Review | 長野・小県「黒耀の水」


文・撮影 | あだち麗三郎

 今回のご紹介する水場は、長野県諏訪湖のあたりにある「黒耀の水」。近年、一番好きだった埼玉・秩父「小鹿の水」の味が変わってしまった結果(理由は不明だ)、この「黒耀の水」が世界一美味しい水だと思っている。柔らかさと甘みがよくブレンドされていて、「水の違いなんて……」と言う友人も飲んだら一変「いや……この水は明らかに美味い」と驚くほどのわかりやすく美味しい水だ。休日には、近隣や東京からも汲み人で絶えない人気の水場だ。

長野・小県「黒耀の水」 | Photo ©あだち麗三郎

 さて、先月この諏訪のあたりを訪れたついでに、近くの茅野市にある茅野市尖石縄文考古館を訪れた。「縄文文化が好きなら絶対行ったほうがいい」と友人に勧められていたのを思い出し、ふらりと立ち寄ったのだ。

 素晴らしい縄文土器と土偶が大量に展示されており、中でも他の博物館と違っておもしろかったのが、「下手な土器」と称されたエリアだった。「土器作りの見習いの人たちが焼いたものと推測される」との説明。岡本太郎大好きマインドとしては、そういう下手な土器にこそパワーがあるのでは……と期待して見たのだけれど、それまで展示されていた縄文土器に比べると、中心が定まっていないというか、焼き方もまばらだったり、模様もなんだか中途半端。そんな土器たちが数千年の時を経て、未来人にそんな評価を受けることになるとは、本人たちは全く思わなかったことだろうが。

 その後、“上手な”縄文土器エリアに戻ると、やはり宇宙や自然とつながるような感覚があり、縄文の頃から、プリミティヴなパワーを表現するのにも多少は技術が必要だったのだな……と思い、技術不足の自分を内省。「下手な土器」エリアがあったおかげで“上手な土器”のエリアがさらに素晴らしいものに感じるという、まるでスイカに塩をかけると甘くなるような、桃に梅酢をかけて食べると抜群に美味しくなるような、非常におもしろい仕掛けだった。資料館側は特に意図していたかどうかはわからない。

 資料館一押しの土偶である『仮面のビーナス』は内的宇宙を遠くから眺めるかのような凄まじさだった。全身に描かれた文様は全身を巡るエネルギーで、なんだか空に並んだ五臓六腑の星座のようにも、果てしない時間を表しているようにも見える。女性器が描かれているのだが、それらすべての内的世界と外的世界との扉のようにも感じた。人間とはそうやって内的世界と外的世界の中間を生きているんだなと思ったのだ。最近、内界と外界のバランスこそがその人をかたち作っているのではないかと考えている。そのバランス感がその人の性格とか、性質に現れているような気がしている。

 さて、そんな芸術品以外に、黒耀石を使った武器や道具も展示されており、今回の「黒耀の水」も、そんな黒耀石の地層に湧く水であり、黒耀石の特殊なミネラルが溶け込み磨かれた水である。いやあ、本当に柔らかくて美味いのでぜひ飲んでみてほしい。縄文人はなぜ諏訪のこんな寒いところに住んだのだろう、と不思議だったが、彼らもこの美味しい水の味に惹かれたのではあるまいか。当時の黒耀の水はどんな味だったのだろう。そんな風に思いを馳せながら飲むとより一層美味い気がする。

あだち麗三郎 Reisavulo Adachi
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あだち麗三郎音楽家。からだの研究家。
人類誰もが根源的に自由で天才であることを音楽を通して証明したいと思っています。
1983年1月生まれ。少年期を米アトランタで過ごしました。
18歳からドラムとサクソフォンでライヴ活動を始めました。
風が吹くようなオープンな感覚を持ち、片想い、HeiTanaka、百々和宏とテープエコーズ、寺尾紗穂(冬にわかれて)、のろしレコード(松井 文 & 折坂悠太 & 夜久 一)、折坂悠太、東郷清丸、滞空時間、前野健太、cero、鈴木慶一、坂口恭平、GUIRO、などで。
「FUJI Rock Festival ’12」では3日間で4ステージに出演するなどの多才と運の良さ。
シンガー・ソングライターでもあり、独自のやわらかく倍音を含んだ歌声で、ユニークな世界観と宇宙的ノスタルジーでいっぱいのうたを歌います。
プロデューサー、ミキシング・エンジニアとして立体的で繊細な音作りの作品に多数携わっています。
また、様々なボディワークを学び続け、2012年頃から「あだち麗三郎の身体ワークショップ」を開催。2021年、整体の勉強をし、療術院「ぽかんと」を開業。