「なんでGroup2って言うんですか?」と、よく聞かれる。多くの人はこの“何かを意味している風”のバンド名が気になるらしいけど、特に意味があってつけた名前ではない。しかし今となっては、「王道ではなく邪道を志向するという意味で(Group1ではなく)Group2」と後付けしてもいいかもしれない。
つまりGroup2がこれまでやってきたことというのは、形式やそれがもたらすわかり易さから逸脱しながらも、ポップで踊れる音楽を作ることだった。それこそが、無限に音楽を摂取できる時代において、オルタナティヴな音楽を可能にするひとつの手段だと考えていた。そんな僕たちではあるが、晴れて2枚目のアルバム『Group2 II』をリリースすることができた。
1stアルバムに比べると言葉や意味性に重心を置いた本作。アルバムの方向性を決定づけたのは、「Wonder」と「Internet」という2つの曲が完成したときだった。この2つの曲の歌詞には、これまでGroup2が表現してきたような強い自意識やシュールな世界観が提示されることはない。代わりに提示されるのは“社会”そのものについてだった。
アルバム2曲目である「Wonder」の歌詞のテーマはずばり“戦争”だ。歌詞のリファレンスとして挙げられたのは、スタンリー・キューブリックの映画『フルメタル・ジャケット』で、戦争という暴力とそれが滑稽な姿として見える戦争観を歌詞として描こうとしている。続く3曲目の「Internet」はタイトルの通り、インターネットについての歌だ。最後のフレーズに出てくる「褪せた絵にはさんざめく / 背景はデジャヴ / 迎合してる注釈には / 指だけのコネクション」とは、InstagramやTwitterといったSNSの隠喩となっていて、言葉や画像の応酬が繰り広げられる殺伐としたインターネット的風景について歌われている。なぜ、自己の内面について歌い続けていたGroup2が、このような社会に目を向いた歌を作ったのか。
翻って考えてみると、いま僕たちは社会に対して無反応ではいられなくなっているような気がする。言うまでもないが、オリンピックの中止と新型コロナウイルスによる社会活動の自粛は、生活に大きな変化をもたらした。しかし個人的に思うことは、こうした社会の変化というのは、新型コロナとともに突然訪れたのではなく、以前から用意されてきたことで、社会はすでに壊れていたということだ。「Wonder」も「Internet」も、こうした社会への眼差しとして生まれた。そしてアルバムのテーマもそのような社会状況を背景として、構想していくことになった。
この「Wonder」と「Internet」という2つの曲に加えて、アルバムのコンセプトを考えるときに念頭にあったのは「オリンピック」のことだった。実は前作の『Group2』は「Circles」と「Ceremony」というタイトルの曲で幕を閉じるが、これは東京オリンピックのことを象徴している曲だった。そして、2ndアルバムである本作を作り始めた2019年には、“東京2020”というスローガンが社会には蔓延し、リリース予定の年には東京オリンピックの開催が予定されていた。Group2のここ数年の活動は、奇しくも“オリンピック”という現象に絡め取られるような形になっていたのだ。
そうしたバンドの無意識下にあった“オリンピック”というテーマと、「Wonder」と「Internet」と言う2曲がぶつかったとき、案外それらは拮抗せずに調和していくことになった。オリンピック = 祝祭に対して対局にあるような国と国との争いも、SNSで日々発生するメディア・スクラムも、却って祝祭のようでもあると思え、そしてオリンピックのような祭りでさえも、災害のように降りかかってくるように思えたからだ。つまり、祝祭と災いの全てが同じ地平にあって、そのどれもが強度のエネルギーを持って目の前に立ち現れている。そんなイメージこそが2ndアルバム『Group2 II』のテーマとなった。
アルバムの1曲目を飾る「Gold」は、躁的な祝祭のムードと、それが却って崩壊を招くようなまでのハイテンションなエネルギーとなっているような状態が歌われている。国際的なスポーツの祭典のときの渋谷スクランブル交差点が象徴的だが、祝祭として始まったはずのものが、ほぼ暴動まがいのものへと発展する様を歌詞で描こうとしている。こうして幕を開けたアルバムが、「Wonder」「Internet」へと続き、そして最後の曲「新しい夢」へと結実していく。「新しい夢」とは、フィリップK.ディック『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』の冒頭に引用される、アイルランドの詩人W.B.イエイツの「幸福な羊飼いの歌」という詩の一節から取った言葉だ。アルバムのエンディングを飾るこの「新しい夢」では、祝祭と災いが加速しきった後のディストピアな世界をイメージしている。そこで想起されたのが、ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』だった。
“社会”だとか“戦争”だとか、なんだか物々しく聞こえるかもしれないが、これらのテーマはGroup2の演奏に乗せるとどこか滑稽であったり、アイロニカルに聴こえるような響きを持つようになるだろう。こうした逆説的な現象は「王道ではなく邪道を志向するような」Group2のサウンドだからこそ成立するものだと自負している。邪道から生まれる音楽は、ともすれば、歪で奇妙な響きを持ったものとして多くの人の耳には届くかもしれない。しかし、そのGroup2の歪さは社会の歪さと共鳴した上で、それが滑稽さや皮肉として輝きだすのだ。
See Also
■ 2020年9月2日(月)発売
Group2
『Group2 II』
PCD-22426 2,200円 + 税
[収録曲]
01. ゴールド
02. Wonder
03. Internet
04. オリエント
05. めまい
06. Easy feat. BUGS
07. ソラリス
08. Penguin Highway (Ver.2)
09. 新しい夢
https://group2band.com/
東京を拠点に活動する“オルタナティヴ・サイケ・ポップバンド”。同じ大学に通っていた、石井(dr)、山口(vo)、上田(b)と、石井が就職活動で知り合った熊谷(g)によって、2014年に結成。2015年に「Miles Apart Records」からカセットEPをリリースし、翌年ネット・レーベル「Ano(t)raks」のコンピレーション・アルバム『Azur』に参加。2016年、初の流通作品であるEP『Like A』をリリースし、2018年11月には初のフルアルバム『Group2』をリリースする。過去に「SYNCHRONICITY ’17」や「Shimokitazawa SOUND CRUISING 2019」に出演。また、これまで、DJパーティ「New Action!」と共催企画「Coming Age」、Maika Loubté、TAWINGS、VaVa等が出演した主催企画「的 (テキ)」、東阪で活動するインディ・バンド5組による共催企画「ZONE」などのイベントを企画し、独自の活動スタイルで着実にシーンを横断している。