予測不可能な電子楽器の緊張や興奮
なお今年10月まで隔月で全5回を予定している同イベントの第2回が、4月29日(金・祝)に開催される。FATHERがMATERIAL(QUEER NATIONS | MGMD A ORG.)と近藤さくらをゲストに迎えるほか、Albino Botanic(Sayaka Botanic + Albiono Sound)、DJとしてCOMPUMAが出演。インタビュー巻末には、FATHERによる、第1回の開催を振り返るとともに第2回の出演者についての文章を掲載。
取材・文 | 鷹取 愛 | 2022年2月
写真 | 三田村 亮
――「Fruitfulness – 豊穣」の第1回目を終えて、どうでしたか?
F・S 「すごく楽しかった」
Y 「すごくいいイベントでしたね」
F 「脳の使いかたが全員違うというのが、おもしろく出ていたのではないかな」
――体の揺らしかたの異なる音楽で、お客さんとしてもすごく楽しかったです。
Y 「みんなすごく入り込んで、集中して観るような。それが一貫してたっていうのはあった」
F 「とにかく集中して聴くイベントにしたいとは思っていたよね」
S 「真面目に音楽をやろうっていうのがひとつあって、1組30分なのも良かった」
F 「日野くん(YPY)はどうでしたか?」
Y 「SPREADで演奏するのは初めてだったんだけど、音が素晴らしい。それだけでまず楽しめた。元々クラブのイメージだったんだけど、こういうライヴとしてもすごく映える場所なんだと思った。予め持ってきたセットはもう少しクラブ乗りで、それをリハの時に音数減らして緊張感のある構成に変えたんだけど、それが僕の中ではすごくハマったかな」
S 「すごく合ってた」
Y 「ストイックになりましたね。もうちょっとちゃんと音を埋めてやろうかと思ったんだけど。なんかもう、このお客さんの集中力で、このいい音の場所だったら割と攻められるな思って。対照的だったし、ふたりとも」
F 「性別だけの話じゃないと思うけど、けっこう女性と男性の違いみたいなものがあった。特に日野くんは男性的な部分も持ってるし」
S 「それは考えてやってたところはあって。FATHERさんの今回のセットは観たことはなかったけど、いつもやっていることが“点”なので。日野くんのライヴも何回も観ているので、ふたりとは違う方向でやろうっていう」
F 「今日柔らかかったね、Sayakaちゃん」
S 「ファズとかジャキジャキしたエフェクターを使わずに、全部丸くしようと思って。“船に乗る”みたいなのをやろうと思ってた。いい流れだったかもしれない」
F 「確かに。流れが、ふわっとSayakaちゃんで立ち上がり、私がかき乱し、それをYPYが集めて塊にして、みたいな」
S 「すごい硬いものにね」
Y 「今日、ふたりの相性がバッチリだと思った。このイベントをふたりでやってるというのは、納得でした。次はふたりのデュオが観たいですね」
S 「前に1回ふたりでライヴをやって。ドラムとヴァイオリンとちょっとドラム・マシーンも入れたけど、ほぼ生楽器で。すごく収穫祭っぽかった」
F 「今日初めて電子音のセットをお互い観たけど、それもやってみてもいいね」
Y 「まさに思った。ふたりは生楽器とエレクトロニクスの二面性がそれぞれあるから、ヴァイオリンとドラムのデュオと、エレクトロニックのデュオっていう二部構成のイベントを観てみたい」
F・S 「大変だな(笑)」
Y 「でもそれを観るのは楽しいと思う」
――1回目にYPYを迎えた理由は?
S 「絶対合うと思った!」
F 「今回は電子楽器括りというのがあったので、その中で何ができるかなと。1回目にあえて縛りを設けて、それを崩すための企画だったんだけど、それぞれ出てくる音の質感や形がさまざまだったから、とてもうまくいったね」
S 「電子音楽だけど、多分電子音楽じゃないっていうか」
F 「それぞれが楽器をやってるっていうのもあるかな」
Y 「それが共通点かもね。一番最初に始めたのって、エレクトロニクスじゃなくて生楽器だったから、自分が作る音楽性にそれがかなり影響してると思ってて。一般的にはエレクトロニクスを使うとグリッドのマス目の世界になっていきがちだと思うんだけど。でも、そのグリッドからどう離れるかみたいなのを、ふたりがやろうとしているなと思った。それを意識してやっているのかはわからないけど」
F 「そもそも私はグリッドの概念はないな」
Y 「僕はバンドではグリッドで打ち込んでいるんだけど、それって生楽器に変換させるとグリッドの世界じゃなくなっていくっていうのがあって。けど、エレクトロニクスだったら、グリッドの世界に縛られることが前提となることが多くて、その縛りに苦しむことは少なくない。だけど、それをナチュラルにふたりは外していってるんだなっていうのを感じた」
S 「去年1年ドラムマシンで初めてトラックを作る練習をしているときに、その“グリッドの壁”みたいなものに初めて直面した。こういうことだったんだと思って。ヴァイオリンを弾くときって、感覚で計算じゃないものが出るんだけど、(ドラムマシンは)いかに四角の中でやるのか?というのがめっちゃくちゃ大変で。すごく考えた、去年」
Y 「心地悪くなるんだよね。枠に囚われてると感じて、やってていきなりおもしろくなくなる瞬間が来ることがある」
F 「グリッド感覚はないのだけど、機材に主導権は取らせないとは考えてるかな。自分が操縦するというのは、最初に電子楽器に手を出すときの決めごとだった。電子楽器だけど、その相反する有機的な部分をどこかで感じていたから。無機質なものでどうしたら有機的なものができるかということに興味があった」
Y 「割と僕は逆のアプローチかもしれない」
F 「そうかも。すごい真逆って思った」
Y 「機械に主導権を握らせる部分を作って、予測できないことに驚きたいと思ってる。ある程度制御はしつつも、実際に音が“いつ”“どのように”鳴るかというのをパーセンテージとかで設定してて、そうすると怖いくらい空白が生まれることもあるけど予測できない奇跡的な瞬間も生まれたりする。それを俯瞰して聴きながら、僕も驚き楽しんでいるような感じかな」
S 「けっこう即興だったりするの?」
Y 「流れはわりと決まっていたりするけど、その合間合間は即興というか、何になるかわからない、予測不可能なところがある」
F 「それが電子楽器のおもしろさだと思う」
S 「何が出てくるかわからない」
F 「主導権を握らせないと思っても、実際はめちゃくちゃに振り回されてるから、そこを楽しんでいる部分もある。演奏中は。生楽器は自分の出せない音は出せないでしょ、良くも悪くも」
Y 「振り回される瞬間が、興奮する。こうしたくなかったけどやるやんって」
F 「ほんと。だからなんというか乗り物みたいな感じで、振り落とされないように必死。だけどそういうことを考えているのが3人の共通点なのかも」
Y 「確かに。トラック・メイキングって普通は構築していくことの方が多いだろうし。じゃじゃ馬って嫌がられるしね。それにしても今日のようなシチュエーションは安心とは対極で、緊張感から生まれる興奮を生み出す土台があったと思う」
S 「今日めっちゃ緊張感あったね」
F 「不安定だったね。みなさん(笑)」
Y 「その不安定っていうのは悪いことではない。必ずしも」
S 「安心だとしたら。外れるところがたくさんあった」
Y 「怖いけどね」
F 「ずっと括りの息苦しさみたいなのがあったでしょ?だけどそれだけじゃないと思っていたから。その確認に日野くんが必要だったのかも。今回は電子音について考えられてよかった。このために組んだんだなと思った」
S 「わざわざそのためにきてもらいました(笑)」
――会場のSPREADとしてはどうでしたか?
M 「最高でした。皆さんのパフォーマンスもそうだし、お客さんの熱気や集中力の高さみたいなのも、バッチリはまってたと思うし。イベントの全体的な尺としてもちょうど集中力が保たれる長さだったのかなと思います。先程、終わった後にFATHERさんとSayakaさんに、そこの集中力を別の何かで保たせる方法を今後考えていきたいですよね、って提案しました。今後、このイベントに合うものを探しながらできたらと思っています。そこが僕の役目だと思うので。僕もそれで言うと踊らされる側だと思うので」
――転換時にリセットする音楽(宮里千里『琉球弧の祭祀 – 久高島イザイホー』2016, BasicFunction)がすごく良かったです。それも次の音楽への集中に繋がったと思います。
F 「あの音源しか思いつかなかった、この組み合わせには。前世は沖縄で繋がっていたと勝手に思っていて」
一同 「(笑)」
Y 「あとはライヴ3分前に音を消してたでしょ。それもすごく良かった。それがあると初めの集中力が変わるから」
F 「演奏する人には緊張してほしいし。無音だと空気も変わるので、そういう意図があった」
Y 「客にも緊張させたいよね。緊張は心地悪さもあるけど、その分研ぎ澄まされた、その先じゃないと得れないものが絶対にあって。それってなかなか作りづらいよね。それと、SPREADの音が良いから集中できる」
S 「単純に音が良い。ストイックに楽しめる」
Y 「コンクリートの会場史上1位かも」
M 「ありがとうございます」
Y 「コンクリートって(音を作るのが)本当に大変だから。合うものは合うけど。だからリハーサルもガッツリやらせてくれって言ったけど、すぐ終わっちゃった。ポテンシャルがすごく高い場所だと思った。またやらせてください」
M 「ぜひぜひ」
S 「絶対日野くん合うと思った」
F 「出てくれて本当にありがとう」
Y 「こちらこそ!誘われてすごく嬉しかったのもあるけど、直感的に出たい、出なきゃいけないって思ってた。初めてのSPREADだし、このふたりのイベントだから」
F 「嬉しい」
Y 「スピリチュアルだね」
F 「そういうの専門なんで私たち(笑)」
F・S 「それでは次回も楽しみにしていてください!」
さまざまな状況がとり巻く中、無事に第1回目を終えることができた。
イベントが開催できるということだけで幸運な今、
目に見えない大きな渦に巻き込まれていくような、ザワザワとした地球規模の感覚が肌から離れず、
次から次へとめまぐるしく移りゆく世の中は一体どこに向かっているのか、
船の舵はみんなの手元に本当はあるのだと再認識していきたい。
個人が個人でいられるということ、あるがままで表現をするということ、
当たり前だと思っていたことが今一度問われる時代に、どのように現在地を確かめていくのか。
そしてそこに、音楽なんかがちゃんとある!
そんなありがたさを胸に第2回目に駒を進めていこうと思う。
4月29日(金・祝)開催、第2回はFATHERとSayaka Botanicがそれぞれのゲストを迎え、
さらに「Fruitfulness – 豊穣」唯一のDJゲスト、COMPUMAをお招きする。
Sayaka Botanicのゲストは旧知の仲のAlbiono Sound。
ヴァイオリンとエレクトロニクスで構成され、幾度かライブを重ねたユニット“Albino Botanic”の新しい形がとても楽しみだ。
そして、FATHERが迎えるのはMATERIAL(QUEER NATIONS | MGMD A ORG.)と画家のSAKURA KONDO(近藤さくら)。
ドラム、エレクトロニクス、ライヴペイントという編成は、
視覚表現でありながら目が捉えている領域をかわしていくようなSAKURA KONDOの絵と、
MATERIALの有機的でどこかヴィジュアライズされた音色、そしてドラム、今回初めてのトリオで、予測できない未知のものになるだろう。
そして最後に、聞かれることの多かった、第1回目の転換時に流していたBGMについても触れておこうと思う。
かけた音楽は宮里千里さんの1978年録音『琉球弧の祭祀ー久高島イザイホー』。
5、6年前に東京・水道橋にあるFtariiというお店でたまたま購入したCDで、
時代とともに神々を失ってもなお、独自の神観念が残り続ける久高島の、12年に一度の島の祭祀を録音したものである。
久高島祭祀に参加する神女を生み出すための儀式であり、あまりに混じり気のないその儀式は現在は行われていないそうだ。
そんな場を整えて浄化する、この音源にとても助けられた1日だったと思う。
――FATHER
Sayaka Botanic Instagram | https://www.instagram.com/sayaka_botanic/
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2022年4月29日(金・祝)
東京 下北沢 SPREAD
開場 18:30 / 開演 19:00
前売 / 当日 2,500円(税込 / 別途ドリンク代)
※ 30名限定
[出演]
Live: Albino Botanic (Albino Sound + Sayaka Botanic) / Nanao Kobayashi (FATHER) + MATERIAL + SAKURA KONDO
DJ: COMPUMA
[予約]
spread.ticket@gmail.com
件名に「04/29 チケット購入希望」と記載の上、本文に氏名と人数をご記入ください。
※ ご予約される方は4月28日(木)23:59迄にご連絡ください。
※ ご購入いただいた方は開催当日お名前の分かる身分証明書を受付にて確認させて頂きます。
※ 止むを得ずキャンセルされる場合は必ずご連絡頂きますようお願い致します。