Interview | 沖 真秀 x テンテンコ with MATERIAL


『ラーメン物語 第1巻』刊行記念鼎談

 2021年4月より「AVE | CORNER PRINTING」にて初の漫画作品『ラーメン物語』を連載中のイラストレーター・沖 真秀(以下 O)が、その書籍版『ラーメン物語 第1巻』を6月22日に刊行。東京・高円寺 タタ bookshop / galleryでは同日から7月9日(日)まで刊行記念エキシビション「ラーメン物語第1巻展」が開催されています。

 本稿では、展示内の音楽を担当しているテンテンコ(以下 T)と、書籍のデザインを担当したMATERIAL(QUEER NATIONS | MGMD A ORG. | 以下 M)、そして沖の3名に、完成したばかりの『ラーメン物語 第1巻』を手にしながら、同作をめぐるあれこれについて語っていただきました。

取材 | 仁田さやか, 久保田千史 | 2023年6月
撮影 | 久保田千史

沖 真秀, テンテンコ | Photo ©久保田千史


――沖さんとテンテンコさんはいつからの知り合いなんですか?

T 「一番最初の記憶がまるでない気がする(笑)」
O 「共通の知り合いはもともといっぱいいて。たぶん『きけんなあなた』(2017)のイラストを頼んでくれたときにちゃんとしゃべった気がする」
T 「そのときか、そっか」
O 「それ以降ちょっと喋るようになった気がする」
T 「どこかでいつも会う人、会うと喋る人っていう感じかな」
O 「たしかに、クラブとかで会ってたかな。でも最初のほうはほとんど喋っていないと思う。人見知りだし」
T 「私も誰とでも喋れるタイプではないので」

テンテンコ『きけんなあなた』
テンテンコ『きけんなあなた』(2017)


――MATERIALさんと沖さんは?

M 「いやー、いつだろうねえ。テンテンコちゃんは間違いなく伊勢の2NICHYOUME PARADAISEで会ったっていうのは覚えているけど」
T 「そうだ!」


――先程みなさんにできあがったばかりの『ラーメン物語 第1巻』をお渡ししましたが、実際手にしてみてどうですか?

M 「第一声でデカいって言ったね。いい感じの仕上がりです」
O 「本文のリソグラフの質感が、思っていたよりも良かった」


――リソで印刷したところを写真に撮っておふたりにはお送りしていたのですが、写真と実物がわりと違って見えるんですよね。

O 「絵の質感がもうぜんぜん違う。当然だけどウェブではこの質感は得られませんよね」
T 「紙の感じもすごくいいな、って思いました。いつも携帯で読んでいたので、本は全く印象が違って迫力がヤバいです。めっちゃデカ!って思いました」
O 「いいコメントするね(笑)」
T 「迫力がほんとヤバくて、ちょっと笑っちゃうくらいでした」
O 「絵に迫力ある(笑)?」
T 「タバコを咥えているだけでも、絵力が強すぎて」


――お金がばら撒かれるシーンはやっぱりこのサイズがいいですよね。

T 「私は“フードコート”のコマが好きです。大きくなったことで、ヤバって気づいて。携帯で読んでいるときは内容として認識していたけど、デカくなるとひとつの絵としてヤバい。大きいと、このコマの枠の線とかもはっきり見えていいですね」

沖 真秀「ラーメン物語」第4話 | 行くアテの巻 | 3
沖 真秀『ラーメン物語』第4話「行くアテの巻」より


――沖さんは、もともとはどれくらいの大きさで描いているんですか?

O 「A4のコピー紙に鉛筆で下描きして、それをペンでトレースして、スキャンしてPhotoshopで色をつけて。無駄に手間なんですよね。iPadとかで一発で描いたらすぐに仕上げられると思うんですけど」
T 「大きいと、手描き感がすごいですね。リソの感じでそう見えるのかな?」
M 「いや、データでも手描き感すごいんですよね。外枠の線はぜんぜん正確な四角じゃなくて」
O 「俺は定規で正確に測っているつもりなんだけど。蓋を開けてみたらめちゃくちゃ斜めってる(笑)」
T 「最高だな(笑)」
M 「データにしてみたら、ひとつもガイドの中にはまらなくて。だからなんとなくひとつひとつ微調整して」
O 「すんません」
M 「いや、ぜんぜん大丈夫」
T 「集中線がコマからちょっとはみ出ている感じがたまらないですね。こういうのがいっぱいあって」
O 「そういうのもね、場所によっては消したりしているんだけどね」
T 「そうなんだ」
M 「書籍化にあたって加筆修正されてるよね」
O 「1話目はぜんぜん色を使ってなくて。なんか真っ白で。土管とかも白かった。だから色をちょっとつけたりして」


――初期からの変遷が1冊でわかる。

T 「最初と顔がぜんぜん違いますよね(笑)」
O 「いやマジで違いすぎるんだよね」
T 「これはわざとやっているのかと思った」
O 「いやいやいや。気付いたらなっていた」
T 「『ドラえもん』意識かと思った」
O 「やっぱり自然とこうなるんだ、って思った。漫画あるあるで、漫画のキャラって段々と丸に近付いていくらしいです。最初は細かいところまで描き込むんだけど、描いていくうちに無駄を省くようになって、丸に近付いていくらしい。自分もご多分に漏れず漫画家体験をしました」
T 「たしかに、いろんなキャラクターをマスコット化するとなんでも丸くなっている気がする」
O 「『ラーメン物語』はそれが数話で起きてるからね(笑)」

沖 真秀「ラーメン物語」第1話 | ラーメン誕生の巻 | 1
沖 真秀『ラーメン物語』第1話「ラーメン誕生の巻」より


――たしかに、1巻の中で、っていうのはあまりないかも(笑)。

M 「これからもどんどん変わるかも」
O 「跡形もなくなるかもしれない(笑)」


――ストーリーはどう考えているんですか?

O 「書き始めたときと今ではまた違うんですけど。一応は一度ミーティングしたけど、初回の打ち合わせのときに言っていた内容とぜんぜん違うものになっていて」


――最初はフードコートに行って、そこで繰り広げられる物語になる予定でしたよね。

O 「日常系漫画っていうか」


――そのはずが、フードコートにぜんぜん辿り着かない(笑)。いつ辿り着くんだろうって。

O 「勝手にバトルものになっちゃって(笑)。だから何も構想がないまま始めちゃって、1話毎に考えてました」
T 「そうなんだ」
O 「ていうか今も。例えば今、ウェブの連載のほうは“寿司バトル編”をやっているんですけど、最初に魚を調達して、次に米を取りに行ってみたいな、プロットとしてはそれくらいのものしかなくて。行き当たりばったりで脈絡のない話の連なりだから、最初は1冊にまとまるとすごくちぐはぐになるんじゃないかという懸念があった」


――そもそもは、以前沖さんが子供向けの塗り絵用に描いていらっしゃったラーメンのキャラクターかわいくて、あの子を主人公にしたらいいんじゃないか?っていう話からスタートしましたよね。

O 「そうでしたっけ。ぜんぜん忘れてる」
M 「ラーメンが他のものに描かれてたんだ?」
O 「うん、漫画以外で描いた元のイラストがあって。デザイン的にはあまり変わらないけど」


――新しいキャラクターがどんどん出てきますが、どういうときに思いつくんですか?

O 「キャラを作るのは得意でして。その都度パッと考えてます。話の内容が薄いぶん、いっぱいかわいいキャラを出したら楽しいなと思って」
T 「楽しい」


――よく漫画家が言う「キャラに突き動かされる」的なことはあるんですか?

O 「そうですね。キャラ任せです。キャラを一発登場させて、反応を待って、みたいな。キャラで話が進んでいくところはある」
T 「いろんなキャラが出てきて、風呂敷広げまくってそのまま進んでいっているじゃないですか。それにすごく快感を覚えていて(笑)」


――ウェブ連載のほうでは、第40話「名刀スピ宗の巻」で回収じゃないけど、ちょっと、ありますよね。

O 「ちょっとカマしてますね(笑)。これアガるっしょ、みたいなのを、初めて出してみました(笑)。自分で描いていて、これか!ってなった」

沖 真秀, テンテンコ | Photo ©久保田千史


――おお!って思いました(笑)。

T 「いっぱいいますからね、キャラ。何がどうなるんだろう?」


――これからもいっぱいキャラが出てくる?

O 「出てきます」
T 「めっちゃうれしいです(笑)。キャラ好きなので、普段から。でも、なんでも好きなわけではなくて、これとそれを一緒にしないで!っていうのがあったりする。でもラーメン物語に出てくるキャラは全部好き。ちょうどいい。かわいい、かわいくない、かっこいい、ダサいとかのバランスが全部いい感じな気がします。バランス感覚がすごい。でも計算して緻密にっていうよりも、剥き出しだな、って勝手に感じていて」
O 「僕は基本的にはイラストを描く仕事や、たまにアートっぽいものの展示をやったりもしていて、それぞれに少なからず何かしらの意図みたいなものがあってやっているんですけど、正直『ラーメン物語』に関しては自分でもなんでやっているのか意味がわからなくて。もちろん原稿料をいただいているし、仕事としてやっているっていうのは大前提としてあるんですけど、仕事にしてはサービス精神があまりないし、客観的視点も弱い。エンタメとして消化しようと思ったら、もっとやりようがあると思うんです。話の作り込みだったり、キャラのデザインだったり。そういう意識があまりなくて、ずっとダダ漏れな感じでやっています。かと言って、自分を表現しようっていう意気込みもなくて。さっき言ったように、成り行きで毎回やっているから、マジでなんでやっているのかわからないし、仕上がったものも無味無臭というか。意図がわからないですね。それがたぶん周りにも伝わっているというか、この漫画に関しては2年以上描いていても周りの反応が全然ないし、誰も読んでないんじゃないかなって思うほどで(笑)。エンタメでもないし、個の表現でもないから、受け取る側もどう捉えていいものなのか判断しづらいのかもなって」
T 「ちらっとTwitterに書いたんですけど、この連載をやっていること自体がすごいし、ヤバいと思っていて。こういうのが続いているのが嬉しくて。今って、強くてわかりやすいものが多いじゃないですか。こういう、ちょっと捉えどころのないものって、ない。もしかしたら描いた本人含めて誰も捉えていないかもしれないんですもんね」
O 「AVE | CORNER PRINTING以外の媒体、もしくは個人で自主的に漫画を描くということになったら、こういう感じにはなっていないかも。もっと色々と作り込んでいるかもしれない。一応締切があるのでやらないと、と思ってやっていたらこうなっていた、ということなんですけど。でも、なかなかそういう機会ってないし、贅沢なことで。たぶん普通の出版社だったらこんな内容の薄いもの載せられないってダメ出しされて、このままの状態で世に出ることはないと思うんですよね。同時に、個人でウェブ漫画の連載をされているかたとかだと、もっとエンタメに振り切るか、もしくはすごく個人的なことを表現としてしっかりデザインした上で世に放っている気がして。『ラーメン物語』みたいなどちらにもなり得ない中途半端なものはなかなか世に発表する作品としては成立し難いから、意外と世に出ていないと思うし、意図したわけじゃないけど、さっきテンテンコちゃんが言ってくれたようなものになっている気がする」


――漫画をいつか描きたいという気持ちはあったんですか?

O 「ないことはないんですけど、漫画って大変だろうな、と思っていて。描いてみて、こんな絵ですらやっぱり大変で。背景はほとんど描いていないけど、キャラをいろんな角度から描くのとか。お話も考えないとだし、コマ割りとかも。それに、イラストレーターである自分的に、漫画を描くってどこかちょっと小っ恥ずかしさや畏怖の念もあったので、お話をいただいていなかったら描いていないですね」
T 「ちょっと失礼かもしれないんですけど、小学生のときに自由帳に漫画を描いている人っていたじゃないですか。すごくおもしろいのを描いている人もいて。そういうピュアさも含めて、それの超進化版だなって(笑)」
O 「スーパー小学生(笑)。サイズ感も自由帳に近いし」


――小学生の頃に漫画は描いていましたか?

O 「もっと小さい頃に、話にもならない話みたいなのはたぶん描いていましたね」
M 「えっ、オリジナル・ストーリー?」
O 「うん。みんな描いてなかった?」
T 「私は描いてました」
M 「『ドラゴンボール』の模写みたいなのはしてたけど」
O 「なんかキャラを作って」
M 「いやー、やってないなあ。記憶がないな」
T 「ほぼ棒人間みたいなキャラだけど、4コマみたいなので描いてた。想像ですけど、鳥山 明は『ラーメン物語』を羨ましがりそう」
O 「羨ましがらんやろ(笑)」
T 「あの人のエッセイ漫画とか読むと、すべてのしがらみにムカついていて、純粋に描きたいって思っている感じだから」

沖 真秀, テンテンコ | Photo ©久保田千史


――たしかに、こういう境遇にはないでしょうね。

M 「でも、ストーリーのユルさみたいなものは、鳥山 明が最近やりたい感じで描いているものにある意味近い気がする」
T 「そうかも。ザ・王道じゃないですか、やっていることは」
O 「ははは」
M 「鳥山世代だからね」
O 「完全に鳥山世代」


――フードコートにぜんぜん辿り着かないのと同じで、『ドラゴンボール』も、最終的にはドラゴンボールは関係なくなってるし。

M 「もう少ししたら筋肉質になっていくかも(笑)」
O 「道着を着たり(笑)?」


――そうやって1話毎にそのときの気分で描いているということは、沖さんの人生が反映されているということですよね?

O 「はい、されています」


――具体的にそういうのがわかるシーンはありますか?

O 「そのときの気分というよりも、ぱっと目に入ったもので広げるパターンが多い」
M 「アメリカンドッグがよく出てくるけど、アメリカンドッグの話も最近よくしてたよね(笑)」
O 「アメリカンドッグっておもろいじゃないですか」
M 「アメリカにないし」
O 「すごくバカバカしいし、おいしい。ここに来る前、時間があまりなかったからコンビニに寄って食べてきた。腹にも溜まるし、安いのよ」
M 「最後のカリカリもうまいよね」
O 「完璧な食べ物」
M 「完全食(笑)」


――アメリカンドッグもそうですけど、漫画に出てくる重要なアイテムといえば、“ネオエレクトリックジェットハイテクシューズ”(第19話「ハイテクシューズの巻」参照)ですよね。表紙にいっぱい文字が描いてあるって気付きました?

T 「わ、ほんとだ、ヤバー!あの靴だ!」
M 「このセリフが超重要。“ネオエレクトリックジェットハイテクシューズ”ってすごいと思って、スペルを確認したよね」
O 「最初、何を言っているんだろうって思った(笑)。もはやこの名前も忘れていて、何の話?って思った(笑)」

沖 真秀「ラーメン物語」第19話 | ハイテクシューズの巻 | 1
沖 真秀『ラーメン物語』第19話「ハイテクシューズの巻」より


――それこそ小学校の自由帳に描いていた的な発想ですよね(笑)。

M 「“ネオ”が入っているのが最高で。1巻の区切り的にも重要なアイテムだから、これでテキスタイルを作ったらおもしろいと思って。だからハイテクなデザインにしようと思った。ハイテクなフォントを使いたくて(笑)。持っているけど一度も使ったことのないハイテク・フォントにしたんだよね」
O 「マジでこのフォントきたーって思った(笑)。憧れの」
M 「そう、憧れの」
T 「このフォントは勇気を感じました(笑)」
M 「ラーメンの目のところに文字がちょっと透過していて、それもまたいい」


――“ネオエレクトリックジェットハイテクシューズ”を登場させたきっかけは?

O 「なんでだっけな」


――小学生視点では、いろいろな機能がまとまっているものへの憧れもありますよね。

M 「マイナンバーカードとか?マイナンバーカードへのアンチテーゼかと思った」


――たしかに……。いやいや、ビクトリノックスとか。80s後半から90sって、そういうのがいろいろあった気がする。

M 「ボタンを押すと鉛筆が出てくる筆箱とか」


――横からルーペが出てくるとか。

O 「そういうところの影響は確実にあるでしょうね。あとは、物語で後々、機能として使えるかなと思って」
T 「まだ使ってないボタンいっぱいあるもんね」


――たしかに(笑)。

T 「めっちゃボタンあるもん」


――ボタンが多いものへの憧れもありません?

M 「あるある。それがいつか生きてくるかもしれない」
O 「足にタイヤが付いているっていうのは、『魔神英雄伝ワタル』(1988)っていうアニメがあったんですけど、主人公がローラースケートを履いていて。あれがかっこいいっていうので憧れていて」


――じゃあでかい刀は龍神丸的な?

O 「あ、それはあると思います」
M 「サンシャイン池崎が持っている刀(サンシャインブレード)にも似ている」
O 「でもなんかこの刀の感じは、脈々とあるよね。『ファイナルファンタジー』の主人公がこういう剣を持ってた」


――『ベルセルク』のガッツもこういう感じ。

O 「ああ、そうですね」


――『魔動王グランゾート』(1989)は観ていました?

O 「観てなかったですね、名前は知ってるけど」


――『NG騎士ラムネ & 40』(1990)は?

O 「それは知らないですね」


――そっか。『キャッ党忍伝てやんでえ』(1990)はどうでしょう。

O 「それもわからないですね」
T 「あ!1話だけみた。ayU tokiOさんに教えてもらって知って。絵が最高で」


――江戸時代風の世界が舞台で、猫型ロボット忍者が出てくる。最近、そういうむちゃくちゃな設定のものってぜんぜんない気がする。

T 「たしかに、現実的なのが多いかも。昔の漫画とかテレビ、映画って平和だなって思うことがあるんですけど、そういうのが今ないかもしれないですね」

沖 真秀, テンテンコ | Photo ©久保田千史


――そういう平和を求める気持ちがこの漫画に出ているのかな?

O 「特に出てない気がしますけどね(笑)。でも僕、冗談半分で“私小説漫画です”ってTwitterでつぶやいたことがあったんですけど、あながち間違っていないというか。さっきテンテンコちゃんに言われた“剥き出しの感じ”っていうのは的を射ていると思っていて。勝手にイベントが発動するけど、ぜんぜん劇的なことが起こらないとか、思ったより地味な着地の仕方をするとか、そういうのがけっこう自分的にリアルで。僕はわりと成り行きで生きてきてしまったから、ラーメンも周りに出てくる人間たちに振り回されて、事が勝手に進んでいっちゃう感じが自分と被るところもあって。あまり自分で大きな選択をしないまま、その時現れたきっかけにほとんど抗うこともなく、流れ流れて今こういう状態になっている。それは決して自分の人生を誰かのせいにするということではなく、自分の選択以上に、生きている中で出会った人やものによって自分の人生が転がっていて、気づいたらこんな場所にいたっていうのをおもしろがっている節がある。そういうのが自然と出ているのかもしれないですね」


――ドラマチックなことが起きないとはいえ、出来事としては、ひとつひとつがドラマチックですよね(笑)。

T 「でもノリは淡白」


――沖さんの人生がそうなんじゃないかな?って思って。

O 「けっこうそうですね。ロマンチックなところもあるとは思うんですけど、でも極端に冷めているところもあるし、楽しいなって思った次の瞬間、死にてーって思ったりとか。そういうのってあるじゃないですか。そういう感じが出ちゃっているんだと思います」


――改めて、ウェブでの連載が紙になってどうですか?

O 「ウェブでの見せかたというか、一話ごとにオチがあるように作っていて、行き当たりばったりに紡いできた話だから、それがまとまったときにどう見えるかが最初はわからなかったけど、本になってみて意外と違和感はなかったし、ようやく作品を俯瞰できた。これも結局はダダ漏れた自分の意識の放流であり、一本の筋は通っているんだなって」
M 「ぜんぜん違和感はないよね。書籍化するにあたって、ウェブ連載とは別に、書籍ならではの区切りを作っていて。それがもう、最初からそうだったみたいになっていると思う」


――扉のデザインができたときに、藤子不二雄A感があるっていう話をしていましたよね。

T 「2の扉の絵がすごく好き」
O 「タバコとおしゃぶり」
T 「この組み合わせ、めっちゃかっこいい」
M 「僕は、今回デザインするにあたって改めて見返した資料はあるけど、参考になりそうな漫画本とかは見ずに、頭の中にある元ネタみたいな記憶だけで、ほとんど想像で作った。こういう(扉絵の数字に使用した)、自分たちが小学生の頃に読んでいた漫画に使われている感じのスクリーントーンを使いたいと思って」
O 「歳が一緒っていうのがあるからか、要所要所で出てくるデザインの感触が、“あ、わかる”ということばかりで、腑に落ちるとしか言いようがなかった」
M 「もっと今っぽいか、あるいは逆にもっとオマージュに傾くか、どっちもいけるけど、そうじゃないと思って」
O 「鈴木くん(MATERIAL)にお願いして、鈴木くんが普段作っているような今の時代性みたいなものを加味したデザインになるのか、どうなるんだろう?って思ったけど、なんかすごく自然で」
M 「ものすごく自然になってるね」
O 「でも鈴木くんならではの積み重ねだったり、アウトプットのしかたが絶妙に出ていて、いい湯加減」
M 「自分でもいい湯加減だと思う」
T 「たしかに、どこかで見たことがあるようで、違和感あるし。最後の2ページもヤバいですよね。ここは問題のページすぎて……」


――それに関しては買ってからのお楽しみということで、詳しくはここでは伏せておきましょう(笑)。

M 「一番最初の打ち合わせで、架空のカップラーメンの広告を入れたいっていうのは言ってましたよね。それをとにかくやりたくて」
T 「めっちゃいいですね〜」
M 「“ケンちゃんラーメン”のプレゼントがボールペンだったから、“ラーメンボールペン”は僕のメモ帳の最初に書いてある。“ケンちゃんラーメン”のボールペンは当たったから持っていて。あれ当たらなかった?」
O 「いや、当たってない(笑)」
T 「質感自体は日本の広告っていう感じだけど、広告が入っている感じがアメコミっぽい。次回の予告も最高ですね」
M 「とにかく、今まで好きだけど使う機会がなかったフォントを使えたのが良かった。これを打ち込んだときはマジで嬉しくて。見たことある気がする!って。当時めちゃくちゃ使われていて」
O 「中国四千年の歴史風のフォントね(笑)」
M 「これは嬉しかったな」


――高円寺 タタ bookshop / galleryでのエキシビション「ラーメン物語第1巻展」の音楽をテンテンコさんが担当されているということで、そのことについてもお聞きしたかったんです。

O 「テンコちゃんがやっぱり一番最初からフックアップしてくれていたから。本当に、ステマ?っていうくらい謎に応援してくれていて」
T 「なんなんでしょうね?私。最初からわーってなって」
O 「だから、これは本が出る際には何かしらで関わってもらいたいと思っていて、BGMをお願いした次第です」


――BGMの構想は?

T 「読んだ印象だけで作っていて。ラーメン物語ってすごく音楽っぽいですよね。ネタやモチーフがたくさんあって」
O 「音楽好きなので」

沖 真秀, テンテンコ | Photo ©久保田千史


――展示はどういう感じになる予定ですか?

O 「この1巻の原画を全部壁に貼って」
M 「じゃあその場でも読めるってこと?」
O 「順番はバラバラ。あとはコマを引き伸ばしたものを何枚かと、あとラーメンの立体」
M 「おお、実寸大ですか?」
O 「そう」
M 「どれくらいの大きさ?」
O 「体はラーメンのどんぶりの大きさ」
T 「ラーメンってその大きさなんだ。かわいい〜」
O 「あとはキャラのパネルや本編にまつわるオブジェなどをインスタレーション的に展示します」
T 「楽しみにしてます」
M 「そうだ、ラーメンが真っ白いキャラだって知ってる?」
T 「え?どういうこと?」
M 「僕、衝撃を受けたんですけど、上の具も全部真っ白なんだって」
T 「え!」
M 「他のキャラはある程度色がついているから、それに合わせて普通に考えると具とかスープには色がついてそうだけど、ついてない」
T 「え、なんで」
O 「真っ白のキャラが好きだから」
M 「グッズを作るときに、真っ白だっていうことを教えてもらって。下手にナルトとかタマゴとかに色をつけたくなっちゃうけど、そうじゃないっていう。全部真っ白だと思うと、またいろいろ見かたが変わってくるというか」
T 「ヤバい。勝手にラーメンの上のところ実写的に想像してた」
M 「だよね、アンパンマンみたいに色ついていると思ってたよね。だけど、全部白いっていう」
T 「卒倒する(笑)。アニメ化するときにびっくりするね」
M 「アニメ化するときの違和感ってあるじゃない。思っていた色と違うとか」
T 「それの最たるものだ。それは何か元ネタというか、あるんですか?」
O 「白いキャラが好きなんですよ。Casperとか、SoF’BoYとか、あまり色がついていない、シンプルな白いキャラが好きだから、それにちなんでラーメンも白にして」
M 「ヤバいよね」
T 「ヤバい。展示にある立体も、もちろん白?」
O 「そう」
T 「えー、どうなっているか楽しみです」
M 「実写化の予定はないですか?」
O 「アニメ化もされていないのに実写とは(笑)」
T 「やってほしいな」
O 「MARVELでやってくれないかな〜」
M 「ラーメンどんぶりがこれくらいっていうことは、これくらいの背丈なんだね。そしてシューズがこれくらい?」
T 「ちっちゃいな〜」
M 「あのへんからテクテク歩いてくるって想像すると、ヤバいね(笑)」
T 「膝から崩れ落ちるー(笑)」


――そして白い。

T 「めっちゃいい!歩いているだけで」

沖 真秀 Instagram | https://www.instagram.com/mashuoki/
テンテンコ linktree | https://linktr.ee/tentenko
MATERIAL Instagram | https://www.instagram.com/material_tyo/

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作・画 | 沖 真秀 第1話 | ラーメン誕生の巻

沖 真秀『ラーメン物語 第1巻』 | IPTO-008■ 2023年6月22日(木)発売
沖 真秀
『ラーメン物語 第1巻』

AVE | CORNER PRINTING
Book | 税込2,000円(1,819円 + 税)
B6判 | 108頁 | 本文 リソグラフ | 表紙 オフセット印刷

印刷・製本協力 | CORNER PRINTING SELF

※ 印刷の特性により、擦れや色移り等が生じる場合がございます。ご了承ください。

第1話「ラーメン誕生の巻」 | 3
第2話「ケルトとコブラの巻」 | 17
第3話「決着の巻」 | 33
第4話「蟹と忍者の巻」 | 52
第5話「バレンセヤナの巻」 | 63
第6話「宇宙の風の巻」 | 82
番外編 | 98
キャラクター紹介 | 104

※ タイトルが初出時とは異なります。

著者 | 沖 真秀
装丁・デザイン | MATERIAL (MGMD A ORG.)

沖 真秀
ラーメン物語第1巻展

2023年6月22日(木)-7月9日(日)
東京 高円寺 タタ bookshop / gallery
〒166-0002 東京都杉並区高円寺北2丁目38-15
13:00-21:00 | 月火水休廊