Interview | LIGHTERS


若い頃の痛みは忘れない

 昨年12月のミニ・アルバム『bitter peanut butter』から約1年を経て、1stフル・アルバム『swim in the milk』を8月にリリースしたRumi Nagasawa(g, vo | 以下 R)とEmi Sakuma(b, cho | E)によるバンド・LIGHTERS。

 “日常の中の柔らかい光”や“うまく言葉にできない気持ち”を込めたという甘酸っぱいメロディが胸に突き刺さる『swim in the milk』は、架空の映画のサウンドトラックをイメージして制作されている。同作の発売を記念したこのインタビューでは、彼女たちが追及するエモーショナルなサウンド、テーマとなった架空の映画の詳細や、現在のスタイルを形成している音楽のルーツを探る。


取材・文 | 小嶋真理 Mari Kojima (gallomo co., ltd.) | 2021年9月


――今回リリースされたアルバム『swim in the milk』は架空の映画のサウンドトラックをテーマに制作されたそうですが、どういう映画を頭の中で描いてましたか?

R 「一匹狼の女の子に“僕”が片想いをしていて、振り回されて、劣等感を感じたり、情けないシチュエーションがあったりっていう、ふたりのティーンエイジャーの“もはや恋なのか?”というようなストーリー。10代のときに苦しめられた感情がテーマになっています」

――わかります。歌詞が甘酸っぱいなと感じながら聴いてました。もし、この空想の映画を誰かが監督するとしたら、誰にします?
R 「えぇ!そこまでは考えたことがなかった……。あ、でも、その“負の感情”の感じが合いそうだなというのは、グザヴィエ・ドラン。毒々しさはあるかもしれないけど、合いそうだとは思います」

――ドラン監督。やはり、痛みを伴う感じですよね。
R 「若い頃の痛みって、再び感じることはなくても、忘れることはない感情だと思います。やっぱり楽しかったことより、辛かったことや悲しかったことのほうが覚えてることが多いな、と思うことがあって」

――わかります。なんででしょうね、ほんと嫌になっちゃいますよね(笑)。
R 「勘弁してほしいです(笑)」

――後でめちゃくちゃ恥ずかしいこととかもありますしね。
R 「道を歩いてて突然思い出して、うわぁぁぁみたいな(笑)」

――わかります。なるなる(笑)。UKロックがお好きだと伺いましたが、このアルバムを聴いてUKのフィメール・バンドTHE BIG MOONの無骨だけど繊細な感じを思い出しました。フィメール・バンドの影響を受けたりもしましたか?
R 「そうですね。自分でバンドをやるようになってから、ALVVAYSやSnail Mailを好きになって。あと今、ソロのプロジェクトをやっている海外の女の子たちがすごく強いと思う。歳下の人たちもめちゃくちゃいるし。そういう子たちから影響を受けて。もはや影響を受けるよりも、食らう、みたいな感じなんですけど(笑)」

――なるほど。例えば、beabadoobeeとかClairoとか?
R 「まさにそうですね」

――衝撃的ですよね、90年代リヴァイヴァル感もあって。ところで私、『swim in the milk』を聞いて90年代のグランジとかインディ・ロックを感じてすごくときめいちゃいました。
R 「ありがとうございます」

――ときめき音楽でした。
R 「その感覚は私も海外の女の子ミュージシャンたちから感じるので、めちゃくちゃ嬉しいです」

――ところで、おふたりが音楽にハマるきっかけって何でしたか?
R 「私はお姉ちゃんがいたり、両親も音楽が好きで、小さい頃から音楽は好きだったんですけど、小学生のときにいきものがかりとか大塚 愛にハマって。その後バンドものも聴くようになりました」

――いきものがかりから海外の音にたどり着いたのはどういうプロセスだったんですか?
R 「もともとは、幼稚園くらいのときに、この音好き、って思ったのがHANSONっていうアイドルの3人組で」

――わかります、「Mmm Bop」の!
R 「そうそうそう。ファンだったんです。“Mmm Bop”ヤバいですよね。私、和訳印刷して、見ながら聴いてました(笑)。その後にTHE BEATLESを聴いて、好きになって、みたいな感じです」

――小さい頃から音楽好きだったんですね。UKロックを好きになったのはいつでしたか?
R 「大学生になって、そこで邦楽のインディ・ロックを聴くようになって、そのルーツを掘っていくとUKとかUSロックだったりして。その序盤にポップパンクのTHE MENZINGERSってバンドを教えてもらって、やばい!と思ってそこから一気にハマって。その後PAVEMENTとかPIXIESとか聴くようになりましたね」

――いろんな橋を渡ってきたんですね。邦楽インディ・ロックで聴いていたっていうのは?
R 「最初はandymoriがめちゃくちゃ好きで、そこからライヴハウスに行くようになって、SUNNY CAR WASHとか、あと、しっかりMy Hair is Badとかもハマって。あとはnever young beachとか。never young beachを好きになってからは下北沢のBASEMENTBARに行くようになりました」

――never young beachとか観て、バンドやりたいって思った?
R 「めっちゃ思いましたね。何食べたらこうなれるのかな?って。何食べたり、何時間寝たりしたら(笑)」

LIGHTERS

――生活習慣から(笑)!Emiさんはどうだったんですか?音楽にハマるきっかけは?
E 「私も一番初めに買ったCDは大塚 愛で、バンドの音楽が好きっていうのに移行したきっかけは、アニメがすごく好きだったんですけど、アニメの主題歌になってたUVERworldを聴いて。最初に好きになったバンドでした。お兄ちゃんがいて、お兄ちゃんはL’Arc-en-Cielが大好きだから、私も聴いたりしていて、そこから日本のバンドが好きになりました。アルバイトとかするようになってからは、そこで知り合った友達とバイト先が変わる度に音楽の話をして、プレイリストとかを共有していろんなジャンルの音楽を聴くようになった感じです」

――バイト先の人たちと職場が変わる毎に音楽交換!みなさん、おもしろい音楽聴いてましたか?
E 「聴いてました、おもしろかったです!あと、外国人の友達がいて、日常で首振ってるみたいな陽気な人が音楽を紹介してくれて、それでハードロックやヒップホップも聴くようになりました」

――人との出会いが音楽との出会い、いいですね。おふたりの出会いはいつですか?
R 「大学時代にバイト先で知り合いました。バイト先で出会って、そのときはふたりともAge Factoryにハマっていて、同じライヴに行ったりして、気づいたらバンドを結成してた、みたいな」

――へぇぇ!ふたりとも、もともと楽器の演奏はその前からしてたんですか?
R 「私は中学生のときにお姉ちゃんのギターで遊んだり、コピーやったりしていて。本格的に始めたのは、大学3年のLIGHTERS結成ちょい前くらいからです」
E 「私は小さい頃全然やっていなくて、UVERworldを聴いてからずっとバンドはやりたいと思ってたけど、なんだかんだでバンドができそうな環境ではなかったし、一緒にやりたい人もいなかったから、流れてしまっていて。でも、yonigeが活躍し始めたときに、無性に、女に生まれてバンドをやってるのってすごくいいな、って思って。それでベースを買うだけ買って、ひとりで練習とかコピーとかしていたら、Rumiに出会いました」

――それはふたり出会ったとき、バンドやりたくない?バンドしようよ!みたいなスカウトをし合った感じ?
R 「なんか、うち曲作ってんだけど、やってみる?みたいな(笑)。ほんとノリだったよね、それで、ほんとにやっちゃってる(笑)」

――ドラマみたい(笑)。
R 「確かバイト先のキッチンかなんかで組んだんだよね(笑)。バックヤードとかでコーラス練習とかしてました。みんな協力的だったんで、“がんばってね”って言ってくれて(笑)」

――幸せ!いい職場!今までおふたりは、いろんなジャンルの音楽を聴いてらっしゃったと思うんですが、まだ触れたことのないジャンルで今後聴いてみたい音楽っていうのはありますか?
R 「私は、1960~70年代の音楽。THE BEATLESしか聴いてなかったので、そこらへんの音楽を聴いてみたいです。あと、クラシックとかも、古典とか本当に最初のほうのものがなんだかんだ最強だったりすると思うので、シンプルなのに素晴らしいっていう音楽の原点に戻って、掘って聴いてみたいな、って思います」
E 「私はファンク、ジャズ、ソウルをたっぷり聴いてみたいです。ベースの演奏にいろんな幅があって、広がりそうだと思うので」

――最近はどんな音楽を聴いてますか?
R 「私はMura Masaを聴いてます。slowthaiとのコラボで知ったんですけど、Clairoとコラボしてるのもヤバいってなって、そこからめちゃくちゃ聴いてます」
E 「私はPrincess Nokiaと、あとはJPEGMAFIAです」

――JPEGMAFIA、スタイルありますよね。
E 「めちゃくちゃかっこいいです。ヒップホップも好きで、先輩と最近のおすすめのラッパーを共有しているときに、その先輩のダントツの一押しがJPEGMAFIAでした。そこから私も一通り聴くようになり、彼の作る曲の展開が一味違うなって思い、今ではファンになりました」

――『swim in the milk』を作るにあたっては、インスピレーションを得るためにやったことってあります?
R 「映画をたくさん観ました。もともとキャラクターのイメージがドラマ『この世界のサイテーな終わり』とか、Netflixのオリジナル・ドラマ『セックス・エデュケーション』のような、男の子と女の子の、ちょっとダークな内容で、男の子のちょっと気が弱いみたいな感じがすごくいいな、と思って見返したりとか。目指す音楽に近すぎるものは持っていかれそうだったから、音楽は逆に聴き直したりとかはしなかったです」

――か弱い男の子っていうキャラクターに惹かれたのって、どうしてでしょうね。
R 「けっこう自分が感情移入しちゃってるというか、自分の気の弱いネガティヴな部分にコンプレックスを感じるところが、生々しい感じでその男の子たちに投影されていて、環境とかは違うと思うけど、対強めの女の子みたいな図にやっぱ思い当たる節もあるなぁ、って思って。自分が男の子側ではあるけど、やっぱいいよなぁって」

――わかります。それで、男の子が弱い感じの物語って、観ちゃいますもん。
R 「応援しちゃいますよね」

――その女の子のタフさにも憧れるし。『swim in the milk』はDYGLの嘉本(康平)さんやHAPPYの林田(惣太)さんなどのサポート・メンバーを迎えて制作されたそうですが、そのメンバーでやることになった経緯は?
R 「ちょうど1年前くらいに、今所属しているWAREHOUSE TRACKSに入ったんですけど、マネージャーが以前、DYGLのマネージャーだったんです。“嘉本さんがアレンジとかサウンド・プロデュースが得意だから、やってもらったらより伸びる部分があるかも”という感じで紹介していただいて。ドラムの林田さんは、ちょうどLIGHTERSが自分たちで前進するためにいろんな人とやってみたい、って考えていた時期に、Ykiki Beatでシンセをやられていた野末さんがWAREHOUSE TRACKSで社員として働いていて、野末さんに紹介していただきました。皆さんに支えていただきながらリリースできました」

――こういう風にチームになって制作するのって初めてでした?
R 「ここまでがっちりとチームっていうのは初めてです」

――どうでした?ふたりの枠を超えてチームで制作というのは?
R 「安心感がすごくあって、さらに集中できました。あとはやっぱり、自分たちでやってるとある方向になりがちだった部分が、そうじゃなくてこっちもいいんじゃない?っていうように、いろんな角度で考えられて、視野も少しは広がったかな、って思います。本当に学びがありました」

――プレッシャーは逆に感じなかった?期待に応えなきゃ、でもないけど、ちょっとしたプレッシャー。
R 「いい曲書かなきゃ!ってのはありましたねぇ。でも楽しめたのが大きかったので、そこまでプレッシャーは感じなかったです」

――制作を楽しめたっていうのは、いいですね!コロナ禍で集まって制作するのは、難しかったですか?
R 「気をめちゃくちゃ遣いながら、気を遣い過ぎず遣う、みたいな。アレンジの段階はデータを送り合って、どっちがいいですか?って聞いたりして、たまに見てもらうかたちで進めました」

――制作を通して一番大変だった部分は?
R 「今までは全部A面みたいなのをわりと意識して作っていたんですけど、『swim in the milk』みたいに10曲で全部A面みたいな曲にすると引き立たないというか、何を強調しているかわからなくなるので、『swim in the milk』では引き立たせたい曲と、フル・アルバムならではっていう曲のバランスについてはよく考えました。今までやったことがなかったのでけっこう苦戦して、ギリギリまで曲作りを続けるような感じで、長期戦だったっていうところですかね」

――緩急をつける、喜怒哀楽みたいなストーリー性を考えられたんですね。
R 「そうですね。一応サウンドトラックがテーマなので、その主人公の心理描写だったり、主人公が落ち込んだときに聴きたい曲として作ったり。負の感情は今まで出してこなかったので、そういう部分がしっかり出せたかなぁ、って思います」

――ちなみに、主人公が落ち込んだときに聴く曲はどれですか?
R 「“milkshake”です。“今日だけは許して”っていう(笑)」

――これまで多数質問されていると思うんですが、英語で歌詞を書かれてる意図はありますか?
R 「最初は日本語で作っていたんですけど、感情がうまく乗せられないというか、ダイレクトすぎて書けなくなってしまって。英語にしたら、けっこうバーッと書けるようになったんです。最初は日本語で書くんですけど、英語に直していくと何も気にせず書けるというのがあったり。あと自分の声質的にも、日本語よりも、上手ではないけど英語のほうがバランスが取れるかな、っていうのもあって、英詞にしてます」

――歌を乗せるにあたって試行錯誤されたんですね。制作を通して一番おもしろかったなぁっていう出来事はありますか?
R 「これは思い出というより、依存に近いかもしれないけれど、今回レコーディングした梅ヶ丘にあるスタジオは、コーヒーも出してくれるんですけど、あまりにもそこのアイス・カフェラテがおいしすぎて。3ヶ月くらいに分けて作業したんですけど、もう毎日、1日2回くらい飲んで。レコーディング終わってからも味が恋しすぎて、いまだに毎日いろんなカフェラテを飲み続けてます(笑)」

――やばい、中毒!いつか行ってみます(笑)。ちなみにカヴァーの女性は誰ですか?
R 「モデルのSakura Maya Michikiさんです」

――ジャケ写、映画のサントラっぽくていいですよね。含みがある感じで。
R 「含みを込めまくりました(笑)」

――海外ツアーはされたことあります?
R 「なくて、めちゃくちゃ行きたいなって思ってます」

――行くとしたらどこ行きたいですか?最初。
E 「最初……」
R & E 「とりあえず、アメリカ!」

――アメリカの場所的には?
R 「カリフォルニアですかね」

――海外ツアー行きます、カリフォルニア行きます、対バンするとしたら……?
R 「まずClairo(笑)。あとはbeabadoobee、Stephen Malkmus!」

――Clairoと対バンしてほしい!今、リリースも終わってホッとしているときかもしれませんが、バンドとしてやりたいことってありますか?
R 「ライヴはやっぱり、たくさんしたいなぁ、って思ってます。ツアーも11月に回るので、それもすごい楽しみだなって思ってます」

――日本全国、回っちゃいますかねぇ。
R & E 「回りたいですねぇ~」

LIGHTERS『swim in the milk』■ 2021年8月25日(水)発売
LIGHTERS
『swim in the milk』

CD LYRC-002 税込2,750円
https://FRIENDSHIP.lnk.to/sitm

[収録曲]
01. Little me
02. black moon
03. could be
04. you and me
05. Date at IKEA
06. coffee
07. milkshake
08. eternal sunday
09. Leave me alone
10. swim in the milk

LIGHTERS
1st full album『swim in the milk』Release Tour

| 2021年11月21日(日)
福岡 大名 秘密 | 開場 17:00 / 開演 17:30
前売 3,500円(税込 / スタンディング)
※ お問い合わせ: BEA 092-712-4221

| 2021年11月26日(金)
愛知 名古屋 Vio | 開場 17:45 / 開演 18:15
前売 3,500円(税込 / ドリンク代別途 / スタンディング)
※ お問い合わせ: JAIL HOUSE 052-936-6041

| 2021年11月27日(土)
大阪 東心斎橋 CONPASS | 開場 17:00 / 開演 17:30
前売 3,500円(税込 / ドリンク代別途 / スタンディング)
※ お問い合わせ: SMASH WEST 06-6535-5569

| 2021年11月30日(火)
東京 渋谷 WWW | 開場 18:00 / 開演 18:30
前売 3,500円(税込 / ドリンク代別途 / スタンディング)
※ お問い合わせ: SMASH 03-3444-6751

一般発売
2021年9月18日(土)-
※ おひとり様1回の購入のみで購入枚数制限4枚まで
※ 全公演電子チケットのみ
※ 全公演チケット購入時に同行者含め個人情報の入力が必要になります
※ 小学生以上はチケットが必要となります

企画 / 制作: WAREHOUSE TRACKS / SMASH
総合問い合わせ: SMASH