Interview | Jack Irons


バンドは自然に生まれるもの

 RED HOT CHILI PEPPERS、PEARL JAM、ELEVEN、そのほか数多くのプロジェクトでドラマーとして活躍してきたJack Irons。現在の彼は、ソロ名義によるドラムをメイン楽器に据えた音楽を制作しており、その最新の成果が先頃リリースされた『Koi Fish In Space』EPだ。そこでは、前述のオルタナティヴ・ロック・バンドを支えたパワフルかつシャープなプレイをベースに、独自の創造性が発揮されている。このインタビューを通じて、Jackの才能と人となり、音楽人生などについて興味を持ってくれる人が少しでも増えてくれれば幸いだ。旧友であるAlain Johannesや、ペッパーズを通じて知り合ったJosh Klinghoffer、実子のZach Irons(AWOLNATION, IRONTOM)といった面々とのコラボレーションも含め、今後のJackの活動に期待しましょう。

取材・文 | 鈴木喜之 | 2022年2月
Main Photo | ©Michael Watson

――2019年からのパンデミックで、音楽業界も大きな影響を受けましたが、あなたは、この2年間どんな風に過ごしていましたか?
 「多くのミュージシャンがそうだったと思うけど、より多くの時間をスタジオで過ごしました。それで、なんとかうまくいってますよ。スタジオでの作業を楽しんでいるんです」

――最新EP『Koi Fish In Space』は、どのような環境で制作されたのですか。レコーディングの様子を教えてください。
 「私はほとんどの場合、自宅のスタジオで作業しています。もう長いこと、そうやってきていますね。私のレコーディング・セッションは多くの場合、以前から録音してあるドラム・トラックか、新規に録音したドラム・トラックを基に、何か新しいサウンドを加えて楽曲を作ろうとインスパイアされるところからスタートするんです。基になるドラムに、サウンドやエフェクトを重ねる作業を試しながら、新しい音を作り上げていきます。何かを完成させるためには、音そのものからインスピレーションを得るのが最も重要なんです。時には時間がかかることもありますが、『Koi Fish In Space』に関しては、とても簡単に、そして自然に出来上がりました」

――一般的なロック・ドラマーのソロ作品というと、「実はギターも弾けるし歌えます」みたいな感じで普通のロック作品だったりもしますが、あなたの場合、あくまでドラムをメインにした極めてオリジナルな音楽を作っていますね。1998年にPEARL JAMを脱退してから本格的に作り始めたということですが、こうした方向性へと進んだ経緯を教えてください。
 「もうPEARL JAMではプレイしないことになったタイミングで、自分自身の音楽を作ってレコーディングし始めたことは、当時の自分にとって最良の道でした。ミュージシャンとしてのツアー活動から離れる時間を必要としていたので、ホーム・スタジオを作って新しいサウンドを創作することは、本当に助けになりました。PEARL JAM以前や、その活動中にも、そういったことはやっていたので、その延長線上に進んでいくのは自然なことでしたね。幸運なことに、当時すでにデジタル技術が普及し始めていたので、ホーム・スタジオはかなり簡単にセットアップすることができました」

――こういった楽曲は、どのようにして作り上げていくのでしょう。ソングライティングのプロセスを教えてください。ドラム演奏をトリガーにして、シンセを鳴らすようなこともしていますか?
 「たいていの場合、インスピレーションを受けたドラム・トラックからスタートします。それらのトラックは、私が好きな音楽に合わせて演奏しているものであったり、すでに録音したドラム・トラックであったりしますが、曲が完成するまでには、どういうものからスタートしたのか原型はわからなくなっていますね。キーボードにMIDI経由でドラムをトリガーしながら音を鳴らして、曲を作ることもあります。例えば、アコースティック・ドラムにトリガーを使って、ビート、テンポ、ダイナミクスに基づいて、なんらかの理由でメロディになりそうな音を見つけるんです。とてもランダムな感覚で、好きな手法ですね。『Dream of Luminous Blue』に収録された曲の多くは、そんな感じで作られました」

――今後、こうしたソロ曲をライヴで演奏する予定はありますか?
 「今のところ予定はありませんが、ライヴで演奏するのに適した曲に関しては準備ができていますし、日頃そのセットを練習するのも好きです。腕の見せどころ、って感じでね」

――ステージで演奏するときは、普段とは違う特別なドラム・セットアップを使用したりするのでしょうか?
 「ドラム・セットと、バッキング・トラックの入ったPCだけでもステージに上がりますが、可能な場合には、背後に映し出す映像も用意します」

――ドラムを叩いた演奏をそのまま録音するだけでなく、後からコンピュータで加工するプロセスを持ったりもしますか?
 「この音楽では、そういうことはしないようにしています。オーガニックなドラミングと、そのドラマーのフィーリングが好きな私にとって、これは重要なことなんです。ミュージシャンが持っている独特の感覚を、私は大切にしたい。これらのサウンドを生み出すには、ダイナミクスが大きな役割を果たします。エフェクトはすべての音に対してユニークに反応し、それがどのように表れるか、そしてその反応がどのように波打つか、こういったことが私のインスピレーションとなるのです」

――今作のタイトルは、どのようにして思いついたものなのでしょうか?
 「タイトルの由来は、私が見た夢……とても鮮明な夢でした。私が宇宙に浮かんでいるような感じで、振り向いたら、私より大きな鯉がヒレを立てて私を見ていたんです。鯉は驚いていて、そこで私が何をしているのかを聞いているような感じでした」

――「The Merry Go Round Is Broken」とか「Epic Battle Of The Elements」など、曲名もおもしろいものになっていますが、歌詞のない曲に、どうやってタイトルをつけているのですのか?
 「制作中に思いついたり、音から明瞭に見えてきたりすることもあります。大抵は曲を完成させるまで何度も聴いているうちに、自然とタイトルが浮かんできますね」

――ヴァイナルでは、前作『Dream of Luminous Blue』EPがB面に入って、いわゆるカップリングになっていますが、2つのEPは連作であるという意識があったりするのでしょうか?
 「両作のプロセスは、いっしょにすることが十分なくらい似ていたと思います。それに、1枚のLPに2枚のEPというコンセプトが好きなんですよ。 すべてひとりでやっているからか、私のエネルギーは、ちょうどEP1枚分の音楽で上昇して下降するような感じなので、こういうかたちで発表するのは正しいことだと思います。おもしろいですしね」

――前作『Dream of Luminous Blue』では、息子さんのZachが、ギターを弾いて歌っていますね。今後もっと本格的にコラボレートしたアルバムを作ってみようと考えたりはしないのでしょうか?
 「そうですね!時間と音楽がうまく合えば、もっとやることになるでしょう。彼のバンドの新譜にも何曲か参加しました」

――本作のミックスはAlain Johannesが担当したそうですね。Alainに一昨年インタビューしたとき、「近いうちにJackと何か始めるつもりだ」と話していました。彼との共同プロジェクトは何か進んでいるのでしょうか?
 「最近では、Alainと私はどちらもスタジオで作業する時間が増えていますが、ミキシングとか、彼がプロデュースするセッションを通じて、しばしばコラボレートしています。Alainのミックスは『Koi Fish In Space』でも大きな役割を果たしてくれました。彼の巨大な才能とセンシビリティは、私の音楽を伝えるのにとても役立ってくれて、私のソロ活動においても、ずっと助けとなってきたんです。今のところ、Alainとバンドとして演奏する予定はありませんが、アイディアは常に開かれていますよ」

――Alainとは本当に長い付き合いですよね。あらためて、あなたと彼の出会いについて教えてください。どんな風に知り合って、いっしょにバンドをやることになったのですか?
 「Alainとは、バンクロフト・ジュニア・ハイスクールで出会いました。確か14歳の頃、同じクラスになって、Hillel Slovakと私はちょうど、音楽のレッスンを受けながら、ジャムり始めたところでした。Alainを紹介してくれたのはHillelだったんです。“彼は本当に良いミュージシャンだから、いっしょにジャムるべきだ”と言ってね。Hillelと私は楽器を始めたばかりで、まだうまくプレイすることができなくて。すでにAlainはとても上手かったけれど、私たちが成長するのに付き合ってくれて、みんなで何年も一緒に演奏しました」

――AlainやHillelと、CHAIN REACTIONとかANTHYMといったバンドを始める前は、あなたには、どんな音楽のキャリアがあったのでしょうか?
 「音楽が好きということ以外、特に音楽的なバックグラウンドはありませんでしたね。父が遊びで少しピアノを弾くくらいだったけれど、家の中ではたくさんの音楽が流れてました。Hillelと私は同時に楽器を始め、いっしょに演奏することを学ぼうって決めたんです」

――ドラムを習い始めた当時、最も影響を受けたドラマーといったら誰になるでしょう。また、人生を通じて普遍的にずっと好きなドラマーや、最近「このドラマーはすごい!」と注目しているような人は誰かいますか。
 「たくさんのポップやロック、60~70年代のMotownから影響を受けています。最も大きな影響を受けたドラマーは、たぶん、John Bonhamですね。現時点では、ヒーローを1名だけ挙げることはできません。音楽の中で可能な限り柔軟に成長し、自分の能力を最大限に発揮するのが目標だと思っているので」

――最近では、Josh KlinghofferのPLURALONEに参加して、ライヴにも参加していますよね。Joshとは、彼がRED HOT CHILI PEPPERSに入ってから知り合ったのですか?今後もっと共演する機会はないのでしょうか。
 「Joshと私は音楽面で本当に良い繋がりを持っているので、今後もっと一緒にやっていくことになるでしょう。彼の音楽に参加することは心から楽しいです。PLURALONE『To Be One With You』(2019)でのセッションは私にとってもお気に入りで、あのレコードは本当に好きなんですよ。Joshと知り合ったのは、RED HOT CHILI PEPPERSの『The Getaway』(2016)ツアーでオープニングを務めたときですね。 彼はそのツアーの終盤、私と(PINK FLOYDの)“Shine On You Crazy Diamond”を定期的に歌ってくれました」

――あなたがEddie VedderをPEARL JAMに紹介したのは有名な話ですが、Jeff AmentとStone Gossard、そしてEddie Vedderとは、それぞれどんな風に知り合ったのでしょう?
 「最初に会ったのはStoneとJeffで、当時、彼らが新たに結成しようとしているバンドに参加するかどうかを話し合っていました。すでに彼らはいくつか曲が書けていて、ドラマーとシンガーを探していたんです。ただ、私はLAでいろいろあって、シアトルまで引っ越すことができませんでした。ちょうどその頃、Eddieと私は良い友達になりつつあったので、彼らがくれたテープを渡しました。そして、Eddieはシアトルまで車で行き……ブームが起きたというわけです」

――あなたは、1989年にリリースされたKeith Leveneの『Violent Opposition』というアルバムにも参加していますね。Hillel SlovakやFleaも参加していますが、これはどういった経緯で実現したのでしょうか?Keithはなかなか神経質な人だという評判ですが、レコーディングの現場はどんな様子でしたか?
 「スタジオに行ってドラムを叩いたこと以外、あまり覚えていません。HillelとFleaがそのセッションに連れていってくれたんだと思います。ペッパーズは当時(Jimi Hendrixの)“If 6 Was 9”を演奏していて、それが彼と一緒にやった曲ですね」

Jack Irons

――同じ頃、Joe Strummerの『Earthquake Weather』にも参加しています。ちょうどRED HOT CHILI PEPPERSを辞めて落ち込んでいるときで、Joe本人から電話がかかってきたことにより、あなたは救われたという話も聴いています。どんな状況だったのか教えてもらえますか。
 「そう、Joeと一緒に演奏できたあの機会は、本当に重要なものでした。私は良い状態ではなく、音楽生活に戻る予定も見えませんでした。Joeから話が来たときは、もう数ヶ月間もドラムを叩いていなかったんです。でも、彼が『Earthquake Weather』を制作している間にオーディションを受け、引き受けることになって。Joeの音楽が大好きだったから、それを断ることはできなかった。レコーディングが終わってから数ヶ月が経ち、もう少し自立できるようになると、彼は私をツアーにも連れ出してくれました。そのツアーで、私は妻になる女性と、Eddieに出会ったんです」

――AlainとかJoshのように実現性のある人たち以外で、今後一緒に演奏してみたいと思うミュージシャンはいますか?また、特定のバンドに所属してパーマネントなドラマーになることは、もはやあり得ないのでしょうか?
 「バンドというのは自然に生まれるものです。少なくとも私の経験上ではそうでした。私が若かったとき、まだバンドが特別なものだった頃とは、もう時代が違いますよね。今は音楽を作り、演奏する方法がたくさんある。でも、私は人と演奏するのも好きですから、いつかまたバンドで演奏できる日が来るかもしれません」

――いずれ日本に来て演奏してください。Alainとでも、Joshとでも、あるいはZackとでもいいと思います。パンデミックさえ終息すれば、可能性はありますか?
 「1995年にPEARL JAMとして日本で演奏したのは本当に楽しかったし、また行けたらいいなと思うけれど、今のところ予定はありません。でも、いつか実現できたらいいですね……どうもありがとう!」

Jack Irons Official Site | https://jackirons.com/

Jack Irons 'Koi Fish In Space'■ 2022年3月4日(金)発売
Jack Irons
『Koi Fish In Space』

https://smarturl.it/koifishinspace

[収録曲]
01. Passing Through
02. The Meter is Running
03. The Merry Go Round is Broken
04. Epic Battle of the Elements
05. In Orbit
06. At the Coral Reef