Interview | Mackie Osborne


違っているからこその、かけがえのなさ

 MELVINSのファンならば、彼らのユニークなアートワークを長年にわたって担当してきたアーティスト、Mackie Osborneの名前を目にしたことが、きっとあるはずだ。Buzz Osborneの妻である彼女は、これまでにMELVINSのみならず、他にも様々なバンドの作品を手がけてきており、MELVINSの盟友TOOLに関しても、あの特殊なパッケージ・デザインの数々に深く関わっている。

 Mackieは、2019年10月に来日公演を行なったMELVINSに同行し、ツアーに付き添うだけではなく、東京・八王子方面で新しいタトゥを入れたり、ついでに高尾山に登ったりもしたようだ。東京公演の会場となった渋谷 duo MUSIC EXCHANGEで彼女の姿を見つけ、その場でいきなりインタビューを申し込み、短時間ではあるが貴重な話を聞かせてもらった。以下にその時の対話を全文掲載しよう。


取材・文 | 鈴木喜之 | 2019年11月
通訳 | Toshi Kasai


――あなたがアートに携わるようになったのは、いつ頃からですか?

 「まず大学でコミュニケーションアーツとグラフィック・デザインを勉強して、卒業したのが1984年。それ以来、いろんなバンドのアートワークを手掛けるようになっていきました。あとは、広告でも、本でも、お金をもらえるなら何でもやった(笑)」

――あなたの代表的な作品と言えば、まずMELVINSの一連のアートワークになると思いますが、Buzz Osborneとはどのようにして出会ったのでしょう?
 「サンタクルーズで、MELVINSがHELMET、THE JESUS LIZARDと対バンしたショウを見に行って、その時バックステージで会いました」

――そのライヴは、何年くらいのことでしたか。
 「えーっと、一緒になって確か26年だから、26年前。西暦何年になるのかわからないけど(笑)」

――そうして、1994年にリリースされた『Prick』以来、ずっとMELVINSのアートワークを手がけてきたわけですが、彼らの作品に関わるにあたっては、特にどういう点を意識していますか?
 「アイロニーとユーモア、その両方の感覚を忘れないようにすること。間の抜けた滑稽な感じがする反面、ダークでちょっとヒネくれたところもあるっていうコントラストを出すようにしています。MELVINSが作る音楽も、ユーモラスだけど同時にシリアスでもあるでしょ。自分たち自身をユーモラスに捉える一方で、仕事に対してはプロフェッショナルで全力を注いでる。だから広告もプロらしく見えるデザインにする必要があるわけ。“MELVINS”(のロゴ)はビッグじゃなきゃダメだしね(笑)!でも基本的には、いろんなアイディアを試しながら遊ばせてもらっている感じで、どのプロジェクトでも自由気ままにいろんなイメージを使って楽しんできました」

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――アートワークの素材を日頃から大量に集めているのではないかと思うのですが、どうやって揃えているのでしょうか?

 「作品によっても全然違ってくるけれど、自分で長年かけて集めてきたアートや切り抜きなんかも使ってるし、ネットのフリー素材ライブラリから画像を持ってくることもある。ストックフォトとかストックイラストレーションとかね。イラストレーションはほとんど使わないけど、フォトのほうは時々使ってるかな。とにかくいろんな場所から集めています。自分たちで撮影することもあるし」

――自分で絵を描いたり、ちょっとしたモノを作ったりといったこともしていますか?
 「場合によってはあるけれど、自分ではそんなにやらないかも」

――さて、先日リリースされたTOOLの最新アルバム『Fear Inoculum』の、あの前代未聞のアートワークにも関わっているそうですね。Adam Jonesが「Mackieは、すごく大事な役割を果たしてくれた」と証言していますが、具体的にはどういうことをなさったんですか?
 「TOOLの場合、いつもAdamが仕事の相手を選んでいて、絵に関しては大抵Alex Greyが起用されてるんだけど、その後の作業、つまりパッケージの中身すべてのアートワークを、今回はわたしが担当することになった。Alexの絵を直接使う場合もあれば、彼の絵に繋がりのあるものを用いる場合もあって……Alexが絵を2つ提供してくれて、さらにわたしたちのほうでももう1人、Joyce Suというイラストレーターを起用しています。彼女は幾何学的なアートを得意としていて、Alexの絵を使いながらJoyceともコラボレートして、時には彼女のアートをAlexのアートと組み合わせてみることもあった。Alexのイラストレーションをリカラーしたり、分解してたくさんのレイヤーに分けてアレンジし直したり……要は彼のアートを解体しながら、Joyceのアートの一部をAlexのアートの上にオーバーレイしてみる、なんていうこともやってみたし。そうやってイラストレーションに修正を加えながらどんどん加工してレイアウトしていった。実際のパッケージ自体もデザインしたんだけど、そっちは解体ではなくて組み立てゆく作業で、まずは実際にああいったものが作れる場所からリサーチする必要がある(笑)。ああいうパッケージはこれまで誰も手掛けたことがなかったから……少なくとも市販目的ではね。プロモーション目的でヴィデオ・ボックス(ディスプレイで映像を再生する装置を組み込んだパッケージのこと)が作られたことはあるけど、どれも非売品だし。だから実際にあのボックスが作れる会社を見つけて、すべての部品を作ってもらった後、別の会社でその部品を組み立ててもらうことになりました。つまり、ディスプレイをとある会社で作ってもらって、印刷と組み立てと出荷をまたそれぞれ違う会社でやってもらったわけ。TOOLと仕事をする時のわたしの役割は、常にAdamのアイディアを実現させることで、今回やったこともそのひとつ。Alex Greyの2作品とJoyce Suの数作品を材料にしながら、あたかももっといろんなものを使ってあるように見せた。実際はそれだけの材料で、カヴァーから36ページのブックレットやパッケージ全体まで作ったんだけどね。今回わたしが担当したのはそんなところ。現実的に組み立て可能なパッケージの形を見つけて、作って、装飾を施していくという仕事でした」

――実物の仕上がりを見て、どんな気持ちになりましたか?

Mackie Osborne
 「すごくいい感じに仕上がったとわたしは思ってるけど、あなたには見てもらえた?」

――はい、しっかり入手しました。
 「あら素敵(笑)!もっと余裕があったらよかったんだけどね、大急ぎで作ったから……本当に短時間で作らなければならなかった。もちろん満足はしてるけど、とにかく時間も含めて制限が多すぎて。ボックスのパッケージには3ヴァージョンあるんだけど、もっと違ったものも作りたかったな。だけど時間切れになった上に、プレスの段階で様々な問題が発生して……たとえば土壇場で印刷機の一部が全然使えなくなって交換するはめになったり、インクが注文した紙にうまく乗ってくれなくて、とんだ無駄になったりもした。最終日になって“マズい!”って話になって(笑)、最後の最後にいろいろ調整しなければならなかったり……かなりドラマチックな展開でした」

――やはり、とてつもなく大変な制作作業だったんですね。ところで、日本のアートには興味ありますか?
 「もちろん大好き」

――どういったタイプのものが?
 「全部好きだけど、日本の包装紙とかラッピングのセンスがすごく好き。あと好きなのが、ナラさんっていう……」

――ああ、奈良美智さんですね。
 「そう!あともう1人、大きく開いた口とか歯とか耳に特徴がある……ムラカミ、だったかな?」

――村上 隆かな?
 「彼も好きよ。ハローキティも好きだし、『カウボーイビバップ』や『AKIRA』みたいなアニメもすごく好き……『ゴジラ』もね!」

――そういったわけで、日本語も勉強していらっしゃるんですか?
 「んー、まあそうですね。日本の文化のいろんな部分が本当に気に入っています。食べ物も。日本食は最高!あとファッションも大好きだし、ファブリック・デザインも素晴らしいし、実際すべてがユニークで美しいと思う」

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――日本には何回くらい来たことがあるんですか?
 「たしか今回で6度目だと思う」

――日本滞在中にアートの素材を発見したりすることもあるんでしょうか。
 「もちろん!日本で見つけた玩具をモチーフにして、ナイフを持った女の子のTシャツを作ったことがあるし……他にもいろいろあるはず。知らず知らず影響を受けた作品もたくさんあるでしょうね。たとえば、このTシャツのキャラクターも、実はハローキティからすごく影響を受けています。こういうキャラクターの場合は、必ずハローキティが元になっていると言ってもいいかも」

――じゃあ最後に、これまでMELVINS関連で手掛けたアートワークの中で、特に気に入っているものを挙げるとしたら、どれになりますか?
 「わたしがやったもので?うーん……例えば『The Bride Screamed Murder』はかなり気に入ってるし、あと一番最近やったやつも、なかなか良かったんじゃないかな。なんていうタイトルだったか、たくさんありすぎて思い出せないんだけど(笑)。なにしろ彼らはこの25年間、レコードを山のようリリースしてきたから(笑)!でも最新アルバムは、タイトルは思い出せないけど良かったと思います。あなたは覚えてる?」

――『A Walk With Love & Death』……は、ひとつ前でしたね。『Pinkus Abortion Technician』か。
 「確かに『Love & Death』もなかなかいい出来だった。ピンクとオレンジをたくさん使っていて、60年代の影響を受けている感じ。最近は限定盤のパッケージングもたくさん手掛けていて、2台ある印刷機を使ったプレス作業を楽しんでいます。コンピュータと巨大な印刷機の前に座って……印刷機のひとつは1894年製の機械で、もうひとつが1950年代のものなんだけど、1度に1色ずつ紙に刷っていくから、すごく良い手作り感が出るし、印刷工程でできる紙の凹みの手触りが、またすごく魅力的で。古い印刷機だから刷る度に仕上がりが違っていて、だからこそ、ひとつひとつにかけがえのなさを感じてしまうんですよね」

Mackie Osborne official site | http://www.mackieosborne.com/