が全然違いますね。もちろん、KCさんの技術も大いに関係していて。KCさんのスタイルはめちゃくちゃ建設的というか、ミュージシャンの意図を最大限汲み取ってパッケージするタイプなんですよ。KCさんは僕が大尊敬している先輩であり、エンジニアの中で一番お世話になっている頭が上がらない存在で、彼のようなエンジニアがもっと出てきたらいいのにと思います」
――魚頭さんの音って、なんて説明すればいいんでしょうね。ヴィンテージ感というのともちょっと違うし。
新間 「けっこう好みが分かれる音ではあると思うんですよ。僕とかJojoはマジで大好きだけど、そうじゃない人もいる。それって、人それぞれに“いい音”の定義があるからだと思うし、その中でこだわりを持って自分の音を出すという姿勢が最高なのであって。たぶん君島さんも同じタイプで、だから魅力を感じるし、自分もそうでありたい。別に“新間のサウンドはよくわからん”と言われても全然いいですし、むしろ議論し続けたい……けど、僕は僕が良いと思ったものを作るので!」
――Studio REIMEIの企画として、スタジオ・ライヴ「Re: I MADE ROOM」を主催するだけでなく、「REIMEI SESSION」という映像作品も制作していますね。
SAGO 「“REIMEI SESSION”は、もともと企画を持ってきてくれたのはWalmというソロ・プロジェクトをやっているAyumi Nakamuraくん(POINT HOPE, The Chimney Sweeper)と、映像作家のミラーレイチェル知恵さんなんですよ。2人がREIMEIに遊びに来たときに“こんなに機材とか揃ってるんだから、やろうよ”と言ってくれて。Aスタジオで一発録(撮)りしたやつを新間くんとAyumiくんでミックスして、撮影はともまつりかさん((TT) press)とKeishi Sawahiraくんに入ってもらって、その映像をレイチェルさんが編集するっていう。だからスタッフ6人体制で、けっこうガチでやっていますね」
――音も映像もクオリティ高いです。
SAGO 「自分で言うのもなんですけど、相当クオリティ高いです。だから、ぜひ観てほしい。新間くんは、最初はあまり乗り気じゃなかったんだけどね」
――群れるのが嫌いだから?あるいはマス向けっぽいことをするのに抵抗があった?
新間 「両方ですね。たしかに“REIMEI SESSION”は、本当はやりたくないって思ったりもするんですよ。だけど、やっぱりやってよかったし、これもStudio REIMEIに必要なことだと思ったりもして。けっこうその繰り返しになっていて、今までは腰が重すぎたんすけど、最近はようやく柔軟に考えられるようになったというか、ちょっと割り切れるようにはなってきた」
SAGO 「新間くんは、昔よりはだいぶ丸くなったよ。スタジオを維持するためにはお金が必要である以上、ある程度はマス向けというか、資本主義的な感じにならざるを得ないわけで。私たちの現状ではね。完全な資本主義と完全な反資本主義の間で、自分たちが納得できる範囲でフラフラするしかない。そのときの状況次第で、例えば自分がちょっと悪魔に魂を売っているときは“金!金!金!”になるし、我に返って“やっぱそうじゃない!”ってなるし。本当に日々、変わるから……まあ、病みますね」
新間 「僕も病みます」
――先ほどSAGOさんは「現実的に、できないことがあまりにも多すぎる」と言いましたが、できることも日々変わると思うので。
SAGO 「すぐ変わりますよね、最近は特に。だから本当にそこは難しい。なんでもかんでも無料にしていたら即倒産だし、かといってお金を取りすぎるのもなんか違うし」
――「REIMEI SESSION」は、エンジニアとしては何がおもしろいですか?
新間 「ひとつの部屋の中でどれだけいい音を出せるか、それをいかにまとめるかというのが、めちゃくちゃおもしろいし、めちゃくちゃ難しいです。やっぱり、どうしても音が被るんですよ。ドラムの音を録りたいのに、ギターの音が入ってきたりして。特に声が大変で、声を聴かせるために、ヴォーカル・マイクが拾ってしまった声以外の音を処理するのに毎回試行錯誤しているんですけど、最近はだんだんわかってきました」
――今のところ、一番大変だったのはどのバンドですか?
新間 「あー、それおもしろい質問ですね。誰だろう?」
――Forbearとか?
新間 「Forbear、大変でした。いや、Forbearはマジで最高のバンドで曲も最高なんですよ。ブレインの藤石くんも大好きな友達で、絶対いい感じにしたいという思いがあるんですが、Forbearは音がパワフルなバンドの代表でもあって、ともすると声がほぼ聞こえなくなっちゃう。だから大変ではあるんだけど、それがおもしろいんですよ。音が大きいのは自分がやっているVINCE;NTもそうだし、録るときに“楽器の音量下げて?”なんて言いたくないし、メンバー自身が気持ちいい音量でやったほうが絶対にいいし、その音量でやらなきゃForbearの良さは出ないじゃないですか。そのうえで、本人たちもいろいろ考えてやっているからまた最高なんですよね。これからは、もっとパンクとかハードコア方面の、音のでかいバンドもやっていきたいです」
――BELMADIGULAを呼びましょう。彼らも自前の機材をライヴハウスに持ち込んでいますし。
新間 「それヤバいですね。実際、ELMOのまーくんさんが、“REIMEI SESSION”じゃなくてもいいからハードコアのセッション動画をいっぱい作る会をやろうと言ってくれていて。KLONNSとか鏡にも出てほしい」
――KLONNSの1st LP『HEAVEN』(2024, BLACK HOLE | Iron Lung Records)と、鏡のセルフタイトル7”EP(2024, A-Z Records | Advanced Perspective Records)の録音とミックスはStudio REIMEIで、新間さんがやったんですよね(※『HEAVEN』の録音は君島 結のツバメスタジオでも行われた)。ハードコア・パンクだと、THE BREATHの7”EP『道理なき憎悪 Reasonless Hate』(2024, Convulse Records)も。以前、THE BREATHにインタヴューしたとき、メンバーみんながREIMEIというか新間さんを褒めていました。
新間 「THE BREATHもマジで最高。実はTHE BREATHも、ZieさんやDEATHROさんと並んで最初期からStudio REIMEIを使ってくれていたし、THE BREATHの録音は、僕の中で大きな転機になったかもしれないです。THE BREATHのおかげでハードコア・パンクの録音は楽しいと思えたし、それ以降、ハードコア・パンク系の人たちからも録音を依頼してもらえるようになったし」
――ギターのKatsuyaさん(YOUNG LIZARD, PAYBACK BOYS)は、新間さんは「現行のハードコアの話をエンジニアとしてちゃんと理解してくれる」と。
新間 「もともとハードコア・パンクも聴いていたし、THE BREATHの前身ともいえるLOW VISIONもめっちゃ好きだったんですよ。でも当時は面識はなかったし、自分がやっている音楽的にも交わることがなかったから、ここでTHE BREATHのEPを録ることになったときは“マジか。僕でいいんですか?”と驚きましたね。それと前後して、ヴォーカルのMasaさんによるハードコア・パンク審査みたいなのがあって」
――審査?
新間 「いや、僕が勝手にそう思っているだけなんですけど、たしか、僕が何気なく“TØRSÖとかめっちゃ好きで”と言ったら、Masaさんが“マジで!?”みたいな。僕がTØRSÖを聴いているふうに見えなかったらしくて。そこから“今、僕らが音にしたいものってまさにそのへんで”って急に前のめりになって、一気に話が進んだっていう。一時期はここでMasaさんと“GAGのジャパン・ツアー(2023年)、ヤバいっすね”とかそういう話を延々としていて、めちゃ楽しかったですね。あと現行のハードコアで言うと、例えば去年来日したNARROW HEADって、ジャンル的にはオルタティヴ・ロックに括られるけど、メンバーはハードコア・パンクの人だったりするじゃないですか」
――NARROW HEADのギター / ヴォーカルのJacob DuarteはSEXPILLや SKOURGEもやっていますよね。オルタナとハードコア・パンクをかけ持ちしているパターン、けっこう多い。
新間 「11月に来日するTONERもそういう感じですよね。そういうところから興味を持つこともあるし、まさにNARROW HEADを日本に呼んでくれたBLACK HOLEのコサカさんが、オルタナティヴでもありパンクでもありハードコアでもあるみたいな見方を広めている第一人者だと僕は思っていて。2020年にSAGOSAIDが対バンする予定だったけど、コロナの影響で来日がキャンセルになっちゃったSHEER MAGとかもそうだし」
――SHEER MAGの元ギタリストのKora PuckettはNARROW HEADのメンバーでもあるし、それ以外にもオルタナであればBUGG、ハードコア・パンクであればLAFFING GASといったバンドをやっていますね。
新間 「そうやってジャンルを横断する感じ、いいですよね。それで言ったらKLONNSも、バンドとしてはハードコア・パンクをやっていますけど、メンバーはそれぞれ別のこともやっているし、音楽的なバックグラウンドもハードコア・パンクだけじゃない」
――あの人たちは、音楽を聴きすぎです。
新間 「めちゃくちゃ聴いているし、そのエッセンスがKLONNSにも滲んでいるじゃないですか。だからこそあんなに評価されるし、埋もれないというか唯一無二だし、新しい。同時に、昔っぽいと思うところもあったりする。あと、さっき言ったコサカさんとかいまきんさんとか、DEBAUCH MOODのシュウゴさんとか鏡のTeru(yep)とかも、意味わからんくらい音楽をディグっていますよね。そういうバンドや人が好きだし、僕の中ではTHE BREATH、もっといえばLOW VISIONもそういう位置付けのバンドなんです」
――THE BREATHのEPは、曲がいいのは大前提として、音もめちゃくちゃフィットしていて驚きました。
新間 「本当ですか?でも、あれはバンドの良さをがんばって引き出そうとした結果で。けっこう緊張していたので、自分から何か意見するというよりは、必死にバンドの意図を汲み取ろうとしていましたね。隙あらば自分のエッセンスも入れようと思いながら。といっても、別にそれを窮屈に感じたりしたことは全然なくて、むしろめっちゃ自由にやらせてくれました」
――ここまで名前が挙がった以外でStudio REIMEIで録ったバンドというと、SOM4LI(『Escapism』2022)とSorry No Camisole(『Disgust / Petalish』2024,『Filth!』2025)と……。
新間 「ハードコア系だと、SHUT YOUR MOUTHとForbearのスプリット・カセット(2024, Alkaline Maniacs)の、SHUT YOUR MOUTHのほうをREIMEIで録っています。メンバーみんなイカれていて、めちゃくちゃ最高でした。あと、gejiっていう……」
――ああ、Zamohfiedさん(HETH, SHAPESHIFTER, NoLA)の新バンド。彼がヴォーカルで、VINCE;NTのArisa Katsuさんがギターなんですよね。
新間 「そう。ベースがHajimeさん(END IN BLOOD, SHINING MOMENTS, ALP$BOYS, SHUT YOUR MOUTH, KING KILL)で、ドラムがTeramotoくん(ONLY THE LAST SONG, Bruo, KING KILL)。そのgejiの初音源(『gejinized dancetrax vol.1』2025)もREIMEIで録らせてもらったんですけど、このときはもう友達大集合みたいな感じで、メンバー以外の人もめっちゃ来ていて。Forbearの藤石くんとかもいました」
――ゲスト・ヴォーカルも豪華でしたからね。
新間 「そうそう。ELMOのまーくんさんとONLY THE LAST SONGのKajinoくん、VirusodomyのTatamiさんが参加しています。そのほかのバンドだと、MY SOCIETY PISSED(『Marble Dots』2024, DEBAUCH MOOD)も録らせてもらったし……あ、Kidder(『ki001』『ki002』2024, LIKE A FOOL RECORDS)だ。KidderもREIMEIの最初期から今に至るまでずっと録音を頼んでくれていて。マサルさん(MY SOCIETY PISSED)とEDAさん(threadyarn, THE GHAN)という、昔からかっこいいバンドをやり続けている先輩に声をかけてもらえたことがうれしかったし、大きなモチベーションになっていますね」
SAGO 「最近聴かせてもらったやつだと、NOUGATのミックスがすごくよかったというか、めっちゃ好きだった、私は。まだリリースされていないけど」
新間 「これから出る予定の音源だと、WAR/ZITとか、偶人と5000のスプリットを録っていますね」
――スタジオとして、しっかり軌道に乗っていますね。
SAGO 「めっちゃ忙しそうにしていますよ。録音して、翌朝までミックスして、仕事量ハンパない。“新間くん、こんなに仕事あるんだ?”って思った」
新間 「いや、めちゃくちゃありがたいことなんですけど、最近はいろいろと遅れ気味で……迷惑かけすぎて、申し訳なくなってバッド入ります」
――総合すると、Studio REIMEIはロックのスタジオですよね。
SAGO 「たしかに、バンドばっかりですね」
新間 「結果、ドラムの処理がどんどん得意になっていく。バンドによってミックスの主義とかも全然違うので。昔はなかなか納得がいかないことも多かったんですけど、最近は自分の思い描いた通りにできるようになってきました。でも、電子音楽のミックスとかもやりたいですね」
――Zieさんのソロだ。
新間 「それ、めっちゃいいっすね。やらせてもらえたら最高かも。当たり前なんですけど、バンドの録音に限ってもまだまだ自分の知らないことがいっぱいあって。例えばDEATHROさんのアルバム『ガラパゴス -GALAPAGOS』(2025, Royal Shadow)はドラムだけここで録っていて、そのときDEATHROさんがマイクの立てかたを……ええと、誰だったかな?」
――SILICONE PRAIRIEのIan Teeple?
新間 「そう。Ianに、マイク1本だけでドラムがよく録れる位置を教えてもらったから、それを試したいとDEATHROさんに言われて。しかも、そのマイクに紙コップを被せて録りたいと。で、実際にやってみたのを聴いたらめちゃめちゃよくて、“なんだこれ?もうわけわからん。良すぎる”みたいな。とてもマイク1本で録ったとは思えない」
――マイクに紙コップを被せて部屋鳴りを抑える手法はペルーのロウ・パンク・バンド、MøRbøがやっていたのを真似たと、以前DEATHROさんが言っていました。いわばSILICONE PRAIRIEとMøRbøのハイブリッド。
新間 「結局、そのバンドが何をやりたいのか、それに合致する録りかたが重要なのであって、ただ綺麗に録ればいいというものではないし、汚く録ればいいというものでもない。そういうおもしろさもあるんですよね。だからいろんなエンジニアの意見を聞きたいし、たぶん自分がプレイヤーだからというのもあって、エンジニアの仕事はめちゃくちゃでかいと思っていて。それぞれのいい音の基準とか、そもそもいい音とは何かとか、そういうことを話せたらめちゃくちゃいいですね」
――今ここで新間さんに「エンジニアの仕事とは?」と聞いたら、どう答えます?
新間 「むずいっす。僕はエンジニアとして、ただ言われたことをやるだけじゃなくて、ミュージシャンと一緒になって曲を作り上げていくようなスタンスでやっていて。その意味では、illicit tsuboiさんのスタイルはひとつの理想と言えるかも。tsuboiさんって、僕もご本人から直接聞いたわけじゃないんですけど、曲を投げられると、音だけじゃなくてトラックそのものに修正を加えたやつを“こっちのほうがよくない?”って数パターン返すというんです。それ、マジで最高だと思うし、勝手に曲の内容を変えられたらけっこうウケません?いや、でもわからないです。それを探すためにこれから連載をしていくっていうことかもしれません」
新間雄介 Instagram | https://www.instagram.com/vince_axia_ys/
SAGOSAID Instagram | https://www.instagram.com/sagosaid/
■ Studio REIMEI 4th Anniversary
Re:I MADE ROOM #8 刹 with to Blends
2025年11月16日(日)
東京 下北沢 BASEMENTBAR / THREE
開場 12:30 / 開演 13:00
前売 3,500円
U23 2,000円(税込 / 別途ドリンク代 / ※ 入場時身分証必須)
Livepocket
[出演]
5000 / 5kai / 5 Star Cowboy (bringlife + PICNIC YOU + 没 aka NGS) / computer fight / Cruyff / DEATHRO / DOGO / FIXED / kidder / KLONNS / NOUGAT / SAGOSAID / soccer. / Sorry No Camisole / Texas 3000 / UNDER SOCKS / VINCE;NT
[Food]
バングイバオベ / スペアリブハウスHowdy
※ お問い合わせ: studio REIMEI
■ 2025年10月30日(木)発売
SAGOSAID
『REIMEI SESSION』
Re:ME(i) Records
Cassette Tape Re:ME-002 税込1,320円
https://sagosaid.theshop.jp/items/121737948
[Side A]
01. Am I afraid of dying? – REIMEI SESSION
02. iimmaaggee – REIMEI SESSION
[Side B]
01. Am I afraid of dying? – acoustic (Bonus Track)
■ 2025年6月18日(水)発売
SAGOSAID
『itsumademo shinu noha kowai?』
Re:ME(i) Records | Second Royal Records
CD SRCD-074 税込2,000円
https://sagosaid.theshop.jp/items/118112722
[収録曲]
01. Am I afraid of dying?
02. Morning Boy
03. inside your eyes
04. the shore, you
05. iimmaaggee
06. dance / wings

