Interview | イラストレーター りかちゃん


絵を描いてるときはテンション高め

 ファッション・ブランドとのコラボレーション、お笑い芸人やアイドルのグッズ・デザイン、音楽イベントのフライヤー・デザイン、雑誌へのイラスト提供など、さまざまな分野で活躍し、個展やポップアップ・ショップも多数開催しているイラストレーター“りかちゃん”。近年では、ゆりやんレトリィバァ、ファッション・ブランド「merry jenny」とのコラボレート・アイテムや、サーキット・イベント「shimokitazawa SOUND CRUISING 2018」のキー・ヴィジュアル、東京・中野の雑貨店「中野ロープウェイ」の名刺、レジ袋などを手がけています。女の子や動物を中心に描かれる多種多彩、キュートでユーモラスなイラストを描くりかちゃんの脳内はどうなっているのか!? 5年ほど前からフリーランスで仕事をしているというりかちゃんの、愛猫“ねるくん”と暮らす自宅兼仕事場からリモートでお話を聞きました。

取材 | ナポリタンみみこ | 2021年1月
文 | 仁田さやか
撮影 | 久保田千史
協力 | 中野ロープウェイ

イラストレーター りかちゃん | Photo ©久保田千史


――りかちゃんはずっと東京に住んでるの?

 「中野区江古田生まれです。今は一人暮らしだけど同じ中野区です」

――イラストレーターになりたいと思ったのはいつですか?
 「専門学校卒業して、イラストレーターになりたいけど、イラストレーターってどうやってなったらいいんだろう?って思いつつ、とりあえず就職しなきゃと思ってアクセサリーの企画の仕事に就いたんですよ。でも正社員で入ったつもりがバイトで、すごいブラックなところで」

――え!
 「しかもめっちゃ怖くて毎日のように泣いてたんですけど、そこで作ったアクセサリーが商品になって、店頭に並んだのを見たときは嬉しかったですね。そんなことを1年間くらいやりました。そこの同期で仲が良かったいい人に“イラストやったほうがいいよ”って言われて。こんなところ辞めてやる!って感じで辞めたんですけど、生活どうしようって感じでバイトしながらイラスト始めた感じです」

――バイトは、タワーレコードで働いていたんだよね?
 「それだけじゃなくて、けっこういろいろやっていて。“ミカヅキモモコ”ってわかります?300円ショップの」

――ミカヅキモモコ、めっちゃ楽しいよね。
 「そこで3年くらい働いてました。タワレコと同時に吉祥寺PARCOの掃除をやっている時期もあったし、全然知らなかった土地のセブン‐イレブンで働いていたこともあったし。アクセサリーの仕事を辞めてから“デザインフェスタ”に出て、それが楽しかったですね。もう9年前とかになるけど、トータルで4回ぐらい出たかな。初個展は、2011年に原宿のデザインフェスタギャラリーで“どうなることやら展”というのをやりました」

イラストレーター りかちゃん | Photo ©久保田千史

――私がりかちゃんを知ったのは、渋谷のPARCOでやってた「シブカル祭。2012」の「ZINE PARK in シブカル祭」の告知かなんかでりかちゃんのジンを見て、超かわいいと思ったのがきっかけ。でも行ったときはもう売り切れていて。それで「TOKYO ART BOOK FAIR」に行ったときにりかちゃんが出してるブースに買いに行って、という流れだった気がする。
 「“リカちゃんファンクラブ”っていう、自分が表紙のジンを作っていて。“TOKYO ART BOOK FAIR”への出店はドキドキクラブさんが勧めてくれました」

――その頃にプライベートで会っていたと思うんだけど、「27歳までにフリーになる」って宣言してたよね。今はフリーでバリバリやってるし、すごいよ。その時は一人暮らし?
 「実家暮らしですね。タワーレコードを辞めたのと同時に実家を出てフリーになったのが5年くらい前。28歳のときかな」

――一人暮らしと同時にフリーって、家賃も発生するのにすごい。
 「すごいですよね、なんで決断したんだろ?ってくらい。でも、実家に自分の部屋がなかったんですよ。だから家を出ないことには自分の場所を作れないと思って。フリーになってからも、もうバイトしなきゃかも、って思うことがあって、あ、仕事きた、大丈夫だ、っていうのを繰り返していて。去年くらいからちょっと落ち着いてきましたね。良かったけど、長かったです」

――フリーでやっていく不安はなくなってきた?
 「いまだにあります。ずっとそれは尽きないだろうな、って思ってます」

イラストレーター りかちゃん | Photo ©久保田千史

――ご飯は自炊?
 「最近はほとんど自分で作ってますね」

――Uber Eatsとかもやってない?
 「やってないですね、ちょっと気になるけど(笑)」

――月から金までとか、決めて仕事してる?
 「全然。だから暇なときは暇だし、忙しいときは忙しいですね」

――よく締切が近くて困ってるとか言ってたよね。
 「スケジュールを自分で立てても、相手あっての仕事だから、そううまくはいかないし。作業する時間を調整するのがわりと大変かもしれない」

――寝る時間はバラバラ?
 「それだけは本当にちゃんと取るようにしてます。私は寝るんだ!と思って寝るようにしてます」

――一番最初にやったイラストの仕事ってなんですか?
 「中野ロープウェイ(*)です。缶バッジを作って。今でも売ってるんですけど。そのあと名刺とかレジ袋とかも作らせてもらって」
* 2010年に東京・中野ブロードウェイ地下にオープンした雑貨店。主に東南アジアで仕入れた雑貨を販売。

イラストレーター りかちゃん | Photo ©久保田千史

――ロープウェイの仕事はお店に遊びに行って知り合って、っていう感じ?
 「遊びに行ってなんですけど、新潟のDJで、今は阿佐ヶ谷のギャラリー“VOID”で働いている信濃川あひるさんが、店主のイトウさんに私の話をしてくれていて、お店に行ったときにはわかってくれている状態でした」

――ロープウェイに初めて行ったとき、超興奮して何買ったらいいかわからなかった。私は中野に頻繁には行けないから、行ったときはほしいものを全部カゴに入れて、いつも“爆買”って感じになっちゃう(笑)。イトウさんが買付のときのお休みの張り紙もりかちゃんが描いてるんだよね。あれは最初から?
 「最初は伊藤さんが書いてましたね。今はコロナの影響で買付に行けていないけど、それまでは月1くらいで行ってましたね」

――毎回毎回りかちゃんが描いていて、けっこうな数になってるだろうから、それジンにできそうだなって思った。
 「一度、展示をロープウェイでやったんですよね」

――そうなんだ!グッズを作り始めたのはいつ頃?
 「2009年にプラバンで作ったハンドメイドの作品を、下北沢の“DIAMOND HERO”に出したのが一番最初かもしれないです。当時オープンしたばかりのハンドメイドのお店で、お店の人と仲良くなって出した感じですね。そのあと“デザインフェスタ”に出て、2013年からはヴィレッジヴァンガードで取り扱ってもらって」

――缶バッジとかTシャツとか、同じイラストを全部のグッズで作ることはしてないよね?ひとつの絵に対してどのグッズにするかは、りかちゃんの感覚で決めてるの?
 「最初はグッズを何作ろうって考えるより、絵を描いて、これをこれにできるとか、絵を描いてからグッズに当てはめてることが多いですね。前からそうだし、今もそうかな」

――Instagramに載せてたアクリルの作品『PIZZA KITSUNE BROOCH』、めっちゃかわいいって思った。
 「ありがとうございます。アクリルの工房の人と知り合って、やらせてもらって。ひとつひとつ手作りです」

――今までのグッズの種類、数えたらすごそう。
 「すごそうですね。缶バッジは今でもすごい種類あるんで、なくしたいんですけど、人気のあるものは残したほうがいいかな?と思って、ずっと売ってるものもあります。以前、“人気があるものはずっと出していたほうがいい”って大図まことさんに言われて。確かにそうだなと思って。“やさしい犬”もそうですけど、自分は飽きちゃってるし、“いつまでもやってるな”と思う人もいるかもしれないけど、それが自分のアピール・ポイントだったり営業ツールになればいいかと思って」

――イラストが今のスタイルになったきっかけは?
 「他の人から見たらあまりわからないと思うんですけど、自分の中では常に変わっていっていると思ってて。でも最初は“ヘタウマ”という言葉で有名な湯村輝彦(Terry Johnson)さんの絵の感じが好きで、下手でもいいんだって思って描き始めましたね」

――りかちゃんの女の子の絵は、まつげがクルンとなっていたり、かわいい服を着ていたり、小学校の頃に『りぼん』や『なかよし』の主人公になりたいって憧れるみたいなものに近い気がするんだけど、そういうことは意識してない?
 「『りぼん』もそうだけど、少女漫画は読んでこなかったんですよ。『サザエさん』ばかり読んでて。最近は資料として読んだりもしますけど。だから、女の子はなんで描いてるのかな?自分でもよくわかってないです」

――おもちゃの「リカちゃん」が日本では有名だけど、最初から“りかちゃん”で活動してる?
 「はい。本名がりかなんです。リカちゃん人形が由来で、本名も(笑)」

――そうなんだ!Googleで検索するとどうしてもリカちゃん人形が出てきちゃうよね?
 「そうなんですよ」

――だから、そういうので改名しようとか思ったことはある?
 「あります。でも今は“イラストレーター りかちゃん”って名乗るようにしてて、わかりやすく」

イラストレーター りかちゃん | Photo ©久保田千史

――なるほどね。でもInstagramやTwitterで“りかちゃん”で検索すると、おもちゃの「リカちゃん」の下に「イラストレーター りかちゃん」が出てくるから、すごいって思う。
 「ああ、そうなんですね。良かった。どうしてもインターネットで調べるとリカちゃん人形だけじゃなく、ふつうに“りか”って名前の人もいるから、そういうのも出てきて検索しづらいですね」

――でも、エゴサはいいときもあるけど悪いことも書かれてたりするから、それくらいのほうがいい気がする。
 「そうですね(笑)」

――私はドールが好きだから、リカちゃんとりかちゃんでコラボしてほしい。
 「いいですねー」

――りかちゃんに「リカちゃんハウス」を描いてほしい。
 「うわあ〜」

――その絵、想像して超ほしいと思った!実現するときは教えて下さい。あと聞きたかったのが、けっこう絵にダジャレが入ってるじゃん。普段からダジャレを考えてるの?
 「いや(笑)、普段はないですよ。絵を描いてるときはテンション高いのかもしれないです。だから、自分がしゃべっている風の口調を絵にプラスするとか、しちゃいますね」

――普段りかちゃんと話しててダジャレとか言ってないけど、作品だとダジャレがいっぱいで、そのギャップがいいと思った(笑)。
 「しゃべってるときはそんなボケまくりじゃないですもんね(笑)」

――でもお笑い好きだよね。
 「好きですね」

――そういうのもあるよね、きっと。
 「そうかもしれない。お笑いと、あと映画も好きだから、それを絵に描いたりとかもしてますね」

――りかちゃんは仕事中は音楽聴いたりする?
 「聴いてます。最近はBTSばっかり。ハマっちゃいました」

――BTSって韓国のアイドル?
 「アイドルなんですけど、中にラッパーがいて。最初はヒップホップ・アイドルだったみたいなんですけど。曲聴いてるといかにもなアイドルっぽさはないかもしれないです。だからどんどんハマっていきます。ラッパーの人がソロで出しているのもあって、かっこいいです」

――1970〜80年代のアイドルも好きだったよね?
 「そうですね。でも時期によっていろいろかもしれないです。一気にハマるけど、すぐに飽きちゃったりして、浅いんですよ。やっぱり今ハマっている音楽と自分のテンションによって、描く絵は変わってきますね。例えば海外のロック聴きたいときは、そういう絵になっていたりするし。好きなものは好きなので、70〜80年代の音楽はずっと好きだけど、今は違うみたいな感じですかね」

――4コマ漫画描いてるよね?
 「描いてました。それものめり込むとやるんですけど。2017年に『こねこね犬』っていう続きもので漫画本を出したんですけど、続きを描こうっていう気にならなくて、一冊だけで。だから漫画家さんはすごいです」

――漫画家が一番ハードな仕事な気がする。
 「だってひとつのコマでも絵として出来上がるのに、それをいくつも描くのはすごい」

――前にりかちゃんに似顔絵を描いてもらったとき、めちゃくちゃ早いと思った。
 「でも最初始めたときの似顔絵を見ると、こんなに下手だったんだって思う。自分のタッチも残しつつ、って思うと難しいですけど、慣れてきてますね」

――あ、今ねるくんが!
 「ねるくんが起き上がってきました」

――ねるくんって“くん”だから男だよね?
 「そうです」

――何歳?
 「3歳です」

――3歳!もっと前からりかちゃんのところにいる気がする!健康?
 「健康です」

――なら良かった!
 「コロナ渦になってから、一人暮らしなのもあって、猫がいてよかったなって思うことがあります」

――りかちゃんは動物をたくさん描いてるけど、前はコアラが好きだったでしょ?今は?
 「やっぱり猫が増えましたね」

――近くにいるから、描きやすそう。
 「うん、そうですね」

――イラストに描かれている子たちが着ている洋服がいつもおしゃれで最高だなと思ってて。参考にしているものはありますか?
 「ありがとうございます!自分が着たいものが多いですが、SNSやお店で見かけたものなどアレンジして描いたり、自分には着れないけど絵にしたらかわいいものなどを描いてます」

イラストレーター りかちゃん | Photo ©久保田千史

――りかちゃんが描いた歯の矯正をしてる子の絵がすごくかわいいなと思ったんだけど、矯正の子を描こうと思った理由は?
 「多分アメリカの女の子が矯正している画像をどこかで見て、かわいいなと思って描きたくなったんだと思います」

――いつも絵を描くときは何を使って描いているの?
 「漫画描くようなペン。最近はiPad使っちゃってます。そのほうが慣れてきたら早いので。最初は使いづらくてアナログのほうがいいかなと思ったんですけど。でも最初はペンで描いて、色付けをフォトショップでやったりもします」

――色鉛筆とか絵の具は全然使わない?
 「普段はあまり使わないですね。ペンで描くときはコピー用紙に描くことが多くて、それをもう今回の個展ではそのまま貼ったほうが自分らしくていいかなと思って」

――いつも展示のときはテーマ決めるのはどうやって?
 「決めちゃうと描きにくくなることもあって。描きたいものがコロコロ変わるので、難しいですね」

――3月の展示の内容は決まってる?
 「“MIX”ってタイトルにしようと思っていて。混ぜ。普段の落書きみたいなのもあったり、キャンバス画もあったり、洋服に絵を描いたり。会場のにじ画廊は広いので、埋め尽くしたくて。量が必要だから、今までのも出していこうかと思っています。あとキャンバス画もあって、デジタルのもプリントアウトしてポスターみたいにいっぱい貼る、とかイメージしてるんですけど、うまくいくかわからない」

――楽しみにしています!

イラストレーター りかちゃん Official site | https://rikachanpc.wixsite.com/rikachankoala/

RIKACHAN solo exhibition「MIX」RIKACHAN solo exhibition
MIX

2021年3月4日(木)-3月9日(火)
東京 吉祥寺 にじ画廊
12:00-19:00 | 水曜定休
https://www.instagram.com/illustrator_rikachan/