Review | 誰かの子供である | 東京・世田谷「カフェ アンジェリーナ」

文・写真 | 相谷レイナ

　20代の全てを夜型で過ごしたわたしは、夜が心地良くて、夜にしか書けない曲や歌詞にも助けられ、基本的には夜が好きだった。でも、まるで時間を埋め合わすかのような、どのチャンネルを回しても愛用者の声しか流れてこない深夜4時台のテレビに嫌気が差していた。

　この夏だけは、深夜の時間帯こそがゴールデンタイムかのような錯覚に陥る。いつもはテレビ・ショッピングしか流れない時間帯のテレビに、誰の目から見てもがんばっていると伝わる人々の勇姿が映し出される。「時差、ありがとう」と思いながら今までは静寂を埋めるBGM代わりで流していたこの時間帯のテレビに釘付けになる。

　ふと、この素晴らしい勇姿を見せてくれている人々も“誰かの子供である”ということを考える。親御さんはパリに応援に行けているのだろうか、なんて考える。それと同時に、私の苦手なあの人も、嫌いなあの娘も“誰かの子供”で、どこかにその人のことを大切に思っているであろう“親”がいることも考える。そうしたとき、簡単にはその相手のことを苦手だ、とか、嫌いだ、なんて思えなくなってくる。

　それはテレビ・ショッピングに対しても言えることで、この出演者たちも“誰かの子供”だし、そもそもこの仕事によって食卓が潤ったり、欲しいものを買えたり、ああ、そんなことを考えているとテレビ・ショッピングへの愚痴さえ言えなくなってくる。

　優しい世界、とは想像力の豊かな世界なのでは？という気持ちになってくる。相手の背景を知ろうとすることで、ポッと生まれ出た一時的な黒い感情も次第に白んでゆく。余裕がないときは人とぶつかりがちだとも言うが、余裕がない人には想像する暇もないのか、と変に合点がいった。

　きっと、毎晩、毎深夜繰り広げられる人生を懸けた戦いに良い意味で影響されているのだろう。ピリピリとした気持ちを捨てて、苦手な朝を最近は気持ちよく迎えていた。

　そんな気持ち良い朝、日曜日の朝。世田谷まで青い自転車を走らせてゆっくりとランチを味わった。世田谷通り沿いに位置する「カフェ アンジェリーナ」へ。

　つい先日まで若林駅付近に住んでいたというのに全くノーマークだった喫茶店。年季を感じられる店内が心地良く、漬けられた梅や壁に入るひび割れ、ひとつひとつに気持ちが高まっていった。

　ランチ・メニュー、ドリンク・メニュー共に豊富で、『天使のハンバーグ』ランチを頼んだものの、その数分後にはお肉料理ランチ・チーズ入りミルフィーユカツに惹かれている自分がいた。どのメニューも魅力的すぎて身体がひとつでは足りない。

　1番人気という『天使のハンバーグ』の到着を待つ。

　ほどなくして『天使のハンバーグ』、ライス、スープ、アイスコーヒーが到着!!!!! うん…….いい香りだ……。

　ハンバーグをひとくち。ワインの香りが華やかで、ほろりと口溶け柔らかなハンバーグ。ソースにはマッシュルームや玉ねぎも溶けていてとっても美味しい。付け合わせのサラダやスープの手作りのおいしさに癒されていく。アイスコーヒーはさっぱりとした風味で食事によく合う。

　たったの1日では味わい尽くせない魅力の詰まった空間だった。

　若林に住んでいたのにこのお店を知らなかったように、世界は自分が思っている以上に広く、おもしろいことがきちんと溢れている。自分から世界を狭めている場合ではない。生きていられる時間が有限だからこそ、おもしろいコト / ヒトを追求して生きていきたい。

　“誰かの子供”なんてことに敏感になったのは、わたしがお父さんお母さんの子供になってちょうど30年の節目だったからかもしれない。こんな幸せなわたしに育ててくれて、産んでくれてありがとう。

　感謝を胸に、まだまだ人生を楽しみ尽くしたい所存。がんばりますね。どろんっ。

〒154-0017 東京都世田谷区世田谷1-15-12

11:30-26:00 | 月定休

※ 営業時間は変更となる場合があります。

■ 2024年1月31日（水）発売
相谷レイナ
『TIME MACHINE』
https://lpm.yoshimoto.co.jp/104796/

［収録曲］
01. Come to my bed feat. Ole
02. Sunset
03. 私Holiday feat. IKE, chancylemon, TBS'93
04. タイムマシーン
05. Dance in the night feat. ChibiChael